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第5話: 孤独な旅立ち
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第5話: 孤独な旅立ち
夜の王都は、静かに眠っていた。月明かりが石畳の道を銀色に照らし、ヴィオレッタの足音だけが小さく響く。彼女は黒いマントを深く被り、顔を隠すフードを被っていた。公爵邸の裏門から抜け出し、城壁の外へ。追放される前に、自分で去る。それが、彼女の選んだ道だった。
胸の奥で、影の力が静かに息づいている。昨夜の覚醒以来、ヴィオレッタは少しずつその力を試していた。指先から黒い糸を伸ばし、木の枝を軽く動かす。まだ不安定だが、確かな力。守護者の言葉が、耳に残る。
「この力は、守るために」
ヴィオレッタは唇を噛んだ。守るべきものは、もうない。家族は離れ、王太子は裏切り、宮廷は嘲笑った。残ったのは、自分自身だけ。
王都の外れ、冒険者ギルドの灯りが遠くに見えてきた。ギルドは、夜遅くまで開いている。旅人や傭兵、魔物を狩る者たちが集う場所。ヴィオレッタは深呼吸をし、扉を押した。
中は賑やかだった。酒の匂いと笑い声が混じり、壁には依頼の紙が貼られている。カウンターに立つ受付の女性が、ヴィオレッタを見て目を細めた。
「ようこそ。登録ですか?」
ヴィオレッタはフードを少し下げ、頷いた。
「はい。冒険者として登録をお願いします」
「名前は?」
「……ヴィオラ」
本名を隠した。ヴィオレッタ・フォン・セレスティアなど、言えばすぐにバレる。ヴィオラ。シンプルで、忘れやすい名前。
受付の女性は書類を差し出し、ペンを渡した。
「ランクは初心者から。登録料は銀貨五枚」
ヴィオレッタは懐から小銭を出し、支払った。手元には、母の形見の宝石を売った金が少し残っている。これで、当面は暮らせるはずだ。
登録が終わり、木製のプレートを受け取った。ランクはF。最低ランクだが、それでいい。ヴィオレッタはプレートを握りしめ、壁の依頼板を見た。
簡単なものから。薬草採取、魔物の討伐、荷物運び。どれも、貴族の令嬢がするような仕事ではない。けれど、それが今、彼女に必要なものだった。
「これにしよう」
ヴィオレッタが選んだのは、王都近郊の森で薬草を集める依頼。報酬は銅貨三十枚。危険は少ないが、夜は魔物が出るという。
受付の女性が確認する。
「一人で大丈夫? 初心者にはきついかもよ」
「大丈夫です」
ヴィオレッタは微笑んだ。笑顔は、宮廷で鍛えたもの。心の底からではないけれど。
ギルドを出ると、夜風が冷たかった。ヴィオレッタは森へ向かう道を歩き始めた。月が、道を照らす。足元に、影が伸びる。
「影の守護者……私を、導いて」
小さな囁きに、影が応えた。黒い糸が、道の脇の草を優しく撫でる。まるで、味方のように。
森に入ると、木々が密集し、月光がまばらに差し込む。ヴィオレッタは依頼の薬草を探した。青い花弁の『月影草』。夜にしか咲かないという。
木陰で、膝をつき、土を掘る。指先が汚れる。宮廷の白い手袋とは、まるで違う感触。けれど、心地よかった。自分で、何かを成し遂げる感覚。
ふと、背後に気配を感じた。ヴィオレッタは身を固くした。影を呼び、背後を覆う。
「誰!?」
暗闇から、低い唸り声。狼型の魔物、シャドウウルフ。月光の下、赤い目が光る。牙を剥き、ゆっくりと近づいてくる。
ヴィオレッタの心臓が激しく鳴った。恐怖が、胸を締め付ける。けれど、影が体を包んだ。
「守って……」
影の糸が、ウルフの足を絡め取った。ウルフがよろめく。ヴィオレッタは立ち上がり、手を伸ばした。
「幻影……!」
影が膨らみ、複数のヴィオレッタの幻影が生まれた。ウルフは混乱し、幻影に飛びかかる。隙を突き、ヴィオレッタは木の枝を拾い、ウルフの頭を叩いた。
ウルフが倒れ、動かなくなる。ヴィオレッタは息を荒げ、膝をついた。
「勝てた……」
初めての戦い。体が震える。けれど、達成感があった。影が、優しく彼女を包む。
「ありがとう……」
影は静かに消えた。
薬草を集め、ギルドに戻ったのは、夜明け前。報酬を受け取り、ヴィオレッタは小さな宿屋へ向かった。部屋に着き、ベッドに倒れ込む。
「私は……生きていける」
涙が、一筋落ちた。悲しみではなく、解放の涙。
朝、ヴィオレッタは窓から外を見た。新しい一日が始まる。王都を離れ、自由な旅を。
だが、この旅の先に、運命の出会いが待っていることを、彼女はまだ知らなかった。
森の奥で、銀髪の男が、彼女の影を追っていた。漆黒の瞳に、興味の光を宿して。
彼の名は、セイル。
夜の王都は、静かに眠っていた。月明かりが石畳の道を銀色に照らし、ヴィオレッタの足音だけが小さく響く。彼女は黒いマントを深く被り、顔を隠すフードを被っていた。公爵邸の裏門から抜け出し、城壁の外へ。追放される前に、自分で去る。それが、彼女の選んだ道だった。
胸の奥で、影の力が静かに息づいている。昨夜の覚醒以来、ヴィオレッタは少しずつその力を試していた。指先から黒い糸を伸ばし、木の枝を軽く動かす。まだ不安定だが、確かな力。守護者の言葉が、耳に残る。
「この力は、守るために」
ヴィオレッタは唇を噛んだ。守るべきものは、もうない。家族は離れ、王太子は裏切り、宮廷は嘲笑った。残ったのは、自分自身だけ。
王都の外れ、冒険者ギルドの灯りが遠くに見えてきた。ギルドは、夜遅くまで開いている。旅人や傭兵、魔物を狩る者たちが集う場所。ヴィオレッタは深呼吸をし、扉を押した。
中は賑やかだった。酒の匂いと笑い声が混じり、壁には依頼の紙が貼られている。カウンターに立つ受付の女性が、ヴィオレッタを見て目を細めた。
「ようこそ。登録ですか?」
ヴィオレッタはフードを少し下げ、頷いた。
「はい。冒険者として登録をお願いします」
「名前は?」
「……ヴィオラ」
本名を隠した。ヴィオレッタ・フォン・セレスティアなど、言えばすぐにバレる。ヴィオラ。シンプルで、忘れやすい名前。
受付の女性は書類を差し出し、ペンを渡した。
「ランクは初心者から。登録料は銀貨五枚」
ヴィオレッタは懐から小銭を出し、支払った。手元には、母の形見の宝石を売った金が少し残っている。これで、当面は暮らせるはずだ。
登録が終わり、木製のプレートを受け取った。ランクはF。最低ランクだが、それでいい。ヴィオレッタはプレートを握りしめ、壁の依頼板を見た。
簡単なものから。薬草採取、魔物の討伐、荷物運び。どれも、貴族の令嬢がするような仕事ではない。けれど、それが今、彼女に必要なものだった。
「これにしよう」
ヴィオレッタが選んだのは、王都近郊の森で薬草を集める依頼。報酬は銅貨三十枚。危険は少ないが、夜は魔物が出るという。
受付の女性が確認する。
「一人で大丈夫? 初心者にはきついかもよ」
「大丈夫です」
ヴィオレッタは微笑んだ。笑顔は、宮廷で鍛えたもの。心の底からではないけれど。
ギルドを出ると、夜風が冷たかった。ヴィオレッタは森へ向かう道を歩き始めた。月が、道を照らす。足元に、影が伸びる。
「影の守護者……私を、導いて」
小さな囁きに、影が応えた。黒い糸が、道の脇の草を優しく撫でる。まるで、味方のように。
森に入ると、木々が密集し、月光がまばらに差し込む。ヴィオレッタは依頼の薬草を探した。青い花弁の『月影草』。夜にしか咲かないという。
木陰で、膝をつき、土を掘る。指先が汚れる。宮廷の白い手袋とは、まるで違う感触。けれど、心地よかった。自分で、何かを成し遂げる感覚。
ふと、背後に気配を感じた。ヴィオレッタは身を固くした。影を呼び、背後を覆う。
「誰!?」
暗闇から、低い唸り声。狼型の魔物、シャドウウルフ。月光の下、赤い目が光る。牙を剥き、ゆっくりと近づいてくる。
ヴィオレッタの心臓が激しく鳴った。恐怖が、胸を締め付ける。けれど、影が体を包んだ。
「守って……」
影の糸が、ウルフの足を絡め取った。ウルフがよろめく。ヴィオレッタは立ち上がり、手を伸ばした。
「幻影……!」
影が膨らみ、複数のヴィオレッタの幻影が生まれた。ウルフは混乱し、幻影に飛びかかる。隙を突き、ヴィオレッタは木の枝を拾い、ウルフの頭を叩いた。
ウルフが倒れ、動かなくなる。ヴィオレッタは息を荒げ、膝をついた。
「勝てた……」
初めての戦い。体が震える。けれど、達成感があった。影が、優しく彼女を包む。
「ありがとう……」
影は静かに消えた。
薬草を集め、ギルドに戻ったのは、夜明け前。報酬を受け取り、ヴィオレッタは小さな宿屋へ向かった。部屋に着き、ベッドに倒れ込む。
「私は……生きていける」
涙が、一筋落ちた。悲しみではなく、解放の涙。
朝、ヴィオレッタは窓から外を見た。新しい一日が始まる。王都を離れ、自由な旅を。
だが、この旅の先に、運命の出会いが待っていることを、彼女はまだ知らなかった。
森の奥で、銀髪の男が、彼女の影を追っていた。漆黒の瞳に、興味の光を宿して。
彼の名は、セイル。
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