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第31話 誤解された回復
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第31話 誤解された回復
翌朝。
嵐は、嘘のように弱まっていた。
昨夜まで城壁を叩きつけていた雨は、霧雨へと変わり、
吹き荒れていた風も、今は湿った空気を揺らす程度だ。
王都の人々は、恐る恐る空を見上げた。
「……止みかけている?」
「嵐が……退いているぞ……」
壊れた屋根や、泥だらけの通りはそのままだ。
だが、確かに空は、昨日ほど怒ってはいなかった。
この変化を、
人々は“希望”として受け取った。
そして――
王太子リチャードもまた、そうだった。
城の高窓から外を見下ろし、
彼は、はっきりと頷いた。
「……やはりだ」
側近たちが、息を詰めて待つ。
「ポーラは、戻る気になった」
その言葉には、
確信に満ちた響きがあった。
誰も、異を唱えなかった。
王太子がそう判断したのなら、
それが“正解”なのだと、
城では、長年そう扱われてきた。
リチャードは、満足そうに息を吐く。
「扉の前で祈りを捧げたのだろう。
聖女としての務めを、再び果たす覚悟を決めたに違いない」
昨夜、扉の向こうから返事はなかった。
だが、天候は回復し始めている。
それが、
彼にとっての答えだった。
「やはり、聖女は聖女だ。
感情に流されても、
最終的には王国を選ぶ」
その言葉に、
自分自身を納得させるような響きが混じる。
間違いを犯したのは、
一時の判断ミスに過ぎない。
修正できた。
そう思いたかった。
王太子は、外套を掴んだ。
「馬を用意させろ。
城へ戻る」
側近が、慌てて問いかける。
「殿下、まだ川の水位が――」
「問題ない」
即答だった。
「嵐が弱まっている。
今なら通れる」
その声には、
焦りがあった。
もし、ポーラが“戻る覚悟”をしたのだとすれば。
一刻も早く、
それを正式な形にしなければならない。
王城へ戻り、
復帰を宣言し、
再婚約を公にする。
それで、すべては元通りだ。
そうすれば、
自分の判断が誤りだったという事実も、
歴史の中に埋もれていく。
馬が駆ける。
湿った地面を踏みしめ、
城前へ続く道を進む。
川の音が、
徐々に大きくなっていく。
だが、リチャードは耳を貸さなかった。
視線の先には、
すでに“回復した未来”しか見えていない。
その頃。
スター公爵家の一室で、
ポーラ・スターは、静かに紅茶を飲んでいた。
嵐が弱まったことも、
王太子が何を考えているかも、
彼女は知らない。
知ろうともしていない。
昨夜、祈ったあとの心は、
驚くほど静かだった。
世界がどう受け取ろうと、
それは、彼女の関知するところではない。
扉の前に、
新しいメモは貼られていない。
警告も、願いも、
今日は、書く必要がなかった。
ポーラは、カップを置き、
小さく息を吐く。
「……今日は、
少し、静かですね」
それは、
嵐が去ったことへの感想ではない。
自分の心が、
ようやく、
落ち着いたことへの言葉だった。
一方で。
王太子リチャードは、
自分にとって都合のいい“回復”を信じ、
急いでいた。
それが、
取り返しのつかない誤解だとも知らずに。
天候は、確かに弱まっている。
だがそれは、
「復帰を受け入れた合図」ではない。
ましてや、
「再婚約を許した証」でもない。
その違いに気づく者は、
まだ、
誰もいなかった。
翌朝。
嵐は、嘘のように弱まっていた。
昨夜まで城壁を叩きつけていた雨は、霧雨へと変わり、
吹き荒れていた風も、今は湿った空気を揺らす程度だ。
王都の人々は、恐る恐る空を見上げた。
「……止みかけている?」
「嵐が……退いているぞ……」
壊れた屋根や、泥だらけの通りはそのままだ。
だが、確かに空は、昨日ほど怒ってはいなかった。
この変化を、
人々は“希望”として受け取った。
そして――
王太子リチャードもまた、そうだった。
城の高窓から外を見下ろし、
彼は、はっきりと頷いた。
「……やはりだ」
側近たちが、息を詰めて待つ。
「ポーラは、戻る気になった」
その言葉には、
確信に満ちた響きがあった。
誰も、異を唱えなかった。
王太子がそう判断したのなら、
それが“正解”なのだと、
城では、長年そう扱われてきた。
リチャードは、満足そうに息を吐く。
「扉の前で祈りを捧げたのだろう。
聖女としての務めを、再び果たす覚悟を決めたに違いない」
昨夜、扉の向こうから返事はなかった。
だが、天候は回復し始めている。
それが、
彼にとっての答えだった。
「やはり、聖女は聖女だ。
感情に流されても、
最終的には王国を選ぶ」
その言葉に、
自分自身を納得させるような響きが混じる。
間違いを犯したのは、
一時の判断ミスに過ぎない。
修正できた。
そう思いたかった。
王太子は、外套を掴んだ。
「馬を用意させろ。
城へ戻る」
側近が、慌てて問いかける。
「殿下、まだ川の水位が――」
「問題ない」
即答だった。
「嵐が弱まっている。
今なら通れる」
その声には、
焦りがあった。
もし、ポーラが“戻る覚悟”をしたのだとすれば。
一刻も早く、
それを正式な形にしなければならない。
王城へ戻り、
復帰を宣言し、
再婚約を公にする。
それで、すべては元通りだ。
そうすれば、
自分の判断が誤りだったという事実も、
歴史の中に埋もれていく。
馬が駆ける。
湿った地面を踏みしめ、
城前へ続く道を進む。
川の音が、
徐々に大きくなっていく。
だが、リチャードは耳を貸さなかった。
視線の先には、
すでに“回復した未来”しか見えていない。
その頃。
スター公爵家の一室で、
ポーラ・スターは、静かに紅茶を飲んでいた。
嵐が弱まったことも、
王太子が何を考えているかも、
彼女は知らない。
知ろうともしていない。
昨夜、祈ったあとの心は、
驚くほど静かだった。
世界がどう受け取ろうと、
それは、彼女の関知するところではない。
扉の前に、
新しいメモは貼られていない。
警告も、願いも、
今日は、書く必要がなかった。
ポーラは、カップを置き、
小さく息を吐く。
「……今日は、
少し、静かですね」
それは、
嵐が去ったことへの感想ではない。
自分の心が、
ようやく、
落ち着いたことへの言葉だった。
一方で。
王太子リチャードは、
自分にとって都合のいい“回復”を信じ、
急いでいた。
それが、
取り返しのつかない誤解だとも知らずに。
天候は、確かに弱まっている。
だがそれは、
「復帰を受け入れた合図」ではない。
ましてや、
「再婚約を許した証」でもない。
その違いに気づく者は、
まだ、
誰もいなかった。
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