妖精姫は見つけたい

佐倉有栖

文字の大きさ
21 / 82

21

しおりを挟む
 ブリュンヒルデの怒りをリーンハルトが宥めている間に、コルネリウス家にも報が届いた。リーンハルトとは違い、仕事を最速で終わらせたコンラートからもたらされた情報に、いち早く怒りの感情を表したのはメイだった。
 カードを出すまでもなく、顔を真っ赤にして怒りの感情をあらわにしたメイが、地団太を踏んでいる。その隣で、シャルロッテは静かにコンラートの言葉を受け止めると深く息を吐いた。

「ロッテは、どうしたい? 北方方面騎士団の九割は、俺の指示があれば動くことが出来る」

 シャルロッテの決断さえあれば、第二次エリザ聖戦を行うことが出来ると、コンラートが暗に明示する。おそらく、リーンハルトが指揮する南方方面騎士団も大多数が団長の指示に従うだろう。二人には、騎士団の大多数を動かせるだけの力がある。
 軍事的脅威のある北方スーシェンテと南方マールグリッド方面に配置された騎士団員は、精鋭揃いだ。慣習として残しているだけの東方オウカ方面の騎士団は能力に劣り、リーデルシュタインを守る騎士団は数に劣る。しかし彼らとて、名誉ある騎士団の一員だ。シャルロッテに正義ありと判断すれば、反旗を翻すことは想像に難くない。
 今やシャルロッテには、リーデルシュタイン王国を亡ぼすだけの力があった。
 それを理解しているからこそ、シャルロッテは首を振った。

「リーデルシュタイン王国の混乱は望んでいないわ。私はただ、この婚約を破棄してほしいだけ。それ以上は、望んでいない」

 シャルロッテに強くそう言われ、コンラートが安堵したように表情を緩めると「そうか」と呟いて肩の力を抜いた。彼もまた、王国の衰退を望んではいないのだ。
 二言三言言葉を交わし、コンラートは残っている仕事がまだあるからと、騎士団に戻って行った。情勢は比較的安定しているとはいえ、スーシェンテとの国境沿いでは不穏な気配を感じることがある。ほんの些細な火種から大きな混乱へとつながる可能性は依然としてあるのだ。

 コンラートの背中を見送った後で、シャルロッテは執事のマンフレットを呼び寄せた。
 コルネリウス家の従者を統括している彼を呼び寄せるのは、何か秘密の話があるときだと理解しているメイが、そっと部屋から出て行く。入れ替わりに入って来たマンフレットが内側から鍵をかけ、メイの足音が遠ざかったのを確認してからシャルロッテの前に歩み寄った。
 父親と同じ年代のマンフレットは、能面のような無表情を崩さずに静かにシャルロッテの言葉を待っていた。綺麗に整えられた銀髪にも、キッチリと着込んだ服にも、一分の乱れもない。高い職業意識から来る高潔さは機械的にも見えるが、通常はピンと伸びた背筋がシャルロッテの前ではやや猫背気味になるところに、彼の細やかな人柄が現れていた。
 背の低いシャルロッテを威圧的に見下ろすことのないように、しかし執事としての威厳を保つように、絶妙な姿勢で立っている。

「これからしばらくの間、ラート兄さまの動向に気を付けてほしいの。何か良くない動きがありそうなら、知らせて」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完】はしたないですけど言わせてください……ざまぁみろ!

咲貴
恋愛
招かれてもいないお茶会に現れた妹。 あぁ、貴女が着ているドレスは……。

義務ですもの。

あんど もあ
ファンタジー
貴族令嬢の義務として親の決めた相手に嫁いだが、夫には愛する人がいた。夫にないがしろにされても、妻として母として嫁としての義務を果たして誠実に生きたヒロインの掴んだ、ちょっと歪んだ幸せとは。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

処理中です...