ルヴェを侮辱した義妹は宮廷を追放されました ― 王妃クシェは最高の名誉職です ―

鷹 綾

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第29話 王妃の同情

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第29話 王妃の同情

翌朝。

アルヴェール宮殿の空気は、どこか張りつめていた。

王妃が、朝の面会の予定を変更した。

それだけで宮廷はざわつく。

王妃の予定は簡単には動かない。

それが動くということは――

何かが起きるということだ。

侍従たちは忙しく走り回り、回廊では女官たちが小声で噂をしていた。

「王妃陛下が」

「王子殿下を呼ばれたそうよ」

「昨日の件でしょうか」

「婚約の……」

その噂は、あっという間に広がった。

一方。

王妃の謁見室。

そこに、ルイ=フィリップ王子が呼ばれていた。

王子は少し苛立っていた。

突然の呼び出し。

しかも王妃。

普通なら問題ない。

だが今の彼は――

廃太子。

宮廷での立場は以前ほど強くない。

侍従が扉を開く。

「王子殿下」

「王妃陛下がお待ちです」

王子は部屋に入った。

王妃は椅子に座っている。

その背後には、数人の女官。

そして――

少し離れた場所に、アデルが立っていた。

王妃クシェ。

王妃の最側近。

王子はその姿を見て、少しだけ顔をしかめた。

王妃は穏やかに言う。

「よく来てくださいました」

王子は礼をする。

「陛下」

王妃は本題に入る。

「昨日の話ですが」

王子はすぐ理解した。

アデルとの婚約。

王子は言う。

「はい」

「私は真剣です」

王妃は微笑む。

「そうでしょうね」

「ですが」

王妃の声が少しだけ変わる。

「アデルが困っております」

王子は眉をひそめる。

「困る?」

王妃は言った。

「もし婚約を受ければ」

「妹の婚約者を奪ったと」

「噂されるそうです」

王子は黙った。

確かに。

カミーユは元婚約者。

その妹がアデル。

社交界では話題になる。

王妃は続ける。

「そんな陰口」

「とても耐えられないそうです」

王子は苛立った。

「ただの噂です」

王妃は首を横に振る。

「宮廷では」

「噂も政治です」

その言葉は静かだった。

だが重い。

王妃は立ち上がる。

そして王子の前に立つ。

「わたくしは」

「アデルが好きです」

王子は何も言わない。

王妃は続ける。

「誠実で」

「慎重で」

「欲深くない」

「だからクシェに選んだのです」

そして最後に言った。

「そんな彼女が苦しむ婚約」

「わたくしは望みません」

部屋が静かになる。

王子は理解した。

これは――

拒絶だ。

王妃の意思。

宮廷で最も強い意思の一つ。

王子は歯を食いしばる。

「……分かりました」

王妃は穏やかにうなずく。

「ありがとう」

そして微笑んだ。

「あなたも」

「もっと良い未来を探しなさい」

王子は礼をして部屋を出た。

扉が閉まる。

しばらく沈黙。

そして王妃は振り返る。

アデルを見る。

「これで大丈夫よ」

アデルは静かに頭を下げた。

「ありがとうございます」

王妃は楽しそうに言う。

「クシェのお願いは」

「断れないの」

それは宮廷の真実だった。

王や王妃のそばにいる者。

その言葉は――

時に王子の運命すら変える。
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