婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

第19話: 裏切りの連鎖

 第19話: 裏切りの連鎖

王宮の広間は、戦いの余韻で静まり返っていた。倒れた兵士たちの鎧が散らばり、影の結晶の欠片が床に転がっている。ヴィオラとセイルは、味方たちに囲まれ、息を整えていた。ガルドが膝をつき、報告した。

「殿下、王宮は制圧しました。アルディオンとセリナは、地下牢に幽閉されています」

セイルは頷き、皆を見回した。

「よくやった。だが、まだ終わっていない。王位継承の儀式を、正式に行う必要がある」

ヴィオラは予言書を胸に当て、影の力を感じた。守護者の声が、穏やかに響く。

『裏切りが、まだ残っている。心を試せ』

ヴィオラは周囲を見渡した。味方たちは疲れ果てながらも、忠誠の目を向けている。だが、その中に、一人だけ視線が違う男がいた。影の魔法使いの一人、若い剣士のレオン。セイルの幼馴染で、幼い頃から共に戦ってきた者だ。

「レオン……ありがとう。君の剣が、助かった」

セイルが声をかけると、レオンは笑みを浮かべたが、瞳の奥に影が差していた。

「殿下のためなら、何でも」

ヴィオラの予知が、閃いた。胸の奥で、暗い予感が広がる。レオンの手が、ゆっくりと剣に伸びる。

「レオン……？」

次の瞬間、レオンが剣を抜き、セイルに斬りかかった。

「殿下！」

ガルドが叫び、剣で受け止める。火花が散り、レオンの顔が歪む。

「なぜだ、レオン！」

セイルの声が、広間に響く。レオンは冷たく笑った。

「なぜって？ アルディオン殿下から、金貨と地位を約束されたからだよ。漆黒の王太子など、俺には関係ない」

味方たちがざわめいた。ヴィオラは影を広げ、レオンの足を絡め取ろうとした。

「レオン……裏切り者！」

レオンは影を振り払い、剣を振り上げた。

「影の継承者も、邪魔だ」

ガルドがレオンに斬りかかり、二人の剣が激しく交錯する。セイルはヴィオラを守るように前に立ち、剣を構えた。

「レオン……お前は、俺の幼馴染だったはずだ」

レオンは嘲笑った。

「幼馴染？ 俺はいつも、影に隠れたお前の後ろにいただけだ。もう、うんざりだ！」

ヴィオラは影の幻影を生み、レオンの動きを封じようとした。だが、レオンの剣が速く、幻影を斬り裂く。

「無駄だ！」

ガルドがレオンを押し返し、剣を喉元に突きつけた。

「殿下……この男を、どうしますか」

セイルは静かに言った。

「牢へ。裏切りは、許さない」

レオンは地面に膝をつき、憎しみの目でセイルを睨んだ。

「俺は……お前を殺せなかった。だが、アルディオン殿下は、まだ諦めていないぞ」

ヴィオラの予知が、再び閃いた。セリナの力が、地下牢から漏れ出している。

「セリナ……彼女が、まだ何か企んでいるわ」

セイルは頷き、味方たちに命じた。

「地下牢を厳重に守れ。セリナの光を、結晶で封じろ」

味方たちが動き、地下牢へ向かった。ヴィオラはセイルの手を握った。

「セイル……信じていた人が、裏切るなんて……」

セイルはヴィオラを抱きしめた。

「俺も、ショックだ。だが、君がいるから、耐えられる」

ヴィオラはセイルの胸に寄りかかった。

「私も……セイルを信じてる」

広間に、静かな決意が満ちた。裏切りの連鎖は、止まらなかったが、二人の絆は、より強くなった。

その夜、地下牢でセリナは独り、笑みを浮かべていた。

「まだ……終わっていないわ。私の光は、偽りじゃない……本物よ」

暗い牢に、白い光がわずかに漏れ出す。