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6章【外交編・ブライエ国】

11 生きる力

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「ヒューベルトさん!」
「リーシェさん。ご無事で何よりです」
「ヒューベルト、よく頑張ったな」
「ヴァンデッダ卿も、どうもありがとうございます」

ヒューベルトとは数日ぶりの再会だが、ずっと高熱続きでろくに食事も取れず、寝たきりであったために今まで見たことがないほどの窶れように胸が痛んだ。

「痛みは?大丈夫ですか?」
「えぇ、だいぶマシになりました。ずっと夢か現かという感じでしたが……」
「そうですか。ちょっと失礼……」

ヒューベルトの首筋に触れ、体温を確認する。確かにだいぶ下がって入るようだが、まだほんのりと熱い気がするので、微熱状態という感じだろう。

ついでにに脈を測ると、やはりこちらも速いようで、まだすぐに安心できるような状態ではなさそうであった。

「メリッサちゃんは、どうしてますか?」
「あの子は今ブライエ語を習ってます。今後、こちらで引き取ってもらうことになったので」
「そうでしたか。とりあえず、彼女の身の安全は保証されたのですね」
「はい。おかげさまで。ヒューベルトさんが連れてきてくださったおかげです。シグバール国王も、ヒューベルトさんにメリッサを連れてきてくれたことに感謝してると言っていました」
「いえ。俺は何も。俺も逃げるのに必死でしたから」
「何を言う。ヒューベルトのおかげでリーシェも無事だったのだ。もっと誇ってよいぞ」

クエリーシェルがそう言うと、ちょっとホッとしたような表情をするヒューベルト。きっと彼のことだ、色々と思うところがあって自責に苛まれていたのかもしれない。

「そうですよ。ケリー様に私が奮闘していることを伝えてくださったそうで、ありがとうございます。おかげさまで、こうしてここにいられるわけですし」

あの国境で帝国兵から追われて時先行していたヒューベルトがクエリーシェルに私が1人で奮闘してることを伝えてくれたおかげで、クエリーシェルがすぐさま私の元へ駆けつけてくれたらしい。

私が熱中症によって蜃気楼と見間違えたと思っていたのも、クエリーシェルとセツナが率いるブライエ国兵の一団だったようだ。

あの時は必死でわからなかったが、今言われてみたら確かに黒いのは人影であったと今ならわかった。

「ですが……髪も……」
「髪なんてまた生えてきますから、お気になさらず。しかもこの髪型、メリッサに切ってもらったんですけど、結構気に入っているんですよ」
「そうでしたか。確かに、リーシェさんの可愛らしさが際立つような気がします」
「お世辞を言っても何も出ませんよ?」

そう軽口を言うと、ふっと口元を緩めるヒューベルト。笑う余裕が出てきて多少安堵したのも束の間、彼がゲホッゴホッと急激に咳き込む。

「大丈夫です!?」
「えぇ、あぁ……は……っごほっ、げほっ、……っぐ」
「医者を呼んでこよう」
「お願いします!」

クエリーシェルが医者を呼ぶために部屋を出て行く。私は少しでも呼吸が楽になるようにと願いながら彼の背をひたすらさすった。

(こんなに痩せ細ってしまって)

以前看病したときよりも確実に薄くなっている身体に、胸が締めつけられる。ヒューベルトのぼろぼろの身体に、なぜか勝手に涙が溢れそうになっていた。

「リーシェ、連れてきたぞ!」
「[急変したと聞いたが、どうしたのかね?]」
「[話してる最中に、突然咳き込んでしまって]」

医者の問いかけに答えると、彼はヒューベルトを一瞥してふむふむと様子を見ているようだった。

「[あぁ、気道に痰が詰まったのかもしれないねぇ。まだ彼は本調子ではないから面談はここでしまいだ。あとはワタシに任せてくれ]」
「[よろしくお願いします]」

深々と頭を下げながら、自分ではどうにもできないもどかしさを感じつつも、部屋を出る。

(なんて私は無力なんだろう)

目の前で燃え尽きかけている命にどうすることもできないという事実が私の心を蝕んだ。

「リーシェ、あまり悩むな。誰のせいでもない。ただ今はヒューベルトの生きる力を信じよう」

クエリーシェルから肩を抱えられながらの言葉に、静かに頷く。

(今は信じるしかない。私にできることはそれだけ)

後ろ髪を引かれつつも、私達は自室へと戻るのだった。
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