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がんこ
しおりを挟む願子。
がんちゃん。がんこ。めがみ。
私の妹。
「祷、妹の面倒を見てあげるんだよ」
それは、父の信頼の言葉。
「祷、妹を可愛がってね」
それは、母の期待の言葉。
大人の期待に応えて得られる賞賛を、私は確かに心地良いと感じていた。
だから、それを得ることは喜びだったし、得るための労力は負担なんかではなかった。
願子が生まれた時、私は両親の期待に応えようとした。
きっかけは、本当にそれだけだったと思う。
でも。
やっと直接触れられるようになった、生まれたばかりの私の妹を見た時、得たかったもののことなど二の次三の次になっていた。
目の前で手足を動かしている赤ん坊が、とにかく可愛かった。
そっと指を出すと、きゅっと握ってくる頼りない小さな手が、なんとも愛おしかった。
この子は私の妹なんだ!
そう強く思った時、私はこの子を、何があっても護りたい、護ろうと、誓ったのだと思う。
三歳の私が具体的な言葉で誓いを立てたわけではないし、具体的な記憶があるわけでもない。
だけど、確かに、その源泉となる思いを抱いたのだ。
それからの日々。
姉として、生きて来た日々。
生まれた時からずっと可愛がってきた。ずっと可愛かった。大切な私の妹。
それは今も変わらない。
でも、姉としてという立場にずっとこだわっていた、捉われていた私は、がんちゃんに「護る」「導く」という要素を交えた関わり方が結果的に多くなっていた。
それも今も変わらない部分はある。言っても私の方が年長者なのだから。
でも、がんちゃんはもうひとりで立ち、切り拓き、歩んでいける。
援けがいらないとは言わないだろう。
けれど、もう援けられてばかりの子どもではない。
時には救けになってくれることだってあるのかもしれない。
頼もしく、心強く、そして、寂しい。
今、私の隣で。
懸命にスルドを叩くがんちゃん。
窺い見たその表情は少し紅潮していて。
相変わらず真剣で一生懸命な顔をしていたけれど。
僅かに笑顔で。
とても楽しそうに見えた。
きっともう、緊張なんて吹き飛んでいるのだろう。
がんちゃんは色々考えてしまう性質があるが、多分今は頭の中は空っぽで無心。ただこの場を楽しんでいる状態なのだと思う。
そして。
がんちゃんは相変わらずかわいらしい顔で頑張っていて小動物みたいだったけど、見たのが横目で一瞬だったからか、私の目が滲んでいたからか、がんちゃんが少し大人っぽく見えた。
私はがんちゃんのことはおおよそ掌握してきたつもりだ。
でも、今はもう、私の知らないがんちゃんがきっとたくさんいるのだと思う。
その成長は喜ばしく、誇らしく、やっぱり、少し寂しかった。
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