引きこもり聖女は祈らない

鷹 綾

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第23話 役立たずの烙印

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第23話 役立たずの烙印

 その言葉は、
 最初から刃の形をしていた。

 ◇

 王城・内廷。

 重苦しい空気の中、
 王太子リチャードは、机に積まれた報告書を乱暴に払いのけた。

 「……これだけ異常が続いて、
  まだ“様子見”だと?」

 側近たちは、息を潜める。

 誰もが分かっている。
 この苛立ちが、どこへ向かうのかを。

 ◇

 「アーニャを呼べ」

 その声は、前よりも低く、
 冷え切っていた。

 ◇

 しばらくして、
 聖女アーニャは呼び出される。

 以前よりも、
 明らかにやつれた様子だった。

 「……殿下」

 深く頭を下げるが、
 その動作に、かつての自信はない。

 リチャードは、
 机に肘をつき、彼女を見据えた。

 「聞いているか、アーニャ」

 返事を待たず、続ける。

 「各地で被害が続いている。
  それなのに、君の祈りは――
  ほとんど、何も変えていない」

 言葉は、
 事実の形を借りた断罪だった。

 ◇

 「……私、全力で……」

 「全力?」

 リチャードは、短く鼻で笑う。

 「結果が伴わない“全力”に、
  何の意味がある」

 アーニャの指先が、
 ぎゅっと握り締められる。

 反論したい。
 叫びたい。

 だが――
 言葉が、出てこない。

 ◇

 「君は、聖女だ」

 リチャードの声が、
 さらに冷たくなる。

 「聖女とは、
  国のために役立つ存在だ」

 一拍置いて、
 彼は言い切った。

 「……今の君は、役に立っていない」

 その瞬間。

 アーニャの胸に、
 何かが、はっきりと刻まれた。

 役立たず。

 ◇

 「……申し訳、ありません……」

 絞り出すような声。

 頭を下げたまま、
 彼女は動かない。

 リチャードは、
 その姿を、苛立ち混じりに見下ろした。

 (前の聖女も、結局はこうだった)

 無意識に、
 ポーラの姿が脳裏をよぎる。

 だが彼は、
 その思考を振り払う。

 ◇

 「……もういい」

 リチャードは、手を振った。

 「下がれ。
  考え直す時間をやろう」

 それが、
 慈悲なのか、
 猶予なのか。

 アーニャには、分からなかった。

 ◇

 廊下を歩く。

 足音が、やけに大きく響く。

 視線を感じる。

 使用人たちの、
 はっきりとは言わない、
 しかし、確実に距離を取る態度。

 もう、噂は広がっている。

 “新聖女は、役に立たない”

 ◇

 その夜。

 アーニャは、
 聖女用の私室で、
 一人、うずくまっていた。

 祈ろうとする。
 だが、言葉が出てこない。

 (……私、何のために……)

 選ばれたと思っていた。
 必要とされていると、信じていた。

 だが、それは――
 結果が出ている間だけのことだった。

 ◇

 同じ頃。

 フォージャー子爵は、
 この出来事を耳にし、
 深くため息をついた。

 「……矛先が、完全に彼女へ向いたか」

 予想していた流れ。
 そして、最悪の段階。

 期待 → 失望 → 非難。

 「……危ない」

 それは、
 彼女個人の身の危険だけではない。

 王国にとっても、だ。

 ◇

 スター公爵家。

 扉の前に、
 今日も、メモが貼られている。

 『風が、強くなりそうです』

 短い一文。

 それを見た使用人が、
 小さく呟く。

 「……最近、よく当たるな」

 誰も、
 その意味を、
 まだ深く考えていない。

 ◇

 アーニャは、
 まだ姿を消していない。

 だが――
 彼女の居場所は、
 すでに、
 王城のどこにも、
 なくなりつつあった。

 「役立たず」という烙印は、
 人を追い詰めるには、
 あまりにも、十分すぎる言葉だった。
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