ルヴェを侮辱した義妹は宮廷を追放されました ― 王妃クシェは最高の名誉職です ―

鷹 綾

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第27話 クシェの夜

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第27話 クシェの夜

夜のアルヴェール宮殿は静かだった。

昼の宮廷は賑やかだ。

貴族。

役人。

外交使節。

噂と政治と駆け引き。

だが夜になると、宮殿は別の顔を見せる。

回廊の灯りは落とされ。

足音も少なくなる。

王の城は眠りに向かう。

その時間。

王妃の棟だけは、まだ静かに動いていた。

王妃の私室。

そこに入れる人間は限られている。

王妃。

侍女。

女官長。

そして――

クシェ。

アデル・ド・モンフォールは、その扉の前に立っていた。

手には、王妃の寝間着。

白い絹の夜着。

宮廷の職人が仕立てた特別な衣装だ。

アデルは軽く扉を叩く。

「陛下」

中から声がした。

「入りなさい」

アデルは扉を開けた。

王妃の私室は暖かい光に包まれている。

暖炉。

大きな鏡。

絹のカーテン。

王妃は椅子に座っていた。

髪をほどき、侍女が最後の手入れをしている。

アデルは静かに近づく。

侍女が下がる。

そしてアデルが寝間着を差し出した。

王妃は微笑む。

「ありがとう、アデル」

それがクシェ。

王妃の夜の儀礼。

寝る前に、最も信頼された令嬢が寝間着を手渡す。

ただそれだけ。

だがそれだけではない。

王妃は衣装を受け取りながら言った。

「今日のことだけれど」

アデルは頭を下げる。

「申し訳ありません」

王妃は小さく笑った。

「謝る必要はありません」

今日の昼。

回廊での出来事。

元王太子の婚約話。

すべて王妃は見ていた。

王妃は鏡の前に立つ。

侍女が衣装を整える。

そして言った。

「本当に懲りない方ね」

ルイ=フィリップ。

かつての王太子。

今はただの王子。

王妃は少しだけ呆れていた。

「まだ分かっていないのです」

アデルは静かに言う。

「何を?」

王妃は振り向く。

アデルは答えた。

「宮廷の秩序です」

王妃は微笑んだ。

「その通り」

そして椅子に座る。

アデルはそばに立つ。

王妃は言う。

「あなたがクシェである理由」

「分かる?」

アデルは少し考えた。

「信頼……でしょうか」

王妃はうなずく。

「それもあるわ」

「でも、それだけではない」

王妃は続ける。

「クシェは、王妃に最も近い貴族」

「つまり」

「王妃に何かを頼める立場」

アデルは黙って聞く。

王妃は笑う。

「王も私も、案外世間知らずなの」

「近くにいる人のお願いを」

「つい聞いてしまう」

それは宮廷では有名な話だった。

王や王妃は、側近の言葉に弱い。

特に。

私室に入る者。

つまり。

クシェ。

王妃は続ける。

「だからクシェは慎重に選ぶ」

「欲深い人間に任せたら」

「宮廷が壊れるから」

アデルは静かに言う。

「恐れ多いことです」

王妃は微笑む。

「だからあなたなのよ」

そして少し間を置いて言った。

「ところで」

「今日の王子の話」

アデルは顔を上げる。

王妃は楽しそうだった。

「どうするの?」

アデルは少し考える。

そして答えた。

「困っております」

王妃は目を細めた。

「困っている?」

アデルは言う。

「もし婚約を受ければ」

「妹の婚約者を奪ったと言われます」

王妃は眉をひそめる。

「確かに」

アデルは続ける。

「そんな陰口」

「とても耐えられそうにありません」

しばらく沈黙。

そして王妃は言った。

「……それは」

「耐え難き屈辱ですわね」

その言葉は静かだった。

だが。

それは王妃の意思だった。
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