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第17話 喝采の聖女、揺らぐ空
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第17話 喝采の聖女、揺らぐ空
新聖女アーニャ・リーヴェルの名は、王都に急速に広まっていった。
「奇跡を起こした少女」
「王国を救う希望」
「次代を導く真の聖女」
そんな言葉が、まるで決まり文句のように並べられ、人々の口から口へと流れていく。
◇
王都中央広場。
この日も、アーニャは多くの民衆の前に立っていた。
白い聖女衣装は太陽の光を受けて眩しく、彼女自身もまた、その光に応えるように背筋を伸ばしている。
「新聖女様だ……!」
「お姿を見せてくださるだけで、安心する……」
歓声と拍手。
期待に満ちた視線。
アーニャはそのすべてを真正面から受け止め、にこやかに微笑んだ。
――応えなきゃ。
胸の奥で、小さく自分に言い聞かせる。
自分は選ばれた。
王国に必要とされた。
あの引きこもりの聖女とは違う。
そう思うことで、足元の不安を必死に踏み固めていた。
◇
「では、これより祈りを捧げます」
司祭の声に導かれ、アーニャは祭壇へと進む。
この儀式は、民衆への“安心”を示すためのものだ。
たとえ大きな奇跡でなくとも、
何かが起きれば、それでいい。
アーニャは両手を胸の前で組み、目を閉じた。
(雨……雨が少しでも降れば……)
必死に祈る。
祈り続ける。
すると――
空の一角に、わずかな雲が集まり始めた。
「……おお……」
ざわめきが起こる。
風が吹き、
ひやりとした空気が流れ込む。
数滴の雨が、広場の石畳を濡らした。
「降った……!」
歓声が上がる。
再び拍手が巻き起こる。
アーニャは安堵の息をつき、
そっと目を開けた。
「神よ……感謝いたします……」
その声は震えていたが、
それを不安と取る者はいなかった。
皆、奇跡を“見たいものだけ見て”いたからだ。
◇
だが、雨は長く続かなかった。
数分も経たぬうちに雲は散り、
空は再び、不安定な色合いを取り戻す。
それでも民衆は満足していた。
「最初はこれで十分だ」
「回数を重ねれば、もっと大きな奇跡を起こすだろう」
希望は、疑問を簡単に塗り潰す。
◇
王太子リチャードは、その様子を高台から見下ろしていた。
「……上出来だ」
彼は小さく頷く。
派手さはないが、
“見せる奇跡”としては十分。
それに比べて――と、
どうしても、思考は過去へと向かう。
ポーラ・スター。
姿を見せず、
声も出さず、
ただ部屋に籠もっていた聖女。
(……あれでは、民は納得しない)
そう自分に言い聞かせるように、
リチャードはアーニャへ視線を戻した。
「君は、期待に応えている」
儀式後、そう声をかけると、
アーニャはぱっと顔を輝かせる。
「本当ですか……!」
「もちろんだ。民衆も満足している」
その言葉に、
彼女の肩から、ほんの少し力が抜けた。
◇
だがその夜。
王都を離れた地方では、
別の出来事が起きていた。
――突然の突風。
――局地的な豪雨。
――季節外れの冷え込み。
被害はまだ小さい。
だが、確実に“異常”だった。
「最近、天気が落ち着かないな……」
「聖女様が代わったせいか?」
そんな声が、ぽつぽつと上がり始める。
◇
その報告書を読んでいたフォージャー子爵は、
深く息を吐いた。
「……やはりだ」
祈りで無理に動かされた自然は、
均衡を失い、歪みを生む。
それは、
“力が足りない”というよりも、
“在り方が違う”問題だった。
そして彼の脳裏に浮かぶのは、
相変わらず、扉の向こうの少女。
何も起こそうとせず、
ただ、そこに在るだけの存在。
(……比較するのは酷だが)
フォージャーは、そっと報告書を閉じた。
◇
喝采に包まれる新聖女アーニャ。
彼女はまだ知らない。
その喝采が、
期待という名の重圧に変わる日が、
すぐそこまで来ていることを。
そして王国もまた、
静かに、だが確実に、
不穏な空の下へと踏み出していた。
嵐は、まだ本気を出していない。
だが――
空は、確実に、
泣き出す準備を始めていた。
新聖女アーニャ・リーヴェルの名は、王都に急速に広まっていった。
「奇跡を起こした少女」
「王国を救う希望」
「次代を導く真の聖女」
そんな言葉が、まるで決まり文句のように並べられ、人々の口から口へと流れていく。
◇
王都中央広場。
この日も、アーニャは多くの民衆の前に立っていた。
白い聖女衣装は太陽の光を受けて眩しく、彼女自身もまた、その光に応えるように背筋を伸ばしている。
「新聖女様だ……!」
「お姿を見せてくださるだけで、安心する……」
歓声と拍手。
期待に満ちた視線。
アーニャはそのすべてを真正面から受け止め、にこやかに微笑んだ。
――応えなきゃ。
胸の奥で、小さく自分に言い聞かせる。
自分は選ばれた。
王国に必要とされた。
あの引きこもりの聖女とは違う。
そう思うことで、足元の不安を必死に踏み固めていた。
◇
「では、これより祈りを捧げます」
司祭の声に導かれ、アーニャは祭壇へと進む。
この儀式は、民衆への“安心”を示すためのものだ。
たとえ大きな奇跡でなくとも、
何かが起きれば、それでいい。
アーニャは両手を胸の前で組み、目を閉じた。
(雨……雨が少しでも降れば……)
必死に祈る。
祈り続ける。
すると――
空の一角に、わずかな雲が集まり始めた。
「……おお……」
ざわめきが起こる。
風が吹き、
ひやりとした空気が流れ込む。
数滴の雨が、広場の石畳を濡らした。
「降った……!」
歓声が上がる。
再び拍手が巻き起こる。
アーニャは安堵の息をつき、
そっと目を開けた。
「神よ……感謝いたします……」
その声は震えていたが、
それを不安と取る者はいなかった。
皆、奇跡を“見たいものだけ見て”いたからだ。
◇
だが、雨は長く続かなかった。
数分も経たぬうちに雲は散り、
空は再び、不安定な色合いを取り戻す。
それでも民衆は満足していた。
「最初はこれで十分だ」
「回数を重ねれば、もっと大きな奇跡を起こすだろう」
希望は、疑問を簡単に塗り潰す。
◇
王太子リチャードは、その様子を高台から見下ろしていた。
「……上出来だ」
彼は小さく頷く。
派手さはないが、
“見せる奇跡”としては十分。
それに比べて――と、
どうしても、思考は過去へと向かう。
ポーラ・スター。
姿を見せず、
声も出さず、
ただ部屋に籠もっていた聖女。
(……あれでは、民は納得しない)
そう自分に言い聞かせるように、
リチャードはアーニャへ視線を戻した。
「君は、期待に応えている」
儀式後、そう声をかけると、
アーニャはぱっと顔を輝かせる。
「本当ですか……!」
「もちろんだ。民衆も満足している」
その言葉に、
彼女の肩から、ほんの少し力が抜けた。
◇
だがその夜。
王都を離れた地方では、
別の出来事が起きていた。
――突然の突風。
――局地的な豪雨。
――季節外れの冷え込み。
被害はまだ小さい。
だが、確実に“異常”だった。
「最近、天気が落ち着かないな……」
「聖女様が代わったせいか?」
そんな声が、ぽつぽつと上がり始める。
◇
その報告書を読んでいたフォージャー子爵は、
深く息を吐いた。
「……やはりだ」
祈りで無理に動かされた自然は、
均衡を失い、歪みを生む。
それは、
“力が足りない”というよりも、
“在り方が違う”問題だった。
そして彼の脳裏に浮かぶのは、
相変わらず、扉の向こうの少女。
何も起こそうとせず、
ただ、そこに在るだけの存在。
(……比較するのは酷だが)
フォージャーは、そっと報告書を閉じた。
◇
喝采に包まれる新聖女アーニャ。
彼女はまだ知らない。
その喝采が、
期待という名の重圧に変わる日が、
すぐそこまで来ていることを。
そして王国もまた、
静かに、だが確実に、
不穏な空の下へと踏み出していた。
嵐は、まだ本気を出していない。
だが――
空は、確実に、
泣き出す準備を始めていた。
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