婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

第23話: 魔法の対決

第23話: 魔法の対決

王宮の玉座の間は、儀式の余韻が残る中、再び緊張に包まれていた。影の結晶が天井から淡く輝き、広間の床を青白く照らしている。セイルは玉座に座り、ヴィオラを隣に立たせていた。味方たちが周囲を固め、静かに息を潜めている。

突然、広間の扉が激しく開いた。アルディオンが、鎖を振り切った姿で現れた。金髪が乱れ、瞳に狂気が宿っている。傍らには、セリナ。彼女の体から、黒い霧が漏れ出し、偽りの光が歪んだ形で揺らめいている。

「俺は……王太子だ！ お前たちに、王位など渡さない！」

アルディオンの声が、広間に響く。セリナが手を挙げ、光を放った。だが、その光はもはや純白ではなく、黒い影が混じり、異様な形に歪んでいる。

「私の力は……本物よ！ 影の結晶を飲み込んだ今、誰も止められない！」

ヴィオラは影を広げ、結晶を握りしめた。

「セリナ……もう、止めて。あなたの体が、壊れてしまうわ」

セリナは笑った。狂気じみた笑い。

「壊れる？ 私は、強くなったのよ！ あなたみたいな、影の残り物に負けるはずがない！」

セリナの光が爆発的に広がり、広間全体を覆った。味方たちが影で防御するが、光は影を焼き払おうとする。ヴィオラは前に出た。

「セイル……私に任せて」

セイルは剣を構え、ヴィオラを守るように立った。

「ヴィオラ、一緒に」

ヴィオラは頷き、影の糸を広げた。黒い糸がセリナの光に絡みつき、結晶の力が光を中和する。セリナの光が弱まる。

「いや……！」

セリナが叫び、光を強めた。ヴィオラの影が押し返され、体が震える。守護者の声が響いた。

『心を集中せよ。幻影で、彼女の本当の姿を映せ』

ヴィオラは目を閉じ、胸の奥に集中した。影の幻影が広がり、セリナの過去を映し出す。貧民街の少女が、飢えと嫉妬に苛まれ、薬を飲み込む姿。愛を求めて、偽りの道を選んだ姿。

「セリナ……あなたは、ただ愛されたかっただけよね」

セリナの瞳が揺れた。光が、わずかに弱まる。

「黙れ……！」

セリナが光を集中し、ヴィオラに向かって放つ。ヴィオラは影の壁を作り、光を防いだ。だが、光の力が強く、壁がひび割れる。

セイルが剣を振り、光を斬り裂いた。

「ヴィオラ、今だ！」

ヴィオラは影の糸をセリナに伸ばした。糸がセリナの体に絡み、結晶の光が彼女の体内に侵入する。セリナの体が震え、黒い霧が溢れ出した。

「いや……ああっ！」

セリナの光が、完全に消えた。彼女は膝をつき、地面に崩れ落ちた。

「私の……力……」

ヴィオラはセリナに近づき、優しく抱き起こした。

「セリナ……もう、終わったわ。本当のあなたに戻って」

セリナは涙を流し、ヴィオラの胸に顔を埋めた。

「ごめんなさい……ヴィオレッタ……」

アルディオンはセリナの姿を見て、絶望の表情を浮かべた。

「セリナ……お前まで……」

セイルがアルディオンに剣を突きつけた。

「アルディオン、お前の野心は、ここで終わりだ」

アルディオンは剣を落とし、地面に膝をついた。

「俺は……負けたのか……」

味方たちがアルディオンを拘束し、セリナを優しく支えた。広間に、静けさが訪れた。

セイルはヴィオラを抱きしめた。

「ヴィオラ……よくやった」

ヴィオラはセイルの胸に寄りかかり、微笑んだ。

「セイルと一緒だから……勝てたわ」

セイルはヴィオラの唇にキスをした。優しく、深いキス。

「君が、俺の光だ」

ヴィオラは涙を浮かべ、頷いた。

「あなたが、私の影……」

魔法の対決は、終わった。二人の絆が、すべてを乗り越えた。

王宮は、平和な光に包まれた。だが、追放の末路は、まだ待っていた。