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第13話 近づく“核”の気配
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第13話 近づく“核”の気配
その夜は、奇妙なほど静かだった。
ノインは自室のベッドに腰掛けながら、胸に残る余韻を噛みしめていた。
第十二話の夜――フェルディナンドに「触れない」という選択をしたことが、思いのほか強く心に残っている。
(正しかった……と思う。でも)
完全な確信ではない。
ただ、彼の表情がほんのわずか柔らいだことだけが、答えのようだった。
翌朝。
「ノイン様、今朝はよく眠れましたか?」
マリオンの問いに、ノインは少しだけ笑って頷いた。
「ええ……不思議と」
――そして、それは彼も同じだった。
朝の回廊でフェルディナンドと顔を合わせた瞬間、ノインは違和感に気づく。
歩みが安定している。
肩の力が、いつもより抜けている。
「……おはよう、ノイン」
低い声は変わらないが、どこか澄んでいた。
「おはようございます、フェルディナンド様」
その名を呼ぶと、彼の金の瞳が一瞬だけ揺れる。
「……今日は、執務室に来られるか」
唐突な誘いに、ノインは目を瞬いた。
「よろしいのですか?」
「ああ。……ただし」
彼は一度、言葉を切る。
「今日は“癒し”はいらない。
そばに、いてほしい」
それは命令でも依頼でもない。
選択の共有だった。
「はい」
ノインは、迷わず答えた。
* * *
執務室はいつも通り、書類と静寂に満ちていた。
だが、今日は空気が違う。
フェルディナンドが机に向かい、ノインは少し離れた椅子に腰掛ける。
触れない距離。
だが、確かに“共有されている”時間。
しばらく無言のまま書類に目を通していたフェルディナンドが、ふと呟いた。
「……昨夜、夢を見なかった」
ノインは、そっと顔を上げる。
「いつもは……過去の夢ばかりだった。
だが、昨夜は……何も、なかった」
それは、彼にとって異常だった。
「……静かすぎて、逆に怖かった」
フェルディナンドは自嘲気味に笑う。
「呪いが、確実に“中心”へ近づいている証拠だろう」
ノインの胸が、微かに疼いた。
「……“核”が?」
「ああ。
表層の痛みや変化ではない。
もっと……深い場所だ」
彼は、胸元に手を当てる。
「ここだ。
触れれば、今度は――」
言葉が止まる。
ノインは、静かに問いかけた。
「……怖い、ですか?」
フェルディナンドは否定しなかった。
「怖い。
だが……逃げたいわけではない」
彼の視線が、ノインに向く。
「君が、待ってくれると知ったからだ」
その一言で、ノインの胸に確信が灯った。
(近い……)
力ではない。
癒しでもない。
彼自身が、“向き合う覚悟”を育て始めている。
午後、突然の変調が起きた。
フェルディナンドが立ち上がろうとした瞬間、足がもつれる。
「――っ」
ノインは反射的に駆け寄った。
だが、触れない。
手を伸ばしかけて、止める。
「……大丈夫だ」
フェルディナンドは、息を整えながら言った。
「これは……痛みじゃない」
額に汗が滲む。
「……“呼ばれている”感覚だ」
ノインの喉が鳴る。
「核が……?」
「ああ。
だが、今じゃない」
彼は、ゆっくりと立ち直る。
「……まだ、準備が足りない」
ノインは、静かに頷いた。
「……わかりました。
その時が来るまで、わたしは……ここにいます」
フェルディナンドは、初めてはっきりと笑った。
それは、呪いに歪められていない、
“人としての笑み”だった。
その夜。
ノインは、胸の奥で確信していた。
――次に訪れるのは、
癒しの時間ではない。
“対峙”の時間だ。
呪いの核は、もう遠くない。
そしてそれは、ふたりで越える境界線だった。
その夜は、奇妙なほど静かだった。
ノインは自室のベッドに腰掛けながら、胸に残る余韻を噛みしめていた。
第十二話の夜――フェルディナンドに「触れない」という選択をしたことが、思いのほか強く心に残っている。
(正しかった……と思う。でも)
完全な確信ではない。
ただ、彼の表情がほんのわずか柔らいだことだけが、答えのようだった。
翌朝。
「ノイン様、今朝はよく眠れましたか?」
マリオンの問いに、ノインは少しだけ笑って頷いた。
「ええ……不思議と」
――そして、それは彼も同じだった。
朝の回廊でフェルディナンドと顔を合わせた瞬間、ノインは違和感に気づく。
歩みが安定している。
肩の力が、いつもより抜けている。
「……おはよう、ノイン」
低い声は変わらないが、どこか澄んでいた。
「おはようございます、フェルディナンド様」
その名を呼ぶと、彼の金の瞳が一瞬だけ揺れる。
「……今日は、執務室に来られるか」
唐突な誘いに、ノインは目を瞬いた。
「よろしいのですか?」
「ああ。……ただし」
彼は一度、言葉を切る。
「今日は“癒し”はいらない。
そばに、いてほしい」
それは命令でも依頼でもない。
選択の共有だった。
「はい」
ノインは、迷わず答えた。
* * *
執務室はいつも通り、書類と静寂に満ちていた。
だが、今日は空気が違う。
フェルディナンドが机に向かい、ノインは少し離れた椅子に腰掛ける。
触れない距離。
だが、確かに“共有されている”時間。
しばらく無言のまま書類に目を通していたフェルディナンドが、ふと呟いた。
「……昨夜、夢を見なかった」
ノインは、そっと顔を上げる。
「いつもは……過去の夢ばかりだった。
だが、昨夜は……何も、なかった」
それは、彼にとって異常だった。
「……静かすぎて、逆に怖かった」
フェルディナンドは自嘲気味に笑う。
「呪いが、確実に“中心”へ近づいている証拠だろう」
ノインの胸が、微かに疼いた。
「……“核”が?」
「ああ。
表層の痛みや変化ではない。
もっと……深い場所だ」
彼は、胸元に手を当てる。
「ここだ。
触れれば、今度は――」
言葉が止まる。
ノインは、静かに問いかけた。
「……怖い、ですか?」
フェルディナンドは否定しなかった。
「怖い。
だが……逃げたいわけではない」
彼の視線が、ノインに向く。
「君が、待ってくれると知ったからだ」
その一言で、ノインの胸に確信が灯った。
(近い……)
力ではない。
癒しでもない。
彼自身が、“向き合う覚悟”を育て始めている。
午後、突然の変調が起きた。
フェルディナンドが立ち上がろうとした瞬間、足がもつれる。
「――っ」
ノインは反射的に駆け寄った。
だが、触れない。
手を伸ばしかけて、止める。
「……大丈夫だ」
フェルディナンドは、息を整えながら言った。
「これは……痛みじゃない」
額に汗が滲む。
「……“呼ばれている”感覚だ」
ノインの喉が鳴る。
「核が……?」
「ああ。
だが、今じゃない」
彼は、ゆっくりと立ち直る。
「……まだ、準備が足りない」
ノインは、静かに頷いた。
「……わかりました。
その時が来るまで、わたしは……ここにいます」
フェルディナンドは、初めてはっきりと笑った。
それは、呪いに歪められていない、
“人としての笑み”だった。
その夜。
ノインは、胸の奥で確信していた。
――次に訪れるのは、
癒しの時間ではない。
“対峙”の時間だ。
呪いの核は、もう遠くない。
そしてそれは、ふたりで越える境界線だった。
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