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第三話 台本のない返答
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第三話 台本のない返答
ざわめきは、熱に似ていた。
王立劇場の大広間を満たす空気は、もはや慈善晩餐会のものではない。上質な料理も、磨かれた銀器も、香の強い花々も、今やすべてが舞台装置に成り下がっていた。
観客は息を潜め、役者は壇上に揃っている。
けれど一つだけ、最初の筋書きと違うことがあった。
悪役として断罪されるはずの令嬢が、脚本を破いたのだ。
サビーネ・ドルレアンは、胸の奥で暴れる鼓動を押さえ込みながら、静かに背筋を伸ばしていた。
怖い。
当然だ。怖くないわけがない。
目の前にいるのは第二王子。後ろには社交界。少し言葉を誤れば、明日には“婚約破棄されたうえに取り乱した哀れな女”として語られるだろう。
けれど、もう遅い。
ここまで来た以上、引き返す方がよほど怖かった。
壇上の端に控えていた楽団員たちでさえ、楽器を抱えたままこちらを見ている。指揮者は完全に仕事を失い、譜面台の前で困惑した顔をしていた。
お気の毒に。
でも今夜いちばん困っているのは、たぶんあの方だわ。
サビーネは正面のセドリック第二王子を見た。
さっきまで自分こそがこの場の主役だと信じて疑わなかった男は、今や明らかに調子を崩している。華やかな礼装も、美しく整えた髪も、頬の引きつりまでは隠してくれない。
「……監査局特別監督官、だったか」
セドリックは、壇下のヨアヒム・ベルナールを睨みつけた。
「王族の婚約に口を挟むなど、分をわきまえよ」
その声には怒りがこもっていたが、余裕はなかった。
ヨアヒムは淡々と答える。
「婚約そのものではなく、公的な場の私的流用について申し上げております、殿下」
「言葉遊びをするな」
「必要でしたら、もう少し噛み砕いて申し上げましょうか」
さらりと返した一言に、何人かの貴族が目を丸くした。
王族相手に、ここまで平然と話す人間はそう多くない。だが媚びない代わりに、無礼でもない。むしろ一言一句が妙に整っていて、そこが余計に神経を逆撫でするのだろう。
セドリックの額に、うっすらと汗が浮かんでいる。
サビーネはその様子を見つめながら、胸の奥がひどく冷えていくのを感じた。
この人は、ずっとこうだった。
誰かに整えられた場では強い。見映えのする台詞を与えられ、拍手がついてくるうちは堂々としていられる。けれど、台本の外に出ると途端に弱い。
子どもの頃からそうだった。
王家主催の茶会で、年長の伯爵夫人に難しい質問をされて返答に詰まった時も、外交使節との昼食で地理の話を振られ、隣国の川の位置を逆に覚えていた時も、その後始末をしてきたのは誰だったか。
たいていは、その場で微笑んで話を逸らしたサビーネだった。
誰も気づかないように。
誰にも恥をかかせないように。
――そして当然のように、感謝もされないまま。
「殿下」
サビーネは穏やかに口を開いた。
「先ほどから“無礼”“出まかせ”“混乱”といった言葉ばかりで、肝心の中身がございませんわね」
「貴様……」
「わたくしが冷酷で傲慢で、メルヴィ嬢をいじめていた。そうおっしゃるのでしたら、何か一つでも事実をお示しくださいませ」
セドリックは即答しなかった。
できないのだ。
できないことを知っていて言っているのだから、サビーネも我ながら性格が悪いと思う。けれどここで優しくしてやる理由は、もうどこにもない。
「たとえば」
サビーネは続けた。
「わたくしがメルヴィ嬢を晩餐会から排除しようとした、とおっしゃいましたわね」
「事実だ!」
「どのような方法で?」
「それは……言葉の端々に……」
「言葉の端々」
サビーネは小さく繰り返す。
「便利な表現ですこと。実際には何もなくても、気分だけは伝えられますものね」
会場の一角で、くすっと笑いが漏れた。
今や誰も、これを普通の婚約破棄とは思っていない。上演中の劇の出来を確かめるような目で、皆がセドリックの返答を待っている。
王子はその期待に応えられず、苛立ちだけを募らせていた。
「私は見たのだ! お前がオディールを睨み、冷たくあしらう姿を!」
「睨む」
サビーネは首を傾げる。
「それは、視線の向きの問題でしょうか。それとも、わたくしの顔立ちの問題かしら」
また笑いが起きる。
これまで“冷たい美貌”として好意的に語られていたものが、今この場では王子の主張の曖昧さを際立たせる材料になっていた。
「あなたは笑い事ではないのよ!」
悲鳴のように声を上げたのは、オディールだった。
か弱い男爵令嬢らしい震え声。だが焦りが混じり、少しだけ高すぎる。
サビーネはそちらへ向き直る。
「では、メルヴィ嬢。あなたご自身は、わたくしに何をされたとお思いですの?」
「え……」
急に振られるとは思っていなかったのだろう。オディールはぱちぱちと瞬きをした。
「わ、わたくしは……」
「どうぞ。遠慮なさらず」
「その……サビーネ様は、いつも、わたくしに厳しくて……」
「厳しく」
「……冷たくて……」
「冷たい」
「あと……あの……」
続かない。
サビーネはにこやかに待った。
追い詰めるためではない。自分の口で、自分の薄さをさらしてもらうためだ。
オディールはどうにか涙を浮かべようとしているようだったが、今はそれも難しいらしい。泣くには準備がいる。間と角度と、観客の感情の流れが必要だ。
だが今、観客の感情は彼女のものではない。
「“厳しい”“冷たい”以外には?」
サビーネが優しく促すと、オディールの頬がわずかに強張った。
「……ございますわ」
「まあ。よかった」
「わたくしが殿下とお話ししていると、サビーネ様は、いつも気分を害したようなお顔を……」
その瞬間、サビーネはあやうく本気で笑いそうになった。
なるほど。
つまり罪状は、“婚約者が別の令嬢と親しくしているのを見て、不愉快そうな顔をした”ということらしい。
それはたしかに気分を害していた。心の底から。
害さない方がどうかしている。
「それは」
サビーネは扇の代わりに指先を軽く重ねながら言った。
「婚約者のいる男性が、別の令嬢と必要以上に親しげであれば、気分を害して当然ではなくて?」
しん、と一瞬静まり返る。
あまりにも普通のことを、誰も口にしなかったからだ。
普通すぎて、逆に言葉にすると強い。
それを最初に破ったのは、年配の伯爵夫人だった。
「……たしかに」
ぼそりと漏れたその声は小さかったが、広間に落ちるには十分だった。
別のところからも、同意のざわめきが起こる。
そうだ。まったくその通りだ。婚約者が不快に思って当然だ。むしろそこで平然としていれば、よほど愛想の尽きた間柄か、聖女のような忍耐力の持ち主である。
そして残念ながらサビーネは聖女ではない。
侯爵令嬢だ。
「それを……」
セドリックが低く唸るように言った。
「嫉妬深く、狭量だと感じたのだ」
「嫉妬深い」
サビーネは繰り返す。
「婚約者としての当然の不快感を、殿下は“嫉妬深い”とお受け取りになったのですか」
「そうだ!」
「でしたら」
サビーネは少しだけ微笑んだ。
「殿下がわたくしを婚約者と認識なさっていた期間は、たいそう短かったのですわね」
あちこちで、息をこらえる音がした。
痛い。
今の一言は、痛かった。
王子を立てるためならいくらでも言葉を選んできた女が、今夜はその逆をやっている。致命傷になりそうなところを、正確に刺してくる。
セドリックは明らかにそれに耐えられていなかった。
「お前は……っ、前からそうだ。すべてを見透かしたような顔で、いちいち私を正そうとする!」
ついに、本音が混じった。
それを聞いた瞬間、サビーネの胸の奥で、何かが静かに折れた。
ああ、この人は。
本当に、わかっていなかったのだ。
正したかったわけではない。守りたかっただけだ。王族として恥をかかないように、笑われないように、少しでもまともに見えるように、必死で繕ってきただけだった。
それをこの男は、“自分を不快にさせる女の小賢しさ”としてしか受け取っていなかった。
悲しい、より先に、呆れた。
「ようやく、本音が出ましたわね」
サビーネの声は、自分でも驚くほど静かだった。
「何……」
「殿下は、わたくしの冷酷さでも傲慢さでもなく、“自分の失態を見ていた者”が鬱陶しかっただけですのね」
「違う!」
「ではなぜ、殿下はいつも、あとでわたくしにだけ謝罪状の代筆をお命じになったのです?」
セドリックが固まる。
「なぜ、招待客の名簿を毎回わたくしに確認させたのです? なぜ、贈り物の選定を丸投げなさったのです? なぜ、揉め事のあとには“うまく収めておけ”とだけ仰って席を立たれたのです?」
言葉が出てこない。
当たり前だ。全部本当なのだから。
サビーネは一つ一つ、わざと穏やかに並べた。怒鳴りたい気持ちはある。泣いて責めたい気持ちもある。だがそれをやれば、この男は“感情的な女に責められた被害者”の顔をするだろう。
だからしない。
淡々と事実を積み重ねる。
そうすれば、崩れるのは向こうだ。
「殿下は」
サビーネは、はっきり言った。
「わたくしを婚約者として大切にしたことは一度もございませんでした。けれど、便利な後始末係としては大いに頼っておいででしたわ」
静寂。
そしてその沈黙は、先ほどまでとは質が違っていた。
皆、理解し始めているのだ。
華やかな王子と、冷たい侯爵令嬢。
そんな見かけだけの構図の下で、本当は何が行われていたのか。
オディールが、震える声で口を挟んだ。
「そ、そんな……殿下は、サビーネ様を信頼しておいでだったのですわ……!」
それはフォローのつもりだったのだろう。
だが口にした瞬間、自分で墓穴を掘ったことに気づいたらしい。オディールの目が泳ぐ。
サビーネは逃さなかった。
「信頼」
その言葉をやわらかく受け取る。
「ええ、そうでしょうね。人は、雑務を押しつける相手をよく信頼いたしますもの」
今度は、笑いが抑えきれなかった。
決して大声ではない。けれど何人もの肩が揺れ、扇の陰で口元が緩む。
社交界は残酷だ。流れが変われば、昨日まで王子の味方をしていた者でも、今日は面白がる側に回る。
もっとも、今それがサビーネにとっては好都合だった。
「お、お前たち!」
セドリックが観客席の方を睨むが、もう遅い。
彼は気づいていないのかもしれない。
この場で今もっとも危険なのは、明確な敵ではない。面白い方へ転ぶ観客だ。彼らは正義感では動かないが、流れが決まればそちらを後押しする。
そして今、流れはサビーネに傾いている。
ヨアヒムが静かに口を開いた。
「興味深いですな」
その一言だけで、また場が締まる。
彼は無駄な身振りもせず、ただ事実を整理するように言った。
「侯爵令嬢のご発言が正しいとすれば、これは婚約解消の場ではなく、長期間にわたり一方へ実務負担が偏っていた関係の破綻、という見方もできます」
見方もできます、ではない。
ほとんど断定だ。
だが言い切らない分だけ、反論もしづらい。
サビーネは心の中で感心した。ずいぶん厄介な人だ。敵に回したくない種類の。
セドリックは唇を噛みしめた。
「証拠でもあるというのか」
その言葉を聞いた瞬間、サビーネは思わず目を瞬いた。
証拠。
その単語を、この人が自分から出すとは思わなかった。
よほど追い詰められているのだろう。いつもならもっと曖昧な権威で押し切ろうとするくせに、今夜は相手の土俵へ足を踏み入れようとしている。
そして、それは悪手だった。
「ええ」
サビーネは静かに答えた。
「ございますわ」
会場がどよめく。
もちろん、帳簿のすべてをここで広げるつもりはない。手紙の控えも、贈答記録も、侍従を通して渡されたメモも、今夜は持ち込んでいない。
だが“ある”ことが重要なのだ。
今この場では、詳細より気配がものを言う。
セドリックの顔色が変わる。
「はったりだ!」
「そう思われるなら、そのままで結構ですわ」
「……っ」
「ただ、殿下が公開の場で婚約解消を宣言なさった以上、こちらも公開の場で必要な確認を進めるだけのことですもの」
サビーネはそこで、ほんの少し間を置いた。
会場がその沈黙に引き寄せられるのを待つ。
「代筆した謝罪状の控え。贈答品の選定依頼。急ぎの口止めに関する伝言。晩餐会前に誰をどの席から外すかという相談書き。……思い返せば、わたくしもずいぶん多くのものを預かってまいりましたわ」
全部を見せたわけではない。
見せなくても十分だった。
周囲の貴族たちは、その断片だけで好きに想像を膨らませる。貴族社会とはそういう場所だ。空白があれば、そこへ最も面白い話を流し込む。
セドリックの喉がわずかに動いた。
オディールは、さっきからもう何も言えない。
彼女はこういう時、庇ってくれる男がいて初めて立てるのだ。だが今、その男自身が立っていられない。
「殿下」
サビーネは最後に、穏やかに問いかけた。
「まだ、わたくしが“出まかせを申しているだけ”だと仰いますか?」
返事はない。
沈黙が、そのまま答えだった。
王族が黙った。
しかも、大勢の前で。
その意味を、ここにいる貴族たちが理解しないはずがない。
ああ、終わった。
もちろん今夜だけでは終わらない。たぶんここから、もっと面倒なことになるだろう。王家は黙っていないし、侯爵家も巻き込まれる。明日には無数の噂が飛び交い、社交界は祭りになる。
でもそれでも、確かだった。
この場で一度、流れを折った。
それだけで十分なはずだったのに、サビーネの胸は不思議なほど静かだった。
泣きたくもないし、叫びたくもない。
むしろ、少しだけ笑いたい気分ですらあった。
「なるほど」
ヨアヒムが低く言った。
「どうやら本件は、台本のない返答を求められる局面のようですな」
誰に向けた言葉ともつかないその一言に、何人かがぴくりと反応する。
うまい。
あまりにうまいので、サビーネは今度こそ口元を押さえたくなった。
最初から筋書きがあったのは向こうだ。だが今は違う。ここから先は、誰も準備していない返答でしか立てない。
そしてそういう場で弱いのが誰で、強いのが誰か。
もう皆、見始めている。
セドリックは何か言おうとして、結局言えなかった。
オディールは青ざめて王子の袖を掴んでいるだけだ。
観客たちは静かに息をのみ、次を待っている。
サビーネはその空気を全身で感じながら、ゆっくりと顎を上げた。
ならば次はこちらだ。
この舞台に引きずり上げられた以上、せめて最後まで使い切ってやる。
「では、殿下」
サビーネは穏やかに言った。
「次は、今夜のこの場がどなたの発案で整えられたのか、お聞かせいただけますかしら」
その問いが落ちた瞬間、広間の温度がまた一段下がった。
婚約破棄そのものではない。
この見世物を、誰が、どこまで、最初から用意していたのか。
それはつまり、この夜の“悪趣味さ”の責任者を問う質問だった。
観客がざわつく。
セドリックの表情が凍る。
そしてサビーネは知る。
今、自分はようやく、本当に舞台の中央へ立ったのだと。
ざわめきは、熱に似ていた。
王立劇場の大広間を満たす空気は、もはや慈善晩餐会のものではない。上質な料理も、磨かれた銀器も、香の強い花々も、今やすべてが舞台装置に成り下がっていた。
観客は息を潜め、役者は壇上に揃っている。
けれど一つだけ、最初の筋書きと違うことがあった。
悪役として断罪されるはずの令嬢が、脚本を破いたのだ。
サビーネ・ドルレアンは、胸の奥で暴れる鼓動を押さえ込みながら、静かに背筋を伸ばしていた。
怖い。
当然だ。怖くないわけがない。
目の前にいるのは第二王子。後ろには社交界。少し言葉を誤れば、明日には“婚約破棄されたうえに取り乱した哀れな女”として語られるだろう。
けれど、もう遅い。
ここまで来た以上、引き返す方がよほど怖かった。
壇上の端に控えていた楽団員たちでさえ、楽器を抱えたままこちらを見ている。指揮者は完全に仕事を失い、譜面台の前で困惑した顔をしていた。
お気の毒に。
でも今夜いちばん困っているのは、たぶんあの方だわ。
サビーネは正面のセドリック第二王子を見た。
さっきまで自分こそがこの場の主役だと信じて疑わなかった男は、今や明らかに調子を崩している。華やかな礼装も、美しく整えた髪も、頬の引きつりまでは隠してくれない。
「……監査局特別監督官、だったか」
セドリックは、壇下のヨアヒム・ベルナールを睨みつけた。
「王族の婚約に口を挟むなど、分をわきまえよ」
その声には怒りがこもっていたが、余裕はなかった。
ヨアヒムは淡々と答える。
「婚約そのものではなく、公的な場の私的流用について申し上げております、殿下」
「言葉遊びをするな」
「必要でしたら、もう少し噛み砕いて申し上げましょうか」
さらりと返した一言に、何人かの貴族が目を丸くした。
王族相手に、ここまで平然と話す人間はそう多くない。だが媚びない代わりに、無礼でもない。むしろ一言一句が妙に整っていて、そこが余計に神経を逆撫でするのだろう。
セドリックの額に、うっすらと汗が浮かんでいる。
サビーネはその様子を見つめながら、胸の奥がひどく冷えていくのを感じた。
この人は、ずっとこうだった。
誰かに整えられた場では強い。見映えのする台詞を与えられ、拍手がついてくるうちは堂々としていられる。けれど、台本の外に出ると途端に弱い。
子どもの頃からそうだった。
王家主催の茶会で、年長の伯爵夫人に難しい質問をされて返答に詰まった時も、外交使節との昼食で地理の話を振られ、隣国の川の位置を逆に覚えていた時も、その後始末をしてきたのは誰だったか。
たいていは、その場で微笑んで話を逸らしたサビーネだった。
誰も気づかないように。
誰にも恥をかかせないように。
――そして当然のように、感謝もされないまま。
「殿下」
サビーネは穏やかに口を開いた。
「先ほどから“無礼”“出まかせ”“混乱”といった言葉ばかりで、肝心の中身がございませんわね」
「貴様……」
「わたくしが冷酷で傲慢で、メルヴィ嬢をいじめていた。そうおっしゃるのでしたら、何か一つでも事実をお示しくださいませ」
セドリックは即答しなかった。
できないのだ。
できないことを知っていて言っているのだから、サビーネも我ながら性格が悪いと思う。けれどここで優しくしてやる理由は、もうどこにもない。
「たとえば」
サビーネは続けた。
「わたくしがメルヴィ嬢を晩餐会から排除しようとした、とおっしゃいましたわね」
「事実だ!」
「どのような方法で?」
「それは……言葉の端々に……」
「言葉の端々」
サビーネは小さく繰り返す。
「便利な表現ですこと。実際には何もなくても、気分だけは伝えられますものね」
会場の一角で、くすっと笑いが漏れた。
今や誰も、これを普通の婚約破棄とは思っていない。上演中の劇の出来を確かめるような目で、皆がセドリックの返答を待っている。
王子はその期待に応えられず、苛立ちだけを募らせていた。
「私は見たのだ! お前がオディールを睨み、冷たくあしらう姿を!」
「睨む」
サビーネは首を傾げる。
「それは、視線の向きの問題でしょうか。それとも、わたくしの顔立ちの問題かしら」
また笑いが起きる。
これまで“冷たい美貌”として好意的に語られていたものが、今この場では王子の主張の曖昧さを際立たせる材料になっていた。
「あなたは笑い事ではないのよ!」
悲鳴のように声を上げたのは、オディールだった。
か弱い男爵令嬢らしい震え声。だが焦りが混じり、少しだけ高すぎる。
サビーネはそちらへ向き直る。
「では、メルヴィ嬢。あなたご自身は、わたくしに何をされたとお思いですの?」
「え……」
急に振られるとは思っていなかったのだろう。オディールはぱちぱちと瞬きをした。
「わ、わたくしは……」
「どうぞ。遠慮なさらず」
「その……サビーネ様は、いつも、わたくしに厳しくて……」
「厳しく」
「……冷たくて……」
「冷たい」
「あと……あの……」
続かない。
サビーネはにこやかに待った。
追い詰めるためではない。自分の口で、自分の薄さをさらしてもらうためだ。
オディールはどうにか涙を浮かべようとしているようだったが、今はそれも難しいらしい。泣くには準備がいる。間と角度と、観客の感情の流れが必要だ。
だが今、観客の感情は彼女のものではない。
「“厳しい”“冷たい”以外には?」
サビーネが優しく促すと、オディールの頬がわずかに強張った。
「……ございますわ」
「まあ。よかった」
「わたくしが殿下とお話ししていると、サビーネ様は、いつも気分を害したようなお顔を……」
その瞬間、サビーネはあやうく本気で笑いそうになった。
なるほど。
つまり罪状は、“婚約者が別の令嬢と親しくしているのを見て、不愉快そうな顔をした”ということらしい。
それはたしかに気分を害していた。心の底から。
害さない方がどうかしている。
「それは」
サビーネは扇の代わりに指先を軽く重ねながら言った。
「婚約者のいる男性が、別の令嬢と必要以上に親しげであれば、気分を害して当然ではなくて?」
しん、と一瞬静まり返る。
あまりにも普通のことを、誰も口にしなかったからだ。
普通すぎて、逆に言葉にすると強い。
それを最初に破ったのは、年配の伯爵夫人だった。
「……たしかに」
ぼそりと漏れたその声は小さかったが、広間に落ちるには十分だった。
別のところからも、同意のざわめきが起こる。
そうだ。まったくその通りだ。婚約者が不快に思って当然だ。むしろそこで平然としていれば、よほど愛想の尽きた間柄か、聖女のような忍耐力の持ち主である。
そして残念ながらサビーネは聖女ではない。
侯爵令嬢だ。
「それを……」
セドリックが低く唸るように言った。
「嫉妬深く、狭量だと感じたのだ」
「嫉妬深い」
サビーネは繰り返す。
「婚約者としての当然の不快感を、殿下は“嫉妬深い”とお受け取りになったのですか」
「そうだ!」
「でしたら」
サビーネは少しだけ微笑んだ。
「殿下がわたくしを婚約者と認識なさっていた期間は、たいそう短かったのですわね」
あちこちで、息をこらえる音がした。
痛い。
今の一言は、痛かった。
王子を立てるためならいくらでも言葉を選んできた女が、今夜はその逆をやっている。致命傷になりそうなところを、正確に刺してくる。
セドリックは明らかにそれに耐えられていなかった。
「お前は……っ、前からそうだ。すべてを見透かしたような顔で、いちいち私を正そうとする!」
ついに、本音が混じった。
それを聞いた瞬間、サビーネの胸の奥で、何かが静かに折れた。
ああ、この人は。
本当に、わかっていなかったのだ。
正したかったわけではない。守りたかっただけだ。王族として恥をかかないように、笑われないように、少しでもまともに見えるように、必死で繕ってきただけだった。
それをこの男は、“自分を不快にさせる女の小賢しさ”としてしか受け取っていなかった。
悲しい、より先に、呆れた。
「ようやく、本音が出ましたわね」
サビーネの声は、自分でも驚くほど静かだった。
「何……」
「殿下は、わたくしの冷酷さでも傲慢さでもなく、“自分の失態を見ていた者”が鬱陶しかっただけですのね」
「違う!」
「ではなぜ、殿下はいつも、あとでわたくしにだけ謝罪状の代筆をお命じになったのです?」
セドリックが固まる。
「なぜ、招待客の名簿を毎回わたくしに確認させたのです? なぜ、贈り物の選定を丸投げなさったのです? なぜ、揉め事のあとには“うまく収めておけ”とだけ仰って席を立たれたのです?」
言葉が出てこない。
当たり前だ。全部本当なのだから。
サビーネは一つ一つ、わざと穏やかに並べた。怒鳴りたい気持ちはある。泣いて責めたい気持ちもある。だがそれをやれば、この男は“感情的な女に責められた被害者”の顔をするだろう。
だからしない。
淡々と事実を積み重ねる。
そうすれば、崩れるのは向こうだ。
「殿下は」
サビーネは、はっきり言った。
「わたくしを婚約者として大切にしたことは一度もございませんでした。けれど、便利な後始末係としては大いに頼っておいででしたわ」
静寂。
そしてその沈黙は、先ほどまでとは質が違っていた。
皆、理解し始めているのだ。
華やかな王子と、冷たい侯爵令嬢。
そんな見かけだけの構図の下で、本当は何が行われていたのか。
オディールが、震える声で口を挟んだ。
「そ、そんな……殿下は、サビーネ様を信頼しておいでだったのですわ……!」
それはフォローのつもりだったのだろう。
だが口にした瞬間、自分で墓穴を掘ったことに気づいたらしい。オディールの目が泳ぐ。
サビーネは逃さなかった。
「信頼」
その言葉をやわらかく受け取る。
「ええ、そうでしょうね。人は、雑務を押しつける相手をよく信頼いたしますもの」
今度は、笑いが抑えきれなかった。
決して大声ではない。けれど何人もの肩が揺れ、扇の陰で口元が緩む。
社交界は残酷だ。流れが変われば、昨日まで王子の味方をしていた者でも、今日は面白がる側に回る。
もっとも、今それがサビーネにとっては好都合だった。
「お、お前たち!」
セドリックが観客席の方を睨むが、もう遅い。
彼は気づいていないのかもしれない。
この場で今もっとも危険なのは、明確な敵ではない。面白い方へ転ぶ観客だ。彼らは正義感では動かないが、流れが決まればそちらを後押しする。
そして今、流れはサビーネに傾いている。
ヨアヒムが静かに口を開いた。
「興味深いですな」
その一言だけで、また場が締まる。
彼は無駄な身振りもせず、ただ事実を整理するように言った。
「侯爵令嬢のご発言が正しいとすれば、これは婚約解消の場ではなく、長期間にわたり一方へ実務負担が偏っていた関係の破綻、という見方もできます」
見方もできます、ではない。
ほとんど断定だ。
だが言い切らない分だけ、反論もしづらい。
サビーネは心の中で感心した。ずいぶん厄介な人だ。敵に回したくない種類の。
セドリックは唇を噛みしめた。
「証拠でもあるというのか」
その言葉を聞いた瞬間、サビーネは思わず目を瞬いた。
証拠。
その単語を、この人が自分から出すとは思わなかった。
よほど追い詰められているのだろう。いつもならもっと曖昧な権威で押し切ろうとするくせに、今夜は相手の土俵へ足を踏み入れようとしている。
そして、それは悪手だった。
「ええ」
サビーネは静かに答えた。
「ございますわ」
会場がどよめく。
もちろん、帳簿のすべてをここで広げるつもりはない。手紙の控えも、贈答記録も、侍従を通して渡されたメモも、今夜は持ち込んでいない。
だが“ある”ことが重要なのだ。
今この場では、詳細より気配がものを言う。
セドリックの顔色が変わる。
「はったりだ!」
「そう思われるなら、そのままで結構ですわ」
「……っ」
「ただ、殿下が公開の場で婚約解消を宣言なさった以上、こちらも公開の場で必要な確認を進めるだけのことですもの」
サビーネはそこで、ほんの少し間を置いた。
会場がその沈黙に引き寄せられるのを待つ。
「代筆した謝罪状の控え。贈答品の選定依頼。急ぎの口止めに関する伝言。晩餐会前に誰をどの席から外すかという相談書き。……思い返せば、わたくしもずいぶん多くのものを預かってまいりましたわ」
全部を見せたわけではない。
見せなくても十分だった。
周囲の貴族たちは、その断片だけで好きに想像を膨らませる。貴族社会とはそういう場所だ。空白があれば、そこへ最も面白い話を流し込む。
セドリックの喉がわずかに動いた。
オディールは、さっきからもう何も言えない。
彼女はこういう時、庇ってくれる男がいて初めて立てるのだ。だが今、その男自身が立っていられない。
「殿下」
サビーネは最後に、穏やかに問いかけた。
「まだ、わたくしが“出まかせを申しているだけ”だと仰いますか?」
返事はない。
沈黙が、そのまま答えだった。
王族が黙った。
しかも、大勢の前で。
その意味を、ここにいる貴族たちが理解しないはずがない。
ああ、終わった。
もちろん今夜だけでは終わらない。たぶんここから、もっと面倒なことになるだろう。王家は黙っていないし、侯爵家も巻き込まれる。明日には無数の噂が飛び交い、社交界は祭りになる。
でもそれでも、確かだった。
この場で一度、流れを折った。
それだけで十分なはずだったのに、サビーネの胸は不思議なほど静かだった。
泣きたくもないし、叫びたくもない。
むしろ、少しだけ笑いたい気分ですらあった。
「なるほど」
ヨアヒムが低く言った。
「どうやら本件は、台本のない返答を求められる局面のようですな」
誰に向けた言葉ともつかないその一言に、何人かがぴくりと反応する。
うまい。
あまりにうまいので、サビーネは今度こそ口元を押さえたくなった。
最初から筋書きがあったのは向こうだ。だが今は違う。ここから先は、誰も準備していない返答でしか立てない。
そしてそういう場で弱いのが誰で、強いのが誰か。
もう皆、見始めている。
セドリックは何か言おうとして、結局言えなかった。
オディールは青ざめて王子の袖を掴んでいるだけだ。
観客たちは静かに息をのみ、次を待っている。
サビーネはその空気を全身で感じながら、ゆっくりと顎を上げた。
ならば次はこちらだ。
この舞台に引きずり上げられた以上、せめて最後まで使い切ってやる。
「では、殿下」
サビーネは穏やかに言った。
「次は、今夜のこの場がどなたの発案で整えられたのか、お聞かせいただけますかしら」
その問いが落ちた瞬間、広間の温度がまた一段下がった。
婚約破棄そのものではない。
この見世物を、誰が、どこまで、最初から用意していたのか。
それはつまり、この夜の“悪趣味さ”の責任者を問う質問だった。
観客がざわつく。
セドリックの表情が凍る。
そしてサビーネは知る。
今、自分はようやく、本当に舞台の中央へ立ったのだと。
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