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第二十八話 王太子の選択
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第二十八話 王太子の選択
初夏の陽光が王都を包み込む頃、王宮から一通の正式な招状が届いた。
差出人は王太子アレクシオス。
内容は簡潔だった。
「教育制度と継承法に関する意見聴取」
形式上は“助言”。だが実質は政治の核心だ。
修道院長として、私は出席を決めた。
王宮の謁見の間は以前と変わらない。だが、そこに立つ者たちの視線は明らかに違っていた。
もはや私は“離縁された元公爵夫人”ではない。
国家制度に影響を与える存在だ。
王太子は若い。だが目の奥は冷静だった。
「本日は率直な意見を聞きたい」
彼は言う。
「継承法改正案について」
議場には貴族評議会の代表たちも並ぶ。
私は一礼し、答えた。
「法は安定のためにあります。しかし、安定とは停滞ではありません」
「具体的に」
「能力を排除する制度は、短期的には秩序を守ります。ですが長期的には衰退を招きます」
ざわめきが広がる。
私は続ける。
「すでに教育制度によって、地方の税収は増加しています。女性領主の成功事例も出ています」
王太子は頷いた。
「数字は確認している」
彼は貴族代表に視線を向ける。
「君たちの懸念は理解する。だが我が国は拡張期ではない。再建期だ」
沈黙。
やがて一人の老侯爵が口を開く。
「王家は女子継承を認めると?」
「認めるかどうかではない」
王太子は静かに言う。
「選択肢を残す」
その一言で空気が変わった。
絶対男子優先は採用しない。
だが全面的な男女平等も宣言しない。
“裁量の余地”を残す。
政治的には最も現実的な落とし所だった。
会議後、王太子は私に個別で声をかけた。
「あなたは権力を欲しているのか」
率直な問い。
「欲しておりません」
私は答える。
「ただ、無駄を嫌うだけです」
彼はわずかに笑った。
「あなたが政治家にならないのは幸運だ」
「修道院の方が向いております」
「それが問題だ」
彼は低く言う。
「国家に影響を与える者が、国家の外にいる」
私は静かに返す。
「外にいるからこそ、均衡が保たれます」
王太子は何も言わなかった。
その夜、王宮から公式発表が出た。
継承法改正案は修正の上、再検討。
事実上の凍結。
貴族評議会は不満を隠せない。
だが正面から反発もできない。
王太子の支持率は上がっている。
教育改革の成果が民衆に実感されているからだ。
数日後、元夫ヴァルケンの噂が届く。
彼は新たな婚約を試みた。
だが相手の家は慎重だった。
「教育制度を支持しているか」
それが条件だという。
かつては血統だけで決まった婚姻。
今は思想も問われる。
白い結婚は、私を縛らなかった。
だがその解消は、国の価値基準を変え始めた。
修道院の庭で、若い修道女が問う。
「院長様、王太子様は味方なのでしょうか」
「味方ではありません」
私は答える。
「理解者です」
味方は変わる。
理解者は残る。
夜風が鐘楼を揺らす。
白い壁の向こうで、王都の未来が静かに動いている。
私は目を閉じる。
権力を握らずに影響を与える。
それが、白を選んだ者の戦い方だ。
初夏の陽光が王都を包み込む頃、王宮から一通の正式な招状が届いた。
差出人は王太子アレクシオス。
内容は簡潔だった。
「教育制度と継承法に関する意見聴取」
形式上は“助言”。だが実質は政治の核心だ。
修道院長として、私は出席を決めた。
王宮の謁見の間は以前と変わらない。だが、そこに立つ者たちの視線は明らかに違っていた。
もはや私は“離縁された元公爵夫人”ではない。
国家制度に影響を与える存在だ。
王太子は若い。だが目の奥は冷静だった。
「本日は率直な意見を聞きたい」
彼は言う。
「継承法改正案について」
議場には貴族評議会の代表たちも並ぶ。
私は一礼し、答えた。
「法は安定のためにあります。しかし、安定とは停滞ではありません」
「具体的に」
「能力を排除する制度は、短期的には秩序を守ります。ですが長期的には衰退を招きます」
ざわめきが広がる。
私は続ける。
「すでに教育制度によって、地方の税収は増加しています。女性領主の成功事例も出ています」
王太子は頷いた。
「数字は確認している」
彼は貴族代表に視線を向ける。
「君たちの懸念は理解する。だが我が国は拡張期ではない。再建期だ」
沈黙。
やがて一人の老侯爵が口を開く。
「王家は女子継承を認めると?」
「認めるかどうかではない」
王太子は静かに言う。
「選択肢を残す」
その一言で空気が変わった。
絶対男子優先は採用しない。
だが全面的な男女平等も宣言しない。
“裁量の余地”を残す。
政治的には最も現実的な落とし所だった。
会議後、王太子は私に個別で声をかけた。
「あなたは権力を欲しているのか」
率直な問い。
「欲しておりません」
私は答える。
「ただ、無駄を嫌うだけです」
彼はわずかに笑った。
「あなたが政治家にならないのは幸運だ」
「修道院の方が向いております」
「それが問題だ」
彼は低く言う。
「国家に影響を与える者が、国家の外にいる」
私は静かに返す。
「外にいるからこそ、均衡が保たれます」
王太子は何も言わなかった。
その夜、王宮から公式発表が出た。
継承法改正案は修正の上、再検討。
事実上の凍結。
貴族評議会は不満を隠せない。
だが正面から反発もできない。
王太子の支持率は上がっている。
教育改革の成果が民衆に実感されているからだ。
数日後、元夫ヴァルケンの噂が届く。
彼は新たな婚約を試みた。
だが相手の家は慎重だった。
「教育制度を支持しているか」
それが条件だという。
かつては血統だけで決まった婚姻。
今は思想も問われる。
白い結婚は、私を縛らなかった。
だがその解消は、国の価値基準を変え始めた。
修道院の庭で、若い修道女が問う。
「院長様、王太子様は味方なのでしょうか」
「味方ではありません」
私は答える。
「理解者です」
味方は変わる。
理解者は残る。
夜風が鐘楼を揺らす。
白い壁の向こうで、王都の未来が静かに動いている。
私は目を閉じる。
権力を握らずに影響を与える。
それが、白を選んだ者の戦い方だ。
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