白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾

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第三十話 白の領域

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第三十話 白の領域

 秋の風が王都を抜け、修道院の石壁を静かに撫でていく。

 王の戴冠から一年。国は表面上、穏やかだった。

 税収は安定し、地方の反乱もない。教育制度は定着し、女性領主の前例も増えた。

 だが、平穏は常に揺らぎの上にある。

 その兆しは、北方から届いた一通の報告書にあった。

 隣国が国境付近で兵を増強しているという。

 表向きは演習。

 だが規模が大きい。

 私は報告書を閉じる。

 修道院は政治の外にある。

 だが情報は自然と集まる。

 王は数日後、公式に諸侯会議を招集した。

 私は招かれない。

 だが、呼ばれなくても分かる。

 戦は財を食う。

 そして財は、教育と改革を削る。

 夜、王から密書が届いた。

「助言を求む」

 簡潔な文。

 私は返書を書く。

「戦は避けるべきです。ただし、避けるための準備は怠らないこと」

 翌日、王宮では軍拡を主張する声が高まった。

「弱さを見せれば侵攻される」

 だが王は即断しなかった。

 代わりに、外交団を派遣する。

 交渉の席に立ったのは、女性領主の一人だった。

 商業都市を繁栄させた実績を持つ。

 武力ではなく、交易を武器に。

 隣国は戦より利益を選ぶ。

 港湾の使用権。

 関税の優遇。

 軍は引いた。

 戦は起きなかった。

 修道院の庭で、若い修道女が呟く。

「武力を使わずに勝ったのですね」

「勝ちではありません」

 私は答える。

「損失を避けただけです」

 白は剣を持たない。

 だが、戦を遠ざける力は持つ。

 その頃、ヴァルケンは北方にいた。

 王宮から遠ざけられ、辺境の監察職に就いている。

 名目は信頼回復の機会。

 実質は左遷。

 彼は国境で軍を見た。

 戦の匂いを嗅いだ。

 かつての彼なら、武功を求めたはずだ。

 だが今は違う。

 報告書を書き、慎重を訴えた。

 皮肉なことに、その報告は王の外交判断を裏付けた。

 彼は国を守った。

 だが名は出ない。

 白い壁の中で、私は静かに考える。

 白い結婚は、私を戦から遠ざけた。

 だが白い立場は、戦の外から均衡を保つ。

 数週間後、王は修道院を公式訪問した。

 公の場で言う。

「修道院は国家の良心である」

 拍手が起きる。

 私は一礼する。

 良心は、権力を持たない。

 だが、権力に鏡を向ける。

 夜、鐘楼に立つ。

 王都の灯りが遠く揺れる。

 白い誓約は、剣を振るわない。

 だが白の領域は、確かに国を包んでいる。

 戦わずして守る。

 それが、この道の意味だ。
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