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第26話 「もう謹慎しなくてよい」通達
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第26話 「もう謹慎しなくてよい」通達
それは、
解決したつもりの言葉だった。
王城法務局が作成した文書の表題は、
簡潔で、
そしてあまりにも軽かった。
――通達
――件名:無期限謹慎の終了について
文官の一人は、
その文面を読みながら、
小さく息を吐いた。
「……これで、
一応は、
筋が通るな」
内容は、
ごく形式的なものだった。
> 当該案件における調査は終了し、
当該人物に対する疑義は完全に払拭された。
よって、
当該人物に対し課されていた謹慎について、
継続の必要はないものとする。
解除、ではない。
終了、でもない。
「継続の必要はない」。
それは、
誰かを解放するための言葉ではなく、
責任を下ろすための言葉だった。
「これでいいのか?」
別の文官が、
首を傾げる。
「解除命令ではないぞ」
「解除命令だと、
面会が必要になる」
「……なるほど」
この通達は、
彼女に直接届けることを、
前提としていない。
あくまで、
「王城としては、
もう拘束する意思はありません」
という、
内部向けの整理だった。
「では、
彼女は?」
その問いに、
即答できる者はいなかった。
謹慎を課す必要はない。
だが、
謹慎を禁じてもいない。
「……本人が、
出てくるだろう」
誰かが、
希望的観測を口にする。
「無実が証明されたんだ。
通達が出れば、
自然と――」
だが、
その言葉は、
途中で止まった。
彼女は、
面会禁止区域にいる。
通達は、
届けられない。
知らせる手段が、
ない。
「……門前に掲示するか?」
「それも、
干渉と取られる可能性がある」
結局、
文書は、
王城内で回覧されただけで、
彼女のもとへは、
一切届かなかった。
そして――
それで、
「済んだこと」になった。
一方。
エレシアは、
その日も、
静かな朝を迎えていた。
光は、
変わらず柔らかい。
部屋は、
変わらず静かだ。
(……今日も、
変わらない)
彼女は、
それを確認し、
安心する。
だが、
王城のどこかで、
自分に関する通達が出たことなど、
知る由もない。
(……もし、
“もう謹慎しなくてよい”
と言われたら)
ふと、
そんな仮定が浮かぶ。
だが、
すぐに結論が出た。
(……それは、
“してはいけない”
とは言っていない)
エレシアは、
机の上に置かれた
命令書の写しに、
視線を落とす。
無期限謹慎。
解除条件なし。
その事実は、
何一つ変わっていない。
(……謹慎しなくてもよい、
ということは)
(……謹慎していても、
よい、
ということ)
彼女は、
淡々とそう整理する。
前世で身につけた、
規則の読み方だった。
義務が解除されたとしても、
禁止が追加されたわけではない。
命令が撤回されたわけでもない。
つまり――
何も変わっていない。
その結論に、
迷いはなかった。
昼。
食事が運ばれる。
いつも通りの量。
いつも通りの無言。
メイドは、
特別なことを言わない。
彼女もまた、
通達を知らない。
知らないまま、
日常を続けている。
(……完璧)
エレシアは、
そう思った。
王城は、
「もう拘束していない」と
言いたい。
だが、
自分は、
「拘束されている」とも
「拘束されていない」とも
判断できる位置にいる。
そして――
その曖昧さこそが、
最大の安全だった。
夜。
王城では、
王太子が、
報告を受けていた。
「通達は、
回覧されました」
「……本人には?」
「届いておりません」
王太子は、
しばらく黙り込む。
(……彼女は、
出てこないか)
無実が証明された。
拘束の必要はないと示した。
それでも、
彼女は、
何の反応も見せない。
抗議もない。
感謝もない。
復帰の意思表示もない。
まるで――
世界の外にいるようだ。
一方、
エレシアは、
ベッドに横になり、
目を閉じる。
(……今日も、
何も、
起きなかった)
その事実に、
満足する。
通達が出ようと、
出まいと。
命令が解除されようと、
されまいと。
彼女の結論は、
変わらない。
(……私は、
ここにいる)
謹慎していてもいい。
誰にも、
干渉されない。
誰にも、
期待されない。
それが、
どれほど貴重な状態か。
王城が、
「もう謹慎しなくてよい」と
言ったとしても。
彼女は、
その言葉を、
必要としていなかった。
こうして――
第6章は始まる。
**「解除されたはずなのに、
誰も、
彼女を動かせない」**という
新たな段階へ。
そして、
王太子は、
まだ気づいていない。
この通達が、
問題の解決ではなく――
問題の固定であったことを。
それは、
解決したつもりの言葉だった。
王城法務局が作成した文書の表題は、
簡潔で、
そしてあまりにも軽かった。
――通達
――件名:無期限謹慎の終了について
文官の一人は、
その文面を読みながら、
小さく息を吐いた。
「……これで、
一応は、
筋が通るな」
内容は、
ごく形式的なものだった。
> 当該案件における調査は終了し、
当該人物に対する疑義は完全に払拭された。
よって、
当該人物に対し課されていた謹慎について、
継続の必要はないものとする。
解除、ではない。
終了、でもない。
「継続の必要はない」。
それは、
誰かを解放するための言葉ではなく、
責任を下ろすための言葉だった。
「これでいいのか?」
別の文官が、
首を傾げる。
「解除命令ではないぞ」
「解除命令だと、
面会が必要になる」
「……なるほど」
この通達は、
彼女に直接届けることを、
前提としていない。
あくまで、
「王城としては、
もう拘束する意思はありません」
という、
内部向けの整理だった。
「では、
彼女は?」
その問いに、
即答できる者はいなかった。
謹慎を課す必要はない。
だが、
謹慎を禁じてもいない。
「……本人が、
出てくるだろう」
誰かが、
希望的観測を口にする。
「無実が証明されたんだ。
通達が出れば、
自然と――」
だが、
その言葉は、
途中で止まった。
彼女は、
面会禁止区域にいる。
通達は、
届けられない。
知らせる手段が、
ない。
「……門前に掲示するか?」
「それも、
干渉と取られる可能性がある」
結局、
文書は、
王城内で回覧されただけで、
彼女のもとへは、
一切届かなかった。
そして――
それで、
「済んだこと」になった。
一方。
エレシアは、
その日も、
静かな朝を迎えていた。
光は、
変わらず柔らかい。
部屋は、
変わらず静かだ。
(……今日も、
変わらない)
彼女は、
それを確認し、
安心する。
だが、
王城のどこかで、
自分に関する通達が出たことなど、
知る由もない。
(……もし、
“もう謹慎しなくてよい”
と言われたら)
ふと、
そんな仮定が浮かぶ。
だが、
すぐに結論が出た。
(……それは、
“してはいけない”
とは言っていない)
エレシアは、
机の上に置かれた
命令書の写しに、
視線を落とす。
無期限謹慎。
解除条件なし。
その事実は、
何一つ変わっていない。
(……謹慎しなくてもよい、
ということは)
(……謹慎していても、
よい、
ということ)
彼女は、
淡々とそう整理する。
前世で身につけた、
規則の読み方だった。
義務が解除されたとしても、
禁止が追加されたわけではない。
命令が撤回されたわけでもない。
つまり――
何も変わっていない。
その結論に、
迷いはなかった。
昼。
食事が運ばれる。
いつも通りの量。
いつも通りの無言。
メイドは、
特別なことを言わない。
彼女もまた、
通達を知らない。
知らないまま、
日常を続けている。
(……完璧)
エレシアは、
そう思った。
王城は、
「もう拘束していない」と
言いたい。
だが、
自分は、
「拘束されている」とも
「拘束されていない」とも
判断できる位置にいる。
そして――
その曖昧さこそが、
最大の安全だった。
夜。
王城では、
王太子が、
報告を受けていた。
「通達は、
回覧されました」
「……本人には?」
「届いておりません」
王太子は、
しばらく黙り込む。
(……彼女は、
出てこないか)
無実が証明された。
拘束の必要はないと示した。
それでも、
彼女は、
何の反応も見せない。
抗議もない。
感謝もない。
復帰の意思表示もない。
まるで――
世界の外にいるようだ。
一方、
エレシアは、
ベッドに横になり、
目を閉じる。
(……今日も、
何も、
起きなかった)
その事実に、
満足する。
通達が出ようと、
出まいと。
命令が解除されようと、
されまいと。
彼女の結論は、
変わらない。
(……私は、
ここにいる)
謹慎していてもいい。
誰にも、
干渉されない。
誰にも、
期待されない。
それが、
どれほど貴重な状態か。
王城が、
「もう謹慎しなくてよい」と
言ったとしても。
彼女は、
その言葉を、
必要としていなかった。
こうして――
第6章は始まる。
**「解除されたはずなのに、
誰も、
彼女を動かせない」**という
新たな段階へ。
そして、
王太子は、
まだ気づいていない。
この通達が、
問題の解決ではなく――
問題の固定であったことを。
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