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第39話 「約束のかたち」
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第39話 「約束のかたち」
夜明け前、公爵邸の鐘が低く鳴った。
空はまだ群青色で、庭園には薄い霧が漂っている。
ノインは寝室の窓辺に立ち、静かに息を吸った。
胸の奥にあった重たいものは、もうない。代わりに、確かな輪郭を持った“覚悟”が、そこに収まっている。
――終わったのだ。
過去との対峙も、選択の連なりも。
扉がノックされ、フェルディナンドが入ってきた。
「起きていたのか」
「……はい。なんだか、よく眠れなくて」
彼は頷き、ノインの隣に立った。二人並んで、薄明の庭を眺める。
「王都から、最終の連絡が来た」
「最終……?」
「非公式だが、十分だ。――今後、お前に関する“過去の扱い”を蒸し返す動きは、抑えられる」
ノインは、そっと目を閉じた。
「……よかった」
「だが」
フェルディナンドは続ける。
「それは“保護”の結果ではない。お前が、事実を示し、距離を選んだ結果だ」
「……はい」
彼女は、ゆっくりと彼を見る。
「私、思っていたより……怖くなかったです」
「それは強くなったからだ」
「違います」
ノインは、小さく首を振った。
「強いふりをしなくていい場所が、ここにあるから」
フェルディナンドの表情が、わずかに緩んだ。
朝食のあと、二人は礼拝堂へ向かった。
かつて“核”と向き合った場所。今は静かで、柔らかな光が差し込んでいる。
「……ここに来ると、思い出します」
「恐怖か?」
「いいえ。……手を、取ってもらったこと」
ノインは祭壇の前に立ち、深く息を吸った。
「フェルディナンド様。私、お願いがあります」
「聞こう」
彼女は振り返り、まっすぐに言った。
「守られるだけの立場には、戻りません。でも――隣に立つことは、許してください」
「許可など、いらない」
フェルディナンドは、即座に答えた。
「お前は、最初から隣に立っていた」
彼はノインの手を取り、静かに指を絡める。
「約束しよう。これから先、選択に迷うときは――一人で決めなくていい」
「……はい」
「だが、最後に決めるのは、お前だ」
その言葉に、ノインは笑った。
それは、肩の力を抜いた、穏やかな笑みだった。
礼拝堂を出ると、朝日が庭園を照らし始めていた。
新しい一日が、何事もなかったかのように始まる。
「……約束の“かたち”って、こういうものなんですね」
「派手ではないが、折れない」
「はい。好きです、そういうの」
フェルディナンドは、小さく息を吐いて微笑んだ。
過去は、完全に消えはしない。
けれど、未来を縛る鎖でもない。
ノインは、確かに“今”を選んでいた。
そして、その選択の隣に、彼がいる。
それだけで――十分だった。
夜明け前、公爵邸の鐘が低く鳴った。
空はまだ群青色で、庭園には薄い霧が漂っている。
ノインは寝室の窓辺に立ち、静かに息を吸った。
胸の奥にあった重たいものは、もうない。代わりに、確かな輪郭を持った“覚悟”が、そこに収まっている。
――終わったのだ。
過去との対峙も、選択の連なりも。
扉がノックされ、フェルディナンドが入ってきた。
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「……はい。なんだか、よく眠れなくて」
彼は頷き、ノインの隣に立った。二人並んで、薄明の庭を眺める。
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「非公式だが、十分だ。――今後、お前に関する“過去の扱い”を蒸し返す動きは、抑えられる」
ノインは、そっと目を閉じた。
「……よかった」
「だが」
フェルディナンドは続ける。
「それは“保護”の結果ではない。お前が、事実を示し、距離を選んだ結果だ」
「……はい」
彼女は、ゆっくりと彼を見る。
「私、思っていたより……怖くなかったです」
「それは強くなったからだ」
「違います」
ノインは、小さく首を振った。
「強いふりをしなくていい場所が、ここにあるから」
フェルディナンドの表情が、わずかに緩んだ。
朝食のあと、二人は礼拝堂へ向かった。
かつて“核”と向き合った場所。今は静かで、柔らかな光が差し込んでいる。
「……ここに来ると、思い出します」
「恐怖か?」
「いいえ。……手を、取ってもらったこと」
ノインは祭壇の前に立ち、深く息を吸った。
「フェルディナンド様。私、お願いがあります」
「聞こう」
彼女は振り返り、まっすぐに言った。
「守られるだけの立場には、戻りません。でも――隣に立つことは、許してください」
「許可など、いらない」
フェルディナンドは、即座に答えた。
「お前は、最初から隣に立っていた」
彼はノインの手を取り、静かに指を絡める。
「約束しよう。これから先、選択に迷うときは――一人で決めなくていい」
「……はい」
「だが、最後に決めるのは、お前だ」
その言葉に、ノインは笑った。
それは、肩の力を抜いた、穏やかな笑みだった。
礼拝堂を出ると、朝日が庭園を照らし始めていた。
新しい一日が、何事もなかったかのように始まる。
「……約束の“かたち”って、こういうものなんですね」
「派手ではないが、折れない」
「はい。好きです、そういうの」
フェルディナンドは、小さく息を吐いて微笑んだ。
過去は、完全に消えはしない。
けれど、未来を縛る鎖でもない。
ノインは、確かに“今”を選んでいた。
そして、その選択の隣に、彼がいる。
それだけで――十分だった。
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