詩片の灯影② 〜過去から来た言葉と未来へ届ける言葉

桜のはなびら

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 真帆の強い眼差しに射竦められ、先に目を逸らしたのは父親の方だった。

「……俺のことも、くだらないと……?」
 目を逸らしたまま吐くように言った。

「だってそうじゃない。娘が信じられないなら、もうそれはそれで良いよ。でも、どこかの誰かが垂れ流した無責任な噂を検証もしないで真に受けて、大騒ぎをして学校まで巻き込んでバカみたい。そういう意味で言うなら、さっき言った通り私のせい。犯人は私ってことになる。原因は先生でも学校でもない。だからこの空騒ぎを今すぐやめて」

「厚東真帆さん。お父様と会話させてもらっても良いかな? 厚東さん。改めまして、草壁です。当事者でありながら弁明が後ろになり申し訳ありません。ご指摘の通り、多感な年代の女性であるご息女に対し、その距離感が適切であったなんて言い切ることは、私にはできません」

「先生⁉ そもそも私が相談を……」

 圭吾は慌てている真帆をあえて無視するようにして、父親に話し続ける。

「教師は時に、生徒から相談を持ち掛けられることがあります。そのすべてに於いて、事例ごとに最適解は異なるのだと思います。受けるべきか否か、受けるにあたっての適切な受け方はどのようなものか。その意味で、私が最適解を出し続けているなんてことは、間違っても言えないでしょう」

「でも! 先生は私を救ってくれた! 先生がいなかったら私は……」

 縋るような眼差しの真帆をようやく見た圭吾は、少し微笑んで、
「厚東さん、ありがとう。でも、子どもを預けている保護者の立場としては、それが最善であったかを問いたくなるのは必然だよ」
 そう言うと、次は校長の方に向き直った。

「校長先生。学校側としては、業務の範疇として、常識的な対応の範疇として、必ずしも最適最善でなくてはならないわけではないということを、私も主張します。しかしながら、個人としては、それでもやはり、生徒の人生の一端に関わる身として、固有の相談に乗るなら、最適解を出したいと思うのです。それが若さゆえか未熟さゆえのことだということもわかっています。現実的ではないことも。それでも、できないことを善しとしたくない、現実的ではないことを、言い訳にしたくない」

「先生……」

「……悩み悩みというが、あなたに真帆は何を相談したというのです? 手前みそだが、不自由も理不尽も与えているつもりはないぞ」

「厚東さん。子どもである生徒に接する立場の大人として、私は最適な対応を取ったと主張できない時点で、厚東さんには保護者の立場として私を追求する権利はおありと思っています。その追及に対し、力及ばなかった私は謝罪いたします。申し訳ありませんでした。更にもうひとつ。未成年者が抱えている悩みを掌握している第三者として、保護者にその情報を共有すべきという考え方があるのかもしれませんが、子どもであっても固有の人格と人生を有すひとりの人間として、抱えているものを本人でない者から明かすべきではないと判断しています。お詫びさせていただいている立場ながら、その内容を私の口から明かすことはしません。そしてこれはお願いとなりますが、無理に口を開かせても、彼女ももう意識して嘘を言うこともできる年齢です。真実をお求めなら、強制は手段にならないとお考えください」

「……コンフリクトマネジメントくらい、承知しています」

「ありがとうございます。厚東さん。お父様は対話の重要性も熟知されている。それでも対話は双方が開かなくては成し遂げられないんだ。相手が大人でも親でも、開けてもらうのを待っていては始まらないし、あなたが閉ざしていたら終わってしまう」

「先生……私は――!」

 真帆の声にならなかった叫びは、形取られることなく虚空に溶けていった。
 
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