世界の現実は、理不尽で残酷だ――平等など存在しない

鷹 綾

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第二十一話 誰も救われないという結論

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第二十一話 誰も救われないという結論

王都は、平穏を取り戻したかのように見えていた。

市は開かれ、商人は声を張り上げ、人々はそれぞれの日常へと戻っていく。通りに流れる空気だけを見れば、国難など最初から存在しなかったかのようですらあった。

だが、それは表面に過ぎない。

王城の奥、貴族たちの応接室、そして教会の密議室では、まだ清算が終わっていなかった。誰も口にはしないが、皆が同じ一点を見つめている。

――聖女マリアを、どうするか。

彼女は生きている。
それだけで、火種になり得た。

王太子ルイスの廃嫡は、王家が自らを守るために切った最大限の譲歩だった。だが、それで公爵家の怒りが完全に収まったわけではない。感情の問題ではなく、構造の問題として、まだ不安定要素が残っている。

「……彼女は、どう見ても主犯ではありません」

貴族院の席で、誰かがそう口にした。

「愚かではあるが、悪意はなかった」
「利用されたのだろう」

その言葉に、誰も反論しなかった。事実だからだ。

それでも、結論は変わらない。

「だからこそ、生かしておけない」

静かで、しかし揺るぎない声。
発したのは、新王フィリップだった。

「彼女が無知だったとしても、その無知が王国を崩しかけた事実は消えない。象徴は、生きているだけで政治になる」

それは冷酷な宣告ではない。王としての、最低限の判断だった。

裁定は下される。

聖女マリアは、裁判にかけられない。
それ自体が、一つの答えだった。

彼女は反逆者でも、陰謀家でもない。ゆえに、法で裁くことができない。だからこそ、政治的処分が選ばれる。

終身幽閉。

名を消し、存在を消し、語られることすら許されない。王国は、彼女を「無かったこと」にするという選択を取った。

地下牢から、さらに奥。
光の届かない修道院へ。

マリアは、その決定を静かに聞いた。泣き叫ぶことも、抗議することもない。ただ、呆然と呟く。

「……わたし、間違っていたのですね」

答える者はいなかった。

だが、その問いに答えを持っていた人物は、遠く離れた公爵領にいる。

アリエノール・ダキテーヌ。

彼女は王都から届いた報告書を読み、ほんの一瞬だけ目を伏せた。

「ええ」

静かな声。

「あなたは、何も知らなかった」
「そして、知らないまま正義を語った」

それは、罪だ。

彼女は怒っていない。復讐も望んでいない。だが、この結末を残酷だとも思わなかった。

世界は、残酷で不平等だ。
その現実を、マリアは最後まで受け入れられなかった。

そして、王太子ルイスも同じだった。

愛を語り、正義を気取り、契約と責任の重さを理解しなかった。二人は、同じ種類の過ちを犯したのだ。立場が違っただけで。

救われた者はいない。

王家は深い傷を負い、公爵家は距離を取り、一人の少女は歴史から消えた。それが、この国が選んだ現実的な結論だった。

アリエノールは窓の外を見つめる。
雲一つない空。

「……これで終わったと思う人ほど、また同じ過ちを繰り返すのですわ」

彼女は知っている。

婚約破棄とは、恋愛の終わりではない。
国家が、牙を剥く瞬間なのだと。
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