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4-1 静かな革命
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第4章 新王国の黎明――記録は未来を紡ぐ
4-1 静かな革命
王都の朝。
かつて陰謀と腐敗の中心だった議事堂が、今は光に包まれていた。
無数の紙束が机の上に積まれ、若い官吏たちが走り回る。
人々の顔には、奇妙なほどの活気があった。
――革命は剣でなく、書類で起きた。
アルヴェン公爵夫妻による「財政再建令」は公布からわずか三日で、
王都全域の制度を変え始めていた。
旧来の「身分別税制」は廃止され、
新たに導入された「記録透明制度」により、
全ての出納帳は公文書として市民が閲覧できるようになった。
人々は驚き、同時に歓声を上げた。
「本当に公開されている!」
「これで貴族が勝手に金を動かせなくなる!」
市民たちの間で交わされるのは、もはや絶望ではなく希望の言葉だった。
---
アルヴェン公爵邸――王都臨時執政官館。
書類の山に囲まれたグレイが、ペンを走らせていた。
その横では、レティシアが文官たちに指示を出している。
「この申請書は港湾局ではなく内務局に。
あと、救貧院の資金配分を倍にしてください。」
「はい、夫人!」
彼女の声には、もはや“侯爵令嬢”の柔らかさではなく、
現場を知る改革者としての力強さがあった。
グレイが書類から顔を上げ、微笑を浮かべる。
「ずいぶん板についてきたな。」
「あなたの“書類の鬼”っぷりにはまだ届きませんわ。」
「鬼とは失礼だな。私はただ、仕事が好きなだけだ。」
「では、私はあなたの“鬼嫁”として並び立ちます。」
「……そういう意味では、君の方が上かもしれないな。」
互いに微笑み合う。
官吏たちは顔を見合わせて、そっと視線を外した。
――この二人、相変わらずだな、という無言の空気が流れる。
---
昼を過ぎる頃、王立使者が到着した。
「公爵閣下、陛下からの親書です。」
封書を受け取ったグレイは、その場で封を切る。
中には短い一文が記されていた。
> 『アルヴェン公爵および夫人に、王国の再統治を一任する。
> 今後、王家は象徴として留まる。――リオネル王』
「……つまり、我々が実質的な王政を担う、ということか。」
グレイは眉をひそめた。
「陛下もよほど疲れたのだろうな。」
レティシアは静かに頷く。
「権力ではなく、責任を譲られたのですね。」
「責任、か。」
グレイはペン先を見つめた。
「それならば、なおのこと誤魔化せないな。
書類に記された言葉は、未来の証拠になる。」
レティシアが小さく笑う。
「あなたの好きな“書類の愛の言葉”ですね。」
「そう言われると少し照れる。」
「でも、私はそれが好きですわ。
あなたの誓いは、いつもインクで書かれているから。」
グレイは目を細める。
「君の言葉は……たまに詩的すぎて困る。」
「褒め言葉として受け取ります。」
---
午後、議事堂で臨時評議会が開かれた。
新制度に反発する旧貴族派の代表たちが集まる。
「公爵閣下、この“記録公開制度”は危険ですぞ!」
「財の流れを公開すれば、外敵に弱みを見せることになる!」
「市民に権利を与えれば、貴族の統制が崩れる!」
その声の洪水の中、レティシアは一歩前へ出た。
「では伺います。
“貴族の統制”とは何のためにあるのですか?」
場が静まる。
彼女の声は穏やかだったが、刃のように鋭い。
「人々のためでなければ、それは支配でしかありません。
私たちは民の税で生かされているのです。
その使い道を明かすことは、当然の義務でしょう?」
ざわめきが走る。
グレイは彼女の背中を見つめながら、口元をわずかに緩めた。
――彼女が、最初に出会った時よりずっと強くなっている。
老貴族の一人が椅子を鳴らして立ち上がる。
「理想を語るのは勝手だが、現実は甘くない!」
「ええ、承知しています。」
レティシアは微笑を崩さずに言った。
「けれど、理想を語らねば、現実は変わらないのです。」
その瞬間、議場が静まり返った。
誰も反論できなかった。
グレイがゆっくりと立ち上がり、彼女の隣に並ぶ。
「――アルヴェン公爵領では、既にこの制度が運用されている。
税収は減らず、民の不満も減った。
数字が語る現実を、どうかご覧いただきたい。」
机の上に一枚の書類を置く。
王都全体の税収推移表。
旧制度時代よりも、わずかにだが上昇している。
議場にざわめきが広がる。
「まさか……これほど早く成果が?」
「不正が減ったのか?」
「いや、それ以上に民が納得しているのだ……!」
誰かが呟いたその言葉が、次々と共感の波を呼んだ。
それは剣ではなく、“数字の力”による勝利だった。
---
評議会が終わると、レティシアは深く息を吐いた。
「……緊張しました。」
「よくやった。」
グレイが隣で静かに言った。
「議会を動かしたのは、君の言葉だ。」
「あなたの数字があってこそですわ。」
「ならば、我々の勝利は“言葉と数字の結婚”ということだな。」
「まぁ、詩的な表現ですこと。」
「詩ではない。報告書のタイトルに使える。」
「……やめてください、そんな書類名つけないで。」
二人のやり取りに、周囲の官吏たちは苦笑する。
だがその光景こそ、かつての王都にはなかったものだった。
笑いと秩序が同居する、穏やかな日常。
---
夜。
書類整理を終えたレティシアは、窓辺で夜風に当たっていた。
外には、灯りのともる街が広がっている。
「……王都が、変わりましたね。」
「まだ始まったばかりだ。」
背後からグレイの声がする。
「制度を作るのは容易い。
だが、それを“文化”にするには、年月が要る。」
「でも、きっとできますわ。」
レティシアは振り向き、微笑む。
「あなたとなら。」
グレイは少しだけ照れたように眉を下げ、
机の上の一枚の紙を指さした。
> 『新王国再建 第一次報告書――題名:白い契約の記録』
「これは?」
「君との“最初の仕事”の記録だ。
ここから始まる未来を、白紙から書き残す。」
レティシアはそのタイトルを見つめ、微笑んだ。
「白い契約……。
やっぱり、あなたはロマンチストですわね。」
「いや、ただの書類好きだ。」
「同じことですわ。」
夜風が二人の間を抜け、
白い紙の端を静かに揺らした。
それはまるで――新しい時代の息吹のように。
---
4-1 静かな革命
王都の朝。
かつて陰謀と腐敗の中心だった議事堂が、今は光に包まれていた。
無数の紙束が机の上に積まれ、若い官吏たちが走り回る。
人々の顔には、奇妙なほどの活気があった。
――革命は剣でなく、書類で起きた。
アルヴェン公爵夫妻による「財政再建令」は公布からわずか三日で、
王都全域の制度を変え始めていた。
旧来の「身分別税制」は廃止され、
新たに導入された「記録透明制度」により、
全ての出納帳は公文書として市民が閲覧できるようになった。
人々は驚き、同時に歓声を上げた。
「本当に公開されている!」
「これで貴族が勝手に金を動かせなくなる!」
市民たちの間で交わされるのは、もはや絶望ではなく希望の言葉だった。
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アルヴェン公爵邸――王都臨時執政官館。
書類の山に囲まれたグレイが、ペンを走らせていた。
その横では、レティシアが文官たちに指示を出している。
「この申請書は港湾局ではなく内務局に。
あと、救貧院の資金配分を倍にしてください。」
「はい、夫人!」
彼女の声には、もはや“侯爵令嬢”の柔らかさではなく、
現場を知る改革者としての力強さがあった。
グレイが書類から顔を上げ、微笑を浮かべる。
「ずいぶん板についてきたな。」
「あなたの“書類の鬼”っぷりにはまだ届きませんわ。」
「鬼とは失礼だな。私はただ、仕事が好きなだけだ。」
「では、私はあなたの“鬼嫁”として並び立ちます。」
「……そういう意味では、君の方が上かもしれないな。」
互いに微笑み合う。
官吏たちは顔を見合わせて、そっと視線を外した。
――この二人、相変わらずだな、という無言の空気が流れる。
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昼を過ぎる頃、王立使者が到着した。
「公爵閣下、陛下からの親書です。」
封書を受け取ったグレイは、その場で封を切る。
中には短い一文が記されていた。
> 『アルヴェン公爵および夫人に、王国の再統治を一任する。
> 今後、王家は象徴として留まる。――リオネル王』
「……つまり、我々が実質的な王政を担う、ということか。」
グレイは眉をひそめた。
「陛下もよほど疲れたのだろうな。」
レティシアは静かに頷く。
「権力ではなく、責任を譲られたのですね。」
「責任、か。」
グレイはペン先を見つめた。
「それならば、なおのこと誤魔化せないな。
書類に記された言葉は、未来の証拠になる。」
レティシアが小さく笑う。
「あなたの好きな“書類の愛の言葉”ですね。」
「そう言われると少し照れる。」
「でも、私はそれが好きですわ。
あなたの誓いは、いつもインクで書かれているから。」
グレイは目を細める。
「君の言葉は……たまに詩的すぎて困る。」
「褒め言葉として受け取ります。」
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午後、議事堂で臨時評議会が開かれた。
新制度に反発する旧貴族派の代表たちが集まる。
「公爵閣下、この“記録公開制度”は危険ですぞ!」
「財の流れを公開すれば、外敵に弱みを見せることになる!」
「市民に権利を与えれば、貴族の統制が崩れる!」
その声の洪水の中、レティシアは一歩前へ出た。
「では伺います。
“貴族の統制”とは何のためにあるのですか?」
場が静まる。
彼女の声は穏やかだったが、刃のように鋭い。
「人々のためでなければ、それは支配でしかありません。
私たちは民の税で生かされているのです。
その使い道を明かすことは、当然の義務でしょう?」
ざわめきが走る。
グレイは彼女の背中を見つめながら、口元をわずかに緩めた。
――彼女が、最初に出会った時よりずっと強くなっている。
老貴族の一人が椅子を鳴らして立ち上がる。
「理想を語るのは勝手だが、現実は甘くない!」
「ええ、承知しています。」
レティシアは微笑を崩さずに言った。
「けれど、理想を語らねば、現実は変わらないのです。」
その瞬間、議場が静まり返った。
誰も反論できなかった。
グレイがゆっくりと立ち上がり、彼女の隣に並ぶ。
「――アルヴェン公爵領では、既にこの制度が運用されている。
税収は減らず、民の不満も減った。
数字が語る現実を、どうかご覧いただきたい。」
机の上に一枚の書類を置く。
王都全体の税収推移表。
旧制度時代よりも、わずかにだが上昇している。
議場にざわめきが広がる。
「まさか……これほど早く成果が?」
「不正が減ったのか?」
「いや、それ以上に民が納得しているのだ……!」
誰かが呟いたその言葉が、次々と共感の波を呼んだ。
それは剣ではなく、“数字の力”による勝利だった。
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評議会が終わると、レティシアは深く息を吐いた。
「……緊張しました。」
「よくやった。」
グレイが隣で静かに言った。
「議会を動かしたのは、君の言葉だ。」
「あなたの数字があってこそですわ。」
「ならば、我々の勝利は“言葉と数字の結婚”ということだな。」
「まぁ、詩的な表現ですこと。」
「詩ではない。報告書のタイトルに使える。」
「……やめてください、そんな書類名つけないで。」
二人のやり取りに、周囲の官吏たちは苦笑する。
だがその光景こそ、かつての王都にはなかったものだった。
笑いと秩序が同居する、穏やかな日常。
---
夜。
書類整理を終えたレティシアは、窓辺で夜風に当たっていた。
外には、灯りのともる街が広がっている。
「……王都が、変わりましたね。」
「まだ始まったばかりだ。」
背後からグレイの声がする。
「制度を作るのは容易い。
だが、それを“文化”にするには、年月が要る。」
「でも、きっとできますわ。」
レティシアは振り向き、微笑む。
「あなたとなら。」
グレイは少しだけ照れたように眉を下げ、
机の上の一枚の紙を指さした。
> 『新王国再建 第一次報告書――題名:白い契約の記録』
「これは?」
「君との“最初の仕事”の記録だ。
ここから始まる未来を、白紙から書き残す。」
レティシアはそのタイトルを見つめ、微笑んだ。
「白い契約……。
やっぱり、あなたはロマンチストですわね。」
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