悪役妹は仲裁人じゃありませんよ!

お好み焼き

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本編 ※R18

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私、ルルベル・カサース伯爵令嬢は姉のスカーレットの恋路を邪魔する、前世で読んだ官能小説『白の侯爵と黒の騎士に手折られて』に登場する悪役妹である。

具体的には姉の婚約者である美貌のサイラス侯爵に執着し、サイラスの愛と侯爵夫人の座をなんとかして奪おうと悪事を働くキャラ……に転生したのだが。

「ルルベル! 貴様は何故そうやって私達の仲を邪魔するのだ!」

邪魔してない。
決して邪魔はしていないのだが……だからこそ姉のスカーレットとサイラス侯爵はなんの弊害もなく原作より3年も早く結婚して今は夫婦なのだが……。

「ルルベル! サイラスの言葉など聞かなくてもよいのです! だから離縁成立に力を貸して下さい! あと一人、あと一人の貴族の署名があればわたくしは離縁できるのです!」
「よせ! スカーレット、君は私の妻で、私の妻は生涯君だけだ! 離縁など望んでいない!」
「仕事にかまけて年に数回しか帰ってこない夫など、夫と認めたくありません!」
「それはっ……」

サイラスが眉を下げた。
双方に沈黙が訪れる。
そこで私は口を開いた。

「お姉様はお義兄様が側にいなくて寂しいのですね。ならばお姉様も王都についていったらよいのでは?」
「そ、それは駄目だ! ルルベル、余計なことを言うな!」

バン!と目の前のテーブルに振り落とされたサイラスの拳。
私の紅茶が少し零れてしまった。
よくない傾向だ。また興奮したサイラスに熱い紅茶をぶっかけられる可能性がある。
客室の隅にいる私の護衛騎士、サムに目配せをすると、彼は黒い前髪から覗く碧眼に警戒心を宿した。

「……ほら、ね? この男はそういう男なのよ。わたくしだって何度も妻として侍るとお願いしたわ。けれど『既に嫁いだ身で夫の領地から離れるなど、女主人にあるまじき行為だ』と、聞き入れてくれなかったわ」
「そ、それは王都に留まれば社交界へ顔を出す必要があるだろう、そしたらまたあの羽虫どもがスカーレットに寄ってくる!」
「わたくしが不貞を犯すとでも!?」
「ち、違っ……」
「貴方こそ妻を放っておいて王都で一体何をしているのかしら!」
「な、何だと?」
「お義母様からも『子を成すどころか夫から省みられない女など妻にあらず。後継の為にもサイラスに妾を持つことを許す』と言われたのよ。その時のわたくしの気持ちが、貴方にはわかって?」
「妾を持つ気はない! 母上の妄言だ! こ、子供については……今は仕事が忙しいし、それに子供に君をとられたくない! 新婚旅行だってまだなのに! スカーレット……愛しているんだっ……頼むから離縁なんて言わないでくれっ」

そう。
この二人は結婚二年目。
なのにまだ蜜月すら過ごせていない。
精神的にも限界なお姉様が泣き出した。

私は内心うんざりしつつも仕方なく二人の間に入った。

「お義兄様、仕事が忙しいのは仕方ないとしても、女には出産適齢期という期限があるのです。しかし蜜月には期限がありません。ここは子を成すのを優先し、お姉様が領地で子育てに奮闘している間に、お義兄様は王都での仕事を片付ければよいかと。子育てが落ち着く頃には、仕事も落ち着いているかと。旅行うんぬんは愛があればその後いくらでも堪能出来るかと」

そう言うとお姉様は泣き止み、サイラスは青ざめた。

「そうよ! それならお義母様にも嫌味を言われないで済むわ! わたくしも子供がいれば寂しくない! ルルベル、なんて素晴らしい解決策なの!」
「やめろおおお! 私に、妻にも子にも会えず、王都で一人寂しく働けと、そう言うのか!? ルルベル、貴様は本当に余計なことしか言わない! この疫病神め!」

サイラスが目の前にあるカップを持ち、その中身を私にぶっかけようとして、素早く盾になったサムが熱い紅茶を被った。その光景に胸が痛んだ。泣きそう。

「っ、な! 邪魔をするな!」
「私はルルベルお嬢様の専属護衛です。いくら侯爵といえどお嬢様を傷つける者には容赦しません」

サムが腰に吊った剣を抜いた。
お姉様が慌ててサムに駆け寄る。

「いけないわ、サムウェル! わたくしの為にそこまでしないで!」
「サムウェル貴様! 私のスカーレットにまだ未練があるというのか!」
「話が噛み合わないのはいつも通りですね。ルルベルお嬢様、お部屋に戻りましょう。そろそろオヤツとお昼寝の時間です」
「う、うん」



私の護衛、サムウェル。
通称サム。黒騎士として実力のある騎士だ。お姉様の護衛だったが、サイラスがお姉様とサムの関係を怪しんだことにより、それを払拭するため私の護衛になった。

原作でもお姉様が結婚した後にサムが私の護衛になる話が出る。その展開としてはサムは私の騎士になんかなりたくないと言ってお姉様の専属護衛を続けるのだが、何故かあっさり私の護衛になった。
それも原作とは齟齬のある言動をしてきた。

『助かりました。スカーレット様に仕えるのは、心底疲れていたので……』
『え』

貴方はお姉様を性的に手折るほどお姉様に執着してるキャラなのに、と言葉が出なかった。

『ああ、不敬をお許し下さい。しかし私は……ずっとあの二人の仲裁人を務めるルルベル様を見てきました。賢く、気高く、自身を犠牲にしてまで清濁併せのむ貴女のような方が主ならと……何度夢見たことか。お察しして頂けたら幸いです』
『えええっと……その、姉がいつもすみませんでした。お義兄様も誤解しているんです。落ち着いたら、また戻って頂いて構いませんので』
『……はい。ではこれから末永くよろしくお願い致します』
『えっと……では1ヶ月ほど期限を設けましょうか。その間にお姉様もお義兄様も情緒が戻るはずです』
『戻らないと思いますので、末永くよろしくお願い致します』
『…………えーっと、その』

大きな手で両手を包まれて固まる。鍛えられた騎士の手は、ゴツゴツしていて熱い。それ以上にいま顔が熱い。

『スカーレット様は私が自分に固執しているとサイラス侯にうそぶいておられます。恐らく嫉妬させる為だったのでしょう。それをサイラス侯が信じたことで、スカーレット様も後に引けなくなったのかと。なのでここは私が引くのが穏便かと』

うそぶいているというか……原作の貴方はお姉様を愛していることを隠しもしないキャラなんですが。

『その、……本当にすみません。なんとかしてサムウェルさんを元の地位に戻させますので』
『私は侯爵夫人の騎士よりも、ルルベルお嬢様の騎士になりたいのです。それにサムウェルだなんて他人行儀はやめて下さい。貴女の騎士になったのですから、サムと呼んで下さい』
『令嬢が護衛を愛称で呼ぶのは色々と問題があるので』
『二人きりの時だけでいいんです』
『それこそバレたらなおさら問題になるので』
『私はバレても全然構いませんので』
『護衛対象のお手付きと判断された騎士は信頼と地位を失います。貴方は黒魔法が使える貴重な黒騎士なのですから、もっと自分を大切にしましょうね』
『つれない人だ』
『っ、そんな目で見ないで下さい!』

原作の流れどころか、本来のサムの性格とも違っていてあの時は大きな歪みのようなズレが発生していた。

私の護衛となったのがその原因かと思い、出来るだけ早くサムをお姉様の護衛に戻そうとしたが、それは叶わなかった。

サムをお姉様の護衛に戻そうとすると、サイラスが『スカーレットを奪う気か!』と騒ぎ出すのだ。なら二人はもう結婚でゴールインしたし原作の流れはもういいやと正式に私の護衛にしたら、それにもサイラスは反応して『そのような者はクビにするのが妥当!なのに傍らに置くとは、ルルベル貴様やはり私達の仲を引き裂こうと企てて(略)』と騒ぎ出した。

なんだろう、これ。
物語の強制力ってやつ?
しかしサムに毛嫌いされる筈の私ルルベルは、ちょっと距離が近すぎるんじゃないかと危惧するくらい、サムから過保護に接されている。

「さあルルベルお嬢様、紅茶が飲み頃です」
「う、うん」

火傷しないようにとふーふーされていたカップに口をつけると、本当に飲み頃だった。前世でも猫舌だったので、温めがちょうど良い。

「……ねぇ、やっぱり火傷してるかもしれないからちゃんと冷やしてきてよ」
「してません。黒騎士が熱い紅茶ごときで火傷するわけないでしょう」
「で、でも……」

隣に座っているサムがバナナ入りのチョコケーキを切り分けている。一口だいのそれをフォークに刺し、笑顔で私の口元に寄せてくる。

「あーんです、お嬢様、あーん」
「いや、ほんと、こういうの、やめませんか?」
「仕方ないですねぇ」

サムがパクっとケーキを口にして、私に口移しした。

固まってしまったのは否めない。
後頭部を掴まれて動けなかったのもある。
それ以上に嫌悪感が無いのが受け入れてしまった最大の要因だと思う。

とにもかくにもケーキに罪はない。
バナナもチョコも私の大好物だ。
いつもより美味しく感じるのは、きっといつもよりお腹が空いていたせい。

「……ほんっとうに、こうゆうの、やめませんか」
「お嬢様に隙があるからです」
「……」
「本当に嫌なら突き放すなり解雇するなりすればいい。それが出来ないからこんな男につけ込まれる」
「……」
「どうせ今も適当な理由をつけて私の好意を無かったことにしているのでしょう? ケーキが美味しいから食べ方なんてどうでもいいとか、考えてるんでしょう?」

上目遣いで三白眼になったサムの碧眼が厭らしい色を帯びる。いつもは勤勉で、高潔で、融通がきかないほど職務に一直線なサムが、唯一私にだけ見せる俗物な視線。思わずカップをサムに押し付けて迫り寄る距離を保つ。

「……そんな目で見ないで下さい! 貴方はそんな人ではない筈です! ほら、これ飲んで落ち着いたらもう定位置部屋の隅に戻って下さい!」

私に押し付けられたカップから一口飲んだサムは、飲んだと見せ掛けてまた口移ししてきた。

「ん、ぐぅー!」

後頭部を掴まれて頭が背後に反る。合わさった唇に気持ち良さまで感じて諦めてごくんと喉を鳴らすと、解放された唇をぺろぺろと舐められた。なにこれ。

「……過保護も度を越すともはや餌付けされている雛の気分を味わえます」
「言っておきますけどまともな令嬢は護衛を隣に座らせたりしませんし、同じカップに口をつけることも許しませんよ……愛がない限り」

そんなん言われても……。
ヒナ鳥じゃあるまいし好意が無ければ口移しなんて受け入れませんて。ああもう。

ぺろぺろと唇を舐められて力無くソファーにもたれた。

「さて、そろそろお昼寝の時間ですね。少し肌寒くなってきたので靴下をはいて寝ましょうね」
「う、うん」

その前に部屋の端にある魔道具に魔力を注ぎ込み、屋敷一体に燃料となる魔力を流す。魔力とは、私の前世でいう電気やガソリンみたいなものだ。

私は魔法は使えないが、お母様譲りの潤沢な魔力を受け継いだ。お姉様が嫁いだのでこの屋敷の仮女主人である私がここで働く皆の為に動力を補充しておかなければいけない。

貴族とは、やる事が多い。
日中お茶菓子を食べるのも、魔力の回復速度が早くなるからだ。とくに天然の果物や蜂蜜などの糖分にはそれなりの魔力が含まれているので、魔力持ちは好んで食べる。

「お嬢様。毎日のように補充しなくともよいのですよ。使用人の中には補充の為だけに雇われた者もいますから」
「……うん」
「さ、お昼寝をしましょう」

そして午後の昼寝も、使った魔力を円滑に回復させるのに役立つ。前世ではオヤツと昼寝にそんな大事な意味と目的もなかったから、この世界に転生してからは驚くことばかりだ。

着替える為にクローゼットを開けると背後からぬっと現れた手が私の胸元にあるリボンをほどいた。
ワンピースのボタンが外されていく。

「お嬢様、腕を上げて下さい」
「ほんと、こういうの、だめですって」
「はい脱げました、いい子ですね」

肩を掴まれてくるっと反転させられる。シュミーズまで脱がされてドロワーズ一枚になった。
その上から寝間着が被せられた。頭に通されたので、次は腕を通さなければならない。

「ほらお嬢様、腕を上げて下さい」
「う、うん」

胸を隠していた手をずらすと、片腕ずつ裾を通された。淡々としている。目線だって胸を見ていない。至って普通だ。

「……サ、サムは別に私を異性として意識してるわけじゃないんでしょ?」
「お嬢様が恥ずかしがるので、こういう時は極力淡々と熟すようにしているだけです。素知らぬふりしてお嬢様の胸の飾りは毎回目に焼き付けていますよ。右だけ可愛く陥没しているのも知っています」
「…………っ、っ、うるさい! しね!」
「……そんなに頬を染め、声を荒げ、目を潤ませて。やめて下さい。最中もこうなのかと想像してしまいます。ああ組み敷きたい」
「ひっ、ごめんなさっ……!」
「だからやめて下さい。どれだけ私を煽るんですか」

物凄く忌々しげに睨み返された。
思わず俯くとサムの股間にテントが立っていた。その光景に血の気が引いて、ちらっと視線を上げると、サムが口を半開きにさせ熱い眼差しで私を見下ろしていた。

「……あ、あの?」

声をかけてもサムから反応がない。思わずまた俯きそうになるも、俯いたらまたテントが視界に入ると目を泳がせた。

「訂正してくれませんか?」
「……え」
「先ほど、なんと仰りました?」

声が低い。
我慢できず俯くと、先ほどよりも大きく張ったテントが視界に入った。

「いえ、あの、その……サムは、私を、異性として、意識して、くれて、いるようです?」
「その通りです。ああ泣かないで。怯えさせるつもりはなかったんです。ああほらもう、零して勿体ない」

涙が伝う頬を舐められた。
背筋がゾクゾクして、下腹部が疼く。男性物の香油が鼻腔を擽る。サムの体臭と混ざって、なんていい匂いがするんだろう。でも……。

「私は! そんなにいいもんじゃないです! 固執してもなんの得もありませんよ!」
「……その言葉そっくりそのままお返しします」
「……」
「お嬢様は可哀想です。私のような騎士に執着されて、こちらに焦がれるよう操作されて、無知で、純粋で、なんて可愛らしいんでしょう」
「……」
「その大きな碧眼も、見事な黄金色の髪も、真っ白な柔肌も、豊かな胸元も、手折れそうに細い腰も、全部、余す所なく、全てを私のものにして閉じ込めたいんですが、お嬢様はどうお考えですか?」

どうって……。
超絶美形な騎士にそんなん言われて落ちない私じゃないよ。なんせ美少女に転生したとはいえ、前世から何も変わらず単細胞なんだから。

「……っ、サムは……格好いいよ。私は……見た目は上玉だって自覚あるし、性欲がわくなら別にしてもいいけど……ちゃんと私を見て好きになってからして欲しい。顔だけは可愛いし、胸だってでかいから、サムはそれに惑わされて、んぐぅ!?」

噛みつくように口付けされて、思いきり舌を吸われた。後頭部を鷲掴みされて、息が出来ない。不意に右胸を揉まれ、その危うげな感覚に背筋に焦燥感が走る。

「ひっ!」

胸元の寝間着をずらされ、陥没してる右胸だけポロリした。そこにサムが顔を近付けていく。

「さ、サムっ……だめっ」
「……」
「ああっ!」

右胸の先に衝撃が走……らなかった。
舐められるのかと思ったらただ熱い息を吹きかけられただけだったから。

「……もう!」
「……主の許可もなくしゃぶったりしませんよ。して欲しいなら、話は別ですが?」
「………………陥没してるからやだ」
「……はぁ。仕方ありませんね」
「っ、きゃう!?」

ずるっと寝間着の胸元をずらされ、両胸がポロリした。サムが私の左胸に顔を埋めて舌で先端を転がした途端、腰が抜けるような強烈な快感が全身をかけ巡った。
じゅるじゅると音を立てて吸われ、声にならない悲鳴が喉元で詰まる。きつく吸い上げられ、先端を甘噛みされて脳天に電流が走った。ずるずると落ちるように膝が崩れていく。気付くとサムに片手で口を塞がれていたのを解放され、息を吐いた。

「就寝中は声すら上げずに達するのに、やはり起きていると反応が格別ですね」
「……へっ?」
「お嬢様、以前は両胸が陥没していたでしょう? 何故、今は左胸だけ陥没していないと思います?」
「…………」

そんな、まさか、ばかな。
でも……確かに前は両胸とも陥没していた。そして左胸だけ陥没がなおったのは、サムが私の護衛騎士になってからだ。ただ胸が成長しただけと思っていたのに。

「あ、主の許可もなくしゃぶったりしないって、さっき言ったのに」
「主の許可もなくしゃぶったりしませんよ。でも、寝てる主からは許可も拒絶も窺えませんから」
「……へ、変態! きゃう!?」

またじゅるじゅると音を立てて吸われ、達したばかりの体が熱くなる。

「んあ、も、やめっ」
「可愛い……片方だけ、こんなに尖らせて」

舌で舐られ歯を立てられた。先端が気持ちよくて膝が震える。太股をこすり合わせてしまう。

「あああっ! それ、だめっ、サム、だめぇ」
「だめなのはこちらの方です」

一体寝てる隙にどれだけ調教されてきたのか。私の体は二度目の絶頂を迎えて、ドロワーズをびしょびしょに濡らした。

「さ、またお召し替えしませんと」
「っ、……ぅぅ」
「その前に綺麗にして差し上げます。ああ、そのままでよろしいですよ」
「な、っ、きゃっ、ぁあああ、」

膝裏を持ち上げられ、ドロワーズを剥ぎ取られた。そこにサムの顔が埋まる。あとはもう、落ちるように快楽の絶頂を重ねていくだけだった。もう達したくないのに、体は絶頂を求めて太腿でサムの顔を挟む。その度サムが嬉しそうに低い声で笑い、もっとと掴んだ太腿を自身の顔に押し付ける。内腿が熱い。指で中を弄られている間に何度も内腿をきつく吸われて、股関節がガクガクしてきた。

「……ほんと、もう……やめませんか、っ、んあ」
「私の中指を飲み込んで離さないとばかりに締め付けているのはお嬢様でしょう」
「や、イって、まだ、イっ……ぁあ」
「こんなに欲しそうにきつく絡み付いて離さないのはお嬢様でしょう」
「やめっ、あっ、だめ、む、り」
「無理なのはこちらの方だと、何度言ったら解ってくれるんです?」
「違っ、だか、も、う、い、挿、れません……か……無、理……」
「…………」


それから後のことは、しつこくねちこく攻められ、朦朧としたまま時間は怒濤の如く過ぎて……。
意識がはっきりした時には明け方になっていた。

お股が痛い。
お腹に鈍痛が走る。
腰の感覚がない。
背中が筋肉痛。
全身の脱力感が凄い。

「……初体験後の朝って、もっと甘いものだと思ってました」
「…………私も、昨夜は泣きじゃくるお嬢様を善がらせて更に泣かせようと思っていましたが、悲痛に零れた涙を見たら……」

昨夜は散々慣らされた筈が挿れて5秒で泣き喚いて抜いてもらった。それからはずっと、サムに後ろから抱き締められている。押し付けられたサムのサムも勃ってない。嘘のように落ち着いている。

「ン、っ」

あれ? シーツに擦れる胸の感覚に、違和感がある。見ると両胸とも先端が立っていた。右胸は陥没していない。

「…………寝てる隙に何かしました?」
「起きてる内にナニはしましたが?」
「いや、だって、これ」
「お嬢様が優秀だからでしょう。淫乱すぎて目が離せませんね」
「なに言っ……ぁあ!」

右胸を指で弄られ、もう片手が下肢に伸びてきた。

「……ああ。入り口がもうこんなにほぐれて、何度も伸縮を繰り返していますね。やはりお嬢様は優秀です」
「痛、っ……そこは、ヒリヒリ、する、から」
「……ここは後々の楽しみに、そう考えず早々に慣らしておけばよかった。こちらは、とても敏感に育ったんですがね?」

指が抜かれてその上の敏感な箇所を皮まで剥かれて指の腹でぐりぐりされた。もう抵抗する言葉もでない。涙しか出ない。頭が真っ白で、達することしか考えられない。サムのサムが私のびしょびしょになった割れ目に押し付けられて、脈打つその逞しさに下腹部が痛いほどに疼いた。

「……イっ、く、んっは」
「涙と快楽を滲ませたそのお顔は、私にしか見せませんように……誘拐されますよ。させませんけどね」
「っ、あ……イく、いくって……!」

絶頂と同時に、中に挿入された。
あまりの気持ちよさにサムのサムを締め付けてしまう。達した余韻に浸ろうにも、中を突き上げるようにえぐられて目がチカチカした。お股から粘ついた愛液ではないさらっとした水分が出てきて、それはサムが抜き挿しを繰り返す度にプシュプシュと恥ずかしい音を立てて太腿を伝った。下腹部がゾクゾクして、いつまでもこの余韻に浸っていたいと頭がぼうっとなる。

「……あ……あ、あ」
「やはりお嬢様は優秀です」
「なん、で、私……漏らし、」
「それはお嬢様が優秀だからです。体の相性の良し悪しは都市伝説なのでまあ私も優秀なのでしょう。どこまでも淫乱なお嬢様には敵いませんが?」
「ッなんでも優秀優秀ってまさか小馬鹿にして、っひゃあ!」

繋がったまま肩と膝を掴まれて押し倒された。サムがのし掛かり、中に挿ったサムのサムが一番奥に突き立てられた。

「ん、ぁあっ! 痛い!」
「私も痛いほど根元が締め付けられてますよ。このまま中に出してしまいましょうね、っ」

余裕の無いサムの鋭い碧眼にお腹がゾクゾクする。

「ああっ! 熱いっ、サム……あつい! それっ、……それやめてぇ……ん!」

唇を塞がれて舌を絡め取られた。ガツガツと腰を打ち付けられ、脈打つサムのサムが中で大暴れしている。それでいて後頭部を撫でる手は脳みそそのものがうっとりとしてしまいそうになるほど優しい。前世で友達に聞いた通り、男は本当に頭と下半身が別の生き物なんだと痛感させられた。

「っ、はぁ……はぁ……ぅ、あ」
「出、しますよ」

サムが上半身を起こし、私の両膝裏を掴んで大きく開かせた。その直後に中でサムのサムがビクビクと鼓動した。しつこく奥に擦り付けられて背中が跳ねる。その後口付けられ、繋がったまま舌を絡ませ合った。首に腕をまわして、汗の流れる肌を擦り付け合う。最後までして、中出しされて、凄いことをした後なのに、今してるこの口付けの方が官能的でとてもいやらしいなと冷静に考えてしまった。

「……すご、い……これが、セックス」
「………………何が凄いんですか? もしかしてセックスという名の男と私を比べてます?」
「ひゃ、ぁあ! 違っ、おっきくさせない、でっ、違っ、セックスとは性行為のことです! 今までしたことなかったから、こんなにいやらしくて、気持ちよくて、どうにかなってしまいそうなほど凄いのかと、ぁああっ! なんでまたおっきくするのお!」
「それはお嬢様が優秀だからです。事後の褒め方なんてまだ教えていませんよ。本当にセックスという名の男は存在しないんですね?」
「いなっ、名前じゃなっ、セックスは性行為なのおー!」
「なんていやらしい。先ほどから性行為性行為と連呼して、そんなに私のナニがお気に召したんですか? おかわりしますか?」
「っひゃあ、もう無理、ムリ、むりいいい!」
「無理なのは私の方です」


その後のことは、意識がはっきりとしていなくてあまり記憶が定かではない。

その日の夕方。
ベッドで目覚めたら体は清められていて、部屋着とガウンを纏っていた。そして騎士服を着たサムがお父様とソファーで何か話し合っていた。

「──そろそろ私もグリダス家を継がなければならないので」
「……そうだな。こちらは跡継ぎは急かさないが、婚姻の話とその準備は進めておこう」
「ありがとう存じます、お義父様」

グリダス家って……初代暗黒騎士を輩出したこともある天下のザナンド辺境伯家、その分家じゃん。一国に値する領土と、公爵と同等の地位があるザナンド辺境伯家。その分家であるグリダス伯爵家は、伯爵家の中でも第一位に位置する。伯爵家ながら財力と武力と権力においては侯爵と同等の力がある。伯爵家第四位の当家とは箔が違う。

サムがそのグリダス家を継ぐって、一体どういうこと? だってサムは貴族じゃなく騎士爵の家柄だ。

その時、突然ドアが乱暴に開いた。

「ルルベル、一体どういう事だ! サムウェルと既に婚約しているなど、一切聞いていないぞ!」
「そうよ! それにサムウェルはわたくしの騎士よ! 貴方まさかルルベルと婚約してまでわたくしにやきもちを妬かせたかったの!?」

サイラス侯爵とお姉様が部屋に怒鳴り込んできた。でもお父様の顔を見て、二人ともさっと青ざめた。

「お父様……領地にいる筈じゃ……」
「スカーレット、里帰りも大概にしなさい」
「だ、だって……ここはわたくしの実家なのよ? お父様もわたくしの顔が見れて嬉しいでしょう?」
「はぁ……孫の顔が見れるならともかく、既に嫁いだ娘がなんの朗報もなく会いに来ても嬉しくも何ともないぞ。それにここは実家じゃない。領地にある伯爵邸が実家だ。そんなに実家が恋しいなら次から領地に里帰りしてきなさい」
「っ、」

お父様の言葉にお姉様が黙った。

「サイラス侯も、義妹の婚約など気にせず早くスカーレットと子を成しなさい」
「……し、しかし仕事が忙しく」
「スカーレットをタウンハウスに留めればいい」
「それではスカーレットが社交界で男達に狙われてしまいます」
「どうやってだね?」
「え?」
「領地にいるスカーレットを、王都にいる連中が誘い出すことは出来ないだろう? それに領地にいるスカーレットに、わざわざ王都でお茶会をしようと招待状を送る馬鹿がいるか? どんな誘いがきても妻は王都にいないと撥ね除ければよいだけのこと。君は馬鹿ではないのに、何故それをしないのかね?」
「…………」
「それとも質問を変えようか? このままスカーレットと白い結婚でいたいのは、なんとか理由をつけてルルベルに乗り換えたいからかね?」
「っ、な!」
「熱い紅茶をかけて、ルルベルを傷ものにして、なら自分はまだ白い結婚だから責任を取るとルルベルを娶ろうと企てたね? サイラス侯の従者が全て暴露したよ。彼もルルベルを娶りたかったから、なんとしてでもその企みを阻止したかったんだろう。主に似て浅はかな男だ」
「…………」
「貴族にとって沈黙は肯定だ。さあ、二人とも出ていきなさい。今はグリダス卿と大事な話をしているのでね」

淡々と言われたサイラスが俯いた。
ってサイラスが私狙い? まさか……大嫌いだと言って熱い紅茶をぶっかけてくるような人だ。あれは原作通りの流れだし、今までの態度からしてみても、私狙いだなんて絶対に有り得ない。

「……伯爵、話を聞いて下さい。私は、」
「私は苦労人のルルベルを君のような傲慢な男にも、主を裏切るような男にも嫁がせるつもりはない。話は終わりだ。出ていけ」

そこでお姉様が声を荒げた。

「お父様、わたくしが間違っていましたの! サイラスではなく、サムウェルを選べばよかったと、後悔しているのです! だから、どうか……」
「スカーレット。選べただけまともな人生だと思え。私の姉は武力と引き換えに南蛮族の長に売られ、残った妹達は家の為に老いぼれの後妻となった。妹達は全員、嫁いで5年以内に亡くなった。姉は休む間もなく次々と蛮族に子を宿され、七回目の出産後に儚くなった。父上を恨まずにはいられないほど、哀れな最後だったよ」
「…………」
「それでも出戻るというのなら、それ相当の覚悟をして戻ってこい。貴族の娘として有効に再利用してやる。あとグリダス卿はルルベルを伴侶と決めた。出戻る理由が彼なら、離縁は絶対に認めん。諦めろ」
「お、お父様……! わたくしは……お父様が愛したお母様に似たわたくしは、ルルベルと違って、お父様は誰よりも優先して溺愛してくれていたはず! なのに何故、そのように残酷なことを仰るの! わたくしはお父様の娘なのよ! ルルベルなんて、平民の後妻に生ませた庶子じゃない! 貴族として機能してないも同じことよ!」

…………そうなんだよね。
私……ルルベルは、愛人同然の母から生まれた、跡継ぎにはなれない庶子だ。それを直接言われると辛い。お姉様とは、上手くやってきたつもりだったんだけど。

この家の使用人の半数も、私が魔力を補充することによい顔をしない。ただの庶子が、女主人気取りかと詰められたこともある。でもそれについては、魔力を補う為に雇われた魔術士が過労死しそうなほど搾取されていて、見ていられなかったからだ。それを使用人と魔術士の間に入って説明しても庶子のくせに労働時間に口を出すなどやはり女主人気取りなのかと更に反発された。
だからもう、何も言わずに勝手に補充をする。それに徹した。仲裁すればするほど、シングルマザーである魔術士の立場も悪くなると解ったから。庶子って辛い……。

不意に肩を抱かれて、顔を上げるとサムがいた。

「ああもうほら、泣かないで。お嬢様は私の妻となり、グリダス家の女主人となるのですから、憂いを感じる必要はないのですよ」
「…………う、うん? 婚約はいつしたの?」
「護衛になると同時に婚約しましたよ」

それがよく解んないんだよね。
一体何がどうなってそうなったのか。
サムとの婚約すら今まで知らされてなかったんですけど……。

お父様を見ると、いつも通り淡々とした声で言われた。

「ルルベルの母は、初めこそ悪妻だったが、ルルベルを生んでしばらく経つと立派な女主人となった。心から愛していたよ……今でもあの温もりを思い出して辛い夜もある。ルルベルはその妻によく似て、善良な人間だ。可愛いと思うのは当然のこと」
「……ど、どうも」

5年前、私が12歳の時に流行病で亡くなった私のお母様は、最初こそ潤沢な魔力量を盾に暴威を奮う悪妻だったが、なんとか私が軌道修正した。お母様を一杯褒めて、毎日可愛い、綺麗、美人、大好き、世界一のお母様だと拙い声で褒めちぎった。結果、お母様は角が取れて良妻賢母になった。

「……今まで肩身の狭いおもいをさせてすまなかった。使用人からも反発されていただろう? お前を仮女主人にした私のせいで、辛いおもいばかりさせてきた。だから私は、お前を大事にしてくれるグリダス卿に嫁がせるつもりだ。嫌ではないかね?」
「……は、はい。よろしくお願いします」

お父様にこんなに真っ直ぐに見つめられて会話したのは初めてのことだ。いつもはお姉様に気を遣って、私とお母様は後回しだったから。お母様もその方が平和に暮らせると言っていたし、私もお父様の態度は納得済みだったから。

「お嬢様、求婚を受け入れて頂き嬉しいです。では今からお嬢様ではなくルウと呼ばせて頂きますので、ルウも私をサムとお呼び下さい」
「う、うん……サム」
「ふふ」

初めて人前でサムと呼んだ。
なんだか擽ったい。照れる。
ルウと愛称で呼ばれたことも擽ったい。そう呼ばれるのは、お母様以来だ。

「そんなの、絶対に認めないわよ!」

お姉様が手首につけたシュシュを私に投げ付けてきて、サムが咄嗟にそれを手で払った。そのシュシュは、私がお姉様の誕生日に贈った物だった。……辛い。なかなか堪える。

「サムウェルはわたくしと結婚するのよ! 貴方だって、それを望んでいるのでしょう!?」
「微塵も望んでおりません」
「嘘よ! わたくしを愛している筈よ!」
「私は貴女を微塵も愛していません。私が愛しているのはルウだけです」
「嘘! そんなの認めない!」
「認めるも何も、こちらに害意を向けないのであればどうぞご勝手に。私は今からルウを屋敷に連れ帰って愛でるのに忙しいのでこれにて失礼します」
「いやああっっ!」

……バッサリだ。
これほど冷淡なサムは原作のルルベルを魔法で消し去る、サムウェルが暗黒騎士として覚醒するシーンでしかお目にかかれない。……怖い。なかなかに怖い。

「ルルベル、この泥棒! わたくしのものを盗むなんてっ……母親に似て、やはりろくでもないわ!」

お姉様が私に駆け寄ってきて手を振り上げる、それをサムが剣の鞘で弾き、お姉様は反動で床に転がった。そしてサムの足下に縋った。

「私のルウに触らないで下さい。ルウ、怖いおもいをさせて申し訳ありません」
「いやああっっ、いやあああ! ルルベルを見るその熱い眼差しで、わたくしのことも見て欲しいのぉ!」
「気色の悪いことを言わないで下さい」
「ずるいわ! わたくしには決して見せなかったその情熱を、ルルベルだけには見せるだなんてぇ! わたくしだって初めからその目を向けられていれば、迷わずサムウェルを選んでいたのよぉ!」
「選ぶも何も、初めから貴女など眼中にありません。私の視界に入ったのは、いつもあなた方の仲裁で板挟みになって胃をさすっていた幼いルウです。可哀想で、可愛くて、どうにしかして手に入れて一生腕の中で愛でたいと、何度歯痒さを感じたことか」
「いやあああ! サムウェルはわたくしだけの黒騎士よ! ルルベルのものにならないでえ!」
「もう黒騎士ではありません。今はその上位の暗黒騎士……これも伯爵にルウの相手に相応しいと認めてもらおうと努力した結果です。暗黒騎士は仕える主や伴侶を選ぶ権力がありますからね。だからルウの護衛になった時点で、私はルウのものです」
「……そ、んな」

暗黒騎士……って指定した対象物を跡形もなく消す凶悪な黒魔法が使えるあの暗黒騎士? 各国の首脳陣が三顧の礼をしてでも会いたがるような逸材なんですけど。

「サム……いつの間に覚醒……伝説級の騎士になってたの?」
「……ルウと婚約する少し前です。叶わなければ消すと脅しました。ああ、お義父様である伯爵には何もしていませんよ?」
「う、うん」

サムが意味深に親指で私の頬を撫でた。三白眼で、声が低い。うん。詳しいことは聞いちゃいけない気がする。

「……ルルベル! っ、私は、君の事が好きなんだ! ずっと前から好きだった! どうかそいつじゃなく私の想いを受けいれてくれ!」

急にサイラスが私を的にしてきて驚いた。でもお父様が「娘に近付くな」と私を庇って前にでた。

「伯爵! 私は初めこそルルベルにきつく当たっていましたが、それはルルベルが気になって仕方なかったからです! こちらには全然懐かないし、話し掛けても作り笑いしか向けてくれないし、会話も早々に切り上げるし、どうにしかして仲良くなりたかったんです! 初めは本当に義妹としてルルベルを可愛がり、膝の上に乗ってもらいたかっただけなんです! ルルベルはとても可愛かったから、頬に触れたり、ケーキを食べさせたりしてみたかっただけなんです! でも何をしても心を開いてくれないし、手すら繋いでくれない! 私はずっとモヤモヤして、いつしかルルベルに恋心を抱いていたのです!」
「娘への熱い想いをその父親に吐くとは、気色悪い事この上ないな。ルルベルはどう思う?」

なにそれ……本当に気持ち悪い。
熱い紅茶をかけられた時は、本当に怖かったんだから。悪役妹だから仕方ないとあの状況を受け入れたのに。
あの時、怒ればよかった。
私だってあんたなんか嫌いだと怒ればよかった。そしたらこんな気持ち悪いこといわれなくて済んだかもしれないのに……。

「お断りします」
「だ、そうだ」
「ルルベル! 愛しているんだ! 私は君に触れたい! 笑顔を見たい! そんな目を向けられたいわけじゃないんだ!」
「お断りします」
「……だ、そうだ」
「ルルベルっ…………あの時は本当にすまなかった! だが私は治癒が得意な白魔法士でもある! 本気で傷つけようとしたわけじゃないのは解ってくれ! 例え火傷の痕が残っても、私は君を治せたんだから!」

その言葉に絶句した。
傷を治せばなんでも許されると思ってるの?
なら私が感じた痛みと恐怖は?
治癒が得意な白魔法士なのに、なんで人の痛みに鈍感なの?
謝れば許されるならこの世に騎士団なんて要らないんですけど。
しんでよ。どっかいってよ。泣きそうだ。
そんな私をサムが目隠しするように背に隠した。

「婚約した時点でルウは私と手を繫ぎ、膝の上に乗ってくれました。湯浴みもお召し替えの際もこの手で触れることを許してくれました。なんなら昨夜から今朝にかけて身も結ばれました。先ほどは求婚も受け入れてくれました。サイラス侯、貴方は初めから相手にされてなかったんですよ」
「なっ!?」
「だってそうでしょう? お互い初めはルウに犬猿されていましたからね。近寄るなとばかりに壁を張られていたでしょう? スタート地点は互いに同じだったのですよ」
「そ、そんなもの……貴様は運よくルルベルの護衛として側にいたから警戒心が薄れただけで、私だって常に側にいたらルルベルに受け入れてもらっていた筈だ! だからルルベル! 考えなおせ! 私だって君を幸せに出来る!」

サムの足下にいるお姉様を見る。
サムにばっさり言われて灰人のように床で茫然自失してる。まるで屍のようだ。
私もそうすればよかったんだ。
仲裁役なんてせず、最初からはっきり言えばよかったんだ。その方が当人達の為にもなる。

「私の顔を見るたび怒鳴り散らし罵倒や熱い紅茶を浴びせ気を引こうとしたサイラス様と、私の心の壁を取り除こうと日々笑顔と気遣いと愛の言葉を欠かさなかったサムとでは、その違いは大きいかと。だから私はサムを選びます」
「っ、……だが、これから幸せにすると約束する! だから早まらないでくれ! 私にやり直す機会をくれ!」
「現時点で百点のサムと、マイナス千点のサイラス様とでは、今さら溺愛してきたところでその差は永遠に縮まりません。サイラス様が今から高得点を出しても、サムはずっと百点を叩き出すでしょうから」
「っ、なんだとッ! この私がやり直す機会をくれと頼んでいるんだぞッ!? 少しは一考するのが情けというものだろうッ! なあ……ルルベル……そんな目で見ないでくれ、っ……」

サムが背後から私を抱き締め、頬擦りしてきた。ああ。落ち着く。喧しく唾を飛ばしてくる男よりも、暖かい抱擁で包み込んでくれるサムが好き。

「私はこれからもずっとルウに選ばれ続ける夫になると誓います」
「……私も、同じく誓うわ。ありがとう、サム……愛してる」
「ルウ……!」

私は頼み事という名の罵倒を吐く男よりも、愛を囁いて優しく抱擁してくれるサムが好き。好きな子を苛める男より、好きな子は徹底的に溺愛するサムが好き。だって前世から変わらず単細胞なんだもん。

「話は終わりだ。さっさと外に放り出せ」

お父様が目配せするとドアの外にいた私兵達がお姉様とサイラスを引き摺って連れていこうとした。

「いやああ、っ、お父様……!」
「次は孫の顔を見せにくるように。それまで当家の敷地は踏ません」
「ルルベル、っ、ルルベルっ……私は、……すまないっ、だが、諦められない……!」
「喧しいな。前侯爵夫妻に『薬を使って医師の監修の元、跡継ぎを繋ぐことを奨める』と手紙を代筆しておいてくれ」
「畏まりました。では今すぐに」

お父様は側近に用事を頼み、そのあと侍女頭と筆頭執事を呼び、この屋敷の半数の使用人を解雇すると告げた。

筆頭執事は半世紀も当家にいる大ベテラン。魔術士が酷使され過ぎて過労死しそうだと仮女主人となった私にきちんと教えてくれた人でもある。その他に関しても彼は決して報告を怠らない、勤勉な執事だ。

侍女頭は平民で魔力持ちではないが元弁護士で仕事が出来る人だ。庶子である私と貴族でもある使用人達に挟まれて、胃を痛めながらも半数の使用人達をまともに育ててくれた。中堅管理職の辛いところを全て担ってくれた苦労人だ。

そういえば……いま考えると、私に反発していたのはお姉様側の侍女だった使用人達ばかりだ。

「スカーレットが女主人だった時に面接した者も、その母親が輿入れと同時に連れてきた使用人達も即解雇する。雇用期限は既に三カ月も過ぎているからな」

お父様の命令で集まった使用人達はその言葉に反発の声をあげ……れなかった。お父様は当主だ。雇用主の正当な命令に刃向かえば貴族とはいえお咎めがある。そういう雇用契約だから。

「ルルベルお嬢様……!」 
「お助け下さい!」

そこで使用人達は私に情けを乞ってきた。跪いて先ほどのお姉様のように足下にすがってきたのだ。以前の私ならお父様と使用人達の仲裁役になっただろう。これも平和に暮らす為だと諦めて。でもそうすることは周りの為にならないと、気付いたから。

「三カ月も前にあなた達の雇用契約は切れてたの? なのによく居座れたわね? おまけに当家の使用人でもないのに先月も私のやる事なす事に『庶子のくせに女主人気取りか!』と反発してきたわよね? この屋敷の使用人でもないのによくも仮女主人である私にそんな事が言えたわね。これは当家の問題だけではないわ。今すぐ王都の警備隊を呼んで住居侵入罪だと報告しなければ」
「ひっ」
「も、申し訳ありませっ……!」
「し、しかしスカーレット様が度々里帰りしていたのです! わたくし共がいなければ、きちんとスカーレット様をもてなせる者もいなかったでしょうからっ! わたくし達はスカーレット様の母君であるマーガレット様の代から勤めているんですよ! それくらい気をきかせて当然でしょう! やはり庶子では、そのような事もわかりませんか!」

庶子、庶子、庶子。
庶子と言われ過ぎて腹立ってきた。
他に引き出しないの?
貴女達なんてあの魔術士を酷使して毎日シャワーに湯浴みまでしてるじゃない。使用人のくせに食事もわざわざ温めなおしてるみたいね。掃除や洗濯等の家事で使われる筈の魔力を、貴族家の侍女だから見嗜みを整えるのも当然だとか、冷めた食事で病気になっては働けないだとか、それはマーガレットさんの時代の話。それがいかに魔力の無駄遣いか、まともな使用人達が証明してくれたわ。それでも貴女達は加齢で何かと辛いだろうからと、今まで見逃していたのに。

住居侵入罪に盗電ならず盗魔力に職務怠慢に当主が認めた仮女主人に対する数々の不敬。これは再就職先の斡旋が望めない罪状だ。それを元弁護士の侍女頭に告げると、全くもってその通りですと頷かれた。

「だ、旦那様! わたくし達を解雇しても、なんの得もありませんわ! むしろ損害は大きいかと! そのような庶子の言葉など、聞く耳をもってはなりません!」
「マーガレットが亡くなった後、お前達は解雇される筈だった。それを止めたのはルルベルの母、マリアベルだ。お前達はベテランだろうからと、教えを乞う際に信頼を重ねていきたい、そう言って解雇に反対したマリアベルを苛め倒して悪妻に仕立てたのも解っている。それでもマリアベルはお前達を解雇しなかった。人はきっといつか変われるからと、良妻賢母となった自身で証明した。しかし……やはり駄目だな。マリアベルの慈悲深さ、その娘のルルベルの慈悲深さを以てしても、お前達は変われなかった。なら切り捨てるまでだ」

お父様が執事に警備隊を呼ぶよう指示する。そこで反発はせずに最初からずっと黙り込んでいた数人の侍女が、私の前に跪いた。

「申し訳、ありません。ルルベルお嬢様」
「どうか、御慈悲を……警備隊にだけは、渡さないで下さい」
「紹介状は望みません……すぐに荷物を纏めて出ていきます」

跪いた全員が恐怖に震えている。
警備隊に引き渡されたら、牢屋入りは免れないからね。毎日のシャワーはおろか、温かい食事も出てこない。シャワーの代わりに冷たい水をかけられ、残せば罰せられる腐った食事が出てくる。
判決が出るまで待っているのは過酷な拷問だ。彼女達は末端とはいえ貴族だから、貴族の女を痛め付けるのが好きな看守に引き渡されるだろう。貴族なら皆知っている。当主から訴えられた使用人など、判決が出る前に、遺体となって出る方が早いと。

「お願いします!」
「ルルベルお嬢様……!」
「どうか、御慈悲を!」

今までしつこく嫌がらせをしてきただけあって、やっぱり粘る時もしつこいなあ。その粘り強さを、何故仕事に向けずに私に向けたのか。

「ルルベルはどうしたい? 慈悲を与えるのかね?」
「あとは警備隊に任せる方がよいかと」
「だ、そうだ」

泣き叫びだした侍女達を私兵が連れていく。可哀想だけど、このまま見逃したらきっと貴女達はお姉様に縋って侯爵家の侍女となるでしょうから。そして侯爵家の侍女という身分で、この屋敷に残った使用人達に、機会さえあれば必ず嫌がらせを企てるでしょうから。その芽をいま摘んでおく。ここに残る半数の使用人は、侍女頭が頑張って育てたまともな人材だからね。つまりは当家の財産も同じ。嫁ぐことが決まった庶子でも、実家の財産は守らないと。

ああ……疲れた。
サムに抱かれた翌朝よりも疲れた。
やはり人を裁くのは向いてない。元弁護士の侍女頭は冤罪にあたって辛くて辞めたと言っていたけど、なんとなく気持ちが解るような気がした。冤罪どころか被害者として加害者を裁く、その決断をしただけでもこんなに疲れるんだから。

「ルウ……よく頑張りましたね。えらいですよ。よく頑張りました」
「……サム」

サムの腕の中で顔を上げると、目に大粒の涙を溜めて苦しげに私を見下ろしていた。こんな顔のサムは、サイラスに熱い紅茶をかけられた時以来だ。あの時は、悲痛な顔のサムに心を射貫かれた。逆にこちらが心配になるほど、サムは紅茶をかけられた私に心を痛めてくれたのだ。自覚が無かっただけで、あの時にはもうサムの事が好きだったのかもしれない。

「これからは、サムが私を大事にしてくれるんでしょう? だから私も、私を大事にしないと……もう私のかわりに熱い紅茶を被ったりしないでね。胸が痛くて、たまらなくなるから……私も、もうサムに辛いおもいはさせないから」
「……よく言ってくれました。ルウ……愛しています。私を選んでくれてありがとうございます。もう誰にもルウを傷つけさせません」

サムの瞳から落ちた涙が私の頬を伝った。暖かくて、鼻がつんと痛くなって、胸が擽ったい。また心を射貫かれてしまった。
サムの為に私も私を大切にするわ。だってサムにも自分を大切にして欲しいから。これからは痛みだけじゃなく喜びも共有したい。だから沢山笑って幸せになれるよう努力するわ。サムとなら、それが叶うと確信したから。

「ルウ……貴女を幸せにする不可侵の箱庭は既に整っています。決してルウを害する人間も動物も鳥でさえも足を踏み入れることは出来ない、貴女と私だけの閉ざされた楽園です」
「う、うん? ありがとう」

不可侵の箱庭。
閉ざされた楽園。
なんだろう……響きが不穏だ。

そこで原作の本編ではない話を思い出した。
番外編紛いの別ルートでは性的にお姉様を手折ったサムウェルが黒魔法で下界から切り離された孤島にお姉様を監禁するけど、あれはifストーリーとして書かれた話だ。国王にお姉様と結ばれないなら暗黒騎士の自身ごと力を消し去ると脅したりしてたから、サムウェルのifヤンデレルートとしても人気があったけど。

「サム……絶対に有り得ないけど私がサムから離れたいと言ったらどうする?」
「……離れません。涙ながらに抱き付いて側にいる許可を乞い続けます。……その方が有効ですから」
「?」

最後のはよくわからないけど、やっぱりサムは原作のサムウェルじゃない。何故ならお姉様に拒絶されたサムウェルは自身の存在を黒魔法で消し去ってしまう、過激なヤンデレだから。目の前にいる現実のサムは、悪役妹にならなかった私を愛してくれた、全く別の暗黒騎士サムだ。ifルートとも違う、私だけのサム。愛しいサム。大好き。

「変なこと聞いてごめんね。サム、早く貴方の屋敷に行きたいわ」
「……はい。私も、式を終えたら一刻も早くルウと二人きりになりたいです」
「うん、結婚したら二人きりで過ごそうね。ずっとサムと一緒にいたい。もう、ぜぇーたい、離さないからねっ」

サムに勢いよく抱き付く。
サムとの子供は勿論欲しいけど、新婚旅行とか、しばらくはサムとの甘い蜜月も二人で過ごしたいから。

「はい……はい、ルウ、……はい」
「ふふっ、楽しみだねっ」



【終】


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