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9 おままごとが現実に
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「着いたぞ」
「わぁ、ここがブレアの地なのね……!」
自然豊かな土地だった。
来る途中で野ウサギや鹿なども出会ったし、領民達は麦やとうきびなどを育てているようで、畑は時期的なものもあるだろうが見渡す限り豊作で、食糧に困ることもなさそうだった。
道すがら領民に声をかけると、まだよそ者だというのにニコニコと二人を歓待してくれ、あそこには何がある、ここには何があると色々と教えてくれた。
マリーリはこの土地が気に入り、すぐにでも越してきたいと思い、来たときのことを想像して心躍った。
マリーリは内面が顔に出やすいので、その表情を見たジュリアスも安堵したように微笑む。
「とても素敵な土地ね!」
「そうだろう? 先代の領主は高齢で未婚で親類もなかったため相続する相手がいないらしくてな。皆この地を治めたいと手をあげたそうだ」
「それなのに、ジュリアスが?」
「あぁ。なぜか国王陛下は俺に白羽の矢を立ててくださった。ありがたいことだ」
「それはジュリアスが陛下にこの地を治めるのに相応しいと思っていただけたからでしょう? 素晴らしいことだわ」
「そうだと思うか?」
「えぇ、きっとそうよ。優秀なジュリアスなら、きっとこの地を治められると私も思うわ」
「ありがとう、マリーリ」
自信を持ってそう言えば、不意にジュリアスがギュッと背中から抱きしめてきて、マリーリは羞恥で顔が熱くなる。
先日までブランが確かに好きだったはずなのに、今はジュリアスのことしか考えられない自分に戸惑うマリーリ。
すぐさまジュリアスに心変わりするというのは不埒だろうか、と自問自答する。
(自分の気持ちだというのにわからないわ)
そもそもジュリアスは私のことをどう思っているのだろうか、と今更ながらマリーリは不思議に思う。
今までわざと避けられていたというのに、なぜ今頃になってプロポーズなんて、とどんどん疑問が湧いてくる。
(たまたま利害が一致したから、こうして私にプロポーズをしてくれたのだと思うけど)
そういえば、一体いつからジュリアスに避けられるようになったのか、そう思考を巡らせようとしたとき、「降りるか?」と声が降ってきてその思考が中断されるマリーリ。
「え?」
「せっかくだから実際に歩いたほうがいいだろう? バルムンクに乗っているばかりでは身体も鈍るしな」
そう言って先にバルムンクから降りると、手を差し出してくれるジュリアス。
まるでその仕草は御伽噺に出てくる王子様のようで、相手はあの幼馴染みのジュリアスだというのに、マリーリにはキラキラと輝いて見えた。
「どうした? 降りないのか?」
「お、お、降りるわよ」
手を重ねて、グッと引き寄せられるようにバルムンクから降りる。
すると降りるときの反動で、マリーリはジュリアスの胸に飛び込んでしまう形になってしまった。
「随分と大胆だな」
「な、違っ! んもう、わざとでしょ!!」
「ははは、そんなに怒らなくてもいいだろう」
ジュリアスはいつになく上機嫌だった。
マリーリもそんなジュリアスを見て、なんだか昔のことを思い出して楽しくなってくる。
幼少時はよく一緒に連れ立って虫取りをしたり野ウサギを捕まえに行ったり、秘密基地を作ったり釣りをしたり、と毎日がキラキラと輝いていた。
「ここで二人で暮らしていくのね」
「そうだ。生まれ育ったビヨンドの街と違って何でも揃っているわけではないが、それはそのぶん俺たちがどうにかすればいい。なんだか昔やったままごとがまさか実現するとはな」
ジュリアスも自分と同じことを思っていたことに気づいてはにかむマリーリ。
すると、その様子を察したジュリアスが「何を考えている?」と聞いてくる。
「いいえ、別に何も」
「何もって顔じゃなかったぞ?」
「ふふ、内緒~」
「まぁ、いい。マリーリが元気になったなら何よりだ」
「……え?」
その言葉に違和感を持つマリーリ。
自分に元気がない、ということをどこで知ったのだろうか、とジュリアスを見れば、あからさまに失言してしまったと狼狽するジュリアス。
訳がわからなくて困惑していると、「いや、その、なんだ……マリーリが元気がなさそうだとマリーリの侍女殿から連絡があってな」
「私の侍女って、ミヤのこと?」
「あぁ、そうだ」
(……なんだ。ジュリアスが気を回してくれたわけではなくて、ミヤに言われたから連れ出してくれたのか)
ちくり、とマリーリは胸が痛む。
そりゃ、ジュリアスがいくら察しがいいからって私の心を読めるわけがないのだからそれはそうだ、と考えながらも、どこかで失望している自分がいる。
ジュリアスの意思ではなく、ミヤのお膳立てによってこうして出掛けたということがなんだかとても苦しかった。
「マリーリ?」
「え? 何?」
「あ、いや……具合でも悪いのか? 顔色が良くない」
「あぁ、ちょっとした貧血よ。すぐに治るから大丈夫」
「貧血? だったら安静に」
「大丈夫よ。……すぐに治まるから」
(私ったら、何を勝手に期待して、何を勝手に失望しているのかしら。ジュリアスは都合がいいから私と婚約しただけなのに、勝手に色々と妄想してバカみたい)
自分でそう思いながら、マリーリはざっくりと自らの心が傷つくのを感じた。
でもそれが被害妄想だとわかっているからこそ口に出すのは憚られて、心の奥に押し込め、さらにモヤモヤとする。
(我ながら察しろだなんてめんどくさい女ね。……本当、嫌な女。だからブランに浮気されてしまったのかしら。自分で自分が嫌になる)
マリーリはジュリアスに気づかれないよう、静かに「はぁ」と溜め息をつく。
無性に泣きたい気持ちになりながらもこのまましょうもない理由で泣くなんてプライドが許さなくて、マリーリは顔を軽くはたくと気持ちを切り替え、まっすぐ前を向いて歩き出す。
(ダメダメ。メソメソするのは私の悪いクセよ)
そして心配そうにこちらを見るジュリアスにマリーリは精一杯の笑顔を向けると、「エスコートをお願いね」とジュリアスに手を差し出したのだった。
「わぁ、ここがブレアの地なのね……!」
自然豊かな土地だった。
来る途中で野ウサギや鹿なども出会ったし、領民達は麦やとうきびなどを育てているようで、畑は時期的なものもあるだろうが見渡す限り豊作で、食糧に困ることもなさそうだった。
道すがら領民に声をかけると、まだよそ者だというのにニコニコと二人を歓待してくれ、あそこには何がある、ここには何があると色々と教えてくれた。
マリーリはこの土地が気に入り、すぐにでも越してきたいと思い、来たときのことを想像して心躍った。
マリーリは内面が顔に出やすいので、その表情を見たジュリアスも安堵したように微笑む。
「とても素敵な土地ね!」
「そうだろう? 先代の領主は高齢で未婚で親類もなかったため相続する相手がいないらしくてな。皆この地を治めたいと手をあげたそうだ」
「それなのに、ジュリアスが?」
「あぁ。なぜか国王陛下は俺に白羽の矢を立ててくださった。ありがたいことだ」
「それはジュリアスが陛下にこの地を治めるのに相応しいと思っていただけたからでしょう? 素晴らしいことだわ」
「そうだと思うか?」
「えぇ、きっとそうよ。優秀なジュリアスなら、きっとこの地を治められると私も思うわ」
「ありがとう、マリーリ」
自信を持ってそう言えば、不意にジュリアスがギュッと背中から抱きしめてきて、マリーリは羞恥で顔が熱くなる。
先日までブランが確かに好きだったはずなのに、今はジュリアスのことしか考えられない自分に戸惑うマリーリ。
すぐさまジュリアスに心変わりするというのは不埒だろうか、と自問自答する。
(自分の気持ちだというのにわからないわ)
そもそもジュリアスは私のことをどう思っているのだろうか、と今更ながらマリーリは不思議に思う。
今までわざと避けられていたというのに、なぜ今頃になってプロポーズなんて、とどんどん疑問が湧いてくる。
(たまたま利害が一致したから、こうして私にプロポーズをしてくれたのだと思うけど)
そういえば、一体いつからジュリアスに避けられるようになったのか、そう思考を巡らせようとしたとき、「降りるか?」と声が降ってきてその思考が中断されるマリーリ。
「え?」
「せっかくだから実際に歩いたほうがいいだろう? バルムンクに乗っているばかりでは身体も鈍るしな」
そう言って先にバルムンクから降りると、手を差し出してくれるジュリアス。
まるでその仕草は御伽噺に出てくる王子様のようで、相手はあの幼馴染みのジュリアスだというのに、マリーリにはキラキラと輝いて見えた。
「どうした? 降りないのか?」
「お、お、降りるわよ」
手を重ねて、グッと引き寄せられるようにバルムンクから降りる。
すると降りるときの反動で、マリーリはジュリアスの胸に飛び込んでしまう形になってしまった。
「随分と大胆だな」
「な、違っ! んもう、わざとでしょ!!」
「ははは、そんなに怒らなくてもいいだろう」
ジュリアスはいつになく上機嫌だった。
マリーリもそんなジュリアスを見て、なんだか昔のことを思い出して楽しくなってくる。
幼少時はよく一緒に連れ立って虫取りをしたり野ウサギを捕まえに行ったり、秘密基地を作ったり釣りをしたり、と毎日がキラキラと輝いていた。
「ここで二人で暮らしていくのね」
「そうだ。生まれ育ったビヨンドの街と違って何でも揃っているわけではないが、それはそのぶん俺たちがどうにかすればいい。なんだか昔やったままごとがまさか実現するとはな」
ジュリアスも自分と同じことを思っていたことに気づいてはにかむマリーリ。
すると、その様子を察したジュリアスが「何を考えている?」と聞いてくる。
「いいえ、別に何も」
「何もって顔じゃなかったぞ?」
「ふふ、内緒~」
「まぁ、いい。マリーリが元気になったなら何よりだ」
「……え?」
その言葉に違和感を持つマリーリ。
自分に元気がない、ということをどこで知ったのだろうか、とジュリアスを見れば、あからさまに失言してしまったと狼狽するジュリアス。
訳がわからなくて困惑していると、「いや、その、なんだ……マリーリが元気がなさそうだとマリーリの侍女殿から連絡があってな」
「私の侍女って、ミヤのこと?」
「あぁ、そうだ」
(……なんだ。ジュリアスが気を回してくれたわけではなくて、ミヤに言われたから連れ出してくれたのか)
ちくり、とマリーリは胸が痛む。
そりゃ、ジュリアスがいくら察しがいいからって私の心を読めるわけがないのだからそれはそうだ、と考えながらも、どこかで失望している自分がいる。
ジュリアスの意思ではなく、ミヤのお膳立てによってこうして出掛けたということがなんだかとても苦しかった。
「マリーリ?」
「え? 何?」
「あ、いや……具合でも悪いのか? 顔色が良くない」
「あぁ、ちょっとした貧血よ。すぐに治るから大丈夫」
「貧血? だったら安静に」
「大丈夫よ。……すぐに治まるから」
(私ったら、何を勝手に期待して、何を勝手に失望しているのかしら。ジュリアスは都合がいいから私と婚約しただけなのに、勝手に色々と妄想してバカみたい)
自分でそう思いながら、マリーリはざっくりと自らの心が傷つくのを感じた。
でもそれが被害妄想だとわかっているからこそ口に出すのは憚られて、心の奥に押し込め、さらにモヤモヤとする。
(我ながら察しろだなんてめんどくさい女ね。……本当、嫌な女。だからブランに浮気されてしまったのかしら。自分で自分が嫌になる)
マリーリはジュリアスに気づかれないよう、静かに「はぁ」と溜め息をつく。
無性に泣きたい気持ちになりながらもこのまましょうもない理由で泣くなんてプライドが許さなくて、マリーリは顔を軽くはたくと気持ちを切り替え、まっすぐ前を向いて歩き出す。
(ダメダメ。メソメソするのは私の悪いクセよ)
そして心配そうにこちらを見るジュリアスにマリーリは精一杯の笑顔を向けると、「エスコートをお願いね」とジュリアスに手を差し出したのだった。
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