婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

鷹 綾

文字の大きさ
16 / 30

第16話: 証拠の糸口

しおりを挟む
第16話: 証拠の糸口

森の奥深く、月明かりが木々の隙間から差し込み、地面に銀色の斑点を落としていた。ヴィオラとセイルは、馬を下り、息を潜めて小さな洞窟に身を隠していた。追っ手の気配は遠ざかったが、警戒を解くことはできなかった。ヴィオラは影の結晶の欠片を握りしめ、守護者の力を感じていた。

「セイル……予言書は、無事?」

セイルはマントの下から革表紙の書を取り出した。古いページが、月光に照らされて淡く輝く。

「これだ。『影の娘が、王子を導く』……俺たちの未来が、ここに書かれている」

ヴィオラは予言書をそっと開き、文字を追った。守護者の声が、頭に響く。

『証拠を探せ。セリナの偽りの力を暴くものだ』

ヴィオラは目を細めた。

「セリナの偽りの聖女……彼女の力は、魔法薬で偽装したものだって、噂があったわ。王都で、薬を調合しているという」

セイルは頷いた。

「アストリアの影の薬師が、似た薬を作っている。俺の国では、影の結晶を溶かした偽りの光を生む薬がある。セリナは、それを手に入れたんだ」

ヴィオラは影を呼び、予言書の上に広げた。黒い糸がページに触れ、文字が浮かび上がる。

「ここに……『偽りの光は、影の結晶の欠片で暴かれる』」

セイルの瞳が鋭くなった。

「結晶の欠片で、セリナの光を分析すれば、証拠になる」

ヴィオラは胸の結晶を外し、欠片を一つ取り出した。黒い光が、洞窟を照らす。

「これで、セリナの薬を暴けるわ」

セイルはヴィオラの手を握った。

「だが、王都に戻るのは危険だ。アルディオンが、俺たちを狙っている」

ヴィオラは決意を込めて言った。

「それでも、行かなきゃ。セリナの陰謀を暴かないと、アストリアも、俺たちの国も、救えない」

セイルはヴィオラを抱き寄せた。

「君の勇気が、俺を支えてくれる」

二人は洞窟で夜を明かし、翌朝、馬を駆ってアストリア王都の外れへ向かった。影の結晶を隠し、商人として潜入する計画を練り直した。

王都の市場は、影のランプが昼でも灯り、賑わっていた。ヴィオラはフードを深く被り、セイルと共に影の薬師の店を探した。路地裏の小さな店。店主は老いた影の使い手で、セイルの顔を見ると目を細めた。

「漆黒の王子……生きていたか」

セイルは静かに頷いた。

「薬のことを聞きたい。偽りの光を生む薬だ」

老薬師は店を閉め、奥の部屋へ案内した。

「セリナという女が、俺の薬を買い取った。結晶の欠片を溶かしたものだ。光を偽装するが、影の結晶に触れれば、真実が現れる」

ヴィオラは結晶の欠片を差し出した。

「これで、暴ける?」

老薬師は欠片を受け取り、黒い液体を垂らした。液体が欠片に触れると、青白い光が揺らぎ、黒い影が浮かび上がった。

「これだ。セリナの薬の証拠になる」

ヴィオラは息を呑んだ。

「これを、予言書と合わせて、王宮に突きつければ……」

セイルは頷いた。

「だが、アルディオンは同盟を盾に、王宮を守っている。潜入は難しい」

老薬師が言った。

「王宮の地下に、影の回廊がある。昔、王族が使っていた隠し道だ。そこから入れば、警備を避けられる」

セイルの瞳が輝いた。

「ありがとう。父王の時代に、そんな道があったとは……」

二人は薬師に礼を言い、店を出た。ヴィオラは影を広げ、周囲を探った。

「追っ手は、まだ近くにいるわ」

セイルはヴィオラを抱きしめた。

「君の予知が、俺たちを守っている」

ヴィオラはセイルの胸に寄りかかった。

「セイル……私、怖いけど、信じてる。あなたと一緒なら、勝てる」

セイルはヴィオラの唇に、優しくキスをした。

「愛してる、ヴィオラ」

ヴィオラは涙を浮かべ、頷いた。

「私も……愛してる」

二人は影の回廊を探し、王宮へ向かった。証拠の糸口を手に入れ、決戦の時が近づいていた。

だが、王宮では、セリナがアルディオンに囁いていた。

「二人が、薬のことを知ったようね。早く、始末しなきゃ」

アルディオンの瞳に、暗い炎が燃えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました

ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」  その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。  王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。  ――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。  学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。 「殿下、どういうことでしょう?」  私の声は驚くほど落ち着いていた。 「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

処理中です...