婚約破棄された公爵令嬢は、漆黒の王太子に溺愛されて永遠の光を掴む

第24話: 王太子の転落

第24話: 王太子の転落

アストリア王宮の広間は、儀式の光がまだ残る中、再び重い空気に包まれていた。影の結晶が天井から淡く輝き、床を青白く照らす。セイルは玉座に座り、ヴィオラを隣に立たせていた。味方たちが周囲を固め、アルディオンとセリナが鎖に繋がれて広間の中央に立たされていた。

アルディオンは金髪を乱れさせ、かつての王太子の威厳を失っていた。瞳に絶望と憎しみが混じり、セリナは地面に膝をつき、肩を震わせている。

セイルの声が、静かに響いた。

「アルディオン・フォン・ローレル。お前は、隣国との同盟を盾に、この王宮を乗っ取ろうとした。セリナの偽りの力を使い、影の結界を破壊しようとした罪は重い」

アルディオンは顔を上げ、嘲るように笑った。

「罪？ 俺は王太子だ。お前のような影に隠れた男に、王位など渡さない」

セイルは冷たく言った。

「王太子の名は、もうお前にはない。お前の野心は、ここで終わりだ」

ヴィオラは影を広げ、結晶を掲げた。黒い光がアルディオンに触れ、彼の体を包む。影の幻影が生まれ、アルディオンの過去を映し出した。婚約破棄の夜、公衆の面前でヴィオレッタを侮辱した姿。セリナに心変わりし、王国を混乱に陥れた姿。

「アルディオン……あなたは、すべてを失ったのよ」

ヴィオラの声は静かだった。アルディオンは幻影を見て、顔を歪めた。

「やめろ……！」

幻影が激しくなり、アルディオンの心を抉る。幻影のヴィオレッタが、彼を嘲笑うように近づく。

「飾り物……ただの飾り物……」

アルディオンは叫び、地面に膝をついた。体が震え、汗が滴る。幻影の光が彼を追いかけ、視界を埋め尽くす。

「いや……やめろ！」

アルディオンは幻影に追いかけられ、広間の隅へ逃げた。だが、影は容赦なく迫る。彼は壁に背を預け、失禁した。ズボンが濡れ、床に滴る音が響く。

味方たちが息を呑んだ。アルディオンは地面に崩れ落ち、嗚咽を漏らした。

「俺は……王太子だったのに……」

セイルは立ち上がり、アルディオンを見下ろした。

「追放する。お前は、この国から永久に去れ。もう、二度と戻ってくるな」

アルディオンは鎖に繋がれたまま、引きずられるように連れ出された。広間に、静けさが訪れた。

次に、セリナの番だった。ヴィオラは彼女に近づき、優しく言った。

「セリナ……あなたも、追放するわ。でも、偽りの力から解放されて、本当の自分を見つけて」

セリナは涙を流し、ヴィオラの手を取った。

「ありがとう……ヴィオレッタ。あなたは、優しかった」

セリナは立ち上がり、鎖を解かれ、静かに広間を出た。彼女の背中は小さく、しかし自由だった。

セイルはヴィオラを抱き寄せた。

「終わったわ……セイル」

セイルはヴィオラの額にキスをした。

「君のおかげだ。俺の王妃」

ヴィオラは微笑み、セイルの胸に寄りかかった。

「これで、平和な王国が築ける」

味方たちが歓声を上げた。ガルドが声を張った。

「漆黒の王、セイル！ 王妃、ヴィオラ！」

広間に、歓喜の声が響く。影の結晶が輝き、王宮全体を温かな光で包んだ。

アルディオンとセリナは、追放の馬車に乗り、王都を去った。アルディオンは窓から王宮を見上げ、憎しみの目を向けた。

「いつか……必ず……」

セリナは静かに目を閉じた。

「もう、いいわ……」

二人の転落は、王国の新しい始まりを告げていた。

ヴィオラはセイルの手を握り、玉座の間から外を見た。夜空に、星が輝く。

「セイル……これから、ずっと一緒に」

セイルはヴィオラを抱きしめた。

「永遠に」

王太子の転落は、すべてを終わらせた。二人の愛が、王国を照らす光となった。