白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾

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第三十一話 綻びの噂

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第三十一話 綻びの噂

 冬が近づき、王都の空気は鋭く冷え始めていた。

 修道院の書庫には、北方からの報告書とともに、別の種類の書簡が増えている。

 匿名の告発。

 内容は共通していた。

「修道院は王を操っている」

「教育制度は教会による国家支配の布石だ」

 噂は静かに広がる。

 広場の酒場、貴族の夜会、商人の取引場。

 白は清廉の象徴だが、同時に恐れの対象でもある。

 見えない力は、誤解を生む。

 私は書簡を机に置く。

 焦りはない。

 だが放置はしない。

 未亡人評議席を招集する。

「反論はしません」

 私が告げると、幾人かが驚いた顔をする。

「沈黙ですか」

「違います。透明化です」

 修道院の財務、寄付の流れ、事業の収支。

 すべて公開する。

 白に影はないと示す。

 数日後、修道院の収支報告が王都に貼り出された。

 収入。

 支出。

 教育への再投資。

 利益の分配。

 民衆は数字を見る。

 難解だが、隠し事は感じられない。

 同時に、王宮も動いた。

 王は諸侯会議で言う。

「修道院は王権の下にない。だが敵でもない」

 均衡を再確認する。

 噂の発信源はやがて絞られる。

 保守派貴族の一派。

 彼らは影響力を取り戻したい。

 直接対立は避ける。

 代わりに、地方での成功例を増やす。

 女性領主の領地がさらに繁栄する。

 教育を受けた農民が収穫量を増やす。

 数字は嘘をつかない。

 一方、ヴァルケンは王都に戻っていた。

 北方での慎重な報告が評価されたのだ。

 だが社交界の視線は冷たい。

 彼は噂を聞く。

「修道院が王を操る」

 彼は笑う。

「操れるなら、私は今も公爵だ」

 皮肉。

 だが彼の中にあるのは諦めではない。

 自分の失敗を理解している。

 白い結婚は、彼の敗北ではなく、未熟の証だったと。

 修道院の庭で、若い修道女が問う。

「院長様、なぜ攻撃されるのですか」

「影響があるからです」

 私は答える。

「影響がなければ、誰も恐れません」

 夜、王からの短い書簡が届く。

「噂は気にするな。私は揺らがない」

 私は返す。

「揺らがぬ姿勢が最良の反論です」

 冬の鐘が鳴る。

 白は完璧ではない。

 だが透明であれば、濁りは沈む。

 噂はやがて力を失う。

 そして残るのは、実績だけだ。

 白の領域は揺れた。

 だが崩れない。

 均衡は、静かに保たれている。
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