白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾

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第二十九話 王冠と誓約

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第二十九話 王冠と誓約

 王都に凶報が走ったのは、夜明け前だった。

 国王陛下、急逝。

 鐘が三度、長く鳴り響く。

 白い霧のような沈黙が王都を覆った。

 私は祈祷室にいた。知らせを受け、ただ目を閉じる。

 国は、次の章に入る。

 数日後、王太子アレクシオスの戴冠式が執り行われた。

 大聖堂には貴族、聖職者、各地の代表が集う。

 修道院長として、私は最前列に座していた。

 彼は王冠を受け取る前に、誓約文を読み上げる。

「法の前に、私は国の第一の奉仕者である」

 その言葉に、微かなざわめきが起きる。

 奉仕者。

 支配者ではない。

 戴冠が終わると、正式な勅令が発布された。

 教育制度の恒久化。

 未亡人評議席の常設化。

 そして、継承法の柔軟運用。

 男子優先は維持する。

 だが“能力に著しい差がある場合”、王権は例外を認める。

 法は変わらない。

 だが解釈が変わる。

 それは静かな革命だった。

 貴族評議会は反発を試みる。

 だが民衆の支持は王にある。

 税収は増え、治安は改善している。

 反対する理由が弱い。

 その頃、ヴァルケンは王都郊外の邸宅にいた。

 彼の再婚交渉は破談。

 理由は曖昧だが、実際は明白だ。

 信用の問題。

 婚姻無効裁判の記録は消えない。

 そして今、王の政策に反対した家門は不利になる。

 彼はかつて、王太子の側近だった。

 だが新王は、彼を遠ざけた。

 王は修道院を訪れた。

 非公式。

 夜の訪問。

 随員は最小限。

「即位祝いではありません」

 彼は言う。

「確認です」

「何を」

「あなたは国家を望んでいないか」

 また同じ問い。

「望みません」

 私は答える。

「国家は王のものです」

「だが影響はあなたにある」

「影響は責任ではありません」

 彼はしばらく沈黙する。

「あなたが外にいる限り、私は暴走できない」

「それは良いことです」

 彼は笑う。

 若き王の笑みは、以前より疲れていた。

「戴冠とは孤独だ」

「白い誓約も孤独です」

 私は静かに言う。

「だが孤独は、判断を曇らせません」

 王は立ち上がる。

「あなたが修道院にいる限り、国は安定する」

「国が安定している限り、修道院も安定します」

 持ちつ持たれつ。

 公には語られない均衡。

 数週間後、地方から新たな報告が届く。

 女性領主の成功例が増えている。

 王は例外条項を初めて適用した。

 侯爵家の長女が正式に家督を継承。

 理由は明確。

 弟より能力が高い。

 前例ができた。

 白い壁の中で、若い修道女たちがざわめく。

「歴史が動いています」

「動いていますね」

 私は庭を歩く。

 花が咲く。

 変化は、叫ばない。

 静かに根を張る。

 白い結婚は、終わった物語だ。

 だがその解消は、王冠の在り方をも変えた。

 夜、鐘が鳴る。

 王は孤独。

 修道院も孤独。

 だが二つの孤独は、互いを牽制し、守っている。

 白は、逃避ではない。

 均衡だ。
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