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第9話  期間限定で保育所をオープンします

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 ラインハルトが提案したゼリーは好評を得た。
 特に小さい子供たちは、目の前で母親が盛り付けてくれる光景に目をキラキラと輝かせ、「おおーー!」と歓声を上げながら楽しんでいた。

 春の終わりごろになると、子育てに一段落ついた2人の女性が、レストランで働きたいと願い出た。
 ヴァーグは2人の女性を雇うことにした。
「とりあえず、お昼の混雑する時に、ウエイトレスとして働いてもらうけどいいかしら?」
 今、厨房はケイン、ラインハルト、そしてヴァーグの三人で回しているが、料理を支給するのはエミーと手が空いた時のマックスやラインハルト、時々マリー・ミリーが手伝うだけで、人手が足りなかった。
「詳しい事はエミーさんとラインハルト君が指導しますので、わからないことがあったら聞いてください」
 新しく入った2人の女性ーエルザとローズと言うーは、エミーとラインハルトに頭を下げた。
 エミーとラインハルトは「お任せください!」と頼もしい言葉を発した。

 料理人も募集したかったが、まずは受付業務と料理を兼任しているエミーとラインハルトの負担を減らすことから考えることにした。
 そして、ヴァーグは新しいお店をもう一軒、作ることを決めた。
 夕飯の時、新しいお店の事を従業員に話した。
「二号店ってことですか?」
 マックスが興味津々に聞いてきた。
「全く同じお店じゃなくて、喫茶店を併設した保育所を作ろうかと思っています」
「ホイクジョ?」
「簡単に言えば、子供を預かる場所…っていえばわかるかな? いろいろな人の話を聞いて、働きたいけど子供が小さいから働けない。夕飯の支度をしたいけど子供から目を離せないって。育児に悩みを抱えている人がいることが分かったんです。そこで、学校に入る前の子供限定で預かる場所を作ってみようかと思ってます」
「でも、誰が子供を見るんですか? 子供を見る人がいないと預かれませんよね?」
「それは子育てが終わった人に頼むことにしました。新しく入ったエルザさんとローズさんから聞いたのですが、子育てが一段落して、働きに出たいけど、働く場所がないっていう人がいるそうなんです。エルザさんたちは都会から引っ越してきて、接客の仕事の経験があるけど、お二人のお友達は働いたことがないんだそうです。そこで、経験してきた子育てを仕事にしてみたらどうですか?ってアドバイスしたんです。それだったら出来るっていうお返事だったので、思い切って保育所を作ることにしたんです」
「なぜ喫茶店を併設するんですか?」
「小さい子供を持つママさんの為です。小さいお子さんがいると自分の食事ってまともに取れませんよね? そこで子供を見ていて貰っている間に、併設した喫茶店でゆっくりご飯を食べてもらおうと思うんです。子供も近くにいますし、安心してご飯が食べられますよね?」
 ヴァーグの話にメアリーとサリナスがウンウンと大きく頷いていた。子育ての経験があるからこその同意だろう。
「村長さんとお話しして、今年いっぱいの期間限定でやってみようかと思います」
「今年いっぱい?」
「いろいろと改良したいので、様子見ということで、季節をいくつか跨いでみようと思います」
「それで、子供を見てくれる人は集まったのかい?」
「3名ほど見つかりました。ですが働く方の都合でオープンできない日もあるのがちょっと…」
 毎日子供を預ける人はいないが、急用などで預けなければならなくなった時に、開いていないと困ることもある。なにより働く人にも用事がある。もし3人が同時に休むと営業はできないだろう。
「だったら、私たちも手伝うよ」
「そうね。お休みの日を利用すれば、そちらを手伝ってもいいわ」
 メアリーとサリナスが提案してきた。
「でも、貴重なお休みですよ? いいんですか?」
「休みって言っても、ここに住み込みで働いているから家事という家事がないのよね。それに、一人でも経験者がいたほうがいいだろ?」
「皆に話して、他にも手伝える人がいないか聞いてみますね」
「で…でも、お給金はそんなに出せませんよ?」
「お金の問題じゃないよ。もし、お金が気になるなら、手伝ってくれた人にケーキの一つでも奢ってあげればいい。現物支給ってことだね」
「マリーも! マリーもお手伝いする!」
「ミリーも!!」
 双子はケーキに釣られたのか、双子は勢いよく手を挙げた。
「皆さんは迷惑じゃないんですか?」
 ヴァーグは恐る恐る聞いた。
 勝手に物事を進めていくことに、周りが迷惑しているかもしれない…そんな気持ちもあった。
 だが、メアリーもサリナスもそんなことは一つも思っていなかった。
「迷惑だなんて思ったことはないよ」
「むしろ感謝していますよ。こんな働き甲斐のある仕事、他にはないですよ」
「そうそう。もし、保育所を作る場所に困っているのなら、私の宿を提供するよ。もう使っていないし、両隣も空き家だからね。村の中心にあるから、なにかと便利だろ?」
 メアリーもサリナスも、新しくオープンする保育所に大賛成だった。
 自分たちが経験してきた子育ては、時代が変わってもその大変さは変わらない。周りに頼める人はいいか、頼めない人もいる。そんな人は一人で頑張ってしまい、病気になったり、子供を里子に出してしまうこともある。
 少しでも子育てにいい環境が作れるのなら協力したいと思う人は村に沢山いるはずだ。


 ヴァーグはサリナスが経営していた宿の跡地に喫茶店併設の保育所を作った。
 喫茶店はヴァーグが切り盛りし、保育所は経営は彼女が行うが、子供の世話は子育てを終えた女性を中心に行うことになった。

 保育所を開設したのは、もうすぐ夏を迎える頃だった。
 今年も春の終わりごろから気温が高くなり、去年を超える暑さになりそうだが、村の作物には影響ない様だ。村に作られた貯水施設のお蔭て、井戸は枯れることはなく、畑にはヴァーグが提案した放水設備が役立ちそうだ。

 ヴァーグは、広い畑に水道管を引き、簡単に水撒きができる装置を設置した。広い畑に等間隔に置かれたその装置は、水を噴水のように撒き散らす。
 彼女如く、
「私がいた場所で、サッカー場っていうスポーツをする場所があるの。そこには芝生のグラウンドがあって、暑い夏には水を撒くのね。人がホースを使って巻くところもあるけど、国際試合などを行う所は、スプリンクラーを使って巻いていたの。それをヒントに作ってみたのよ。水が巻かれる範囲を計算して設置してあるから、水がかからなところはないはずよ」
と、またしてもケインたちが知らない知識を披露した。
「ただ、風が強いと水が流れちゃうから、そこは改良したほうがいいわね」
 天気の事まで考えていなかったヴァーグは、まだまだ改良しなくては!と張り切っていた。
 だが、ケインの父ルイスは大満足だった。今まで井戸から水を汲んで柄杓で巻いていたことを考えれば、画期的な装置だ。
 また、ミルクを仕入れている牧場の牛舎に、エアコンという冷たい風を吹かせる機械を導入した。この世界の動物は人工的に作られた冷たい風には弱いが、そこはヴァーグの魔法。自然の風に近い風を再現したとの噂がある。

 そして村の景観も変わりつつあった。
 相変わらず新しい建物を作る事に反対する村長たちだったが、温泉宿のある広いメインストリートだけは手を加えていいと許可を出した。今のメインストリートは土埃が舞う土がむき出しの道があるだけだった。
 そこでヴァーグは道全体にレンガを敷いた。黒と灰色の二色を使ってきれいに並べられたレンガ道は、馬車が通っても土埃が舞わない為、今迄毎日行っていた玄関先の掃除をしなくてよくなり、またメインストリート沿いに住む主婦からは外に洗濯物を干せて嬉しいと喜ばれた。
 また、ただのレンガ道では味気なかったのか、メインストリートのほぼ中央に大きな噴水を作った。噴水にはオルシアとシエル、アクアをモデルにしたのか、三匹のドラゴンの彫刻があり、その彫刻の口から水が噴き出していた。そして噴水の左右に水路を作り、そこで子供たちが遊べるスペースも作った。
 土埃しか舞わない乾いたメインストリートが、あっという間に綺麗な噴水と水路のある都会のような景観へと変わった。

「しかも、朝起きたら、あれがバーン!って出来ててびっくりしたよ」
 明日、オープンを迎える保育所で、イベントを行うための準備をしていたケインは、朝起きたら、宿の前が土がむき出しの道から、綺麗に並べられたレンガ道に変わったことに、今でも信じられなかった。
「ヴァーグさん、魔法でも使ったんですか?」
 ケインと一緒にイベントの手伝いをしていたラインハルトが彼女に聞いた。
 ヴァーグは、
「内緒♪」
と言うだけで、何も教えてくれなかった。
「不思議ですよね、彼女」
「俺も8歳の時から彼女と一緒にいるけど、まだ何もわからないんだよな」
「神秘的で魅力的じゃないですか」
「…ラインハルト、彼女に惚れたのか?」
「そんなんじゃない! オレにとって彼女は憧れの人! オレが目指すべき目標!」
 はっきりというラインハルト。彼には彼女に対する恋心はないが、師匠としての尊敬する心がある。今まで、一度も尊敬する人を持たなかったラインハルトは、ヴァーグと出会ったことで変わり始めていた。


 保育所となる敷地の庭で、ヴァーグを始め、宿屋の従業員全員(エルザとローズを除く)がイベントの準備をしていた。明日のオープン記念で、広い庭で【ある事】をやってみようと彼女が企画した。
「本当はもっと前から考えていたんだけど、なかなかいい『アレ』が見つからなくて困っていたの」
 そう言うヴァーグの手には直径10cmにもなる大きな竹が握られていた。
 たこ焼きなどで使う竹串は、パソコンから注文した物で、自然の竹は使っていない。どうしても太い竹が欲しかったヴァーグは、数週間前にアクアと一緒に出掛けた近くの山で、探していた理想通りの竹を見つけた。理想通りの竹を見つけ、更に保育所のオープニングイベントで盛り上がること間違いなしの企画を思いつき、本番を前に宿の従業員で試しにやってみることになったのだ。

 組み立てはヴァーグが仕切った。
 まず直径10cmはある竹を1mほどの長さに切りそろえた。その切り揃えた竹を、今度は縦半分に割る。竹は中が空洞の為、綺麗に半円の弧を描いていた。
 縦半分に割った竹の節を削り、内側を上に向け、建物に向かって段々と低くなっていく支柱に括り付けた。横から見るとかなり急な傾斜がついていた。
「ここに卵乗っけたら転がり落ちるな」
「うん」
 竹の中には何も入っておらず、ただ白い面が上を見ているだけだった。
 そこにヴァーグは、井戸から水を吸い上げる装置につなげたホースを高いところに括り付け、試しに水を流してみた。
 見る見るうちに水が竹の中を流れていき、あっという間に一番下に置いてあった大きな樽の中に流れ込んだ。
「ちょっと傾斜はキツイかな?」
 ところどころ高さを直しながら、納得のいく水の流れを作り出すと、ヴァーグは「上出来上出来」と微笑んでいた。
 まったく何を作っているのかわからないケインとラインハルトは、頭に「?」マークを飛ばしていた。

 そこへ、メアリーが竹で作られたザルに、白くて細長い何かを乗せてやってきた。サリナスはトレイにガラスの器と紅茶によく似た色の液体を乗せている。
「ヴァーグさん、言われた通り作ってみましたが、これで大丈夫ですか?」
「大丈夫です。じゃあ、サリナスさん、みんなにガラスの器とお箸と配ってください。配り終わったら、ガラスの器にその液体を入れてください」
「わかりました」
 メアリーとサリナスも、これが食べ物だと言うことは教えてくれた。でも、どう食べるかは教えてもらっていない。
 メアリーからザルを受け取ると、ヴァーグは更なる指示を出した。
「では、皆さん、竹の周りに集まってください。それぞれ自分の背の高さに会う所に行ってくださいね」
 その指示に、自然と高い位置にケインとラインハルト、低い位置に双子が付き、その間にメアリー、サリナス、エミーが付いた。
「それでは、今から竹の中を水と共に、この素麺という食べ物が流れます。皆さんはお箸で素麺を取って、器のつゆにつけて食べてください。まずはマリーとミリーから。2人とも、いくよ!」
 そう叫ぶと、ヴァーグは一番高い位置から一口サイズに纏めた白くて細い食べ物ー素麺ーを、水と一緒に流した。

 半分に割った竹の中を、水と共に流れていく素麺。
 高い位置にいる大人たちは、目の前を流れていく素麺を見て「おおーー!」と歓声を上げていた。
「マリー! 頑張って取って!」
 ヴァーグが励ますと、マリーは流れてくる素麺を箸で掬い取り、「取ったー!!」と大喜びしていた。そして、ガラスの器に入った茶色い液体に着け、口の中に入れた。
「美味しい!! それに楽しい!!」
「ミリーも! ミリーも!!」
 マリーの笑顔にミリーは早くと催促した。
 高いところから「行くよー!!」という声が聞こえて、すぐにミリーは構えた。
 さっきと同じように水と共に流れていく素麺。ミリーは流れてくる素麺を掬ったが、少しだけ取り損ねてしまった。それでも無事に掬った素麺を液体に着け頬張った。
「美味しい!! ヴァーグお姉ちゃん、もっと欲しい!!」
「マリーも!」
 一番下ではしゃぐ双子の楽しそうな姿を見て、大人たちも急にワクワクしてきた。
「ヴァーグさん、わたしにもお願い!」」
「いやオレが先だ!」
 口々に聞こえる声に、ヴァーグはにっこりと微笑むと、
「それじゃ、今からは争奪戦になります。用意はいいですか?」
 ヴァーグの声に全員が構えた。
「流しま~~す!」
 彼女の声を合図に、従業員たちから歓声と悔しそうな声、怒号などが飛び交い始めた。

 その後、用意した素麺はすべてなくなり、従業員たちも満足したようだ。
「楽しかった?」
 ヴァーグは双子に訊ねた。
「「うん!!」」
「ヴァーグさん、これは何て言う食べ方なんですか? 必ずこういう食べ方をするんですか?」
「これは流し素麺という食べ物です。必ずこういう食べ方をするわけではないんですが、私かいた場所ではいろんなところで行っていた夏のイベントなんです。明日のオープニングイベントでやろうかな?と思って」
「これなら子供たちも楽しめそうね」
「大人たちは喧嘩しそうですけど…」
 エミーはケインとラインハルトを見て苦笑いしていた。2人今でも口喧嘩している。同じ場所に陣取っていたことで、どちらが多く取れるかを競っていたようで、あまりにも激しく口論するので、ヴァーグは仕方なく同じものをもう一つ作り、場所を移動して女子だけで楽しんでいた。
「明日は子供用と大人用を用意するので大丈夫です」
「ヴァーグさんの住んでいたところは、面白いイベントをするんですね」
「お祭り大国でしたから。この村も、村興しの為になにかイベントが出来ればいいんですけどね」
「きっと、ヴァーグさんに賛同する方が増えてきますよ。もっともっと賑やかになっていくといいですね」
 エミーは村がどんどん発展していくのが嬉しくてたまらなかった。王都で暮らしていた時は、すでに完成された街にすんでいた。変化はなく、毎日が同じで正直退屈していたのだ。そんな時、父親が生まれた村に戻ると言ってきた。何もない村だが仕事が見つかったと喜んでいた。
 たしかにこの村に来たばかりの時は、何もない村だった。だけど、ここには変化していく姿が見えた。日々変わっていく村にエミーはワクワクしている。これからももっと変わっていく。どんな姿になっていくのか、エミーは楽しくてたまらなかった。


 翌日、保育所のオープンには、小さい子供たちを持つ親が集まった。今、村には6歳以下の子供は両手で数えられるほど。学校に通っている子供も20人を切っているので、多いとは言えない。
 それでも面白いイベントをやっている噂を聞きつけた、子供を持たない大人たちもやってきて、庭は大賑わいだった。
 流し素麺を楽しむ人、臨時で作ることになったたこ焼きの前で歓声を上げる子供たち、オルシアとシエルの背中に乗って空中散歩を楽しむ人、それぞれの楽しい時間を凄る人たちの顔は笑みが絶えなかった。
 また、同時に子供を預けたい親たちへの説明会や、雇用を呼びかける声に集まる人たちもいた。
 親たちから多く寄せられた声は、「急な用事でも預かってもらえるか」と「泊りで預かってもらうことはできないか」と言うこと。例えば遠方にいる親の所へ行くのに子供たちを連れていけない時、2~3日預かってもらえるのか、その時、6歳以上の子供も預かってくれるのかという声が多かった。
「保育所は登録制になっています。登録をしていただければ、いつでもお預かりします。登録にはお金は発生しませんので、万が一の時の為に登録することは可能です。また、ここを利用する料金ですが、預けた日数×一人3000エジルの合計金額を月末にお支払いください。もちろん6歳以上の子供も預かりますし、お泊りも可能です。ただ一つだけ条件があります。お泊りでのお預かりは5日間が限度です。何かしらの理由で伸びる場合は連絡していただければ延長はできます。ご連絡がない場合は料金を割り増しさせていただきます」
 ヴァーグの説明に、親からは「登録だけしておく?」「物は試しだし…」と賛同する声がチラホラと聞こえてきた。
 だが、都会から引っ越してきた若い夫婦(2歳の子持ち)は、ある不安があるようで、そのことについて質問した。
「あ…あの……都会では子供を預ける条件として、両親が仕事をしている、又はどちらかの親を亡くしているというのがあるのですが、ここもそうですか?」
 若い夫婦の質問に、親たちはざわついた。
 そんな質問にもヴァーグは笑顔で答えた。
「条件はありません。小さいお子さんがいらっしゃるお母さんは、ご飯をゆっくり食べることができませんよね? そんな時、こちらをご利用ください。お母さんがご飯を食べている間、子供はこちらでお預かりします。夕飯の支度の間だけ預かることもできます。ご夫婦でデートしたいときも大丈夫です。お家の大掃除の時もお預かりします。先ほど、料金は日数×一人3000エジルと申しましたが、あくまでも朝から晩まで預かった料金です。ほんの少しだけ、お昼から夕方までなど、短い場合は料金は値下げいたします」
「じゃあ、例えば、収穫時期に朝からお昼まで預かってもらうことも可能なんですか?」
「はい、可能です」
「お昼まで学校に行っている子供も、お昼から夕方まで預かってくれるの?」
「可能です」
 都会と違い、すべての子供を受け入れてくれる保育所の誕生に、都会から引っ越してきた若い夫婦はその場で「登録します!」と声をあげた。
 その声に合図となり、とりあえず登録だけでも…という親たちも、すぐに申込書にサインしていた。

 そして、雇用の方も、
「まあ、いつも井戸端会議しているだけだからね、暇な時は沢山あるよ」
「孫が生まれない限り、子供の世話なんてやらないからね」
「孫が生まれてもこっちに来なければ意味ないしね」
 市場で働く子育てが終わっている女性たちが、開いている時間でよければ手伝うよと言ってくれた。市場もお昼前には店を閉じてしまう所もあり、逆に酒場などは夕方からしか営業しない。どこかしらに開いている時間があるようだ。
「それに、この村を変えてくれている彼女への恩返しでもあるからね」
 暮らしやすくなってきた村の発展に、村の人たちはヴァーグに感謝していた。



 一方、ヴァーグたちの行いが気にくわない人もいる。
 次期村長を狙う副村長だ。今の村長はヴァーグがやることに賛同しているが、副村長には彼女の行動がこの村を侵略しているとしか思えない。いずれ村長の座を奪うかもしれないと、そんなことを考えている副村長は、このままでは自分の居場所が無くなってしまうことを恐れていた。
 だから、新しい建物は作るな、景観を潰すなと言っているが、その景観を潰さず、しかもあっという間に建物を建ててしまう、道を作ってしまうヴァーグに嫉妬しているのかもしれない。
 今後、副村長が妨害してこなければいいのだが…。


                    <つづく>
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