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第二話 拍手の音が止むまで
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第二話 拍手の音が止むまで
王立劇場の大広間は、奇妙なほど静かだった。
つい先ほどまで、誰もが“断罪される侯爵令嬢”の続きを期待していたはずなのに、今は違う。壇上の中央に立つサビーネ・ドルレアンを前にして、何を言えばいいのか、誰もわからなくなっていた。
沈黙を最初に破ったのは、セドリック第二王子だった。
「……何を、言い出すかと思えば」
低く押し殺した声。だが余裕を装うには、わずかに震えが混じっていた。
「そのような出まかせで、この場を混乱させるつもりか」
サビーネは扇も持たず、ただ両手を前で静かに重ねた。
「出まかせ、ですの?」
「当然だ。私は王族だぞ」
「それは存じておりますわ。まさか今この場で、血筋のご説明から始めることになるとは思いませんでしたけれど」
ひそやかな笑いが、広間の後方で小さく漏れた。
セドリックの眉がぴくりと動く。
ああ、まずい。
彼はそう思ったに違いない。
これまでなら、彼が少し声を荒らげれば場は従った。華やかな王子が、冷たい婚約者に耐えてきた。か弱い男爵令嬢を守ろうとしている。そんな構図さえ保っていれば、多少言葉が乱れても周囲が勝手に意味を補ってくれた。
だが今は違う。
筋書きから外れた瞬間、彼は自分の言葉だけで立たねばならなくなった。
そして残念ながら、セドリックはそういう場に弱い。
「サビーネ様……」
甘く震える声で、オディール・メルヴィが一歩前へ出た。
ほっとしたような、縋るような、しかしちゃんと会場の視線を意識した歩幅だった。
「どうか、もうおやめください。わたくしのために殿下を困らせるなんて……」
「あなたのため?」
サビーネは首を傾げた。
「ずいぶん都合のよい解釈ですこと」
オディールははっと息をのむ。大きな瞳が潤み、今にも涙がこぼれそうな顔になる。けれどサビーネはもう、その技に付き合う気がなかった。
「わたくしは殿下に申し上げていますの。あなたは今、横から泣いているだけでしょう?」
会場の何人かが、思わずというように扇で口元を押さえた。
男爵令嬢が王子の庇護のもと泣いているだけ。
あまりにも身も蓋もない表現だったが、正確でもあった。
「あなた……!」
セドリックが声を荒らげる。
「オディールを侮辱する気か!」
「侮辱? いいえ」
サビーネは穏やかに笑った。
「役割を確認しただけですわ」
その一言で、また空気が変わる。
役割。
まるでこの一連の婚約破棄劇そのものが、あらかじめ配役された芝居だったかのような言い方。
そして王立劇場という場所が、最悪なほどそれを際立たせていた。
サビーネは会場をゆっくり見渡した。
正面の侯爵夫人。左手に立つ伯爵家の兄妹。その後ろで様子をうかがう若い子爵たち。皆、少し前まで“傷ついた令嬢が崩れ落ちる瞬間”を待っていた顔をしていたのに、今は違う。
見ているのだ。
どちらが主導権を握るのか。
どちらが観客の興味を支配するのか。
人は残酷だ。けれどその残酷さは、時に利用できる。
「皆様」
サビーネは壇上の前方へ一歩出た。
ドレスの裾が静かに揺れ、視線がさらに集まる。
「本日の主旨は慈善のための晩餐会でしたわね」
誰も答えない。
けれどそれでいい。これは質問ではなく、場の支配権を握るための確認だ。
「にもかかわらず、第二王子殿下はこの席を婚約破棄の舞台としてお使いになった。でしたら、この場にいらっしゃる皆様にも、最後までご観覧いただく権利がございますでしょう?」
ざわ……と、抑えきれないざわめきが広がった。
観覧。
まるで今の状況すべてが興行であるかのような言葉に、何人かは眉をひそめ、何人かは逆に目を輝かせた。
面白いものが始まる、という顔。
まったく、貴族というのは高価な服を着た野次馬だ。
「サビーネ!」
セドリックが声を張る。
「これ以上、無礼な口を利くな!」
「無礼、ですか」
サビーネは静かに振り返った。
「ではお尋ねしますわ、殿下。婚約者に事前の通達もなく、公衆の面前で婚約解消を宣言することは、礼にかなっておりますの?」
「それは……お前の行いが、あまりにも――」
「それならばなおのこと、先に王家と侯爵家で話し合うべきでしたわね。ですがそうはなさらなかった」
ぴしゃりと落ちた言葉に、セドリックが詰まる。
サビーネは逃がさなかった。
「なぜでしょう?」
「それは……」
「大勢の前で告げた方が、ご自分に酔えたからではなくて?」
今度は、はっきりと数人が息を呑んだ。
王族に向かって、そこまで言う。
普通の令嬢ならあり得ない。だが普通の令嬢は、そもそもこんな場所で見世物にされない。
セドリックは頬を引きつらせた。
「私は真実を示そうとしただけだ!」
「でしたら、その真実とやらは、もう少し具体的であるべきですわ」
サビーネは涼しい顔で言った。
「先ほど殿下は、わたくしが冷酷で傲慢で、メルヴィ嬢を孤立させたとおっしゃいましたわね」
「事実だ!」
「どの場面で?」
「何……?」
「どの夜会で、どのような言葉を用いて、誰の前で、何をなさいましたの?」
たたみかけるような問いに、セドリックの顔色が変わる。
ああ、やはり。
彼は印象でしか話していない。
“サビーネは冷たい”“オディールは可哀想”というふわりとした物語だけで、事実を支える具体がないのだ。
「それは、いくつも……」
「いくつも、ですのね」
サビーネはうなずく。
「でしたら、一つで結構ですわ。ここでお話しくださいな」
沈黙。
会場の空気が重くなる。
誰もがセドリックの答えを待ったが、返ってくるのは曖昧な怒りだけだった。
「私に向かって尋問をする気か!」
「尋問ではございませんわ」
サビーネは首を振る。
「皆様にご説明いただこうとしているのです。殿下ご自身が始められた“公開の場”なのですから」
またもや、後方から小さな笑い声が漏れた。
今度はすぐには消えなかった。
くすり、という音が二つ三つ重なり、それが波紋のように広がる。誰も大声で笑いはしないが、空気が少しずつセドリックから離れていくのがわかる。
壇上に立っているのに、彼はもう主役ではない。
サビーネは胸の奥で確かにそれを感じた。
怖くないわけではなかった。
膝は震えそうだし、指先は冷たい。背中にはじっとりと汗がにじんでいる。けれど不思議なことに、一度踏み出してしまえば次の一歩は少しだけ楽になる。
ずっと我慢してきたのだ。
失言の後始末も、金の動きの調整も、贈り物の選定も、誰にどの程度の謝罪が必要かの見極めも。セドリックは“華やかさ”だけを担い、見えないところは全部サビーネが引き受けてきた。
それなのに最後は、公衆の面前で悪女役。
そんなもの、受け入れてやる義理はない。
「殿下が具体をお示しになれないのでしたら」
サビーネは、今度は観客へ向かって言った。
「この婚約解消は、事実に基づく断罪というより、印象に頼った余興であったと解釈せざるを得ませんわね」
「余興などではない!」
セドリックが反射的に叫ぶ。
「ならばご説明を」
「くっ……」
「ご説明が難しいのでしたら、別の観点からでも結構ですわ」
サビーネは穏やかに続ける。
「婚約解消そのものは、両家の話し合いにより成立する場合もございます。ですが今回は、王家から侯爵家への事前通達もなく、わたくし本人への予告もなく、しかも第三者を並べての発表でした」
第三者――つまりオディールだ。
その言葉に、彼女の肩がびくりと震える。
「これでは、婚約解消というより、新しいお相手のお披露目に見えてしまいますでしょう?」
会場が、今度こそ大きくざわめいた。
それは皆が最初から感じていた違和感だった。
婚約破棄だけなら、もっと別の場でできたはずなのだ。なのにオディールが王子の隣に立ち、涙ながらに止めるふりをし、王子は彼女を庇っていた。
あまりにもわかりやすい。
わかりやすいのに、最初は誰も口にしなかった。
王族の筋書きに逆らうより、黙って見ている方が安全だからだ。
でも今は、その“言ってはいけない違和感”をサビーネが先に言葉にしてくれた。
ならば、人は途端に乗ってくる。
「ち、違います……!」
オディールがついに耐えきれず声を上げた。
「わたくしは、そのようなつもりでは……!」
「では、どのようなおつもりで殿下の隣へ?」
サビーネの問いはやわらかい。
だが、逃がさない。
「それは……殿下が、おそばにいてほしいと……」
「婚約者のいる方に?」
オディールの唇が固まる。
しまった、と顔に出ていた。
それが致命的だと気づくには、少し遅い。
サビーネはその様子を見つめながら、内心で小さく息を吐いた。
この人は、自分が可愛く怯えていれば皆が守ってくれると思っている。たぶん、これまではそうだったのだろう。けれど守られるだけで勝てるのは、相手が黙ってくれる時だけだ。
今日は違う。
今日は、黙らない。
「サビーネ様……わたくし、そんなつもりは、本当に……」
うるうると揺れる目。
だがその涙が完成する前に、サビーネは一歩近づいた。
「でしたら、わたくしを“おかわいそう”とおっしゃる前に、まず壇上を降りるべきでしたわね」
オディールの顔から血の気が引いた。
「え……」
「わたくしが本当に可哀想だと思うのでしたら、あなたは今ここに立っていてはいけなかったのですもの」
その通りだった。
あまりにもその通りで、言い逃れの余地がない。
オディールは唇を震わせ、セドリックを見た。助けを求める顔だ。けれどセドリック自身が今、助けを必要としている。
「もういい!」
彼は苛立ちを隠さず、サビーネを睨みつけた。
「お前のその口の立つところが、私は以前から不快だった!」
「まあ」
サビーネは目を細める。
「それは初耳ですわ。失言をした夜には、ずいぶん助かったとおっしゃっていましたのに」
どっと、空気が揺れた。
失言。
あえてそこを拾う。
会場の者たちは一斉に食いついた。貴族にとって、王族の失態ほど甘美な菓子はない。
セドリックの顔色が一気に変わる。
「な……何の話だ」
「どの件でしたかしら。寄付額の桁を読み違えて宰相閣下を青ざめさせた時? それとも、東部侯爵家の未亡人に“まだお若いのだから再婚も容易でしょう”とおっしゃって泣かせた時?」
「サビーネ!」
「あるいは、フェルナン伯のご息女のお名前を三度続けて間違えた夜のことでしょうか」
もう数人では済まなかった。
ざわめきが一気に広がり、今や大広間の隅々まで満ちていく。
誰もはっきり口にはしないが、皆、心当たりがある顔をしている。王族の失言は表には出にくい。だがだからこそ、宮廷に出入りする者たちは妙によく知っている。
そのたびに誰が後始末をしていたのか。
今ここで、ようやく答え合わせが始まったのだ。
セドリックは歯を食いしばった。
「貴様……っ、私を脅すつもりか!」
「脅しではございませんわ」
サビーネはやわらかく言った。
「精算ですの」
その言葉が、会場に重く落ちる。
サビーネは続けた。
「婚約者として、殿下の体面を守るために、わたくしが引き受けてきたことがございます。手紙、贈答、調整、謝罪、説明、口止め……数え上げればきりがありません」
自分で言いながら、妙に冷静だった。
少し前までの自分なら、恥ずかしさで言えなかったかもしれない。誰かの尻拭いをしてきたなど、誇れる話ではない。むしろ惨めだ。
けれど今は違う。
惨めにしたのは自分ではない。
それを当然のように押しつけ、公の場で切り捨てた側だ。
「公の場で婚約を解消なさるのでしたら、公の場で“なぜこの婚約が保っていたのか”も明らかにすべきでしょう?」
サビーネは一歩、また一歩と壇上の中央へ進む。
まるで最初からそこが自分の立ち位置だったかのように。
セドリックはそれを見て、初めて気づいたようだった。
この女は、もう泣かない。
少なくとも今夜は。
「皆様もお聞きになりたいのではなくて?」
サビーネが言うと、観客たちは露骨には頷かないまでも、明らかに“続けろ”という顔をした。
貴婦人たちは扇を閉じ、紳士たちはグラスを置く。
拍手はもうない。
代わりに、乾いた期待だけがある。
その時だった。
会場後方で、ひときわ低い男の声が響いた。
「ごもっともですな」
ざわめきの波が、後ろから前へと走る。
人垣の向こう、柱の影からゆっくり歩み出てきたのは、先ほどサビーネが目にしたあの地味な男だった。
灰色の礼装には華美な刺繍も勲章もない。だが質だけはよく、無駄がない。黒髪をきっちり撫でつけたその男は、社交界の飾りめいた男たちとはまるで違う種類の落ち着きをまとっていた。
歩くだけで、人が道を開ける。
王族の威光ではなく、別種の圧で。
「誰だ……?」
ひそひそと声が上がる。
だが一部の年配貴族は顔色を変えた。知っているのだ。
男は壇上の手前で立ち止まり、恭しくも過剰ではない礼をとった。
「王都監査局特別監督官、ヨアヒム・ベルナールと申します」
その名が落ちた瞬間、空気がまた一段変わった。
監査局。
きらびやかな社交界では歓迎されにくい名だ。数字、記録、契約、報告。夢のない現実ばかりを扱う場所。そして、そこから来る人間はたいてい、何かを見逃しに来たのではなく見つけに来ている。
セドリックの顔から、さっと血の気が引く。
「か、監査局だと……?」
「はい、殿下」
ヨアヒムは淡々と答えた。
「本日の寄付金管理について確認のため来場しておりましたが、思いがけず、ずいぶん興味深い公開説明の場に立ち会ってしまいました」
興味深い。
この男も、なかなか言う。
サビーネは思わず、ほんの少しだけ口元を緩めそうになった。
だがまだ早い。勝負は終わっていない。
ヨアヒムはセドリックではなく、サビーネの方へ視線を向けた。
「侯爵令嬢のご主張は、続きを伺う価値があるように思われます」
それは味方だと叫ぶような言葉ではなかった。
もっと冷たい。
もっと公正だ。
だがだからこそ、今のサビーネには何より頼もしかった。
感情ではなく、理屈でこの場に立つ人間が一人増えたのだ。
セドリックが唇をわななかせる。
「これは王家の問題だ! 部外者が口を挟むな!」
「慈善晩餐会の壇上で、公衆の面前にて行われた以上、完全な私事とは申せませんな」
ヨアヒムは一歩も引かない。
「少なくとも、寄付と王家の名が関わる席を私的な断罪劇に転用された件については、私にも関心を持つ理由があります」
今度こそ、会場は完全に王子の手から滑り落ちた。
王族の威光で押し通すには、監査局という相手は相性が悪すぎる。相手は拍手も喝采も求めない。ただ記録し、確認し、必要なら掘る。
見栄と演出で生きる男にとって、これほど嫌な敵はいない。
サビーネは静かに息を整えた。
今ならいける。
この場を、本当に奪える。
「殿下」
彼女はもう一度、婚約者だった男を見た。
「せっかく皆様がお揃いですもの。ここで終えるのはもったいのうございますわ」
「お前……」
「拍手の音が止んだあとこそ、本番ではなくて?」
セドリックは言葉を失った。
サビーネは会場を見渡し、そして静かに続ける。
「今夜はまだ始まったばかりですわ。婚約破棄を見せ物になさったのですから、その代金はきちんと払っていただきませんと」
その宣言に、ざわめきはもはや熱狂に近いものへと変わっていく。
誰も手を叩かない。
けれど、確かだった。
今この場で最も注目を集め、空気を支配しているのは、第二王子ではない。
侯爵令嬢サビーネ・ドルレアンだった。
王立劇場の大広間は、奇妙なほど静かだった。
つい先ほどまで、誰もが“断罪される侯爵令嬢”の続きを期待していたはずなのに、今は違う。壇上の中央に立つサビーネ・ドルレアンを前にして、何を言えばいいのか、誰もわからなくなっていた。
沈黙を最初に破ったのは、セドリック第二王子だった。
「……何を、言い出すかと思えば」
低く押し殺した声。だが余裕を装うには、わずかに震えが混じっていた。
「そのような出まかせで、この場を混乱させるつもりか」
サビーネは扇も持たず、ただ両手を前で静かに重ねた。
「出まかせ、ですの?」
「当然だ。私は王族だぞ」
「それは存じておりますわ。まさか今この場で、血筋のご説明から始めることになるとは思いませんでしたけれど」
ひそやかな笑いが、広間の後方で小さく漏れた。
セドリックの眉がぴくりと動く。
ああ、まずい。
彼はそう思ったに違いない。
これまでなら、彼が少し声を荒らげれば場は従った。華やかな王子が、冷たい婚約者に耐えてきた。か弱い男爵令嬢を守ろうとしている。そんな構図さえ保っていれば、多少言葉が乱れても周囲が勝手に意味を補ってくれた。
だが今は違う。
筋書きから外れた瞬間、彼は自分の言葉だけで立たねばならなくなった。
そして残念ながら、セドリックはそういう場に弱い。
「サビーネ様……」
甘く震える声で、オディール・メルヴィが一歩前へ出た。
ほっとしたような、縋るような、しかしちゃんと会場の視線を意識した歩幅だった。
「どうか、もうおやめください。わたくしのために殿下を困らせるなんて……」
「あなたのため?」
サビーネは首を傾げた。
「ずいぶん都合のよい解釈ですこと」
オディールははっと息をのむ。大きな瞳が潤み、今にも涙がこぼれそうな顔になる。けれどサビーネはもう、その技に付き合う気がなかった。
「わたくしは殿下に申し上げていますの。あなたは今、横から泣いているだけでしょう?」
会場の何人かが、思わずというように扇で口元を押さえた。
男爵令嬢が王子の庇護のもと泣いているだけ。
あまりにも身も蓋もない表現だったが、正確でもあった。
「あなた……!」
セドリックが声を荒らげる。
「オディールを侮辱する気か!」
「侮辱? いいえ」
サビーネは穏やかに笑った。
「役割を確認しただけですわ」
その一言で、また空気が変わる。
役割。
まるでこの一連の婚約破棄劇そのものが、あらかじめ配役された芝居だったかのような言い方。
そして王立劇場という場所が、最悪なほどそれを際立たせていた。
サビーネは会場をゆっくり見渡した。
正面の侯爵夫人。左手に立つ伯爵家の兄妹。その後ろで様子をうかがう若い子爵たち。皆、少し前まで“傷ついた令嬢が崩れ落ちる瞬間”を待っていた顔をしていたのに、今は違う。
見ているのだ。
どちらが主導権を握るのか。
どちらが観客の興味を支配するのか。
人は残酷だ。けれどその残酷さは、時に利用できる。
「皆様」
サビーネは壇上の前方へ一歩出た。
ドレスの裾が静かに揺れ、視線がさらに集まる。
「本日の主旨は慈善のための晩餐会でしたわね」
誰も答えない。
けれどそれでいい。これは質問ではなく、場の支配権を握るための確認だ。
「にもかかわらず、第二王子殿下はこの席を婚約破棄の舞台としてお使いになった。でしたら、この場にいらっしゃる皆様にも、最後までご観覧いただく権利がございますでしょう?」
ざわ……と、抑えきれないざわめきが広がった。
観覧。
まるで今の状況すべてが興行であるかのような言葉に、何人かは眉をひそめ、何人かは逆に目を輝かせた。
面白いものが始まる、という顔。
まったく、貴族というのは高価な服を着た野次馬だ。
「サビーネ!」
セドリックが声を張る。
「これ以上、無礼な口を利くな!」
「無礼、ですか」
サビーネは静かに振り返った。
「ではお尋ねしますわ、殿下。婚約者に事前の通達もなく、公衆の面前で婚約解消を宣言することは、礼にかなっておりますの?」
「それは……お前の行いが、あまりにも――」
「それならばなおのこと、先に王家と侯爵家で話し合うべきでしたわね。ですがそうはなさらなかった」
ぴしゃりと落ちた言葉に、セドリックが詰まる。
サビーネは逃がさなかった。
「なぜでしょう?」
「それは……」
「大勢の前で告げた方が、ご自分に酔えたからではなくて?」
今度は、はっきりと数人が息を呑んだ。
王族に向かって、そこまで言う。
普通の令嬢ならあり得ない。だが普通の令嬢は、そもそもこんな場所で見世物にされない。
セドリックは頬を引きつらせた。
「私は真実を示そうとしただけだ!」
「でしたら、その真実とやらは、もう少し具体的であるべきですわ」
サビーネは涼しい顔で言った。
「先ほど殿下は、わたくしが冷酷で傲慢で、メルヴィ嬢を孤立させたとおっしゃいましたわね」
「事実だ!」
「どの場面で?」
「何……?」
「どの夜会で、どのような言葉を用いて、誰の前で、何をなさいましたの?」
たたみかけるような問いに、セドリックの顔色が変わる。
ああ、やはり。
彼は印象でしか話していない。
“サビーネは冷たい”“オディールは可哀想”というふわりとした物語だけで、事実を支える具体がないのだ。
「それは、いくつも……」
「いくつも、ですのね」
サビーネはうなずく。
「でしたら、一つで結構ですわ。ここでお話しくださいな」
沈黙。
会場の空気が重くなる。
誰もがセドリックの答えを待ったが、返ってくるのは曖昧な怒りだけだった。
「私に向かって尋問をする気か!」
「尋問ではございませんわ」
サビーネは首を振る。
「皆様にご説明いただこうとしているのです。殿下ご自身が始められた“公開の場”なのですから」
またもや、後方から小さな笑い声が漏れた。
今度はすぐには消えなかった。
くすり、という音が二つ三つ重なり、それが波紋のように広がる。誰も大声で笑いはしないが、空気が少しずつセドリックから離れていくのがわかる。
壇上に立っているのに、彼はもう主役ではない。
サビーネは胸の奥で確かにそれを感じた。
怖くないわけではなかった。
膝は震えそうだし、指先は冷たい。背中にはじっとりと汗がにじんでいる。けれど不思議なことに、一度踏み出してしまえば次の一歩は少しだけ楽になる。
ずっと我慢してきたのだ。
失言の後始末も、金の動きの調整も、贈り物の選定も、誰にどの程度の謝罪が必要かの見極めも。セドリックは“華やかさ”だけを担い、見えないところは全部サビーネが引き受けてきた。
それなのに最後は、公衆の面前で悪女役。
そんなもの、受け入れてやる義理はない。
「殿下が具体をお示しになれないのでしたら」
サビーネは、今度は観客へ向かって言った。
「この婚約解消は、事実に基づく断罪というより、印象に頼った余興であったと解釈せざるを得ませんわね」
「余興などではない!」
セドリックが反射的に叫ぶ。
「ならばご説明を」
「くっ……」
「ご説明が難しいのでしたら、別の観点からでも結構ですわ」
サビーネは穏やかに続ける。
「婚約解消そのものは、両家の話し合いにより成立する場合もございます。ですが今回は、王家から侯爵家への事前通達もなく、わたくし本人への予告もなく、しかも第三者を並べての発表でした」
第三者――つまりオディールだ。
その言葉に、彼女の肩がびくりと震える。
「これでは、婚約解消というより、新しいお相手のお披露目に見えてしまいますでしょう?」
会場が、今度こそ大きくざわめいた。
それは皆が最初から感じていた違和感だった。
婚約破棄だけなら、もっと別の場でできたはずなのだ。なのにオディールが王子の隣に立ち、涙ながらに止めるふりをし、王子は彼女を庇っていた。
あまりにもわかりやすい。
わかりやすいのに、最初は誰も口にしなかった。
王族の筋書きに逆らうより、黙って見ている方が安全だからだ。
でも今は、その“言ってはいけない違和感”をサビーネが先に言葉にしてくれた。
ならば、人は途端に乗ってくる。
「ち、違います……!」
オディールがついに耐えきれず声を上げた。
「わたくしは、そのようなつもりでは……!」
「では、どのようなおつもりで殿下の隣へ?」
サビーネの問いはやわらかい。
だが、逃がさない。
「それは……殿下が、おそばにいてほしいと……」
「婚約者のいる方に?」
オディールの唇が固まる。
しまった、と顔に出ていた。
それが致命的だと気づくには、少し遅い。
サビーネはその様子を見つめながら、内心で小さく息を吐いた。
この人は、自分が可愛く怯えていれば皆が守ってくれると思っている。たぶん、これまではそうだったのだろう。けれど守られるだけで勝てるのは、相手が黙ってくれる時だけだ。
今日は違う。
今日は、黙らない。
「サビーネ様……わたくし、そんなつもりは、本当に……」
うるうると揺れる目。
だがその涙が完成する前に、サビーネは一歩近づいた。
「でしたら、わたくしを“おかわいそう”とおっしゃる前に、まず壇上を降りるべきでしたわね」
オディールの顔から血の気が引いた。
「え……」
「わたくしが本当に可哀想だと思うのでしたら、あなたは今ここに立っていてはいけなかったのですもの」
その通りだった。
あまりにもその通りで、言い逃れの余地がない。
オディールは唇を震わせ、セドリックを見た。助けを求める顔だ。けれどセドリック自身が今、助けを必要としている。
「もういい!」
彼は苛立ちを隠さず、サビーネを睨みつけた。
「お前のその口の立つところが、私は以前から不快だった!」
「まあ」
サビーネは目を細める。
「それは初耳ですわ。失言をした夜には、ずいぶん助かったとおっしゃっていましたのに」
どっと、空気が揺れた。
失言。
あえてそこを拾う。
会場の者たちは一斉に食いついた。貴族にとって、王族の失態ほど甘美な菓子はない。
セドリックの顔色が一気に変わる。
「な……何の話だ」
「どの件でしたかしら。寄付額の桁を読み違えて宰相閣下を青ざめさせた時? それとも、東部侯爵家の未亡人に“まだお若いのだから再婚も容易でしょう”とおっしゃって泣かせた時?」
「サビーネ!」
「あるいは、フェルナン伯のご息女のお名前を三度続けて間違えた夜のことでしょうか」
もう数人では済まなかった。
ざわめきが一気に広がり、今や大広間の隅々まで満ちていく。
誰もはっきり口にはしないが、皆、心当たりがある顔をしている。王族の失言は表には出にくい。だがだからこそ、宮廷に出入りする者たちは妙によく知っている。
そのたびに誰が後始末をしていたのか。
今ここで、ようやく答え合わせが始まったのだ。
セドリックは歯を食いしばった。
「貴様……っ、私を脅すつもりか!」
「脅しではございませんわ」
サビーネはやわらかく言った。
「精算ですの」
その言葉が、会場に重く落ちる。
サビーネは続けた。
「婚約者として、殿下の体面を守るために、わたくしが引き受けてきたことがございます。手紙、贈答、調整、謝罪、説明、口止め……数え上げればきりがありません」
自分で言いながら、妙に冷静だった。
少し前までの自分なら、恥ずかしさで言えなかったかもしれない。誰かの尻拭いをしてきたなど、誇れる話ではない。むしろ惨めだ。
けれど今は違う。
惨めにしたのは自分ではない。
それを当然のように押しつけ、公の場で切り捨てた側だ。
「公の場で婚約を解消なさるのでしたら、公の場で“なぜこの婚約が保っていたのか”も明らかにすべきでしょう?」
サビーネは一歩、また一歩と壇上の中央へ進む。
まるで最初からそこが自分の立ち位置だったかのように。
セドリックはそれを見て、初めて気づいたようだった。
この女は、もう泣かない。
少なくとも今夜は。
「皆様もお聞きになりたいのではなくて?」
サビーネが言うと、観客たちは露骨には頷かないまでも、明らかに“続けろ”という顔をした。
貴婦人たちは扇を閉じ、紳士たちはグラスを置く。
拍手はもうない。
代わりに、乾いた期待だけがある。
その時だった。
会場後方で、ひときわ低い男の声が響いた。
「ごもっともですな」
ざわめきの波が、後ろから前へと走る。
人垣の向こう、柱の影からゆっくり歩み出てきたのは、先ほどサビーネが目にしたあの地味な男だった。
灰色の礼装には華美な刺繍も勲章もない。だが質だけはよく、無駄がない。黒髪をきっちり撫でつけたその男は、社交界の飾りめいた男たちとはまるで違う種類の落ち着きをまとっていた。
歩くだけで、人が道を開ける。
王族の威光ではなく、別種の圧で。
「誰だ……?」
ひそひそと声が上がる。
だが一部の年配貴族は顔色を変えた。知っているのだ。
男は壇上の手前で立ち止まり、恭しくも過剰ではない礼をとった。
「王都監査局特別監督官、ヨアヒム・ベルナールと申します」
その名が落ちた瞬間、空気がまた一段変わった。
監査局。
きらびやかな社交界では歓迎されにくい名だ。数字、記録、契約、報告。夢のない現実ばかりを扱う場所。そして、そこから来る人間はたいてい、何かを見逃しに来たのではなく見つけに来ている。
セドリックの顔から、さっと血の気が引く。
「か、監査局だと……?」
「はい、殿下」
ヨアヒムは淡々と答えた。
「本日の寄付金管理について確認のため来場しておりましたが、思いがけず、ずいぶん興味深い公開説明の場に立ち会ってしまいました」
興味深い。
この男も、なかなか言う。
サビーネは思わず、ほんの少しだけ口元を緩めそうになった。
だがまだ早い。勝負は終わっていない。
ヨアヒムはセドリックではなく、サビーネの方へ視線を向けた。
「侯爵令嬢のご主張は、続きを伺う価値があるように思われます」
それは味方だと叫ぶような言葉ではなかった。
もっと冷たい。
もっと公正だ。
だがだからこそ、今のサビーネには何より頼もしかった。
感情ではなく、理屈でこの場に立つ人間が一人増えたのだ。
セドリックが唇をわななかせる。
「これは王家の問題だ! 部外者が口を挟むな!」
「慈善晩餐会の壇上で、公衆の面前にて行われた以上、完全な私事とは申せませんな」
ヨアヒムは一歩も引かない。
「少なくとも、寄付と王家の名が関わる席を私的な断罪劇に転用された件については、私にも関心を持つ理由があります」
今度こそ、会場は完全に王子の手から滑り落ちた。
王族の威光で押し通すには、監査局という相手は相性が悪すぎる。相手は拍手も喝采も求めない。ただ記録し、確認し、必要なら掘る。
見栄と演出で生きる男にとって、これほど嫌な敵はいない。
サビーネは静かに息を整えた。
今ならいける。
この場を、本当に奪える。
「殿下」
彼女はもう一度、婚約者だった男を見た。
「せっかく皆様がお揃いですもの。ここで終えるのはもったいのうございますわ」
「お前……」
「拍手の音が止んだあとこそ、本番ではなくて?」
セドリックは言葉を失った。
サビーネは会場を見渡し、そして静かに続ける。
「今夜はまだ始まったばかりですわ。婚約破棄を見せ物になさったのですから、その代金はきちんと払っていただきませんと」
その宣言に、ざわめきはもはや熱狂に近いものへと変わっていく。
誰も手を叩かない。
けれど、確かだった。
今この場で最も注目を集め、空気を支配しているのは、第二王子ではない。
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