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第28話 「守られる理由、守りたい理由」
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第28話 「守られる理由、守りたい理由」
朝の光が、公爵邸の回廊に静かに差し込んでいた。
昨夜の騒動が嘘のように、屋敷は落ち着きを取り戻している。侵入者はすでに拘束され、王都への引き渡し準備が進んでいると、ラドクリフ執事から簡潔な報告を受けた。
――だが、ノインの胸の中は、まだざわついたままだった。
「……フェルディナンド」
医務室のベッドに腰掛ける彼を見つめながら、ノインは小さく息を吸う。 肩の傷はすでに手当てが済み、致命的なものではない。それでも、白い包帯を見るたびに、昨夜の光景が蘇ってくる。
自分を庇って前に出た背中。 迷いのない動き。 そのあとで向けられた、静かな眼差し。
(……どうして、あんなふうに……)
ノインが考え込んでいると、フェルディナンドが視線を上げた。
「……何か、言いたいことがあるな」 「……わかりますか?」 「顔に書いてある」
ノインは思わず苦笑し、ベッドの脇に立った。
「……どうして、あそこまで無茶をしたんですか」 「無茶?」 「だって……私を庇って。もし、もっと深い傷だったら……」
声が、自然と弱くなる。 フェルディナンドは一瞬、視線を伏せた。
「……考えていなかった」 「……え」 「考える前に、身体が動いた」
その答えに、ノインは言葉を失う。
「……それが、答えだ」 「そんな……」
ノインは拳を握りしめた。
「私は……あなたに守られるたびに、怖くなるんです」 「……?」 「もし、あなたが傷ついたらって……。もし、私のせいで……」
フェルディナンドは、ゆっくりと首を振った。
「違う」 「……」 「お前がいるから、わたしは立っていられる。お前がいるから、傷を恐れずに動ける」
その声は低く、揺るぎなかった。
「……守ることは、犠牲ではない」 「……」 「選択だ。わたし自身の」
ノインの胸が、きゅっと締めつけられる。
「……私、ずっと……誰かにとって“守る価値のある存在”じゃないと思ってました」 「……」 「孤児で、身代わりで……。いなくなっても、困らない人間だって……」
フェルディナンドは、ベッドから立ち上がった。 そして、ノインの前に立つ。
「……ノイン」 「……はい」
彼は、ノインの両肩に手を置いた。 昨夜と同じ、あの距離。
「価値は、他人が決めるものじゃない」 「……」 「だが、わたしは決めた。お前は――失っていい存在ではない」
はっきりと、迷いのない声。
ノインの視界が、じわりと滲む。
「……フェルディナンド……」 「お前が怖いなら、無茶は控えよう」 「……」 「だが、守ることはやめない」
ノインは、堪えきれずに笑ってしまった。 涙混じりの、少し困った笑顔で。
「……ずるいです」 「何がだ」 「そんなふうに言われたら……私は……」
ノインは、一歩前に出た。 今度は、自分から。
「……私も、あなたを守りたい」 「……」 「同じように前に立つことはできなくても……。あなたが倒れそうなとき、手を伸ばすくらいは……させてください」
フェルディナンドの瞳が、わずかに見開かれる。
「……それは」 「お願いです」
ノインは、彼の胸元にそっと手を当てた。 昨夜、確かに感じた鼓動。
「守られるだけじゃ……嫌なんです」
しばらくの沈黙のあと、フェルディナンドは静かに息を吐いた。
「……厄介な婚約者だな」 「い、今さらです」 「……だが」
彼は、ノインの手を包み込む。
「その覚悟、受け取ろう」
温かさが、重なる。
「……二人で立つ。それでいい」 「……はい」
窓の外で、鳥が羽ばたいた。
呪いはまだ完全には解けていない。 陰謀も、危険も、終わってはいない。
それでも。
守られる理由と、守りたい理由が、 今、はっきりと重なった。
二人はもう、一方的な関係ではなかった。 同じ方向を向き、同じ未来を見つめる―― 婚約者として、確かに並び立っていた。
朝の光が、公爵邸の回廊に静かに差し込んでいた。
昨夜の騒動が嘘のように、屋敷は落ち着きを取り戻している。侵入者はすでに拘束され、王都への引き渡し準備が進んでいると、ラドクリフ執事から簡潔な報告を受けた。
――だが、ノインの胸の中は、まだざわついたままだった。
「……フェルディナンド」
医務室のベッドに腰掛ける彼を見つめながら、ノインは小さく息を吸う。 肩の傷はすでに手当てが済み、致命的なものではない。それでも、白い包帯を見るたびに、昨夜の光景が蘇ってくる。
自分を庇って前に出た背中。 迷いのない動き。 そのあとで向けられた、静かな眼差し。
(……どうして、あんなふうに……)
ノインが考え込んでいると、フェルディナンドが視線を上げた。
「……何か、言いたいことがあるな」 「……わかりますか?」 「顔に書いてある」
ノインは思わず苦笑し、ベッドの脇に立った。
「……どうして、あそこまで無茶をしたんですか」 「無茶?」 「だって……私を庇って。もし、もっと深い傷だったら……」
声が、自然と弱くなる。 フェルディナンドは一瞬、視線を伏せた。
「……考えていなかった」 「……え」 「考える前に、身体が動いた」
その答えに、ノインは言葉を失う。
「……それが、答えだ」 「そんな……」
ノインは拳を握りしめた。
「私は……あなたに守られるたびに、怖くなるんです」 「……?」 「もし、あなたが傷ついたらって……。もし、私のせいで……」
フェルディナンドは、ゆっくりと首を振った。
「違う」 「……」 「お前がいるから、わたしは立っていられる。お前がいるから、傷を恐れずに動ける」
その声は低く、揺るぎなかった。
「……守ることは、犠牲ではない」 「……」 「選択だ。わたし自身の」
ノインの胸が、きゅっと締めつけられる。
「……私、ずっと……誰かにとって“守る価値のある存在”じゃないと思ってました」 「……」 「孤児で、身代わりで……。いなくなっても、困らない人間だって……」
フェルディナンドは、ベッドから立ち上がった。 そして、ノインの前に立つ。
「……ノイン」 「……はい」
彼は、ノインの両肩に手を置いた。 昨夜と同じ、あの距離。
「価値は、他人が決めるものじゃない」 「……」 「だが、わたしは決めた。お前は――失っていい存在ではない」
はっきりと、迷いのない声。
ノインの視界が、じわりと滲む。
「……フェルディナンド……」 「お前が怖いなら、無茶は控えよう」 「……」 「だが、守ることはやめない」
ノインは、堪えきれずに笑ってしまった。 涙混じりの、少し困った笑顔で。
「……ずるいです」 「何がだ」 「そんなふうに言われたら……私は……」
ノインは、一歩前に出た。 今度は、自分から。
「……私も、あなたを守りたい」 「……」 「同じように前に立つことはできなくても……。あなたが倒れそうなとき、手を伸ばすくらいは……させてください」
フェルディナンドの瞳が、わずかに見開かれる。
「……それは」 「お願いです」
ノインは、彼の胸元にそっと手を当てた。 昨夜、確かに感じた鼓動。
「守られるだけじゃ……嫌なんです」
しばらくの沈黙のあと、フェルディナンドは静かに息を吐いた。
「……厄介な婚約者だな」 「い、今さらです」 「……だが」
彼は、ノインの手を包み込む。
「その覚悟、受け取ろう」
温かさが、重なる。
「……二人で立つ。それでいい」 「……はい」
窓の外で、鳥が羽ばたいた。
呪いはまだ完全には解けていない。 陰謀も、危険も、終わってはいない。
それでも。
守られる理由と、守りたい理由が、 今、はっきりと重なった。
二人はもう、一方的な関係ではなかった。 同じ方向を向き、同じ未来を見つめる―― 婚約者として、確かに並び立っていた。
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