22 / 40
第二十二話 新王の署名
しおりを挟む
第二十二話 新王の署名
王宮から正式な布告が出されたのは、曇天の朝だった。
第一王太子の廃嫡。
継承順位の変更。
第二王子の立太子。
王都は静まり返った。歓声も暴動もない。ただ、歴史が一行書き換えられただけだ。
だが一行の重みは、国家そのものを動かす。
その日の午後、修道院に新たな王太子からの書状が届いた。
内容は簡潔だった。
王家と修道院の既存契約の確認と、今後の協力の再定義。
私は書面を読み終え、静かに言う。
「来ますね」
院長が頷く。
「新王太子は賢いと聞きます」
数日後、彼は本当に来た。
豪奢な護衛を連れず、最小限の随行で。
応接室に通された彼は、まだ若いが目に迷いがなかった。
「修道院長、そしてエルミナ修道女」
彼は丁寧に頭を下げる。
王族が頭を下げる姿は、珍しい。
「本日は確認に参りました」
「何を」
「王家と修道院の契約が、対等であることを」
私はわずかに目を細める。
「対等であるとお考えですか」
「はい。王家は信用を借り、修道院は王家の保護を借りる」
彼は続ける。
「互いに利用し合う。それが国家です」
率直だ。
私は書類を差し出す。
「既存契約の再確認を」
彼は迷いなく署名した。
前王太子のような躊躇はない。
「そして提案があります」
「お聞きしましょう」
「修道院教育制度を、王立制度に格上げしたい」
院長が息を呑む。
「王立に」
「王家が公認し、地方へ拡張する」
それは強力な後ろ盾になる。
同時に、国家の枠組みに組み込まれることでもある。
「条件は」
私は問う。
「修道院の独立性は維持します」
彼は即答した。
「財務干渉はしない」
「書面に」
「もちろん」
彼はためらわず言う。
この若き王太子は、契約を理解している。
「もう一つ」
彼は視線を上げる。
「王妃の名誉を永久に保証する法令を制定します」
私はわずかに息を止める。
王妃は潔白。
だが法令に明記するのは異例だ。
「必要ですか」
「はい。歴史に曖昧さを残さぬために」
その一言で、私は理解する。
この王は、記録の力を知っている。
署名が交わされる。
新王太子の名が、修道院の帳簿に刻まれた。
ヴァルケン家では、その報を受けたレオナルトが静かに笑った。
「時代が変わる」
かつて不能の疑いで失脚した王太子。
今は記録と契約で再構築される王家。
修道院の図書館では、未亡人修道女たちが新制度の草案を読み込み始めていた。
「王立教育機関」
「地方に女性講師を派遣できます」
私は静かに頷く。
「だが独立性は守ります」
王立であっても、白き銀行は白のまま。
夜、塔の上。
王宮の旗が再び掲げられている。
新王の署名は軽くない。
それは国家の方向を定める印だ。
白い誓約は終わった。
だが白い制度は、今や国家の一部となった。
鐘が鳴る。
私は目を閉じる。
契約は人を縛る。
だが正しく交わせば、時代を支える柱にもなる。
王宮から正式な布告が出されたのは、曇天の朝だった。
第一王太子の廃嫡。
継承順位の変更。
第二王子の立太子。
王都は静まり返った。歓声も暴動もない。ただ、歴史が一行書き換えられただけだ。
だが一行の重みは、国家そのものを動かす。
その日の午後、修道院に新たな王太子からの書状が届いた。
内容は簡潔だった。
王家と修道院の既存契約の確認と、今後の協力の再定義。
私は書面を読み終え、静かに言う。
「来ますね」
院長が頷く。
「新王太子は賢いと聞きます」
数日後、彼は本当に来た。
豪奢な護衛を連れず、最小限の随行で。
応接室に通された彼は、まだ若いが目に迷いがなかった。
「修道院長、そしてエルミナ修道女」
彼は丁寧に頭を下げる。
王族が頭を下げる姿は、珍しい。
「本日は確認に参りました」
「何を」
「王家と修道院の契約が、対等であることを」
私はわずかに目を細める。
「対等であるとお考えですか」
「はい。王家は信用を借り、修道院は王家の保護を借りる」
彼は続ける。
「互いに利用し合う。それが国家です」
率直だ。
私は書類を差し出す。
「既存契約の再確認を」
彼は迷いなく署名した。
前王太子のような躊躇はない。
「そして提案があります」
「お聞きしましょう」
「修道院教育制度を、王立制度に格上げしたい」
院長が息を呑む。
「王立に」
「王家が公認し、地方へ拡張する」
それは強力な後ろ盾になる。
同時に、国家の枠組みに組み込まれることでもある。
「条件は」
私は問う。
「修道院の独立性は維持します」
彼は即答した。
「財務干渉はしない」
「書面に」
「もちろん」
彼はためらわず言う。
この若き王太子は、契約を理解している。
「もう一つ」
彼は視線を上げる。
「王妃の名誉を永久に保証する法令を制定します」
私はわずかに息を止める。
王妃は潔白。
だが法令に明記するのは異例だ。
「必要ですか」
「はい。歴史に曖昧さを残さぬために」
その一言で、私は理解する。
この王は、記録の力を知っている。
署名が交わされる。
新王太子の名が、修道院の帳簿に刻まれた。
ヴァルケン家では、その報を受けたレオナルトが静かに笑った。
「時代が変わる」
かつて不能の疑いで失脚した王太子。
今は記録と契約で再構築される王家。
修道院の図書館では、未亡人修道女たちが新制度の草案を読み込み始めていた。
「王立教育機関」
「地方に女性講師を派遣できます」
私は静かに頷く。
「だが独立性は守ります」
王立であっても、白き銀行は白のまま。
夜、塔の上。
王宮の旗が再び掲げられている。
新王の署名は軽くない。
それは国家の方向を定める印だ。
白い誓約は終わった。
だが白い制度は、今や国家の一部となった。
鐘が鳴る。
私は目を閉じる。
契約は人を縛る。
だが正しく交わせば、時代を支える柱にもなる。
11
あなたにおすすめの小説
出て行けと言ったものの、本当に出て行かれるとは思っていなかった旦那様
睡蓮
恋愛
ジーク伯爵は、溺愛する自身の妹レイアと共謀する形で、婚約者であるユフィーナの事を追放することを決めた。ただその理由は、ユフィーナが婚約破棄を素直に受け入れることはないであろうと油断していたためだった。しかしユフィーナは二人の予想を裏切り、婚約破棄を受け入れるそぶりを見せる。予想外の行動をとられたことで焦りの色を隠せない二人は、ユフィーナを呼び戻すべく様々な手段を講じるのであったが…。
白い結婚は終わりました。――崩れない家を築くまで
しおしお
恋愛
「干渉しないでくださいませ。その代わり、私も干渉いたしません」
崩れかけた侯爵家に嫁いだ私は、夫と“白い結婚”を結んだ。
助けない。口を出さない。責任は当主が負う――それが条件。
焦りと慢心から無謀な契約を重ね、家を傾かせていく夫。
私は隣に立ちながら、ただ見ているだけ。
放置された結果、彼は初めて自分の判断と向き合うことになる。
そして――
一度崩れかけた侯爵家は、「選び直す力」を手に入れた。
無理な拡張はしない。
甘い条件には飛びつかない。
不利な契約は、きっぱり拒絶する。
やがてその姿勢は王宮にも波及し、
高利契約に歪められた制度そのものを立て直すことに――。
ざまあは派手ではない。
けれど確実。
焦らせた者も、慢心した者も、
気づけば“選ばれない側”になっている。
これは、干渉しない約束から始まる静かな逆転劇。
そして、白い結婚を終え、信頼で立つ家へと変わっていく物語。
隣に立つという選択こそが、最大のざまあでした。
『婚約破棄?結構ですわ。白い結婚で優雅に返り咲きます』
鍛高譚
恋愛
伯爵令嬢アリエルは、幼い頃から決まっていた婚約者――王都屈指の名門・レオポルド侯爵家の嫡男マックスに、ある宴で突然“つまらない女”と蔑まれ、婚約を破棄されてしまう。
だが、それで終わる彼女ではない。むしろ“白い結婚”という形式だけの夫婦関係を逆手に取り、自由な生き方を選ぼうと決意するアリエル。ところが、元婚約者のマックスが闇商人との取引に手を染めているらしい噂が浮上し、いつしか王都全体を揺るがす陰謀が渦巻き始める。
さらに、近衛騎士団長補佐を務める冷徹な青年伯爵リヒトとの出会いが、アリエルの運命を大きく動かして――。
「貴族社会の窮屈さなんて、もうたくさん!」
破談から始まるざまぁ展開×白い結婚の爽快ファンタジー・ロマンス、開幕です。
《完結》氷の侯爵令息 あなたが子供はいらないと言ったから
ヴァンドール
恋愛
氷の侯爵令息と言われたアラン。彼は結婚相手の伯爵令嬢にとにかく冷たい態度で接する。
彼女は義姉イライザから夫が子供はいらないと言ったと聞き、衝撃を受けるが気持ちを切り替え生きていく。
心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。
しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。
理由は他の女性を好きになってしまったから。
10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。
意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。
ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。
セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。
あなたへの愛を捨てた日
柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。
しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。
レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。
「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」
エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる