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美味しい食卓編
番外編:佐々木さんの萌語り
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おはようございます。佐々木です。
今日は念願かなって推しのお宅訪問となりました。この部署の女性社員のほとんどが『室長と副室長夫夫を見守り隊』に所属しております。
「倉沢さ~ん。この皿ってここに置いとけばいいんっすかね?」
ムードメーカーの早瀬くんがパタパタと動き回ってます。
「あの私も何か手伝いましょうか?」
「いや、いいよ。佐々木さんは座ってて。今日は女子社員の慰労会も兼ねてるんだからね」
片目をつぶって笑って見せるのは私の推しである安住さんです。人当たりがよく、細やかな気配りもできる、まさに王子様。
「こらっ。早瀬。つまみ食いはまだ早いぞ」
「いやあ。このやみつき胡瓜美味いっす!」
どうやら早瀬くんが手伝いに飽きてきたらしいです。倉沢さんと早瀬くんの体育会系の先輩後輩のノリの応酬が始まりました。それも腐女子目線にはたまらないシチュエーションでございます。
「これって倉沢さんの手作り?わぁお。胡瓜買ってくるからまた作ってくださいよぉ」
早瀬くんが倉沢さんの袖を引っ張ってます。
「何言ってるんだ。こんな簡単なの。お前だって作れるだろ?」
「早瀬、お前またサボって倉沢にちょっかい出してるな」
二人の間に割り込む様に入ってきたのは安住さんです。安住さんジェラですか?早瀬くんにジェラシーでしょうか?
「ちょっとくらいいいじゃないっすか。今日はプライベートでしょ?」
「違うぞ。今日の主役は彼女らだ。僕たちはおもてなしする側だよ」
でしょ?と安住さんが首をかしげると倉沢さんがふんわりとほほ笑み返されます。普段はクールで隙を見せない倉沢室長が。やわらかくほほ笑まれました。それも安住さんと視線をばっちりと合わせて。
「尊い……」
気づくと女子社員Aと女子社員Bが横で頷いてます。わかるよ同志たちよ。この空間に存在する幸運を与えてくださり神様ありがとうございます。
「さあ。待たせたね。口にあうかわからないが今日は僕と倉沢の手料理を食べてもらおうと思ってさ」
リビングのテーブルには数々の料理が並んでます。ケータリングだと思ってましたが、この料理のどれもが推し達の手作りですと?なんということでしょう? 早速スマホを手に写真を撮りまくる私たち。もちろん料理写真を撮りながら背後の推しの写真も隠し撮りです。
「自分が作った料理を写真に撮られるなんて恥ずかしいな。でもありがとう。そろそろ食べないか?」
倉沢さんが恥ずかしそうに目じりを染めて下を向かれます。なんですか、その乙女っぷりは!安住さんがすかさず倉沢さんの腰を抱かれました。これはもしやのバージョンか? 私の中のCPでは安住さんは右だったのですがこれは左か?少し離れたところにいる女子社員CとDも目を見開いて互いに視線で合図を送ります。
「安住がつくる食事はどれも最高に旨いんだ。俺は嘘は言わない。だから皆んなにも食べてもらいたいんだ」
その言葉に安住さんの顔が輝かれます。王子の歓喜が伝わってまいりました。
「健吾の作る料理も美味いよ」
「健吾?おうちでは名前で呼んでらっしゃるのですか?」
うっかりといった感じで安住さんが口に手を当てられます。綺麗に整えられた爪に長い指先が目に移ります。
「まあね。家では気を抜きたいからさ」
倉沢さんが苦笑されました。ごめんと声に出さずに口を動かして謝る安住さん。いいよとばかりに微笑む倉沢さんの姿にトゥンクと胸が鳴ります。
「やっぱ、安住さんの唐揚げは美味いっすね~」
早瀬くんがパクパクと料理を食べ始めてます。
「あ!お前女性陣を押し退けて先に食うんじゃないぞ」
安住さんが早瀬くんの皿を取り上げようとするとスルリとかわし次の料理に手を出していきます。
「だって冷めちゃうじゃないですか!せっかくなんだから暖かいうちに食べないと」
「ははは。それもそうだな。さあ、皆んなで食べよう」
え?倉沢さんの笑顔。うそ。めちゃ可愛い。ご自宅ではそんな風に笑われるのですね。横にいるAとBが手を合わせて拝みだした。だめよ!それはまだ早いわ!
「い、いただきまーす!」
慌ててわたしは同じように手を合わせて叫びました。それに気づいた彼女らもいただきますと小声で言います。
「美味しいっ」
ひとくち食べて思わず口に出してしまいました。
「そうだろ?安住の飯は旨いんだ。俺の生きる糧なんだよ」
誇らしげに言う倉沢さんが眩しい。それからしばらくは皆食事に夢中になりました。どれもこれも美味しくてさすがは我らが推し!と心の中で称賛を送りましたとも!
「そういえばこないだの佐々木さんの商品翻訳。よく出来ていて助かったよ」
「へ?、あ、ありがとうございます」
仕事の話を急に振られるとは思ってなくて、私動揺いたしました。
「詳細部品の丁寧な翻訳のおかげで俺は模造品を見極めることが出来たんだ」
「そうだったのか。僕からも礼を言うよ。佐々木さんが来てくれて海外との取引が以前よりスムーズになったんだ」
ねえ?と安住さんが首を傾けて倉沢さんに問いかけられます。
「ああ。職場の女神だね。今回の女性向けの商品が好評なのは皆のおかげだよ。うちの部署は優秀な女性社員に支えられているんだ」
「だからさ。そんな君らにプレゼント」
二人からひとりひとりに手渡されたのは薔薇のモチーフの小箱。なんと中には小さなマカロンが二つ入っております。さすがです。
「ピンクのがラズベリー。ブルーのがブルーベリーだそうだ。食べた後は小物入れになるので事務用品とか入れて使えるよ」
「ありがとうございます!」
甘酸っぱい味のマカロンは今日の二人のようでした。
「うっわぁ。メルヘンチックっすね」
早瀬くんが覗き込んできます。
「ケーキ屋の主人に女性社員が喜ぶモノを聞いたら食べた後も使えるのはどうかって薦めてくれたんだ」
「ぷぷ。倉沢さん、それって市場リサーチじゃないっすか。仕事熱心っすね。俺のはないんすか?」
「ばあか。今日は女子社員への慰労って言っただろ」
「え~。マカロン美味そうじゃないっすかぁ」
「ビールでも飲んでろ。胡瓜のお代わり作ってやるからさ」
「ほんとっすか!やったああ」
「……僕も手伝うよ」
推し二人がそろって台所に立つと私たちもそっと音を立てずに動きます。だってお二人の共同作業が見られるんですもの。当り前です。
倉沢さんの前に手際よくボールや調味料を並べる安住さん。黙って調理をする倉沢さんは真剣そのもの。初々しいですわ。
「こんなものかな?」
「健吾。味見させて。あ~ん」
倉沢さんが言われるままに安住さんのお口に胡瓜を放り込みます。すると美味しいよといいながら、安住さんがちゅっと倉沢さんの頬に接吻をされました。
「「「~~~っ!!」」」
慌てて口をふさぐ私たち。甘~いっ。離れた場所にいるCとDが互いにバンバン叩きあっております。わかるよ。私もじたばたしたいっ。
「なっ……。皆がいるのに」
「ごめん。急にキスしたくなったんだ」
「し、しょうがないな」
耳まで真っ赤になる倉沢さん。見てるこっちまで胸がキュウんとなります。それを見つめる安住さんの蕩けるような表情に皆釘付けに。
「そこで何イチャついてるんっすか?」
早瀬くんの声に一斉に我に返る私たち。
「え?皆ここにいたの?え?……」
倉沢さんが私たちを見つけ挙動不審になられました。
「いえ。今来たところです!何も見ておりません!」
「そうです。ささ。食べましょう!」
「はい。早瀬さんもビールのお代わりはいかがです?」
急にテキパキと動く私たちに安住さんが口元だけで笑われます。さすがは王子。すべてお分かりだったのですね。おそらくワザと見せつけてくれたのでしょう。でもその嫉妬心は私たちの萌えネタでございます。ウフフ。これでご飯三倍は食べれそう。
帰り際に倉沢さんに呼び止められました。
「佐々木さん、あの時はありがとう。時間稼ぎをしてくれて助かったよ」
「とんでもありません。何があっても私たちはお二人の味方です」
倉沢さんは私の言葉に瞠目されたがすぐに綻ぶような笑顔を見せてくださいました。それは見事な大輪の花のようでございました。この時から私の推しはお二人になりました。
本日の萌語りはここまででございます。ご拝聴いただきありがとうございました。
今日は念願かなって推しのお宅訪問となりました。この部署の女性社員のほとんどが『室長と副室長夫夫を見守り隊』に所属しております。
「倉沢さ~ん。この皿ってここに置いとけばいいんっすかね?」
ムードメーカーの早瀬くんがパタパタと動き回ってます。
「あの私も何か手伝いましょうか?」
「いや、いいよ。佐々木さんは座ってて。今日は女子社員の慰労会も兼ねてるんだからね」
片目をつぶって笑って見せるのは私の推しである安住さんです。人当たりがよく、細やかな気配りもできる、まさに王子様。
「こらっ。早瀬。つまみ食いはまだ早いぞ」
「いやあ。このやみつき胡瓜美味いっす!」
どうやら早瀬くんが手伝いに飽きてきたらしいです。倉沢さんと早瀬くんの体育会系の先輩後輩のノリの応酬が始まりました。それも腐女子目線にはたまらないシチュエーションでございます。
「これって倉沢さんの手作り?わぁお。胡瓜買ってくるからまた作ってくださいよぉ」
早瀬くんが倉沢さんの袖を引っ張ってます。
「何言ってるんだ。こんな簡単なの。お前だって作れるだろ?」
「早瀬、お前またサボって倉沢にちょっかい出してるな」
二人の間に割り込む様に入ってきたのは安住さんです。安住さんジェラですか?早瀬くんにジェラシーでしょうか?
「ちょっとくらいいいじゃないっすか。今日はプライベートでしょ?」
「違うぞ。今日の主役は彼女らだ。僕たちはおもてなしする側だよ」
でしょ?と安住さんが首をかしげると倉沢さんがふんわりとほほ笑み返されます。普段はクールで隙を見せない倉沢室長が。やわらかくほほ笑まれました。それも安住さんと視線をばっちりと合わせて。
「尊い……」
気づくと女子社員Aと女子社員Bが横で頷いてます。わかるよ同志たちよ。この空間に存在する幸運を与えてくださり神様ありがとうございます。
「さあ。待たせたね。口にあうかわからないが今日は僕と倉沢の手料理を食べてもらおうと思ってさ」
リビングのテーブルには数々の料理が並んでます。ケータリングだと思ってましたが、この料理のどれもが推し達の手作りですと?なんということでしょう? 早速スマホを手に写真を撮りまくる私たち。もちろん料理写真を撮りながら背後の推しの写真も隠し撮りです。
「自分が作った料理を写真に撮られるなんて恥ずかしいな。でもありがとう。そろそろ食べないか?」
倉沢さんが恥ずかしそうに目じりを染めて下を向かれます。なんですか、その乙女っぷりは!安住さんがすかさず倉沢さんの腰を抱かれました。これはもしやのバージョンか? 私の中のCPでは安住さんは右だったのですがこれは左か?少し離れたところにいる女子社員CとDも目を見開いて互いに視線で合図を送ります。
「安住がつくる食事はどれも最高に旨いんだ。俺は嘘は言わない。だから皆んなにも食べてもらいたいんだ」
その言葉に安住さんの顔が輝かれます。王子の歓喜が伝わってまいりました。
「健吾の作る料理も美味いよ」
「健吾?おうちでは名前で呼んでらっしゃるのですか?」
うっかりといった感じで安住さんが口に手を当てられます。綺麗に整えられた爪に長い指先が目に移ります。
「まあね。家では気を抜きたいからさ」
倉沢さんが苦笑されました。ごめんと声に出さずに口を動かして謝る安住さん。いいよとばかりに微笑む倉沢さんの姿にトゥンクと胸が鳴ります。
「やっぱ、安住さんの唐揚げは美味いっすね~」
早瀬くんがパクパクと料理を食べ始めてます。
「あ!お前女性陣を押し退けて先に食うんじゃないぞ」
安住さんが早瀬くんの皿を取り上げようとするとスルリとかわし次の料理に手を出していきます。
「だって冷めちゃうじゃないですか!せっかくなんだから暖かいうちに食べないと」
「ははは。それもそうだな。さあ、皆んなで食べよう」
え?倉沢さんの笑顔。うそ。めちゃ可愛い。ご自宅ではそんな風に笑われるのですね。横にいるAとBが手を合わせて拝みだした。だめよ!それはまだ早いわ!
「い、いただきまーす!」
慌ててわたしは同じように手を合わせて叫びました。それに気づいた彼女らもいただきますと小声で言います。
「美味しいっ」
ひとくち食べて思わず口に出してしまいました。
「そうだろ?安住の飯は旨いんだ。俺の生きる糧なんだよ」
誇らしげに言う倉沢さんが眩しい。それからしばらくは皆食事に夢中になりました。どれもこれも美味しくてさすがは我らが推し!と心の中で称賛を送りましたとも!
「そういえばこないだの佐々木さんの商品翻訳。よく出来ていて助かったよ」
「へ?、あ、ありがとうございます」
仕事の話を急に振られるとは思ってなくて、私動揺いたしました。
「詳細部品の丁寧な翻訳のおかげで俺は模造品を見極めることが出来たんだ」
「そうだったのか。僕からも礼を言うよ。佐々木さんが来てくれて海外との取引が以前よりスムーズになったんだ」
ねえ?と安住さんが首を傾けて倉沢さんに問いかけられます。
「ああ。職場の女神だね。今回の女性向けの商品が好評なのは皆のおかげだよ。うちの部署は優秀な女性社員に支えられているんだ」
「だからさ。そんな君らにプレゼント」
二人からひとりひとりに手渡されたのは薔薇のモチーフの小箱。なんと中には小さなマカロンが二つ入っております。さすがです。
「ピンクのがラズベリー。ブルーのがブルーベリーだそうだ。食べた後は小物入れになるので事務用品とか入れて使えるよ」
「ありがとうございます!」
甘酸っぱい味のマカロンは今日の二人のようでした。
「うっわぁ。メルヘンチックっすね」
早瀬くんが覗き込んできます。
「ケーキ屋の主人に女性社員が喜ぶモノを聞いたら食べた後も使えるのはどうかって薦めてくれたんだ」
「ぷぷ。倉沢さん、それって市場リサーチじゃないっすか。仕事熱心っすね。俺のはないんすか?」
「ばあか。今日は女子社員への慰労って言っただろ」
「え~。マカロン美味そうじゃないっすかぁ」
「ビールでも飲んでろ。胡瓜のお代わり作ってやるからさ」
「ほんとっすか!やったああ」
「……僕も手伝うよ」
推し二人がそろって台所に立つと私たちもそっと音を立てずに動きます。だってお二人の共同作業が見られるんですもの。当り前です。
倉沢さんの前に手際よくボールや調味料を並べる安住さん。黙って調理をする倉沢さんは真剣そのもの。初々しいですわ。
「こんなものかな?」
「健吾。味見させて。あ~ん」
倉沢さんが言われるままに安住さんのお口に胡瓜を放り込みます。すると美味しいよといいながら、安住さんがちゅっと倉沢さんの頬に接吻をされました。
「「「~~~っ!!」」」
慌てて口をふさぐ私たち。甘~いっ。離れた場所にいるCとDが互いにバンバン叩きあっております。わかるよ。私もじたばたしたいっ。
「なっ……。皆がいるのに」
「ごめん。急にキスしたくなったんだ」
「し、しょうがないな」
耳まで真っ赤になる倉沢さん。見てるこっちまで胸がキュウんとなります。それを見つめる安住さんの蕩けるような表情に皆釘付けに。
「そこで何イチャついてるんっすか?」
早瀬くんの声に一斉に我に返る私たち。
「え?皆ここにいたの?え?……」
倉沢さんが私たちを見つけ挙動不審になられました。
「いえ。今来たところです!何も見ておりません!」
「そうです。ささ。食べましょう!」
「はい。早瀬さんもビールのお代わりはいかがです?」
急にテキパキと動く私たちに安住さんが口元だけで笑われます。さすがは王子。すべてお分かりだったのですね。おそらくワザと見せつけてくれたのでしょう。でもその嫉妬心は私たちの萌えネタでございます。ウフフ。これでご飯三倍は食べれそう。
帰り際に倉沢さんに呼び止められました。
「佐々木さん、あの時はありがとう。時間稼ぎをしてくれて助かったよ」
「とんでもありません。何があっても私たちはお二人の味方です」
倉沢さんは私の言葉に瞠目されたがすぐに綻ぶような笑顔を見せてくださいました。それは見事な大輪の花のようでございました。この時から私の推しはお二人になりました。
本日の萌語りはここまででございます。ご拝聴いただきありがとうございました。
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