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第23話 それぞれの役割
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第23話 それぞれの役割
朝の王宮は、いつもより静かだった。
徹夜明けの執務室。
窓から差し込む光が、机の上の書類を淡く照らしている。
「……思ったより、頭が回ってる」
アークトゥルスは、自分でも意外そうに呟いた。
疲れているはずなのに、
不思議と、胸の奥は澄んでいた。
そこへ、側近が控えめに入室する。
「殿下。
本日の会議ですが……延期なさいますか?」
以前なら、即答していた。
――ミラに任せる、と。
だが、今日は違う。
「……予定通り行こう」
声は小さいが、迷いは少なかった。
側近は、わずかに目を見開き、
すぐに深く頭を下げる。
「承知いたしました」
扉が閉まったあと、
ミラは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
(……殿下が、決めた)
それだけで、胸が軽くなる。
会議の場。
議論は、相変わらず難航した。
意見は割れ、
決断には、勇気が要る。
だが、アークトゥルスは逃げなかった。
「……私は、この案を取る」
理由を添え、
不完全ながらも、はっきりと。
沈黙ののち、
誰かが頷き、
次々と賛同の声が上がる。
会議は、無事に終わった。
廊下に出たところで、
ミラが声をかける。
「殿下」
「……どうだった?」
少し不安げな視線。
「良い判断だったと思います」
率直に、しかし持ち上げすぎず。
「すべて正解ではありません。
ですが……
殿下の判断でした」
アークトゥルスは、ゆっくりと息を吐く。
「……それで、いいんだね」
「はい」
その返事は、短いが確かだった。
一方、王宮の外では。
デネブ・シグナスは、侯爵家の応接室で、来客を迎えていた。
「新しい施策について、
侯爵家としての意見を伺いたいと」
政治の話。
かつては、王太子の婚約者として関わるはずだった席。
だが今は、
“シグナス侯爵令嬢”として、
一個人として座っている。
「承知しましたわ」
デネブは、静かに頷く。
誰の代弁でもない。
誰かの後始末でもない。
(……これが、私の立ち位置)
それを、はっきりと自覚していた。
その日の夕方。
アークトゥルスは、ひとり書斎で考え事をしていた。
(……ミラは、隣にいる)
だが、前に立ってはいない。
代わりに決めてもいない。
(……デネブは、もう……)
思い出しても、
胸は痛むが、引き戻される感覚はなかった。
(……それぞれ、役割が違ったんだ)
誰かに守られる役。
誰かを守る役。
そして――
自分で立つ役。
夜。
ミラは、自室で静かに考えていた。
(……私は、何をしてきたのだろう)
支えたい一心で、
知らず知らずのうちに、
相手の居場所を奪ってはいなかったか。
だが、今は違う。
(……私は、補佐役)
導くのではなく、
考えさせる役。
その役割を、
ようやく受け入れられた気がしていた。
三人は、同じ場所にはいない。
同じ道も、歩いていない。
けれど――
それぞれが、自分の役割を選び、
自分の足で立ち始めている。
それは、
誰かを取り戻す物語ではない。
それぞれが、
自分自身を取り戻していく物語だった。
朝の王宮は、いつもより静かだった。
徹夜明けの執務室。
窓から差し込む光が、机の上の書類を淡く照らしている。
「……思ったより、頭が回ってる」
アークトゥルスは、自分でも意外そうに呟いた。
疲れているはずなのに、
不思議と、胸の奥は澄んでいた。
そこへ、側近が控えめに入室する。
「殿下。
本日の会議ですが……延期なさいますか?」
以前なら、即答していた。
――ミラに任せる、と。
だが、今日は違う。
「……予定通り行こう」
声は小さいが、迷いは少なかった。
側近は、わずかに目を見開き、
すぐに深く頭を下げる。
「承知いたしました」
扉が閉まったあと、
ミラは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
(……殿下が、決めた)
それだけで、胸が軽くなる。
会議の場。
議論は、相変わらず難航した。
意見は割れ、
決断には、勇気が要る。
だが、アークトゥルスは逃げなかった。
「……私は、この案を取る」
理由を添え、
不完全ながらも、はっきりと。
沈黙ののち、
誰かが頷き、
次々と賛同の声が上がる。
会議は、無事に終わった。
廊下に出たところで、
ミラが声をかける。
「殿下」
「……どうだった?」
少し不安げな視線。
「良い判断だったと思います」
率直に、しかし持ち上げすぎず。
「すべて正解ではありません。
ですが……
殿下の判断でした」
アークトゥルスは、ゆっくりと息を吐く。
「……それで、いいんだね」
「はい」
その返事は、短いが確かだった。
一方、王宮の外では。
デネブ・シグナスは、侯爵家の応接室で、来客を迎えていた。
「新しい施策について、
侯爵家としての意見を伺いたいと」
政治の話。
かつては、王太子の婚約者として関わるはずだった席。
だが今は、
“シグナス侯爵令嬢”として、
一個人として座っている。
「承知しましたわ」
デネブは、静かに頷く。
誰の代弁でもない。
誰かの後始末でもない。
(……これが、私の立ち位置)
それを、はっきりと自覚していた。
その日の夕方。
アークトゥルスは、ひとり書斎で考え事をしていた。
(……ミラは、隣にいる)
だが、前に立ってはいない。
代わりに決めてもいない。
(……デネブは、もう……)
思い出しても、
胸は痛むが、引き戻される感覚はなかった。
(……それぞれ、役割が違ったんだ)
誰かに守られる役。
誰かを守る役。
そして――
自分で立つ役。
夜。
ミラは、自室で静かに考えていた。
(……私は、何をしてきたのだろう)
支えたい一心で、
知らず知らずのうちに、
相手の居場所を奪ってはいなかったか。
だが、今は違う。
(……私は、補佐役)
導くのではなく、
考えさせる役。
その役割を、
ようやく受け入れられた気がしていた。
三人は、同じ場所にはいない。
同じ道も、歩いていない。
けれど――
それぞれが、自分の役割を選び、
自分の足で立ち始めている。
それは、
誰かを取り戻す物語ではない。
それぞれが、
自分自身を取り戻していく物語だった。
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