無実の罪で永遠に謹慎する女 ――謹慎していたい令嬢は、何もしないことを選びました**

鷹 綾

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第33話 引きずり出せ

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第33話 引きずり出せ

 

王太子の執務室には、
その日、
珍しく、
怒号が響いていた。

 

「――いつまで、
 この茶番を、
 続けるつもりだ!」

 

机が叩かれ、
書類が、
わずかに跳ねる。

 

側近たちは、
誰一人、
言葉を発しない。

 

沈黙が、
部屋を満たす。

 

それが、
王太子の怒りを、
さらに煽っていた。

 

「命令は、
 解除した!」

 

「復帰の意思表示も、
 求めた!」

 

「それでも、
 動かないだと……?」

 

声が、
低く、
鋭くなる。

 

「……もはや、
 本人の意思を、
 尊重する段階ではない」

 

側近の一人が、
慎重に、
口を開く。

 

「……殿下、
 ですが……」

 

「聞き飽きた!」

 

王太子は、
即座に遮った。

 

「違反がない、
 前例がない、
 干渉禁止――」

 

「そんなものは、
 言い訳だ!」

 

部屋の空気が、
張り詰める。

 

「……連れ出せ」

 

その言葉は、
低く、
しかし、
はっきりと、
発せられた。

 

「引きずり出せ」

 

一瞬、
誰も、
反応できなかった。

 

それが、
何を意味するのか。

 

全員が、
理解していたからだ。

 

「……殿下」

 

法務官が、
重い声で、
口を開く。

 

「それは――
 命令違反を、
 誘発する行為に
 なります」

 

「違反……?」

 

王太子の目が、
鋭く細まる。

 

「……誰が?」

 

「殿下が、
 です」

 

その一言が、
場を、
凍りつかせた。

 

「無期限謹慎命令には、
 明確に、
 “干渉禁止”と
 記載されています」

 

「強制的な連行は、
 明確な、
 干渉行為です」

 

王太子は、
歯を噛みしめる。

 

「……では、
 どうしろと?」

 

「……方法は、
 ございます」

 

法務官は、
慎重に、
言葉を選ぶ。

 

「新たな命令違反として、
 処理する、
 という方法です」

 

「……違反?」

 

「はい。
 謹慎対象者に、
 物理的な抵抗があった場合、
 それを理由に――」

 

「――待て」

 

王太子は、
手を上げた。

 

「彼女は、
 抵抗など、
 していない」

 

「はい。
 ですから――」

 

法務官は、
一拍、
間を置き。

 

「……連行する側が、
 違反者となります」

 

沈黙。

 

重い沈黙。

 

誰も、
冗談だとは、
思わなかった。

 

「謹慎中の者への、
 正当な理由なき干渉は、
 軽度命令違反に該当します」

 

「……罰則は?」

 

王太子が、
低く問う。

 

「十年の謹慎です」

 

その言葉が、
王太子の胸に、
深く、
突き刺さる。

 

十年。

 

一度なら、
まだいい。

 

だが、
引きずり出せば。

 

彼女が、
抵抗しなければ。

 

違反者は、
 こちらになる。

 

「……つまり」

 

王太子は、
かすれた声で、
呟いた。

 

「私が、
 彼女を、
 連れ出そうとするほど――」

 

「……謹慎は、
 延びます」

 

法務官は、
静かに、
断言した。

 

「彼女の、
 ではありません」

 

「殿下の、
 です」

 

その瞬間。

 

王太子は、
ようやく、
理解した。

 

これは、
策略ではない。

 

復讐でもない。

 

彼女は、
何も、
仕掛けていない。

 

自分が、
 自分を、
 追い詰めている。

 

 

一方――
その頃の、
エレシア。

 

彼女は、
部屋の中で、
いつもと変わらぬ午後を、
過ごしていた。

 

本を閉じ、
窓の外を、
眺める。

 

(……今日は、
 少し、
 騒がしい)

 

遠くで、
人の声が、
反響している。

 

だが、
近づいてはこない。

 

(……来られない、
 のよね)

 

それを、
残念とも、
不安とも、
思わない。

 

ただ、
事実として、
受け取る。

 

彼女は、
誰かを、
困らせたいわけではない。

 

ただ――
命令を、
 守っているだけ。

 

それが、
結果的に、
誰かの立場を、
悪くしているとしても。

 

それは、
彼女の責任ではない。

 

夕方。

 

王太子は、
一人、
執務室に残されていた。

 

机の上には、
あの命令書の写し。

 

無期限謹慎。

 

干渉禁止。

 

解除条件なし。

 

彼は、
その紙を、
握りしめる。

 

(……私が、
 書いた)

 

(……私が、
 選んだ言葉だ)

 

彼女は、
その言葉の中で、
静かに、
生きている。

 

一方で――
自分は、
その外で、
身動きが取れない。

 

夜。

 

エレシアは、
ベッドに横たわり、
目を閉じる。

 

(……今日も、
 何も、
 起きなかった)

 

それが、
何よりの、
幸せだった。

 

だが、
その静けさの裏で。

 

王太子の焦りは、
怒りへと変わり。

 

その怒りが、
最悪の選択を、
口にさせた。

 

――引きずり出せ。

 

その言葉は、
彼女ではなく。

 

彼自身を、
 さらに深い謹慎へと、
 引きずり込む
 引き金だった。

 

第33話は、
その決定的な一言を、
静かに刻みながら、
幕を閉じる。
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