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番外編 子作りの話

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「あぁ、そういえばあまりにバタバタとしていてうっかり教えるの忘れてました」

 先程ブルースやリサ達の前で子供の作り方を知らない、という話をしたら驚かれたとマリーリがミヤに話題を振れば、「うっかり忘れてた」と悪びれもなく言ってのけるミヤ。
 どうやら普通は嫁ぐ前にそう言った作法のこともあれこれと教えるらしいのだが、マリーリの場合はやれ婚約破棄だ、やれ引っ越しだ、やれパーティーだ……などと常に慌ただしくしていたものだからミヤもすっかり忘れていたらしい。

「それでミヤ。子供ってどうやって作るの?」

(ジュリアスの話ぶり的に一緒にくっついて寝たら子供ができる、と思ってたんだけど、そうじゃないってことよね? 手を握ったりキスをしたりしても今のところできてはいないし、何か特別なことをするのかしら)

 今までマリーリはなんとなく、寝室を同じにして男女で一緒に寝ながら何かをすれば子供ができるのかと思っていたものの、具体的に何をすればいいのかまでは想像してもわからなかった。
 周りにはあまり子供がいる親戚もいなく、そもそもキューリスのせいで引きこもりだったせいもあって同年代とそう言った話もしてなかったため、マリーリにとっては未知のことなのである。

(二人で儀式をするのだろうか。それとも何か特別な祈りを捧げるのだろうか)

 マリーリは未知の知識を得るのに、期待の眼差しでミヤを見つめる。
 するとミヤは自信ありげに「ふっふっふ~」と微笑むとマリーリに顔を近づけた。

「それはですねぇ~……って、あぁ、そうだ! でしたら私が今からでも手取り足取りお教えしましょうか? ……ジュリアスさまでは満足できなくなってしまうくらい、たっぷりとマリーリさまを可愛がってさしあげますよ~?」

 ミヤに太腿を意味深に触られながら色気たっぷりの声で囁かれて、ゴクリと生唾を飲みこみながら頬を染めるマリーリ。
 一体どんなことをするのかしら、と頬を赤らめながらミヤを見つめていると「ダメだ」とどこからともなくジュリアスの鋭い声が飛んでくる。
 どうやらノックも程々に、マリーリとミヤの会話を聞きつけてマリーリの私室に入って来たようだった。
 そしてツカツカと大股でやってくるなり、ミヤから隠すようにマリーリの前に立つ。

「ミヤはマリーリに教えなくていい。子作りに関しては俺が直々に教える」
「え~? でもこれはフィーロ家の問題ですしぃ~? マリーリさまが粗相をしないようにしっかりとお伝えすることも大切ですから~。そ、れ、に、ジュリアスが夢中になる手管だって伝授することができると思いますから、悪い話ではないのではありませんか~?」
「ジュリアスが夢中になる手管……」

 普段ジュリアスにやられっぱなしなマリーリはミヤの言葉に彼を夢中にさせるワザがあるのなら学びたい、とそわそわする。
 だが、すぐさま「結構だ」と強い口調でジュリアスに遮られてしまった。

「結婚式は明日だし、今更教えなくても大丈夫だ。俺が明日の結婚式後に教える」
「ふぅん、なるほどぉ。俺色に染めたい、的なやつですか~?」
「なっ、別にそういうんじゃ……っ!」
「だったら私が教えてもよくありませんか~? せっかくの初夜なんですから、たっぷり楽しんだほうがよくありませんかぁ~?」
「ミヤが教えたら、マリーリにあることないこと……色々とよからぬことまで教えるだろう!?」
「えー、よからぬことって何ですか~?」
「もういい! とにかく当主命令だ! マリーリに子作りのことは教えるんじゃない! マリーリ、行くぞ」
「え? え?」

 訳もわからずジュリアスに連れて行かれるマリーリ。
 ミヤは「ふふ、いじめ過ぎちゃいましたかねぇ~? でも残念。私もマリーリさまと色々したかったのにぃ~」と溢しながらその二人の姿を見送った。


 ◇


「ねぇ、どこに行くの?」
「俺の部屋だ」
「何で」
「マリーリと二人きりになりたいからだ。ダメか?」
「ダメじゃない、けど……。明日には結婚して夫婦になるのに?」
「あぁ、できる限りマリーリのそばにいたい」

 率直な言葉に思わずキュンと胸が高鳴った。
 そんなこと言われてしまったら無碍にできるわけもなく、ジュリアスに言われた通りに彼の私室へと向かう。
 道すがら、客間から両親の声が聞こえてドキッとしたが、「シーッ」とジュリアスに言われてコソッと廊下を歩くのが何だかドキドキした。
 無事にジュリアスの私室に到着すると、安堵で溜め息が出てしまうほどにはマリーリは緊張していた。

「自分の家なのに、こんなに緊張するだなんて」
「スリルがあっただろう?」

 不意に抱き締められてどきりとする。
 先程の緊張感とはまた違った緊張に、ドキドキしながらゆっくりと顔を上げると至近距離で見つめられた。

「マリーリ」
「何?」
「キスしたい」

 ストレートに言われて硬直する。
 こういうときは何と言えばいいのか、と頭を悩ませていると「ダメか?」と追撃されてしまった。

「ダメじゃ、ない」

 そう言うと顎を掴まれて上向かせられて、そのまま吸われるように口付けられる。
 何だか少し強引な気もするが、それもまた普段と違ってキュンキュンと何度も胸が高鳴ってしまい、こんなにも自分が淫乱だったのかとマリーリは内心恥じた。

「可愛いな」
「可愛くない」
「可愛いよ、マリーリは。明日から俺の奥さんになると思うと嬉しくて仕方ない」

 ジュリアスからこんな甘い言葉を囁かれるようになるなんて、誰が想像しようものか。
 そもそもジュリアスと結婚するだなんて、もし昔の私に言ってもきっと信じないだろう。

「そういえば、子作りのことを教えてくれるって」
「結婚式のあとな」
「え、じゃあ今は教えてくれないの?」
「そんな目で見ないでくれ。今すぐ教えたいが、楽しみはあとにとっておく。結婚式のあとの初夜で今まで我慢していたぶん、たっぷりと優しく教える」
「そうなの? わかった。楽しみにしてる」

 子作りが一体どんなことかわからなくてそう言えば、なぜか顔を押さえるジュリアス。
 そして「あぁ、可愛すぎるだろ。やっぱり今すぐ押し倒したい……っ」とかいうちょっと意味深な言葉が聞こえたような気がしたが、そのまま強く抱き締められてうやむやになる。

「あぁ、キスしたい。痕をつけたい」
「キスはいいけど、痕はダメ。またミヤに怒られちゃうわよ」
「ミヤミヤミヤミヤ。マリーリはいつもミヤばかりじゃないか?」
「そんなことないわよ。でも、ミヤは特別だし……」
「俺は特別じゃないのか? マリーリにとってミヤよりも俺は特別じゃないということか?」
「そういうわけじゃないわよ。ジュリアスはジュリアスでちゃんと好きよ」
「じゃあ、マリーリから口づけしてくれ」
「もう、どんなワガママよ……」

 呆れながらも、駄々をこねるジュリアスを可愛く思うマリーリ。
 以前に比べて気持ちを素直に言ってくれるのは正直嬉しかった。

「じゃあ、屈んで」
「こうでいいか?」

 言われたとおりに屈むジュリアス。
 そして、その首に腕を回すと、一生懸命背伸びをして彼の唇に口づける。

「大好き、ジュリアス」
「俺も愛してる、マリーリ。あぁ、やっぱり身体中にキスしたい」
「もう、ダメだったら。ミヤに怒られちゃうでしょう?」
「もう一つつけたってバレやしないだろう?」
「ダメです~!! バレます~~!!」

 そんなしょうもないやりとりをしながら、結婚式前日はあっという間に過ぎていくのだった。
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