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みことの動機

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 みことは華やかな見た目に加えて文武両道。クラスでも男女問わず人気者だった。
 ただ、ひいのように社交的かと言われるとそれほどではなく、結果周りにひとが集まっていただけだった。
 性格は明るく話せば魅力的な人物ながら、積極性はなく基本的には受け身。
 内面はやや拗らせ系で、斜に構えた要素も持ち合わせていた。
 運動能力は高いのに、趣味はどちらかといえばインドアで、本やアニメや映画、ゲームなどの創作物を好み、舞台や演劇、ダンスなどに表現という側面で興味を示していた。

 そういうタイプであってもなくても、ディズニーの虜になる者は多い。
 みこともまたそのひとりだ。
 マニアというほどではなく、キャラクター愛やアトラクションへの歓心はほどほど。特に心を奪われたのが、パレードだった。

 キャラクターの見本市。アトラクションの混雑緩和のための施策と思っていた幼少期は、キャラクター愛がそこそこだったみことはむしろパレード中はアトラクションの待ち時間が減るチャンスと捉え、人気のアトラクションに並ぶタイミングとしていた。

 しかし、アトラクションへの歓心もそこそこだったみことは、少し長じて落ち着きを得ると、躍起になってアトラクションを乗り尽くすという楽しみ方も影を潜め、園内の雰囲気を楽しむようになっていた。
 同級生の男女グループで回ることが多くなり、微かにデートの様相を呈してきたことも影響したのかもしれない。

 楽しむべきパーク内の雰囲気には、パレードも含まれていた。
 あらかじめ良い場所をキープし、仲間と待っている時間も楽しい。
 パレードがやってくると、グループ内にいた殊更ディズニー好きの子が興奮していて、釣られるようにみことも歓声をあげてパレードを楽しんだ。

 そうやって観てみると、キャラクターに目を奪われがちだったパレードの内訳。名もなきパフォーマーたちの動きの精密さに気付かされた。このひとつひとつの計算され尽くした動きが、全体の完成度の高さへと繋がっている。
 パレードは、ただ行列が流れていくだけではない。混雑している場では、観客は定点で観覧するのが常となる。
 パレードの進行速度にもよるが、じっくりと特定のパフォーマーやひとつのグループを見続けることはできない。次々と新たなパフォーマーやグループが現れては、特徴や個性を表現したパフォーマンスの展開を楽しむのがパレードの楽しみ方のひとつだろう。
 しかしその一方で、その場を通り過ぎるのが一瞬であっても、どこを切り取っても観客を歓ばせることのできる仕上がりとなっているハイレベルなパレードは、細部に宿る美を観客が認識できていなくても、完成された全容をただ眺めているだけでも感動を生むのだと知った。

 当時は具体的な言葉では言い表せず、あくまでも感覚でしかなかったが、そのことにみことが気付いたとき、その心は既にパレードに魅せられていた。




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