選ばれた勇者は保育士になりました

EAU

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第12話  興味ある事 興味ない事

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 ヴァーグから名札を配られた翌日から、泊まりに来るお客は、困ったことを誰に伝えるべきか迷うことがなくなった。
 泊まりに来たお客や温泉を楽しむ村人からは、名札で字事を判断できることに絶賛だった。
「今までは困ったことを誰に伝えていいのかわからなかったけど、その名札?とか言う色で判別できるのは、ありがたいね」
「サリナスやメアリーも、どうしていいか悩んでいたこともあったからね」
「本当、どんどん住みやすく、やり易くなっていって嬉しいよ」
 村に住む年配の女性たちは、日に日に変わっていく村の状態に、今までの苦労はなんだったんだろうね?と口々に言うようになった。
 道は整備され、畑も豊作、観光客も増え、外からの移住者も増えてきた。
 これだけ発展していっているのに、未だにヴァーグたちのやることに口を出す副村長たちが信じられないとも言っている。

 ケインとラインハルトだけに、ヴァーグは名札のからくりを話していた。
「この名札の名前の頭文字の所には、小さなカメラレンズが着いているの」
「「かめられんず?」」
 初めて聞く言葉に、2人は同じ方向に首を傾げた。
 ヴァーグはパソコンを開いて、画面を2人に見せた。パソコンには、黒い画面が映し出されており、よく見ると何本かの赤い線が格子状に張り巡られていた。赤い格子状の線は、12個の小さな枠を作っており、一つ一つの枠の右下に従業員の名前が書かれてある。
 ヴァーグがマウスを動かして、画面の一番下にある赤い●に矢印の形をした動く絵を移動させて、マウスを指で弾いた。
 すると、真っ黒だった画面の何かが映し出された。
 それぞれの枠で、全く違う絵が映し出され、その絵はただの絵ではなく動いていた。更にケインとラインハルトの名前が書かれた枠には、今、自分たちが見ているパソコンの画面が映っている。2人の絵は微妙に角度は違う。ラインハルトは「もしかして…」と何かに気付き、自分の名札を手で覆った。するとラインハルトの名前が書かれた枠は真っ黒になり、手を離すとパソコンが映し出された。
「どういう仕組みなんですか?」
 ケインはまだ理解できていないようで、「?」マークを頭の上に飛ばしている。
 ラインハルトは何となくわかったようだ。
「これは私が前にいた場所では、お店などの防犯を目的とした、今この瞬間を映し出している映像よ。ラインハルト君はどういう仕組みかわかったみたいね」
「はい。この名札に目の前の物を映し出す何かが取り付けてあるんですよね? それを使って目の前の物を映し出し、ここで見られるようになっている…ですか?」
「そんな感じ。従業員全員の名札に物を映し出すカメラレンズが付けられているの。あ、プライベートな場所は映らないから安心してね。覗きの趣味は私にはないから」
 顔を少し赤らめて話すヴァーグは、不自然に視線を逸らした。
 その行動に「プライベート? プライベート…?」とブツブツ言っていたケインは、ハッとしヴァーグ以上に顔を赤らめた。
「このパソコンは私しか使えないから、映像が見れるのは私だけ。これを使って証拠を集めるだけ集めようと思う。近々、リチャードさんたちが見えられるから、それまでに証拠が集まればいいんだけど、こういうのはすぐに集まらないのよね。だから、2人にはなるべくマイケル君から目を離さないようにして欲しいの。この映像は録画機能のついているから、何かあっても見返すことができるし、残すこともできる。こうすれば証拠は本人が知らないところで集めることができるでしょ?」
「すげーーーー」
 見たこともない機会に、ケインの顔がキラキラと輝いていた。
「だけど、行動は収められても、言葉の場合はどうしたらいいんですか? オレたちが覚えておけばいいんですか?」
「言葉に関しても同時に収めてあるから大丈夫。言葉って覚えていても、言った・言わないの論争が絶対に起きるのね。相手がはぐらかしたらそれまででしょ? その対策もちゃんとしているから安心して」
 パソコンを閉じると、ヴァーグはそのパソコンをトランクの中にしまった。
「じゃ、私は保育所にいるから、何かあったら呼んでね」
 いつものショルダーバックとトランクを手にしたヴァーグは、2人に後の事は任せて、レストランを出ようとした。
 その彼女をラインハルトが呼び止めた。
「ヴァーグさんは何処でこの技術を手に入れたんですか?」
 誰もが驚く、誰もが知らない技術の出所にラインハルトは疑問を抱いている。ラインハルトだけでなく、ケインも知りたい事だ。
 だが、ヴァーグはにっこり笑うと、
「まだ話す時期じゃないわ。すべてが片付いたら話してあげる」
と、簡単に交わされてしまった。
 その笑顔に、今ここで聞いたら、彼女がどこか遠くに行ってしまう感じがしたラインハルトはそれ以降聞くのを辞めた。
「気長に待ってます。行ってらっしゃい」
 笑顔で送り出すラインハルトに、ヴァーグは「よろしくね」と一言声をかけ、レストランを後にした。

 なんとなく2人が見えない絆で繋がっているような気がしたケインは、ラインハルトに嫉妬しだしたが、それもすぐに収まった。ラインハルトはヴァーグを恋愛対象として見ていない。尊敬する師匠として見ている。彼の目がリチャードはエミーに向ける目でも、エテ王子がコロリスに向ける目でもなかったからだ。
 自分はヴァーグの事が好きだ。でも、リチャード達のような感情とは違う気がする。どちらかといえばラインハルトに似ているのでは?とケインは思った。
 彼女の一番弟子であり、相棒であり、古くからの友人。自分では恋愛感情だと思っていたこのときめきも、もしかしたら違うのかもしれない。この感情は変わることはあるのだろうか? ケインは自分の感情の変化に気付き始めていた。


 ヴァーグがいないということで、マイケルはやりたい放題だった。
 ケインがレシピ通りの料理を作れば、
「アレンジしねーと客は喜ばねーよ!」
と口を挟み、ラインハルトが頼みごとをすると、
「はぁ? 年下のくせに命令する訳?」
と口答えし、ホールの仕事ばかりやらされていることにも腹を立て始めた。
「料理人なのに、料理を運ぶ仕事なんてやってられるか!」
 ホールの仕事をするエルザに向かってトレイを投げつける暴挙にまで出た。
 じゃあ試しに作ってみろとケインが挑発すると、「簡単簡単」と言っていたわりには、卵すらまともに割れなかった。
「ずっとホールの仕事していたから、やり方を忘れただけっすよ」
 開き直る彼に、ケインは今にも殴りかかろうとしていた。
 ラインハルトは経験があるためスルースキルが長けていた。

 幸いなことにお客からの苦情はない。お客の前では猫を被るマイケルは、営業スマイルで丁寧に親切に接している。
「あいつはああいう奴さ」
 王都にいたときに、マイケルの行動を見ているラインハルトは、何も変わっていない彼の性格に呆れている。調子に乗り出すと女性客に手を出し始め、女性客をもてなす為に店の金にも手を出し始める。そんな光景を見てきたラインハルトはこの先、彼がどうなっていくのか予測がつく。


 レストランの様子は、保育所に併設された喫茶店にいるヴァーグにすべて筒抜けだった。
 今日は保育所に子供を預ける人は誰もおらず、喫茶店も数日前から臨時休業することを告知していたので、利用するお客は誰もいない。
 では、なぜヴァーグは保育所に来ていたのか。
 ヴァーグの前では猫を被るマイケルの本当の姿を見たかったからだ。自分がいなければ本性を表すだろうと予測した彼女は今日一日だけレストランから離れてみることにした。予測通りの展開に、すぐにでも証拠を集められると思っていたが、魔法玉を所持している様子もなく、また、店の金に手を付ける様子もない。まだ働き始めて二日目ということもあり、相手も警戒しているだろうと、ヴァーグはパソコンの画面を見ながら、気長に証拠集めを進めることにした。
「その前に保育所をどうにかしないと…」
 ヴァーグは喫茶店に併設された保育スペースを見渡した。
 保育スペースは、柔らかい素材の床を作り、20人ほどの子供たちを一斉に預かっても余裕のある広さがある。スペースの一角には、ヴァーグがいた世界で使われている子供たちのおもちゃも用意され、絵本なども王都から取り寄せた。だが、それしか用意できなかった。
 元々、前にいた世界でも保育園と無縁だったヴァーグには、何を用意して、何を作ればいいのかわからないのだ。とりあえず、お手伝いをしてくれる村の女性たちから、小さい子供を預かるための必要な物を聞いて、揃えられる物はすべて揃えた。
「こんな事なら、もうちょっと興味を持てばよかったな」
 本を読むことや、演劇を見る事、スポーツ観戦は好んで自分から興味を示したが、興味のない物はとことん嫌っていた。物書きでも興味のある事を題材にした話は書いていたが、ほぼ空想の世界を舞台にしていたことで、法律や文明、社会の仕組みなどは自分で作っていた。それがここに来て大きな壁にぶつかるとは思ってもいなかった。
「日本史とかも、歴史上の人物を覚えるのが苦手で興味なかったんだよね。徳川将軍なんて家康と慶喜しかわかんないや!」
 日本史よりも世界史、世界史よりも古代文明と、解明されていない超古代文明に興味を持っていたヴァーグにとって、戦国時代の英雄たちは大の苦手。どっちが親でどっちが子供かもわからないほどらしい。
 その点、空想の世界を舞台に物語を書くときは、歴史や文明、法律など全く関係ない。自分で国の歴史を作り、自分で法律を作り、自分で文明を作り上げてしまえばいいのだ。

 そんなヴァーグに、女神から与えられた【スキル 物書き】のことが頭に浮かんだ。
 パソコンを使って文章を書くとそれが現実となるスキル。
 マイケルの事もスキルを使えば簡単に捕まえることができる。マイケルの性格も書き換えられる。
 でも、そんなことをして本当にいいのか?
 建物を作ったり、作物を育てる環境を整えたりするのは、周りの人を喜ばせることができる。無機質な物に手を加えるのだから、迷惑に思う人はいないはず。
 だが、生きている人間の性格や過去を書き換えるのはどうなんだろう。その人間が悪者であろうと、その人にはその人が作り上げてきた歴史がある。神でもないただの人間がその人を作り変えてもいいのだろうか。

「って、そんな事よりも、まずは保育所! 元の世界の情報が見れれば参考に出来るのに~~!!!」
 机に突っ伏して悔しむヴァーグ。パソコンは使えるが、あくまでもこのパソコンは今いる世界を知るためのアイテム。元の世界の情報はどんなに望んでも、このパソコンからは得ることはできない。
 地道にやっていくか…そう思ったとき、パソコンに女神からのメールを受信した。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 |お困りのようでしたので、       |
 |パソコンに新しいアイコンを作りました。|
 |役に立ててくださいね。        |
 |期待してますよ!           |
 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 今回はまともな文章だった。
「顔文字とかたくさん使ってもいいのに…」
 などと呟くと、また女神からメールが来た。

 ーーーーーーーーーーーーーーー
 |ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪♪♪♪ |
 |(*≧m≦*)グフフ      |
 |(≧ω≦)bガンバリマス!    |
 ーーーーーーーーーーーーーーー

「うん、こっちのほうが落ち着く」
 この世界に存在しない顔文字は、自分があの世界に存在していた証でもある。ちゃんと生きていた証として、この顔文字だけは使い続けたいヴァーグだった。

 女神が新しく作ったアイコンは、白い扉の絵をしていた。
 その扉の絵を押すと、ヴァーグにとって、とても懐かしい画面が現れた。
「私がよく使っていた検索エンジン。しかも某王手…に似ている?」
 元の世界でよく使っていた検索エンジンサイトによく似たページは、ニュースや天気などの記事が載っていたが『日本』の情報ではなく、今、ヴァーグがいる世界のニュースや天気だった。
「この国【ステラ王国】っていう名前だったんだ」
 今まで気にしていなかった(女神も言わなかった)国の名前を8年目にして初めて知るヴァーグ。そして天気予報の画面に記された近隣諸国の名前はもちろんだが、国の形も初めて知った。この国は南に海、北と東に大きな山脈、西は隣国と接する大きな平野で成り立っていた。王都はほぼ中央にあり、村は王都の東にあった。
「なんで今まで気にしなかったんだろう?」
 普通、8年もいれば国の名前や地形、近隣諸国の事も気に掛けるはずなのに、ヴァーグは今まで一度も気にしたことはなかった。前にいた世界で好んでしていたゲームも、自分で名前を付けることはなかった(初期設定のまま)事が関係しているのだろうか?
 画面には二つのカレンダーがあった。一つは今いる世界のカレンダー。もう一つは前にいた世界のカレンダー。前にいた世界のカレンダーの日付はヴァーグが『千波』という名前から変わった日から8年も過ぎていた。
「時間は流れているんだ…」
 元の世界では見る事が出来なかった8年後の年に、ヴァーグは少しだけ悲しくなった。

「これって、前の世界の情報も閲覧できるのかな?」
 ヴァーグは試しに検索エンジンに、元の世界で応援していたあるサッカーチームを検索した。
 そのチームの記事はすぐに出てきた。どうやらこの検索エンジンは、この世界と前にいた世界の両方の情報を見ることができるようだ。嬉しくなってもっと詳しく調べてみようと、過去の情報を検索していった。
「はぁ!? 二部に落ちたってどういうこと!? あ、一部に戻っ……ん? なんでこんなに有名人ばかりいるの?」
 8年という歳月が流れた事を物語るかのような衝撃的な情報に、ヴァーグは釘付けになっていた。
 結局、ヴァーグは日が暮れるまで元の世界の情報に釘付けになってしまい、肝心の保育所について調べることはなかった。


 この検索エンジン、実は女神お手製だ。
「女神になる前は、エンジニアだったんですのよ! こんな簡単な作業、朝飯前ですわ!」
 神の世界でもネットワークは最盛期らしく、女神はそのネットワーク管理をする一人だった。だが、新しい世界が発見される度に世界を管理する神や女神が就任していき、ただのネットワーク管理をしていた彼女も新しい世界の発見によって、女神の地位に就いたらしい。
 今いる世界で前にいた世界の情報を見ることができるシステムは企業秘密らしい。
 ただ、一心不乱にパソコンに噛り付いている女神を見る限り、彼女が随時、情報更新をしているのだろう。
 ヴァーグとお茶していた空間は何もない空間だったが、きっとどこかに隠し扉があり、その扉の奥には数十台のモニターがズラーっと並んでいるのだろう。



 翌日のお昼過ぎ、レストランに顔を出したヴァーグが目にしたのは、お昼のピークも過ぎ、お茶を楽しむ数人のお客と、お客が帰ったテーブルを片付けるエリザとローズ、カウンターで備品の在庫を確認しているエミーの姿だった。
「あ、お疲れ様です」
 ヴァーグに気付いたエミーが挨拶してきた。
「お疲れさま。ケインたちは厨房?」
「はい。夜の仕込みをしています。保育所はいいのですか?」
「今日はお昼までの預かりだったから、喫茶店も閉じてきたの。何か変わったことはあった?」
「特にはありません。ですが…」
 エミーはちらりと厨房の中を見た。
 厨房の中では、ケインとマイケルが何やら言い争いをしていた。声はここまで聞こえてきていないが、ケインが怒鳴り、マイケルが開き直った態度をしているところを見ると、マイケルが何かしたのだろう。
「あの、ヴァーグさん。マイケル君の事なんですが…」
「迷惑かけちゃったよね。でも、もう少しの辛抱だから…」
「いえ、そうではなく、王都にいた頃、友達があの人と一緒にいた所を見たことがあるんです。でも、その友達、しばらくしたら修道院に入るって言って、婚約者にもご両親にもどこの修道院に入ったか言わずに姿をくらませてしまったんです」
「ご婚約者がいたの?」
「はい。式を半年後に控えていました」
「…そう。そのお友達と一緒にいたのはたしかにマイケル君だったのね?」
「はい。私が勤めていた雑貨屋にも頻繁に来店しては、同僚にしつこく声をかけていましたからよく覚えています」
 ヴァーグは証拠集めを王都でも行った方がいいのでは?と考えた。マイケルはこの村に来て日が浅い。証拠という証拠はほぼない。今、彼をよく知るのはラインハルトだけ。
「それから…」
 考え事をしていたヴァーグに、エミーは話を続けた。
「あの人、王都ではカフェを経営していたんですよね?」
「そう聞いているけど」
「雑貨屋に来店した時は王立研究院の職員だって言っていたんですけど? その証拠に研究員しか持つことができない身分証を見せていたんです。身分証は王家の紋章が刻印されているので、偽造することはできないはずです。研究院の職員を辞めてカフェの経営をしていたのかしら?」
「エミーさん、詳しく話してくれませんか? できれば時系列で!」
 思わぬところから出てきた新情報に、ヴァーグは思い切りエミーに飛びついた。

 エミーからの情報だと、マイケルが雑貨屋に初めて来店したのはエミーが雑貨屋で働き始めて間もない5年ほど前の事。その雑貨屋は王立研究院の職員たちが実験などで使う機材も取り扱っていた為、もともと職員がよく足を運ぶところだった。
 マイケルも最初は同じ職員と来店していたが、一か月も経つと一人で来店するようになった。特に物を買う様子もなく、店員と世間話をしている程度で変わったことはなかった。エミーとも数回話をしており、その時は王立研究院の制服を着て身分証も携帯していた。
 それからしばらくすると、同僚の年の若い女の子がマイケルとデートするようになった。ただの友達として食事を一緒にするだけだったが、毎回違う女の事食事に行くようになった。
 初めてマイケルを見て3年後、店の中で彼と食事に行ったことがなかったのはエミーと、すでに結婚している女性だけ。エミーは何故か一度も誘われたことがなかったし、口説かれたこともなかった。
 その後、急にマイケルの悪口が飛び交うようになった。女の子から食事に誘っても必ず断られ、街で見かけても知らない女の子と一緒にいる事が多くなり、一緒にいる女の子も毎日違う人だった。その頃、エミーの友達がマイケルと一緒にいる姿を何日間か見かけており、その数か月後に突然姿を消した。
 友達が姿を消した後も、マイケルは女の人ー特にお金持ちの未亡人や身分のある既婚女性と一緒にいる所をよく見かけるようになった。

「エミーさん、近いうちにリチャードさんが来るんですけど、この事をリチャードさんに話して貰えませんか?」
「私が…ですか?」
「今は詳しい事は言えません。ですが、リチャードさんが集めている情報の役に立つと思うんです」
「わかりました」
 エミーは何かあると察した。と同時に、ヴァーグが何故マイケルを雇ったのかも理解できた。リチャードは王宮に関わる騎士団に所属していると聞いている(前回の宿泊の時、2人きりで話した時に聞いている)。そのリチャードの話すと言うことは、王宮に何らかの関わりがある事件が発生したのだろう。憶測ではあるが、マイケルから目を離さないようにしなくては!とエミーは誰に言われることなく、マイケルを見張ることを決めた。



 リチャード達は、マイケルが温泉宿で働き始めて3週間後にやってきた。
 その間、マイケルは警戒しているのか、ケインと口喧嘩するだけで、特に目立った動きはしなかった。
「それが却って怖い」
 ラインハルトは女性の誰にも声を掛けないマイケルが怖かった。最もこの村には未婚の若い女性はエミーしかいないということもあり、ほとんどの女性は結婚しているし、子供もいる。未婚というと学校に通う子供しかいないのだ。
「なんとなく行き遅れている気がする…」
 同じ年頃の女性は、この村では結婚している人が多い。まだ相手もいないエミーは焦り始めていた。
 母のメアリーも父のマックスも娘の結婚に焦りはなかった。いい人が見つかり、本人が気に入っているのならそれでいいというが、変な男にだけは捕まるなと彼女に言い聞かせている。
 エミーがマイケルに口説かれない理由は、きっと彼女自身が自然に自己防衛をしているのだろう。マイケルも数多くの女性と接している事もあり、エミーが自己防衛していることに気付いているはずだ。だから、エミーには変に近づかなかったのだろう。


 リチャード、エテ王子、そしてカトリーヌは、風が涼しくなり始めた夏の終わりごろに、村へとやってきた。
 どのような事件が待ち受けているのだろう……。


                 <つづく>
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