婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾

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第七話 祝福の中心で

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第七話 祝福の中心で

 王宮の大広間は、今夜も光に満ちていた。

 幾千もの燭台が灯り、壁面の鏡がそれを反射する。
 絹のドレスが揺れ、宝石がきらめく。

 その中心に立つのは、フロレッタだった。

 淡い金糸を織り込んだ純白の衣装。
 胸元には王家の紋章を象った首飾り。

 彼女は、祝福の中心にいる。

「なんてお似合いなのかしら」

「やはり、王子殿下にはああいう愛らしい方が」

 貴婦人たちの囁きは甘い。

 フロレッタは頬を染め、控えめに微笑む。
 その仕草ひとつで、場の空気は柔らぐ。

 隣にはルシアン王子。

 彼は満足げだった。

「どうだ、フロレッタ」

「とても……夢のようですわ」

 彼女は視線を上げる。

「皆さまが祝ってくださるなんて」

「当然だ。未来の王妃なのだから」

 王妃。

 その言葉は、蜜のように甘い。

 フロレッタは心の奥で思う。

 お姉様より、私が選ばれた。

 それは事実。
 紛れもない勝利。

 音楽が高まり、ダンスが始まる。

 ルシアンが手を差し出す。

「来い」

 彼女はその手を取り、広間の中央へ。

 拍手が起こる。

 王子とその婚約者の舞。

 完璧な構図。

 回転するたびに、宝石が光を散らす。

 フロレッタの胸は高鳴っていた。

 これが王宮。
 これが王妃の道。

 愛され、守られ、輝く。

 踊り終えた後、彼女は王妃に呼び止められる。

 現王妃は、静かに立っていた。

 年齢を感じさせぬ姿勢。
 冷ややかなほど整った微笑み。

「おめでとう、フロレッタ」

「光栄でございます」

 フロレッタは深く礼をする。

「これから忙しくなりますよ」

「……忙しく?」

「王妃教育が始まります」

 言葉は穏やかだが、声音に甘さはない。

「王妃は飾りではありません」

 その一言が、空気を変えた。

 フロレッタは一瞬、言葉を失う。

「わたくし……努力いたしますわ」

「当然です」

 王妃は視線を外し、侍女に指示を出す。

「明朝より開始します」

 明朝。

 こんなにも華やかな夜の翌朝から。

 フロレッタは胸の奥に、わずかな違和感を覚えた。

 けれどそれは、すぐにかき消される。

 再び祝福の声が彼女を包む。

 甘い言葉。
 羨望の視線。

 ――お姉様は今、辺境にいる。

 静かな領地で、地味な生活を送っているはず。

 私はここにいる。

 王宮の中心に。

 誇らしさが、胸を満たす。

 その頃、辺境。

 セラフィーナは執務室で報告を受けていた。

「南方からの鉄の需要が増加しております」

「価格は?」

「王都より高値です」

 彼女は冷静に頷く。

「契約を更新しましょう。ただし数量は段階的に」

 机の上には地図と帳簿。

 華やかな光はない。
 あるのは実務。

 だがその静けさは、確かな充実を伴っていた。

 窓の外では、兵の訓練が続いている。

「侯爵は?」

「巡回へ」

「戻られましたら、交易路の再編案を」

「承知いたしました」

 報告を終え、侍従が去る。

 セラフィーナは一瞬だけ手を止める。

 王宮では今頃、祝宴の最中だろう。

 フロレッタは輝いているはず。

 だが彼女の胸にあるのは、嫉妬ではない。

 ただ、静かな確信。

 席が違うだけ。

 どちらが上かは、まだ分からない。

 王宮では祝福が響き、
 辺境では剣の音が響く。

 光と静寂。

 甘さと責任。

 それぞれの場所で、それぞれの夜が更けていく。

 フロレッタはまだ知らない。

 祝福は、始まりに過ぎないことを。

 セラフィーナもまた、知らない。

 その静かな積み重ねが、やがて王都を揺らすことを。

 夜は更ける。

 王宮の光はまばゆく、
 辺境の空は暗く深い。

 けれど。

 星は、いつも暗い空にこそ輝く。
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