無実の罪で永遠に謹慎する女 ――謹慎していたい令嬢は、何もしないことを選びました**

鷹 綾

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第27話 彼女の解釈

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第27話 彼女の解釈

 

その日も、
何も変わらなかった。

 

光は、
いつもと同じ位置から差し込み、
部屋の輪郭を、
柔らかくなぞる。

 

エレシアは、
目を覚ますと、
深く息を吸い、
ゆっくりと吐いた。

 

(……静か)

 

それが、
一日の始まりを告げる合図になっている。

 

誰かに呼ばれない。
誰かに急かされない。
誰かの予定に組み込まれていない。

 

前世では、
一度も得られなかった朝だ。

 

(……今日も、
 何も、
 しなくていい)

 

その事実を、
嬉しいとも、
ありがたいとも、
もはや思わなくなっていた。

 

それは、
当然になっている。

 

エレシアは、
机の引き出しを開け、
一通の紙を取り出した。

 

――無期限謹慎命令書(写し)

 

何度も、
何度も、
読み返した文書。

 

文字の配置も、
言い回しも、
すべて、
頭に入っている。

 

それでも、
彼女は、
今日も、
最初から最後まで読む。

 

(……うん)

 

変わっていない。

 

外出禁止。
職務停止。
干渉禁止。

 

そして――
期限なし。
解除条件なし。

 

(……やっぱり)

 

エレシアは、
小さく頷いた。

 

王城で、
どんな通達が出ていようと、
それは、
この紙の効力を、
自動的に消すものではない。

 

(……仮に、
 “もう謹慎しなくてよい”
 と言われたとしても)

 

彼女は、
論理を組み立てる。

 

それは、
前世で身につけた、
規則と命令の読み方だった。

 

(……それは、
 “義務”がなくなっただけ)

 

(……“禁止”が
 追加されたわけではない)

 

命令書には、
「謹慎してはならない」
とは、
どこにも書いていない。

 

(……つまり)

 

(……謹慎を、
 続けることは、
 違反ではない)

 

その結論は、
揺るがなかった。

 

誰かの意図ではなく。
誰かの期待でもなく。

 

文字通りの解釈だ。

 

エレシアは、
紙を元に戻し、
椅子に腰掛ける。

 

(……合法)

 

その言葉が、
心の中で、
静かに響く。

 

前世では、
常に、
「やりすぎないか」
「手を抜いていないか」
と問われ続けてきた。

 

だが、
今は違う。

 

何もしないことが、
 完全に合法。

 

それ以上に、
心を軽くする言葉が、
あるだろうか。

 

昼。

 

食事が運ばれる。

 

メイドは、
相変わらず、
必要最低限の動きだけで、
盆を置く。

 

「……失礼いたします」

 

それだけ。

 

エレシアは、
何も尋ねない。

 

通達の有無も、
外の様子も。

 

知る必要がない。

 

(……知らない、
 というのも、
 選択よね)

 

彼女は、
静かに食事を始める。

 

味は、
変わらない。

 

だが、
今日は、
なぜか、
一段と落ち着いて感じられた。

 

(……王城が、
 何か決めたとしても)

 

(……私の判断は、
 変わらない)

 

それが、
彼女の中で、
完全に固まっていた。

 

午後。

 

光が移動する。

 

エレシアは、
その様子を、
ぼんやりと眺める。

 

前なら、
「時間を無駄にしている」
という感覚が、
胸を刺しただろう。

 

だが、
今はない。

 

時間を、
消費していない。

 

時間に、
 触れていない。

 

その感覚が、
心地よかった。

 

(……私は、
 何かを、
 決断したわけじゃない)

 

(……ただ、
 命令を、
 守っているだけ)

 

それが、
誰かを困らせるなら、
それは、
命令の問題だ。

 

自分の問題ではない。

 

夜。

 

王城では、
役人たちが、
困惑していた。

 

「……本人が、
 出てくる様子が、
 一切ない」

 

「通達は出した」

 

「だが、
 何の反応もない」

 

彼女が、
“解釈している”
という発想に、
まだ誰も至っていない。

 

彼女が、
命令を、
文字通りに、
完璧に守っていることに。

 

その頃、
エレシアは、
ベッドに横になり、
静かに目を閉じる。

 

(……謹慎してもいい)

 

(……禁止されていない)

 

それだけで、
十分だった。

 

彼女は、
誰かに反抗しているわけではない。

 

誰かを困らせたいわけでもない。

 

ただ――
書かれている通りに、
 生きているだけだ。

 

それが、
結果的に、
王城を縛っているとしても。

 

それは、
彼女の責任ではない。

 

こうして――
第27話は終わる。

 

王城が、
「もう謹慎しなくてよい」と
言ったにもかかわらず。

 

エレシアは、
謹慎を続けることを、
 合法的に選び続けていた。

 

そしてこの、
静かな解釈こそが――
王太子を、
さらに深く、
追い詰めていくことになる。
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