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第15話 宮廷秩序
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第15話 宮廷秩序
アルヴェール宮殿、王の執務室。
王太子ルイ=フィリップは、重い扉の前に立っていた。
呼び出しを受けてから、もう数分が経っている。
中には――
国王。
宰相。
侍従長。
宮廷儀礼長。
王国の中枢が集まっている。
王太子は小さく舌打ちした。
――大げさだ。
ただの儀式の話だ。
そう思っていた。
「殿下」
侍従が静かに言う。
「お入りください」
扉が開いた。
王太子は部屋に入る。
国王アンリ四世は机の前に座っていた。
重臣たちが左右に並んでいる。
王太子は軽く礼をする。
「父上」
国王は短く答えた。
「座れ」
王太子は椅子に座る。
だが部屋の空気は重い。
誰もすぐには話さない。
やがて国王が言った。
「ルヴェの件だ」
王太子は肩をすくめた。
「まだその話ですか」
国王の眉がわずかに動く。
「お前は」
「問題を理解しているのか」
王太子は答える。
「カミーユが断っただけでしょう」
「服を渡す儀式を」
侍従長が一歩前に出た。
「殿下」
「それは王家の儀礼でございます」
王太子は笑う。
「着替えだろう」
「そんなことで騒ぐのは馬鹿げている」
その言葉が落ちる。
部屋の空気がさらに重くなった。
国王はゆっくりと侍従長を見る。
「説明しろ」
侍従長は深く頭を下げた。
「御意」
彼は王太子の方を見る。
その声は落ち着いていた。
「殿下」
「宮廷とは」
「秩序でございます」
王太子は眉をひそめる。
「秩序?」
侍従長は続ける。
「王が起きる」
「王妃が眠る」
「その儀式に貴族が立つ」
それは単なる習慣ではない。
「王の身体は国家」
「その行動は国家の象徴」
王太子は腕を組む。
「意味が分からない」
侍従長は続けた。
「ルヴェに立つ貴族」
「クシェに呼ばれる貴族」
「それは王に最も近い者」
「つまり」
「最も信頼された家門」
王太子は少し考える。
侍従長はさらに言う。
「貴族は」
「王の近くに立つことで名誉を得ます」
「その名誉で家を支えます」
「その家が」
「王を支える」
王太子は黙る。
侍従長は最後に言った。
「これが宮廷秩序です」
沈黙。
王太子は少しだけ眉をひそめる。
「つまり」
「貴族のご機嫌取りか?」
その言葉に、宰相が目を閉じた。
国王は静かに言う。
「違う」
王太子は顔を上げる。
国王は続けた。
「王は貴族を支配する」
「しかし」
「貴族の支持がなければ王は倒れる」
その声は重い。
国王は言う。
「だから」
「儀礼がある」
王太子は黙った。
国王はさらに言う。
「お前は」
「その儀礼を軽視した」
沈黙。
国王は王太子を見つめる。
「そして」
「その令嬢を婚約者にした」
王太子は言葉を探す。
「……」
しかし出てこない。
国王は机を叩いた。
「王太子とは」
「王になる者だ」
部屋の空気が震える。
「宮廷を理解しない王は」
「王になれない」
王太子の顔がわずかに青くなる。
侍従長が静かに言った。
「陛下」
国王は頷く。
「調査は?」
侍従長が答える。
「完了しております」
「殿下は」
「ルヴェ・クシェへの参加を複数回拒否」
「また」
「儀礼軽視の発言」
王太子の顔が固まる。
国王はゆっくりと立ち上がった。
そして言う。
「判断する」
その声は冷静だった。
「王太子の資質を」
部屋の空気が凍る。
それはつまり――
王太子の地位そのものが、問われている。
王太子は初めて理解した。
これは婚約の問題ではない。
もっと大きな話だ。
王位。
王の資格。
それが今、目の前で裁かれようとしている。
アルヴェール宮殿、王の執務室。
王太子ルイ=フィリップは、重い扉の前に立っていた。
呼び出しを受けてから、もう数分が経っている。
中には――
国王。
宰相。
侍従長。
宮廷儀礼長。
王国の中枢が集まっている。
王太子は小さく舌打ちした。
――大げさだ。
ただの儀式の話だ。
そう思っていた。
「殿下」
侍従が静かに言う。
「お入りください」
扉が開いた。
王太子は部屋に入る。
国王アンリ四世は机の前に座っていた。
重臣たちが左右に並んでいる。
王太子は軽く礼をする。
「父上」
国王は短く答えた。
「座れ」
王太子は椅子に座る。
だが部屋の空気は重い。
誰もすぐには話さない。
やがて国王が言った。
「ルヴェの件だ」
王太子は肩をすくめた。
「まだその話ですか」
国王の眉がわずかに動く。
「お前は」
「問題を理解しているのか」
王太子は答える。
「カミーユが断っただけでしょう」
「服を渡す儀式を」
侍従長が一歩前に出た。
「殿下」
「それは王家の儀礼でございます」
王太子は笑う。
「着替えだろう」
「そんなことで騒ぐのは馬鹿げている」
その言葉が落ちる。
部屋の空気がさらに重くなった。
国王はゆっくりと侍従長を見る。
「説明しろ」
侍従長は深く頭を下げた。
「御意」
彼は王太子の方を見る。
その声は落ち着いていた。
「殿下」
「宮廷とは」
「秩序でございます」
王太子は眉をひそめる。
「秩序?」
侍従長は続ける。
「王が起きる」
「王妃が眠る」
「その儀式に貴族が立つ」
それは単なる習慣ではない。
「王の身体は国家」
「その行動は国家の象徴」
王太子は腕を組む。
「意味が分からない」
侍従長は続けた。
「ルヴェに立つ貴族」
「クシェに呼ばれる貴族」
「それは王に最も近い者」
「つまり」
「最も信頼された家門」
王太子は少し考える。
侍従長はさらに言う。
「貴族は」
「王の近くに立つことで名誉を得ます」
「その名誉で家を支えます」
「その家が」
「王を支える」
王太子は黙る。
侍従長は最後に言った。
「これが宮廷秩序です」
沈黙。
王太子は少しだけ眉をひそめる。
「つまり」
「貴族のご機嫌取りか?」
その言葉に、宰相が目を閉じた。
国王は静かに言う。
「違う」
王太子は顔を上げる。
国王は続けた。
「王は貴族を支配する」
「しかし」
「貴族の支持がなければ王は倒れる」
その声は重い。
国王は言う。
「だから」
「儀礼がある」
王太子は黙った。
国王はさらに言う。
「お前は」
「その儀礼を軽視した」
沈黙。
国王は王太子を見つめる。
「そして」
「その令嬢を婚約者にした」
王太子は言葉を探す。
「……」
しかし出てこない。
国王は机を叩いた。
「王太子とは」
「王になる者だ」
部屋の空気が震える。
「宮廷を理解しない王は」
「王になれない」
王太子の顔がわずかに青くなる。
侍従長が静かに言った。
「陛下」
国王は頷く。
「調査は?」
侍従長が答える。
「完了しております」
「殿下は」
「ルヴェ・クシェへの参加を複数回拒否」
「また」
「儀礼軽視の発言」
王太子の顔が固まる。
国王はゆっくりと立ち上がった。
そして言う。
「判断する」
その声は冷静だった。
「王太子の資質を」
部屋の空気が凍る。
それはつまり――
王太子の地位そのものが、問われている。
王太子は初めて理解した。
これは婚約の問題ではない。
もっと大きな話だ。
王位。
王の資格。
それが今、目の前で裁かれようとしている。
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