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4-3 再びの契約――二人の手で築く国
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第4章 新王国の黎明――記録は未来を紡ぐ
4-3 再びの契約――二人の手で築く国
春の風が王都の街路を吹き抜けていた。
あの血と陰謀にまみれた冬の日々が嘘のように、
街には穏やかなざわめきが戻っている。
王城の玉座は、今や空席のまま。
新しい時代を象徴する“書記台”がその場所に置かれていた。
その中心で、レティシアとグレイは並んで立っている。
「――では、これにて“王国の再建会議”を閉じる。」
グレイの低い声が、堂内に響いた。
周囲には、貴族や各地の代表者、
そして民の代表として選ばれた商人や学者たち。
彼らの前で、グレイは一枚の文書を掲げる。
それは、
“新統治契約書”――王政から記録政へと移行する誓約書。
「ここに署名する者は、血筋ではなく責任によって国を導く。
そして、記録によって国を守る。
この契約の下では、いかなる身分も、
法と記録の前では平等である。」
その言葉に、広間は静まり返った。
人々は、ゆっくりと現実を受け止めるように顔を見合わせる。
レティシアはその様子を見つめながら、
かつての断罪の夜会を思い出していた。
あの夜、彼女は笑っていた。
“婚約破棄”という屈辱の中で――。
だが今、彼女の手の中には“新しい契約”がある。
過去を切り捨てるためではなく、未来を繋ぐための契約が。
---
「では、副署名を。」
グレイがペンを取り、書類の末尾に名を記す。
“グレイ・アルヴェン”。
次に、レティシアがペンを取った。
“レティシア・アルヴェン”。
その二つの署名が並ぶ瞬間、
集まった者たちから静かな拍手が起こった。
「これで、私たちは再び“契約”を結んだのですね。」
レティシアが微笑む。
「結婚契約とは違う。もっと面倒だ。」
「でも、あなたはきっと楽しんでいますわ。」
「……否定はしない。」
グレイはわずかに肩をすくめ、
しかしその口元には穏やかな笑みがあった。
---
会議後。
二人は王城の裏庭に出た。
王族の像が撤去された庭園には、
新たに「記録の樹」と呼ばれる若木が植えられていた。
それは、かつての書記官たちが持ち寄った筆記具の木軸を再利用して植えた象徴の木。
幹には小さな銘板が打たれている。
> 『王の言葉よりも、記録は永遠である。』
レティシアはその銘板にそっと手を触れた。
「ねえ、あなた。
この国は本当に変われると思いますか?」
「変わる。
人は忘れる生き物だが、記録は覚えている。
記録が残る限り、過ちは繰り返されない。」
「でも……人が記録を捨てようとしたら?」
グレイは少しだけ目を細めた。
「その時は――君がもう一度拾うだろう。」
レティシアは小さく笑った。
「まるで、私を保険のように言いますのね。」
「保険ではなく、信頼だ。」
その言葉に、彼女は一瞬、言葉を失った。
“信頼”――
それは彼女がずっと求め、
そしてこの人から与えられた唯一の誓いだった。
---
夕刻。
レティシアは記録院の新設部屋にいた。
机の上には、各地から届いた改革案の報告書が山のように積まれている。
「また書類の山……。閣下、これでは徹夜になりますわ。」
「そのために、我々には二人分の手がある。」
「まさか、夫婦の絆を“業務効率”で語らないでくださいね。」
「ならば、“共同経営者”と呼ぼう。」
レティシアは呆れたようにため息をついたが、
次の瞬間には楽しそうに笑っていた。
「あなたって、本当に浪漫の欠片もないのね。」
「書類に浪漫は不要だ。精度が重要だ。」
「……その台詞、昔は腹立たしかったのに、今では安心します。」
「慣れは恐ろしいな。」
ふと、レティシアは机の端に積まれた古い書簡に気づいた。
「これは?」
「旧王政下の“告発書”だ。誰も処理しなかった案件を、整理している。」
「……それを、あなたが?」
「この国を再建するには、過去を記録から消してはいけない。」
グレイはその一通を開くと、静かに読み上げた。
“無実の罪で処刑された者の名簿”。
――それは、彼女の過去と同じような人々の記録だった。
誰かの都合で、書類の中から消された存在。
レティシアは静かに目を閉じ、
「私たちが、この人たちの“記録”になるのですね。」と呟いた。
「そうだ。
彼らの人生を、数字でも判決文でもなく、
“記録された声”として残す。」
---
夜。
机の上には、無数の書類と灯火の明かり。
グレイは疲れたように眼鏡を外し、
レティシアの方を見る。
「……君、まだ起きていたのか。」
「あなたこそ。」
「こうして並んで書類を処理していると、昔を思い出す。」
「辺境で過ごした頃?」
「ああ。
雪の日、君が“白い結婚”の書類を差し出した時のことを。」
レティシアは微笑む。
「あの時の私は、“愛なんて不要”と思っていましたわ。」
「それは今でも同じか?」
「違います。
愛とは、言葉で囁くものではなく――
共に積み上げる“書類”のようなものだと、今は思っています。」
グレイは思わず笑みをこぼした。
「それは……非常に君らしい定義だ。」
「ええ、私たちの結婚ですもの。“白くて黒い契約”ですわ。」
灯火の下、二人の影が重なった。
窓の外では春の夜風が吹き抜け、
静かな革命の季節が、確かにそこに息づいていた。
---
翌朝。
新しい印章が完成したという知らせが届く。
それは、王国の象徴――“王印”に代わるもの。
記録院が発行する公式の“国章”だった。
中央には、二本の羽ペンが交差し、
その下に一本の白い巻紙が広がる。
レティシアがそれを見つめて言った。
「この印章、まるで私たちの契約書みたいですね。」
「そうかもしれない。」
「では、最初の押印はあなたが。」
グレイは静かに印を取り、
新しい憲章の最初のページに押した。
“国章第一号”。
その瞬間、レティシアは微笑んだ。
「これが、あなたの“愛の証明書”ですわね。」
「君は本当に、何でも書類にしたがるな。」
「だって、口約束は記録になりませんもの。」
二人は笑い合った。
その笑い声が、かつての重苦しい王城を満たす。
こうして――
“白い結婚”から始まった二人の関係は、
“黒い記録”の上で新たな契約へと昇華したのだった。
---
4-3 再びの契約――二人の手で築く国
春の風が王都の街路を吹き抜けていた。
あの血と陰謀にまみれた冬の日々が嘘のように、
街には穏やかなざわめきが戻っている。
王城の玉座は、今や空席のまま。
新しい時代を象徴する“書記台”がその場所に置かれていた。
その中心で、レティシアとグレイは並んで立っている。
「――では、これにて“王国の再建会議”を閉じる。」
グレイの低い声が、堂内に響いた。
周囲には、貴族や各地の代表者、
そして民の代表として選ばれた商人や学者たち。
彼らの前で、グレイは一枚の文書を掲げる。
それは、
“新統治契約書”――王政から記録政へと移行する誓約書。
「ここに署名する者は、血筋ではなく責任によって国を導く。
そして、記録によって国を守る。
この契約の下では、いかなる身分も、
法と記録の前では平等である。」
その言葉に、広間は静まり返った。
人々は、ゆっくりと現実を受け止めるように顔を見合わせる。
レティシアはその様子を見つめながら、
かつての断罪の夜会を思い出していた。
あの夜、彼女は笑っていた。
“婚約破棄”という屈辱の中で――。
だが今、彼女の手の中には“新しい契約”がある。
過去を切り捨てるためではなく、未来を繋ぐための契約が。
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「では、副署名を。」
グレイがペンを取り、書類の末尾に名を記す。
“グレイ・アルヴェン”。
次に、レティシアがペンを取った。
“レティシア・アルヴェン”。
その二つの署名が並ぶ瞬間、
集まった者たちから静かな拍手が起こった。
「これで、私たちは再び“契約”を結んだのですね。」
レティシアが微笑む。
「結婚契約とは違う。もっと面倒だ。」
「でも、あなたはきっと楽しんでいますわ。」
「……否定はしない。」
グレイはわずかに肩をすくめ、
しかしその口元には穏やかな笑みがあった。
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会議後。
二人は王城の裏庭に出た。
王族の像が撤去された庭園には、
新たに「記録の樹」と呼ばれる若木が植えられていた。
それは、かつての書記官たちが持ち寄った筆記具の木軸を再利用して植えた象徴の木。
幹には小さな銘板が打たれている。
> 『王の言葉よりも、記録は永遠である。』
レティシアはその銘板にそっと手を触れた。
「ねえ、あなた。
この国は本当に変われると思いますか?」
「変わる。
人は忘れる生き物だが、記録は覚えている。
記録が残る限り、過ちは繰り返されない。」
「でも……人が記録を捨てようとしたら?」
グレイは少しだけ目を細めた。
「その時は――君がもう一度拾うだろう。」
レティシアは小さく笑った。
「まるで、私を保険のように言いますのね。」
「保険ではなく、信頼だ。」
その言葉に、彼女は一瞬、言葉を失った。
“信頼”――
それは彼女がずっと求め、
そしてこの人から与えられた唯一の誓いだった。
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夕刻。
レティシアは記録院の新設部屋にいた。
机の上には、各地から届いた改革案の報告書が山のように積まれている。
「また書類の山……。閣下、これでは徹夜になりますわ。」
「そのために、我々には二人分の手がある。」
「まさか、夫婦の絆を“業務効率”で語らないでくださいね。」
「ならば、“共同経営者”と呼ぼう。」
レティシアは呆れたようにため息をついたが、
次の瞬間には楽しそうに笑っていた。
「あなたって、本当に浪漫の欠片もないのね。」
「書類に浪漫は不要だ。精度が重要だ。」
「……その台詞、昔は腹立たしかったのに、今では安心します。」
「慣れは恐ろしいな。」
ふと、レティシアは机の端に積まれた古い書簡に気づいた。
「これは?」
「旧王政下の“告発書”だ。誰も処理しなかった案件を、整理している。」
「……それを、あなたが?」
「この国を再建するには、過去を記録から消してはいけない。」
グレイはその一通を開くと、静かに読み上げた。
“無実の罪で処刑された者の名簿”。
――それは、彼女の過去と同じような人々の記録だった。
誰かの都合で、書類の中から消された存在。
レティシアは静かに目を閉じ、
「私たちが、この人たちの“記録”になるのですね。」と呟いた。
「そうだ。
彼らの人生を、数字でも判決文でもなく、
“記録された声”として残す。」
---
夜。
机の上には、無数の書類と灯火の明かり。
グレイは疲れたように眼鏡を外し、
レティシアの方を見る。
「……君、まだ起きていたのか。」
「あなたこそ。」
「こうして並んで書類を処理していると、昔を思い出す。」
「辺境で過ごした頃?」
「ああ。
雪の日、君が“白い結婚”の書類を差し出した時のことを。」
レティシアは微笑む。
「あの時の私は、“愛なんて不要”と思っていましたわ。」
「それは今でも同じか?」
「違います。
愛とは、言葉で囁くものではなく――
共に積み上げる“書類”のようなものだと、今は思っています。」
グレイは思わず笑みをこぼした。
「それは……非常に君らしい定義だ。」
「ええ、私たちの結婚ですもの。“白くて黒い契約”ですわ。」
灯火の下、二人の影が重なった。
窓の外では春の夜風が吹き抜け、
静かな革命の季節が、確かにそこに息づいていた。
---
翌朝。
新しい印章が完成したという知らせが届く。
それは、王国の象徴――“王印”に代わるもの。
記録院が発行する公式の“国章”だった。
中央には、二本の羽ペンが交差し、
その下に一本の白い巻紙が広がる。
レティシアがそれを見つめて言った。
「この印章、まるで私たちの契約書みたいですね。」
「そうかもしれない。」
「では、最初の押印はあなたが。」
グレイは静かに印を取り、
新しい憲章の最初のページに押した。
“国章第一号”。
その瞬間、レティシアは微笑んだ。
「これが、あなたの“愛の証明書”ですわね。」
「君は本当に、何でも書類にしたがるな。」
「だって、口約束は記録になりませんもの。」
二人は笑い合った。
その笑い声が、かつての重苦しい王城を満たす。
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