妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

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 ブリュンヒルデの怒りをリーンハルトが宥めている間に、コルネリウス家にも報が届いた。リーンハルトとは違い、仕事を最速で終わらせたコンラートからもたらされた情報に、いち早く怒りの感情を表したのはメイだった。
 カードを出すまでもなく、顔を真っ赤にして怒りの感情をあらわにしたメイが、地団太を踏んでいる。その隣で、シャルロッテは静かにコンラートの言葉を受け止めると深く息を吐いた。

「ロッテは、どうしたい? 北方方面騎士団の九割は、俺の指示があれば動くことが出来る」

 シャルロッテの決断さえあれば、第二次エリザ聖戦を行うことが出来ると、コンラートが暗に明示する。おそらく、リーンハルトが指揮する南方方面騎士団も大多数が団長の指示に従うだろう。二人には、騎士団の大多数を動かせるだけの力がある。
 軍事的脅威のある北方スーシェンテと南方マールグリッド方面に配置された騎士団員は、精鋭揃いだ。慣習として残しているだけの東方オウカ方面の騎士団は能力に劣り、リーデルシュタインを守る騎士団は数に劣る。しかし彼らとて、名誉ある騎士団の一員だ。シャルロッテに正義ありと判断すれば、反旗を翻すことは想像に難くない。
 今やシャルロッテには、リーデルシュタイン王国を亡ぼすだけの力があった。
 それを理解しているからこそ、シャルロッテは首を振った。

「リーデルシュタイン王国の混乱は望んでいないわ。私はただ、この婚約を破棄してほしいだけ。それ以上は、望んでいない」

 シャルロッテに強くそう言われ、コンラートが安堵したように表情を緩めると「そうか」と呟いて肩の力を抜いた。彼もまた、王国の衰退を望んではいないのだ。
 二言三言言葉を交わし、コンラートは残っている仕事がまだあるからと、騎士団に戻って行った。情勢は比較的安定しているとはいえ、スーシェンテとの国境沿いでは不穏な気配を感じることがある。ほんの些細な火種から大きな混乱へとつながる可能性は依然としてあるのだ。

 コンラートの背中を見送った後で、シャルロッテは執事のマンフレットを呼び寄せた。
 コルネリウス家の従者を統括している彼を呼び寄せるのは、何か秘密の話があるときだと理解しているメイが、そっと部屋から出て行く。入れ替わりに入って来たマンフレットが内側から鍵をかけ、メイの足音が遠ざかったのを確認してからシャルロッテの前に歩み寄った。
 父親と同じ年代のマンフレットは、能面のような無表情を崩さずに静かにシャルロッテの言葉を待っていた。綺麗に整えられた銀髪にも、キッチリと着込んだ服にも、一分の乱れもない。高い職業意識から来る高潔さは機械的にも見えるが、通常はピンと伸びた背筋がシャルロッテの前ではやや猫背気味になるところに、彼の細やかな人柄が現れていた。
 背の低いシャルロッテを威圧的に見下ろすことのないように、しかし執事としての威厳を保つように、絶妙な姿勢で立っている。

「これからしばらくの間、ラート兄さまの動向に気を付けてほしいの。何か良くない動きがありそうなら、知らせて」
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