ルヴェを侮辱した義妹は宮廷を追放されました ― 王妃クシェは最高の名誉職です ―

鷹 綾

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第26話 婚約要求

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第26話 婚約要求

翌日。

アルヴェール宮殿。

王妃の棟の回廊は静かだった。

朝の儀礼が終わり、宮廷は落ち着きを取り戻している時間。

王妃の私室の前には、数人の女官が控えていた。

その中に、アデル・ド・モンフォールの姿がある。

モンフォール公爵家の嫡女。

そして王妃クシェ。

王妃の夜の儀礼を務める、最も信頼された令嬢。

彼女は静かに立っていた。

いつものように。

そこへ侍従が近づく。

「モンフォール嬢」

アデルは軽く振り向いた。

「何でしょう」

侍従は丁寧に頭を下げる。

「ルイ=フィリップ王子殿下がお会いしたいと」

一瞬、回廊の空気が変わった。

周囲の女官たちが目を伏せる。

その名前は、まだ宮廷では重かった。

元王太子。

廃太子。

宮廷を揺るがした人物。

アデルは少しだけ考えた。

そして穏やかに言う。

「用件は?」

侍従は答える。

「婚約のお話だそうです」

女官たちの空気がさらに張りつめる。

だがアデルは驚かなかった。

むしろ予想していたように静かだった。

「……そう」

彼女は少し考え、言った。

「場所は?」

「王子殿下の居室です」

アデルは首を横に振った。

「王妃の棟を離れることはできません」

それは事実だった。

クシェは王妃の職務。

王妃の呼び出しにすぐ応じられる位置にいなければならない。

宮廷の規則でもある。

侍従は困った顔をする。

「では……」

アデルは言った。

「ここでお会いします」

侍従は一礼した。

「お伝えします」

しばらくして。

回廊の奥から足音が聞こえた。

ルイ=フィリップ王子だった。

かつての王太子。

金の刺繍の入った服。

しかし王太子の装束ではない。

王子の衣装だ。

彼はアデルの前で止まる。

女官たちは距離を取った。

二人だけの空間になる。

王子はアデルを見る。

久しぶりだった。

昔の婚約者。

だが今は違う。

王妃の側近。

宮廷でも特別な地位にいる女。

王子は言った。

「久しぶりだな、アデル」

アデルは優雅に礼をした。

「王子殿下」

その声は落ち着いている。

王子はすぐ本題に入った。

「婚約の話だ」

「私と結婚してほしい」

回廊の空気が凍る。

遠くの女官たちも動かない。

王子は続ける。

「君はモンフォール公爵家の嫡女だ」

「家格も申し分ない」

「そして宮廷での地位もある」

アデルは黙って聞いていた。

王子は言う。

「以前のことは忘れよう」

「カミーユのことは失敗だった」

その言葉に、アデルの目が少しだけ冷たくなった。

王子は気づかない。

「だが今なら」

「私と君の結婚は理想的だ」

「モンフォール公爵家と王家」

「完璧な結びつきになる」

王子は手を差し出した。

「どうだ?」

「もう一度婚約しよう」

アデルはその手を見た。

しばらく沈黙する。

回廊は静かだった。

そしてアデルは言った。

「殿下」

「一つ、確認してよろしいでしょうか」

王子はうなずく。

「何だ」

アデルは静かに言った。

「私を婚約者から外したのは」

「殿下です」

王子は少し顔をしかめる。

「昔の話だ」

アデルは続ける。

「そして」

「王妃ルヴェを侮辱したのも」

「殿下です」

王子は黙る。

アデルは最後に言った。

「私はクシェです」

「王妃の職務を持つ身」

「個人的な婚約の話は」

「王妃の許可が必要です」

王子は少し苛立った。

「そんなもの、あとで取ればいい」

その瞬間。

背後から声がした。

「それは困りますわ」

全員が振り向く。

そこに立っていたのは――

王妃だった。
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