スルドの声(共鳴) terceira esperança

桜のはなびら

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その日

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(柳沢 希)


「もう良いの?」
「うん、大丈夫」
 
 マレは荷物を肩にかけた。来た時と同様に軽装だ。

 
 マレが暮らしていてもたいして物の無かった部屋は、マレが来た時同様の人の気配を感じさせない部屋に戻っていた。
 端には後日送付予定の段ボールがひと箱。

 それでも、ここでの生活のために確保して、向こうにも同等の機能はあるから持っていくことも送ることもしないものはいくつか残されていて、生活の名残のようなものはあった。

 おばあちゃんいわく、「いつでも戻ってこれるようにしておけば良い」とのこと。
 戻ってくる理由は、ネガティブなものばかりではない。

 今度はちょっとした休暇にでも、戻ってきてくれたら良いな。
 
 元々置かれていた、マレが住むだいぶ前、おじさんが若い頃使っていたベッドももちろんそのまま。
 その上に置いてあった、ふたりで一緒に取ったぬいぐるみの姿は無かった。
 
(持っていってくれるんだ。かさばるだろうに)
 思わずほおが緩んだ。

 
「あれ、それは?」

「んー、重いから置いてく。のんスピーカー欲しがってたよね。中古で申し訳ないけど、良かったら使ってよ」
 ポータブルながら存在感があるスピーカーは、深型の蓋つきバットのような、飯盒炊爨のような、シンプルでやや無骨なれど、却っておしゃれな感じを漂わせながら、マレが服を掛けていたハンガーラックの下にそっと置かれていた。
 
 のんも音楽はじめたんだから、あって困ることは無いよね。
 不敵に笑うマレからは、ギターで有名なメーカーのオーディオブランドで、さすがギターメーカーだけあってアンプにもなるのだいう説明を受けた。
 標準的なBluetoothスピーカーのものと比べると、少し高い音質のコーデック規格にも対応している云々の説明はよくわからなかったが、ポータブルスピーカーとしては割と高価の部類に入る品らしいことはよくわかる。
 貸してもらうくらいなら遠慮はしないが、わたしに譲るというニュアンスには少したじろいでしまう。
 
「向こう行ったら、そもそも音響の環境整ってるし。わざわざスピーカー持ち込まなきゃならないような練習場所使わなくても、練習場所もあるから」
 
 配信等でスピーカーを使用する機会はそれなりにありそうだけど、もっと軽くて音質も必要充分なものを使うから良いのだとか。
 確かに、存在感漂わすそのスピーカーは常に持ち歩くには少し重たそうだ。

「のんはギターも弾けるようになったんだし、アンプの機能も活かせるでしょ。わたしにはオーバースペックだったからね」なんて言われたら、次に会うまでにギターの練習もしとかないとなんて、ギターも持っていない(イベントで使っていたものは持ち主に返却済み)わたしは余計なプレッシャーを感じつつ、マレの好意をありがたくいただいた。
 
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