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第15話 壊れなかった夜
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第15話 壊れなかった夜
礼拝堂を出たあと、夜の空気はひどく澄んでいた。
ノインは、フェルディナンドの少し後ろを歩きながら、胸の奥に残る余韻を確かめていた。
呪いは、まだある。
角も、鱗も、完全には消えていない。
それでも――確かに、何かが「壊れなかった」。
回廊の途中で、フェルディナンドが足を止める。
「……ノイン」
低い声に呼ばれ、ノインは顔を上げた。
「礼拝堂でのことだが……」
一瞬、言葉に詰まったように見えた彼は、やがて静かに続ける。
「……あの“少年”を、見ただろう」
ノインは、ゆっくり頷いた。
「はい。……とても、怖がっていました」
フェルディナンドは自嘲するように息を吐いた。
「だろうな。
わたし自身だ。あれは」
その言葉には、否定も拒絶もなかった。
「……あれほど怯えたまま、長いあいだ……
わたしは、自分を奥に閉じ込めていたらしい」
ノインは、少し考えてから答えた。
「でも……逃げませんでした」
「……ああ」
フェルディナンドは、はっきりと認めた。
「逃げなかった。
……君が、触れすぎなかったからだ」
ノインは驚いて目を瞬く。
「触れなかったことが……?」
「そうだ」
彼は振り返り、ノインをまっすぐ見つめた。
「力でこじ開けられていたら、わたしは壊れていた。
だが君は……“待つ”ことを選んだ」
その視線には、深い信頼が宿っていた。
「……だから、核が“拒絶”しなかった」
胸が、静かに熱くなる。
(ちゃんと……届いていた)
自室の前で立ち止まったとき、フェルディナンドはふと思い出したように言った。
「……今夜は」
ノインが身構える。
「……ひとりで眠る」
その言葉に、ノインは一瞬だけ不安を覚え――
すぐに、理解した。
「……はい」
それは、拒絶ではない。
“確認”だ。
フェルディナンドは続ける。
「だが……扉は閉めない」
ノインは、小さく微笑んだ。
「わかりました。
……眠れなかったら、声をかけてください」
「……ああ」
彼は珍しく、少しだけ照れたように視線を逸らした。
* * *
その夜、ノインはベッドに横になりながら、耳を澄ませていた。
隣室から、物音はしない。
けれど、不思議と不安はなかった。
(……壊れなかった)
あの夜、核に触れても、彼は崩れなかった。
それは大きな一歩だ。
しばらくして、微かな気配を感じる。
――足音。
控えめなノック。
「……ノイン」
ノインは、すぐに起き上がった。
「はい」
扉の向こうで、フェルディナンドは立ち止まっている。
「……眠れないわけではない。
ただ……確認したかった」
「何を、ですか?」
短い沈黙のあと。
「……君が、そこにいるか」
ノインは、迷わず答えた。
「います。
……ずっと」
扉越しに、深く息を吐く気配。
「……それで、いい」
足音が遠ざかっていく。
ノインは、胸に手を当て、そっと目を閉じた。
呪いはまだ終わらない。
完全な解呪には、もっと時間がかかる。
けれど――
この夜、フェルディナンドは初めて、
“自分が壊れずに向き合えた”という感覚を得た。
そしてノインは確信する。
(次に触れるときは……)
それは、
恐怖を越えた先で、
彼自身が「求める」瞬間だ。
呪いの終わりは、
もう、遠くない。
礼拝堂を出たあと、夜の空気はひどく澄んでいた。
ノインは、フェルディナンドの少し後ろを歩きながら、胸の奥に残る余韻を確かめていた。
呪いは、まだある。
角も、鱗も、完全には消えていない。
それでも――確かに、何かが「壊れなかった」。
回廊の途中で、フェルディナンドが足を止める。
「……ノイン」
低い声に呼ばれ、ノインは顔を上げた。
「礼拝堂でのことだが……」
一瞬、言葉に詰まったように見えた彼は、やがて静かに続ける。
「……あの“少年”を、見ただろう」
ノインは、ゆっくり頷いた。
「はい。……とても、怖がっていました」
フェルディナンドは自嘲するように息を吐いた。
「だろうな。
わたし自身だ。あれは」
その言葉には、否定も拒絶もなかった。
「……あれほど怯えたまま、長いあいだ……
わたしは、自分を奥に閉じ込めていたらしい」
ノインは、少し考えてから答えた。
「でも……逃げませんでした」
「……ああ」
フェルディナンドは、はっきりと認めた。
「逃げなかった。
……君が、触れすぎなかったからだ」
ノインは驚いて目を瞬く。
「触れなかったことが……?」
「そうだ」
彼は振り返り、ノインをまっすぐ見つめた。
「力でこじ開けられていたら、わたしは壊れていた。
だが君は……“待つ”ことを選んだ」
その視線には、深い信頼が宿っていた。
「……だから、核が“拒絶”しなかった」
胸が、静かに熱くなる。
(ちゃんと……届いていた)
自室の前で立ち止まったとき、フェルディナンドはふと思い出したように言った。
「……今夜は」
ノインが身構える。
「……ひとりで眠る」
その言葉に、ノインは一瞬だけ不安を覚え――
すぐに、理解した。
「……はい」
それは、拒絶ではない。
“確認”だ。
フェルディナンドは続ける。
「だが……扉は閉めない」
ノインは、小さく微笑んだ。
「わかりました。
……眠れなかったら、声をかけてください」
「……ああ」
彼は珍しく、少しだけ照れたように視線を逸らした。
* * *
その夜、ノインはベッドに横になりながら、耳を澄ませていた。
隣室から、物音はしない。
けれど、不思議と不安はなかった。
(……壊れなかった)
あの夜、核に触れても、彼は崩れなかった。
それは大きな一歩だ。
しばらくして、微かな気配を感じる。
――足音。
控えめなノック。
「……ノイン」
ノインは、すぐに起き上がった。
「はい」
扉の向こうで、フェルディナンドは立ち止まっている。
「……眠れないわけではない。
ただ……確認したかった」
「何を、ですか?」
短い沈黙のあと。
「……君が、そこにいるか」
ノインは、迷わず答えた。
「います。
……ずっと」
扉越しに、深く息を吐く気配。
「……それで、いい」
足音が遠ざかっていく。
ノインは、胸に手を当て、そっと目を閉じた。
呪いはまだ終わらない。
完全な解呪には、もっと時間がかかる。
けれど――
この夜、フェルディナンドは初めて、
“自分が壊れずに向き合えた”という感覚を得た。
そしてノインは確信する。
(次に触れるときは……)
それは、
恐怖を越えた先で、
彼自身が「求める」瞬間だ。
呪いの終わりは、
もう、遠くない。
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