上 下
3 / 23
ノンケの俺が開発されるまで

3 まさかの共同生活

しおりを挟む
 プロジェクトの仕事はやりがいがあり楽しい。だが本社がかなり期待してるとあってそれなりの責任感が伴っていた。
「朝の会議。眠そうだったが大丈夫か?」
 安住に声をかけられ俺は焦った。会議の内容がほとんど頭に入ってなかったからだ。
「すまん。バレてたか。昨日、提出物まとめるのに時間かかっちまって……」
 俺は文章をまとめるのが苦手だ。昨日もクライアント向けの資料作りが難航して、寝る時間が減ってしまったのである。
「倉沢の家から中央までって片道1時間半だろ?往復3時間はちょっと辛いんじゃないか?」
「まあ、でも他のやつらも似たような時間帯だし」
「いや、お前リーダーじゃないか。その分抱える仕事も多いだろ?」
「そうなんだけどさ」
「……社員寮空いてるか聞いてみたらどうだ?」
「そっか。寮って手があったか」
 だめなら僕んち一部屋あいてるからなと小声で言われたのは軽く無視した。仕事の話意外となるとやはり以前のようには話せなくなってしまう。変にこだわってるのは俺だけかもしれないが。意識してしまうのだ。


 俺は体力には自信があった。その自信が仇となったのか。渉外担当はクライアントとの橋渡しをする仕事だ。弁論だけでなく体力勝負のところもあり、それなりに健康には気を使っていたが寝不足がたたってしまったようだ。
 些細なミスが見つかったのはそれからしばらくしてからであった。
「リーダーペア! 会議室まで来るように」
 上司のピリピリした声に何かやらかしたと理解する。
「ゼロが一つ足りないなんて話にならないだろうが!」
「申し訳ありませんでした。俺の確認ミスです」
「当たり前だ!何のためのペアかお前らわかってるのか!」
 最終確認はリーダーペア二人でする事になっていたが今回は納期が短かったために金額のみ俺一人だけで通してしまった。
「数百万円と数千万円じゃ桁が違いすぎる!最終段階で気づいたから良かったものの、これが通っていたらわが社の損失はかなりの額になっていたんだぞ!」
「申し訳ありません!僕にも責任があります」
 安住が横で頭を下げている。お前にまで迷惑かけちまった。ダメだなあ俺は。でもここで俺だけの責任ですと庇うことが出来ない。連帯責任になるのはペアを組んだ時の決まり事だったからだ。ごめんよ安住。
「そうだな。どうやらお前ら肝心なところで意思疎通ができてないようだな。倉沢、お前社員寮の申請を出していただろう? 2人部屋が空いてるらしいから明日から安住と一緒でそこで生活してみろ」
「え? 相部屋ですか?」
「ああ。この企画自体会社の存続がかかってるんだぞ。リーダーのお前らがバラバラでどうするんだ。腹を割って話せるぐらいに打ち解けてみろ!」
「……わかりました」

 
「倉沢。その、嫌なら今からでも上司にかけあってこようか?」
「いや。いい、これ以上印象悪くなると俺がリーダーとして素質がないと見なされてしまうかもしれない。この仕事にやりがいを感じてるんだ。降ろされたくない」
「でもお前、僕の事本当は嫌ってるんじゃないのか?」
「へ? 嫌ってなんかない! そうじゃないんだ」
「だったら、怖いのか? 僕の事」
「……ちょっと。その、変な意味じゃなく。いや変な意味か」
「ごめん。本当に僕が悪かったんだ。お前が酔ってるのわかってて」
「あ~、もういいって。とりあえず引っ越そうぜ」
「ああ。……僕、料理はできるんだ。栄養面ではまかせてくれよ」
「へえ。そういえばあの時飲んだ味噌汁旨かったなあ」
「そ、そうか? よし!和食メインに頑張るぞ」
「なんだよそれ。仕事頑張れよ」
「あはは。違いないな」

 次の日は休日で俺は一旦、住んでいた部屋を解約した。このプロジェクトを絶対成功させると決めたからだ。帰れる場所があると甘えてしまう気がしたのだ。
(――本当に? そうなのか? 何か新しい生活に期待してるんじゃないのか?)
「はっ。そんなはずねえじゃねえか」
「倉沢?何独り言いってるんだ?」
「い、いや。なんでもないって。それより思ったよりも広い部屋でよかったぜ」
 寮は角部屋だったせいか2LDKだった。もっと狭い部屋を想像していたのでベットと備え付き棚がある個室はありがたかった。
「そうだな。でもお前荷物はそれだけなのか?」
 俺の引っ越し荷物は段ボール箱数個しかない。
「おう。全部処分してもらった。もとより家具は作り付けだったからさ。中身と必要な物だけしか持ってこなかった」
「僕も今の部屋解約しようかな」
「何言ってるんだ。お前のマンション駅近だしオートロックでめっちゃいい条件じゃねえか。一緒に住むのもプロジェクトの間だけだろうし。もったいないからそのままにしとけよ」
「そんなこと言って、倉沢はどうするんだよ」
「俺はどうにかなるって。もとよりここって研修センター用の寮なんだろ? 短期間か中期で追い出される可能性が高いし、それまでにどっか見つけるさ」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

主神の祝福

BL / 完結 24h.ポイント:953pt お気に入り:253

マッチングアプリで出会った男の秘密

BL / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:16

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,683pt お気に入り:3,094

悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

BL / 連載中 24h.ポイント:4,623pt お気に入り:10,286

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

BL / 連載中 24h.ポイント:4,110pt お気に入り:8,539

浮気の認識の違いが結婚式当日に判明しました。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,783pt お気に入り:1,218

悩む獣の恋乞い綺譚

BL / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:69

処理中です...