婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾

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第11話: 隣国の秘密

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第11話: 隣国の秘密

朝の陽光が、森の木漏れ日を優しく照らしていた。ヴィオラとセイルは、昨夜の野営を片付け、馬を引いて街道を進んでいた。結晶の力が体に馴染み始め、ヴィオラの影はより鮮やかで、安定していた。セイルの横顔を見ながら、ヴィオラは昨夜の抱擁を思い出し、頰を赤らめた。

「セイル……今日はどこへ?」

セイルは前を向いたまま、静かに答えた。

「隣国境の町へ。そこから、俺の国へ向かう」

ヴィオラは馬を止め、セイルを振り返った。

「隣国……? セイルの故郷?」

セイルは馬を止め、ヴィオラの目を見た。銀瞳に、複雑な光が宿る。

「そうだ。俺の本当の正体を、話す時が来た」

ヴィオラの心臓が、どきりと鳴った。

「正体……?」

セイルは深呼吸をし、ゆっくりと語り始めた。

「俺は、隣国アストリアの『漆黒の王太子』、セイル・フォン・シャドウだ」

ヴィオラは息を呑んだ。アストリア王国。王国連合の中でも、影の魔法を信仰する古い国。政争が激しく、王位継承争いが絶えないという噂は、宮廷でも耳にしていた。

「王太子……? じゃあ、セイルは……」

「政敵に追われ、身を隠していた。家族はほとんど殺され、俺は影に生きることを強いられた」

セイルの声は、静かだった。だが、抑えきれない痛みが滲む。

ヴィオラは馬から降り、セイルの前に立った。

「セイル……そんなに辛い思いをしていたのね」

セイルは視線を逸らし、続けた。

「だから、君の影の力に興味を持った。俺の国では、影の継承者は王族の証。君の力が、俺の国を救う鍵になるかもしれない」

ヴィオラは胸を押さえた。

「私……そんな大それたものじゃないわ。ただの公爵令嬢で……」

セイルはヴィオラの肩に手を置いた。

「違う。君は本物の継承者だ。結晶を手に入れ、守護者の力を完全に受け入れた。俺の国には、影の神殿があり、そこに古い予言書がある。『影の娘が、漆黒の王子を導く』という」

ヴィオラの瞳が揺れた。

「それが……私?」

セイルは頷いた。

「だから、君を連れて帰りたい。俺の国で、君の力を正しく使って、王位を取り戻す」

ヴィオラは少し迷った。復讐のためではなく、セイルのため。セイルの痛みを、共有したいと思った。

「わかった……セイルの国へ、行こう」

セイルの瞳に、初めての安堵の光が差した。

「ありがとう、ヴィオラ」

二人は馬に乗り、国境へ向かった。道中、セイルはアストリアのことを語った。影の魔法が日常的に使われ、夜の祭りが盛んな国。だが、王位争いで分裂し、隣国からの干渉を受けていること。

「俺は、父王を失った時、影に逃げ込んだ。漆黒の王太子の名は、政敵が恐れる存在だ」

ヴィオラは静かに聞いた。

「セイル……私、支えたい。あなたが、笑える日が来るように」

セイルは小さく微笑んだ。

「君がいるだけで、俺は強くなれる」

国境の町に着いたのは、夕暮れ時。石造りの門が立ち、衛兵が厳しく見張っている。セイルはマントを深く被り、ヴィオラもフードを下げた。

「ここから、アストリアへ」

セイルが衛兵に合言葉を囁くと、門が開いた。町の中は、影のランプが灯り、神秘的な雰囲気。ヴィオラは目を輝かせた。

「きれい……」

セイルはヴィオラの手を握った。

「俺の国へ、ようこそ」

二人は町の宿屋へ。部屋で、セイルは地図を広げた。

「ここから、影の神殿へ向かう。そこに、予言書がある。君の力が、証明される」

ヴィオラは頷いた。

「一緒に、行こう」

セイルはヴィオラを抱き寄せた。

「君がいれば、俺は恐れない」

ヴィオラはセイルの胸に寄りかかった。心が、温かくなる。

「私も……セイルと一緒なら、何でもできる」

二人は窓から夜空を見上げた。月が、漆黒の空に浮かぶ。

だが、この旅の先に、アルディオンとセリナの影が忍び寄っていることを、二人はまだ知らなかった。

王都では、セリナの使いが、二人の行方を追っていた。

「漆黒の王太子……ヴィオレッタが一緒にいるなんて」

セリナの笑みが、暗く歪む。

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