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番外編 実は大切な登場人物なんです。
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暖かな風が吹くにはまだ早い冬の終わり頃、ケインは新しくオープンする温泉付き宿で客室の準備をしていた。
今日は学校の同級生が数名、手伝いに来てくれている。
「ケイン、こっちの部屋は終わったよ」
廊下を挟んで向かいの一人部屋で掃除をしていたアレックスが、ケインのいる部屋を覗き込んだ。
ケインも丁度終わったところなのか、窓を閉め、置かれている調度品を指さし確認していた。
「こっちも終わったところだ。他は?」
「デイジーとナンシーは先にレストランに行ってるって」
「もう腹減ったのか?」
「お昼ご飯の手伝いをするって言ってた。2人ともオーナーさんが作る料理に興味津々なんだよ」
「まあ、あの人が作る料理は見たこともない料理ばかりだからな。この間、王都の新年の祭りで作ったたこ焼きとたい焼きは、国王様ですら虜になってたよ」
「凄いよね。どこであの技術を手に入れたんだろう? ケイン、何か聞いてる?」
「いや、何も聞いてない。あまり自分の話をする人じゃないし、俺も聞いたところで理解できないと思う」
ケインは今までに体験してきたヴァーグが所持する見たこともない道具や、考えつかない知識の豊富さにお手上げ状態だった。それでも少しでも彼女に近づこうと、春にオープンするこの宿に従業員として働くことになった。
「あと一か月で学校も卒業か。僕たちの中ですでに進む道を決めているのはケインだけだな」
「アレックスは卒業したらどうするんだ?」
「う~ん…まだ決めていないんだよね。とりあえず親父の仕事を手伝いながら、何をやりたいのか決めようと思ってる」
「親父さんって、鍛冶屋だっけ?」
「そう。昔は王都に騎士団に武器を作っていたけど、争い事がないから、大量の武器はいらないって言ってきたんだってさ。今は農具のメンテナンスとか、注文の入った農機具しか作ってない。あまりにも暇だからって、今じゃ料理に使う道具とか作り始めたんだ」
「じゃあ、この宿のレストランで使う調理器具でも頼もうかな?」
「まだ試作の段階だよ?」
「試しに使ってやるよ。あの人も嬉しがると思う」
「親父に行ってみる」
アレックスの父親は王室御用達の武器職人だった。まだアレックスの父親が子供だったころは、この国も近隣諸国との領土問題で大きな争い事をしていた。アレックスの祖父が腕のある武器職人で、争い事が起きると大量の武器の注文が入り、寝る暇を惜しんで武器を作り続けていた。
その後、近隣諸国の国王が代替わりし、この国の国王も変わり、領土問題も解決したことで、争い事が起きなくなった。それでも万が一のこともあると考え、騎士団は存続させ、武器も定期的に注文が入っていた。
それでも全盛期の頃から比べると格段に減り、大勢いた弟子も鍛冶場を辞めていき、今はアレックスの父親と2人の弟子しか残っていない。アレックスの祖父は引退しているが、今でも時々、暇つぶしに鍛冶場に遊びに来ては、弟子たちに指導している。
この時ケインもアレックスも、数か月後に村の鍛冶場が王立研究院から【特別な注文】を受けることになり、アレックスの祖父が現役復帰するとは思いもしなかった。
レストランの厨房では、デイジーとナンシーが、ヴァーグの作る料理を興味津々に見入っていた。
今、ヴァーグが作っているのはオムライス。彼女のオムライスはちょっと違っていた。
細かく刻んだ鶏肉と、細かく刻んだ玉ねぎやニンジン、そしてグリンピースという緑色の小さい豆をフライパンで油と共に炒め、そこに白いご飯を入れる。ご飯に軽く火が通ると、塩コショウを軽く振り、トマトから作ったケチャップという赤いソースをご飯に掛ける。フライパンを前後に動かしながら、木べらでご飯をかき混ぜていくと白かったご飯が赤く染まりだした。
赤く染まったご飯を、オーブンに入れても割れない厚みがあり深みもある皿に盛り付ける。
5個の皿に均等に分けると、今度は小ぶりのフライパンをコンロの上に置き、油を入れて温め始めた。
温まるまでの間、ボウルに卵を二個割入れ、ミルクを少量加え、よくかき混ぜた。温まったフライパンに、溶いた卵を流し込むと、ジュー!っという音が響いた。
卵を流しいれたフライパンを、コンロの火から2~3センチ離した所で、菜箸で軽くかき混ぜ、固まるのを待った。
やや中央がまだ固まっていない状態で、赤く染まったご飯の上に蓋をするようにかぶせると、その上に、細かく刻んだミルクから作ったチーズを適量振りかける。
残りの皿も同じように卵をかぶせ、チーズを乗せると、その皿をオーブンに中に入れた。オーブンが大きくなかったことに今さら気付いたヴァーグは「あ~~…」と小さな声を漏らしながらも、最初に3皿をオーブンに入れ、何かのボタンを押した。ピッ!という音がし、オーブンの中が赤く光るのを確認すると、その場から離れた。
次にヴァーグが取り掛かったのはサラダづくり。
水で洗ったレタスを千切り、小さな小鉢に入れ、その上に楕円形に切られたキュウリ、輪切りにした赤いピーマン、軽く塩茹でしたトウモロコシを綺麗になれべ、その上から茶色く1cmほどに切り揃えられた四角い固そうなものを振りかけた。
「それはなんですか?」
作業を見ていたデイジーが訊ねてきた。
「これは食パンを細かく刻んで、油で揚げた『クルトン』っていう食べ物よ。カリカリっとした食感がサラダのアクセントになるの」
「へぇ~~」と感心した声を出すデイジーとナンシー。2人は手伝うどころか、最初から最後までジーッとヴァーグの手元も見続けているだけだった。
そうこうしているうちに、オーブンがチン!っとなり、ヴァーグは中から皿を取り出した。
振りかけていたチーズが形が無くなるまで溶けきり、黄色い卵と白いチーズ、そしてチラッと覗く赤いご飯の見た目が華やかに見えた。残った2つの皿もオーブンに入れ、先ほどと同じようにボタンを押した。
先に出来た3皿には、チーズの上に細かく刻んだパセリを振りかけ、ヴァーグはレストランのテーブルに運ぶように2人に頼んだ。
「熱いから必ずこのマットを引いてからテーブルにおいてね。お皿を持つときは、必ずこの手袋を使ってね」
5枚の正方形のクッションを平べったくしたようなマットと、親指しか分かれていない、これまたクッションを平べったくしたような素材で作られた手袋を受け取ると、デイジーとナンシーは慎重にテーブルへと運んだ。
その間に小さいボールに、卵から作ったマヨネーズというクリーム状のソースを入れ、ミルクを入れ、レモンを軽く絞り、粉状のチーズと黒い胡椒を軽く振りかけかき混ぜた。
2人が戻ってくるころにはサラダとサラダに掛けるソースは完成していた。
それも運ぶように頼むと、匂いに誘われた男子2人も姿を見せ、オーブンに入れていた残りの2皿も完成した。
作り置きしていたトウモロコシを擦り潰したスープをカップによそい、イチゴミルクを使ったプリンをガラスの器に乗せ、天辺に白いクリームを絞り、その上に半分に切ったイチゴを乗せた。
レストランのテーブルは正方形の形をしており、基本は2人ずつ向かいあって座る。今回は5人ということで、コの字になるように椅子を並べた。
男子と女子でそれぞれ向かい合って座り、ケインとデイジーの間にヴァーグが座った。
「さ、召し上がれ」
ヴァーグの声を合図に、4人は「いただきます!」と声を揃えて言うと、全員がオムライスにスプーンを入れた。
トロトロに溶けたチーズと、薄い卵、その下から湯気と共に姿を見せた赤いご飯に、4人は歓声をあげた。
「綺麗!」
「ただの赤いご飯だと思ったら、細かい野菜まで入ってる」
「このご飯、味がする!」
「中のお肉が香ばしい!」
4人とも全く違う感想に、ヴァーグはニコニコしながら見ていた。
「これ、レストランでも出すんですか!?」
ケインが弾んだ声で聞いてきた。
「あ~~…レストランでは出せないかな?」
「どうしてですか?」
「この村って、主に小麦を育てているから、パンが主食でしょ? お米は今のところある場所から買っているけど、レストランで出すには生産しなければならないの。でも作る場所がないし、作る手間もかかるからね」
「そんなに大変なんですか?」
「まずは大きな土地が必要なの。で、土地を手に入れたら、そこを耕して、水を張って、水田っていうお米を作る専用の畑を作らないといけないの。春にお米の種を蒔いて、夏が始まる前に芽を出させて、水田に植えて、夏の間たっぷりな水を水田に入れ続けて、秋口になったら水抜いて、実を着けたら今度は刈り取って、脱穀して、精米して、皆の口に入るまで約1年かかるの」
「そんなに大変なんだ…」
「じゃあ、これがメニューに加わるのは当分先…」
「美味しいのに勿体ないな」
「時間が出来たら挑戦してみようと思うの。ただ、まだレベルが足りないからお米が植えられない」
「レベル?」
「私の経験値。誰かに教えることは可能だけと、この村に水田に適切な場所はないのよね」
「どんなところが適切なんですか?」
「水が大量に入れ込めて、大量に排出できるところなら大丈夫だと思うわ。出来れば綺麗な川の側が適切なんだけどね」
「綺麗な川の側?」
ナンシーは何か心当たりがあるのか、顎に手を当て考え始めた。
「あそこなら…」
「ナンシー、心当たりあるの?」
「あ、うん。お祖母ちゃんが昔、畑を持っていたんだけど、お祖母ちゃんが亡くなってからは何も使っていない土地があるの。川の近くで、なかなか水はけが悪いからってことで、お父さんもお母さんも使わなかったの。最もお父さんもお母さんも畑仕事はしていないんだけどね」
「ナンシーのご両親は何のお仕事をしているの?」
ヴァーグは適した土地がある事にワクワクしていたが、とりあえず冷静を装い、ナンシーに質問した。
「服を作っています。父がデザインを考えて、母が作るんです。王都に店を持っているので、数か月に一度しか戻ってきませんが、王宮の方も利用してくださっているんです」
「じゃあ、ナンシーは一人で暮らしているの?」
「いえ、それは流石に怖いし淋しいので、親戚の所でお世話になっています。学校を卒業したら王都に行くつもりでしたが、私には服を作る才能はないので、もうしばらくはここに居ようかなって思います」
「え~? ナンシーはセンスあるよ~! アクセサリー、上手に作るじゃん」
「あれは趣味で作っているだけだから」
「それでも上手だよ。ただのガラス玉なのに宝石のように似せて作るし、お姫様が付けそうなティアラとが作ってるでしょ?」
「あれは…」
「今度市場で売ってごらんよ。絶対の売れるよ」
デイジーが必死になって説得している所を見る限り、ナンシーのアクセサリーはとても素晴らしい物なんだろうと想像つく。
ナンシーの両親は王都のほぼ中央で大きな服屋を経営している。先祖代々から受け継がれきた店で、2代目の店主は当時の王妃付きの衣装係に任命されていた。今でも王族からのオーダーメイドに答えていたり、王都にあるすべての学校の制服を担当している。他にもレストランや喫茶店などの従業員の制服も作っている。
そんな店を経営するナンシーの両親は、この村出身ではない。生まれも育ちも王都で、ナンシーも王都で生まれた。だが、ナンシーは小さい頃から体が弱く、療養を兼ねてこの村に嫁いできた母親の妹の家にやってきた。村に来た頃は外に出ることもなく、家の中で過ごすことが多くなり、その時に両親の服のデザインを見ながら、その服に合うアクセサリーや小物を作るようになった。ただの自己満足の為、表に出ることはないが、学校に通う様になって知り合ったデイジーは彼女の作るアクセサリーの大ファンになった。
その後、デイジーと一緒に遊ぶようになり、病弱だった体も逞しくなり、両親からは王都に来てもいいんだよと言われたが、デイジーたちと別れるのが辛くなり、しばらくは村に留まることになった。
「あ~あ、この中で将来が決まっていないのは私だけか」
デザートにイチゴミルクのプリンを頬張りながらデイジーは溜息を吐いた。
「デイジーはどんな職に就きたいの?」
「やってみたい事はあるんですけど、誰もやった事がないから不安なんです」
「誰もやっと事がない仕事?」
「私、思い出を作ってあげたいんです。人間って、生きていると色々なイベントに遭遇しますよね? お誕生日とか、家族が増えたときとか、そんな思い出を一生残るように手助けしたいんです」
「そんなの無理無理。第一、どうやって手伝うんだよ」
「そうだよ。形もない物を手伝うなんて無理だよ」
「でも~!!」
デイジーの言葉に真っ向から反対の意見を言う男子たち。デイジーはそれに対して言い返した。
だが、ヴァーグだけは「私が前にいた場所には、そういうのを専門にやる人いたな~」と、自分がいた世界の事を思い出していた。
「あるんですか!? 思い出を作る仕事!!」
「思い出作りにも色々な仕事があるわよ。例えば、家族の肖像画を描く絵描きさんとか、赤ちゃんが生まれたときに記念の品物を作る仕事、イベント毎の写真を撮るカメラマン、結婚式を一緒に考えてくれるウエディングプランナー…なんでもあったね」
最後の2つはこの世界にない物なので、4人は聞き流していたのは言うまでもない。
「デイジーはどんなことをやりたいの? どんなイベントのお手伝いをしたいの?」
「どんな…って言われても…」
「一生残る思い出ならカメラマンを進めるけど、ここにはカメラがないから無理よね。絵は描ける?」
ヴァーグの言葉に、デイジーは激しく首を横に振った。
(だろうね。デイジーの絵は破滅的だから)学校の授業で彼女の絵を見ている3人はウンウンと納得したようにうなずいていた。
「そういえば、この村って、結婚式を挙げないの?」
「結婚式?」
「男女が夫婦になるとき、結婚式を挙げて、お互いの両親や友達に結婚することをお披露目するんだけど、この村ではやらないのね」
長い間、この村にいるヴァーグは、一度も結婚式を見たことがなかった。いつの間にか夫婦になってて、いつの間にか子供が生まれていることが多かった。
「結婚式は身分のある人やお金持ちしか上げられないんですよ。身分がある人やお金持ちは教会に莫大な寄付金をしているので、その寄付のお礼として、教会側が神の前での夫婦宣誓を認めているんです」
そう答えたのはアレックスだった。
「そうなの? 私が前にいた場所では誰もが挙げられたわよ。寄付はなかったけど、結婚式場で普通にお金を払えば出来たわね」
「羨ましい~! 私たち女の子は一度でもいいからお姫様になってみたいよね。ね、ナンシー」
「うん。憧れる」
「確かに結婚式って、人生の中で唯一女の子がお姫様なれるチャンスだね。私が前にいた場所では、教会で式を挙げて、その後披露宴っていう参列した人と食事を楽しみながらお祝いするイベントがあったわ。新婦さんは何着もドレスを着替ることが出来るのよ」
「「いいな~~!!」」
「夫婦になる男女と一緒に、どんな結婚式にするのか、どんな会場の作りにするのか、どんな食事を出して、どんな人を呼んで、どんなドレスを着て、どんな記念品を渡すのか、それを考えるのがウエディングプランナーの仕事よ」
「でも、結婚式って教会で挙げないといけないいんですよね?」
「この村の事は分からないけど、私が前にいた場所では、教会以外の所でも挙げていたわ。絶対に教会で挙げないと罰せられるのなら仕方ないけど、そうじゃないのならどこでもいいんじゃないの?」
「罰せられるの?」
「知らない。今度神父様に聞いてみる」
「それに、ナンシーとも一緒に出来る仕事じゃないかしら?」
「え?」
「デイジーが式のプランを考えて、ナンシーが花嫁のアクセサリーや小物を用意してあげれば、一緒に出来るでしょ? ナンシーのご両親に頼んで、何着か衣装を手配出来たら、即席の結婚式もできるわね」
ヴァーグの提案にデイジーもナンシーもお互いに顔を見合わせた。
お互いにやりたい事、お互いの長所を合わせれば、そう難しくない事だ。
「でも、すぐに始めてはダメよ。ちゃんと準備しないとどこかで躓いてしまうわ。まずは神父様に誰でも式を挙げることができるのか、どこで式を挙げても罰せられないのか、それを確認しなくちゃ。それが終わったら、村長さんとの話し合いよ。この村で結婚式を挙げる事を報告しないとね。村長さんの許可が下りたらナンシーのご両親と相談して衣装の手配。それが終わったら家具職人や装飾品を作れる職人さんとの打ち合わせ。会場を作らないと式は挙げられないからね。参列した人に食事を振る舞うのなら料理人との打ち合わせ。手配が済んだら、どうやって皆に宣伝するのか。式を挙げることになったら、一緒に働いてくれる人も見つけなくちゃね」
次から次へと課題を出すヴァーグに、2人はポカーンと口を開けてしまった。一言で「思い出を作りたい」と言っても、そこまでの労働は険しい道のりになりそうだ。
「装飾品とかだったら、辞めた弟子に声をかけてみようか? それを得意としていた人もいるしさ。それに、辞めた弟子の中には指輪とかブローチとかそういうの作るのが得意の奴もいたよ。僕から声をかけてみようか?」
アレックスの声が弾んでいた。彼もこの提案に興味を示したらしい。
「なんだったらさ、卒業後に進路が決まっていない奴に声かけようか? たしか花屋のビリーが実家を継ごうか、王都に行こうか悩んでいたし、あいつなら花束とか作れるはずだよ。僕の母さんは手先が器用だから、凝った髪型とか作れると思う。よくいろんな人に頼まれているから」
「村全体で一つの会社を立ち上げるみたいで楽しそうね。私も料理の事ならアドバイスできるわよ。アクアも自由に使っていいわ。新郎新婦がドラゴンに乗って村一周なんで、この村でしかできないイベントね」
デイジーとナンシーはお互いに顔を見合わせて大きく頷いた。
「ヴァーグさん、わたしたちやってみます!」
「少しずつ解決していけば、出来そうな気がしてきました。もし、立ち止まるようなことになったらアドバイスしてくれますか?」
「ええ、いいわよ」
「じゃあ、明日、神父様に聞いてきます!」
デイシーとナンシーはとびっきりの笑顔をヴァーグに見せた。
アレックスも父親の弟子だった人たちに声をかけることを約束した。
学校を卒業しても、進むべき道がはっきりしていなかったデイジーとナンシーが、ヴァーグのちょっとしたアドバイスでその道をはっきりとさせた。
アレックスもただ父の跡を継ぐことだけしか考えていなかったが、これを機会に『誰かの為に』働きたいと思うようになった。
ケインだけは不安になった。他の三人は『誰かの為に』働こうとしている。でも自分はヴァーグの傍に居たいという願望だけで宿の従業員になる事を決めた。皆と違って『誰かの為に』ではなく『自分の為に』という感じだった。
そんなケインにヴァーグは言う。
「私の為に働いてくれるのなら、私がみんなの為に働くから、心配することはないよ。ケインはケインが働きたいように働けばいいの。そのうち『誰かの為に』なるから」
ヴァーグが言う様に、ケインは少し時間は掛かってしまうが『誰かの為に』動けるようになる。そうでなければ『選ばれた勇者』にはならないし、保育士にもならない。
彼らが学校を卒業した数ヶ月後、アレックスの鍛冶場は国中に名前が知れ渡ることになる。それはこの国の騎士団の勢力を上げる事になり、王立研究院が極秘で研究を進める魔法玉の生産へと繋がることになった。
デイジーとナンシーは結婚式をコーディネートする会社を立ち上げ、王都にも進出することになる。彼女らがコーディネートする第一号の新郎新婦は意外な人物だった。
ケインは、アレックスの祖父が作った武器で、一気に勇者へと駆け上がって行くことになる。
まだまだ小さな芽だが、大切に大切に育てていくことで、彼らは想像もしない大きな大きな花を咲かせることになるだろう。
彼らの活躍は本編で……。
<番外編 Fin>
今日は学校の同級生が数名、手伝いに来てくれている。
「ケイン、こっちの部屋は終わったよ」
廊下を挟んで向かいの一人部屋で掃除をしていたアレックスが、ケインのいる部屋を覗き込んだ。
ケインも丁度終わったところなのか、窓を閉め、置かれている調度品を指さし確認していた。
「こっちも終わったところだ。他は?」
「デイジーとナンシーは先にレストランに行ってるって」
「もう腹減ったのか?」
「お昼ご飯の手伝いをするって言ってた。2人ともオーナーさんが作る料理に興味津々なんだよ」
「まあ、あの人が作る料理は見たこともない料理ばかりだからな。この間、王都の新年の祭りで作ったたこ焼きとたい焼きは、国王様ですら虜になってたよ」
「凄いよね。どこであの技術を手に入れたんだろう? ケイン、何か聞いてる?」
「いや、何も聞いてない。あまり自分の話をする人じゃないし、俺も聞いたところで理解できないと思う」
ケインは今までに体験してきたヴァーグが所持する見たこともない道具や、考えつかない知識の豊富さにお手上げ状態だった。それでも少しでも彼女に近づこうと、春にオープンするこの宿に従業員として働くことになった。
「あと一か月で学校も卒業か。僕たちの中ですでに進む道を決めているのはケインだけだな」
「アレックスは卒業したらどうするんだ?」
「う~ん…まだ決めていないんだよね。とりあえず親父の仕事を手伝いながら、何をやりたいのか決めようと思ってる」
「親父さんって、鍛冶屋だっけ?」
「そう。昔は王都に騎士団に武器を作っていたけど、争い事がないから、大量の武器はいらないって言ってきたんだってさ。今は農具のメンテナンスとか、注文の入った農機具しか作ってない。あまりにも暇だからって、今じゃ料理に使う道具とか作り始めたんだ」
「じゃあ、この宿のレストランで使う調理器具でも頼もうかな?」
「まだ試作の段階だよ?」
「試しに使ってやるよ。あの人も嬉しがると思う」
「親父に行ってみる」
アレックスの父親は王室御用達の武器職人だった。まだアレックスの父親が子供だったころは、この国も近隣諸国との領土問題で大きな争い事をしていた。アレックスの祖父が腕のある武器職人で、争い事が起きると大量の武器の注文が入り、寝る暇を惜しんで武器を作り続けていた。
その後、近隣諸国の国王が代替わりし、この国の国王も変わり、領土問題も解決したことで、争い事が起きなくなった。それでも万が一のこともあると考え、騎士団は存続させ、武器も定期的に注文が入っていた。
それでも全盛期の頃から比べると格段に減り、大勢いた弟子も鍛冶場を辞めていき、今はアレックスの父親と2人の弟子しか残っていない。アレックスの祖父は引退しているが、今でも時々、暇つぶしに鍛冶場に遊びに来ては、弟子たちに指導している。
この時ケインもアレックスも、数か月後に村の鍛冶場が王立研究院から【特別な注文】を受けることになり、アレックスの祖父が現役復帰するとは思いもしなかった。
レストランの厨房では、デイジーとナンシーが、ヴァーグの作る料理を興味津々に見入っていた。
今、ヴァーグが作っているのはオムライス。彼女のオムライスはちょっと違っていた。
細かく刻んだ鶏肉と、細かく刻んだ玉ねぎやニンジン、そしてグリンピースという緑色の小さい豆をフライパンで油と共に炒め、そこに白いご飯を入れる。ご飯に軽く火が通ると、塩コショウを軽く振り、トマトから作ったケチャップという赤いソースをご飯に掛ける。フライパンを前後に動かしながら、木べらでご飯をかき混ぜていくと白かったご飯が赤く染まりだした。
赤く染まったご飯を、オーブンに入れても割れない厚みがあり深みもある皿に盛り付ける。
5個の皿に均等に分けると、今度は小ぶりのフライパンをコンロの上に置き、油を入れて温め始めた。
温まるまでの間、ボウルに卵を二個割入れ、ミルクを少量加え、よくかき混ぜた。温まったフライパンに、溶いた卵を流し込むと、ジュー!っという音が響いた。
卵を流しいれたフライパンを、コンロの火から2~3センチ離した所で、菜箸で軽くかき混ぜ、固まるのを待った。
やや中央がまだ固まっていない状態で、赤く染まったご飯の上に蓋をするようにかぶせると、その上に、細かく刻んだミルクから作ったチーズを適量振りかける。
残りの皿も同じように卵をかぶせ、チーズを乗せると、その皿をオーブンに中に入れた。オーブンが大きくなかったことに今さら気付いたヴァーグは「あ~~…」と小さな声を漏らしながらも、最初に3皿をオーブンに入れ、何かのボタンを押した。ピッ!という音がし、オーブンの中が赤く光るのを確認すると、その場から離れた。
次にヴァーグが取り掛かったのはサラダづくり。
水で洗ったレタスを千切り、小さな小鉢に入れ、その上に楕円形に切られたキュウリ、輪切りにした赤いピーマン、軽く塩茹でしたトウモロコシを綺麗になれべ、その上から茶色く1cmほどに切り揃えられた四角い固そうなものを振りかけた。
「それはなんですか?」
作業を見ていたデイジーが訊ねてきた。
「これは食パンを細かく刻んで、油で揚げた『クルトン』っていう食べ物よ。カリカリっとした食感がサラダのアクセントになるの」
「へぇ~~」と感心した声を出すデイジーとナンシー。2人は手伝うどころか、最初から最後までジーッとヴァーグの手元も見続けているだけだった。
そうこうしているうちに、オーブンがチン!っとなり、ヴァーグは中から皿を取り出した。
振りかけていたチーズが形が無くなるまで溶けきり、黄色い卵と白いチーズ、そしてチラッと覗く赤いご飯の見た目が華やかに見えた。残った2つの皿もオーブンに入れ、先ほどと同じようにボタンを押した。
先に出来た3皿には、チーズの上に細かく刻んだパセリを振りかけ、ヴァーグはレストランのテーブルに運ぶように2人に頼んだ。
「熱いから必ずこのマットを引いてからテーブルにおいてね。お皿を持つときは、必ずこの手袋を使ってね」
5枚の正方形のクッションを平べったくしたようなマットと、親指しか分かれていない、これまたクッションを平べったくしたような素材で作られた手袋を受け取ると、デイジーとナンシーは慎重にテーブルへと運んだ。
その間に小さいボールに、卵から作ったマヨネーズというクリーム状のソースを入れ、ミルクを入れ、レモンを軽く絞り、粉状のチーズと黒い胡椒を軽く振りかけかき混ぜた。
2人が戻ってくるころにはサラダとサラダに掛けるソースは完成していた。
それも運ぶように頼むと、匂いに誘われた男子2人も姿を見せ、オーブンに入れていた残りの2皿も完成した。
作り置きしていたトウモロコシを擦り潰したスープをカップによそい、イチゴミルクを使ったプリンをガラスの器に乗せ、天辺に白いクリームを絞り、その上に半分に切ったイチゴを乗せた。
レストランのテーブルは正方形の形をしており、基本は2人ずつ向かいあって座る。今回は5人ということで、コの字になるように椅子を並べた。
男子と女子でそれぞれ向かい合って座り、ケインとデイジーの間にヴァーグが座った。
「さ、召し上がれ」
ヴァーグの声を合図に、4人は「いただきます!」と声を揃えて言うと、全員がオムライスにスプーンを入れた。
トロトロに溶けたチーズと、薄い卵、その下から湯気と共に姿を見せた赤いご飯に、4人は歓声をあげた。
「綺麗!」
「ただの赤いご飯だと思ったら、細かい野菜まで入ってる」
「このご飯、味がする!」
「中のお肉が香ばしい!」
4人とも全く違う感想に、ヴァーグはニコニコしながら見ていた。
「これ、レストランでも出すんですか!?」
ケインが弾んだ声で聞いてきた。
「あ~~…レストランでは出せないかな?」
「どうしてですか?」
「この村って、主に小麦を育てているから、パンが主食でしょ? お米は今のところある場所から買っているけど、レストランで出すには生産しなければならないの。でも作る場所がないし、作る手間もかかるからね」
「そんなに大変なんですか?」
「まずは大きな土地が必要なの。で、土地を手に入れたら、そこを耕して、水を張って、水田っていうお米を作る専用の畑を作らないといけないの。春にお米の種を蒔いて、夏が始まる前に芽を出させて、水田に植えて、夏の間たっぷりな水を水田に入れ続けて、秋口になったら水抜いて、実を着けたら今度は刈り取って、脱穀して、精米して、皆の口に入るまで約1年かかるの」
「そんなに大変なんだ…」
「じゃあ、これがメニューに加わるのは当分先…」
「美味しいのに勿体ないな」
「時間が出来たら挑戦してみようと思うの。ただ、まだレベルが足りないからお米が植えられない」
「レベル?」
「私の経験値。誰かに教えることは可能だけと、この村に水田に適切な場所はないのよね」
「どんなところが適切なんですか?」
「水が大量に入れ込めて、大量に排出できるところなら大丈夫だと思うわ。出来れば綺麗な川の側が適切なんだけどね」
「綺麗な川の側?」
ナンシーは何か心当たりがあるのか、顎に手を当て考え始めた。
「あそこなら…」
「ナンシー、心当たりあるの?」
「あ、うん。お祖母ちゃんが昔、畑を持っていたんだけど、お祖母ちゃんが亡くなってからは何も使っていない土地があるの。川の近くで、なかなか水はけが悪いからってことで、お父さんもお母さんも使わなかったの。最もお父さんもお母さんも畑仕事はしていないんだけどね」
「ナンシーのご両親は何のお仕事をしているの?」
ヴァーグは適した土地がある事にワクワクしていたが、とりあえず冷静を装い、ナンシーに質問した。
「服を作っています。父がデザインを考えて、母が作るんです。王都に店を持っているので、数か月に一度しか戻ってきませんが、王宮の方も利用してくださっているんです」
「じゃあ、ナンシーは一人で暮らしているの?」
「いえ、それは流石に怖いし淋しいので、親戚の所でお世話になっています。学校を卒業したら王都に行くつもりでしたが、私には服を作る才能はないので、もうしばらくはここに居ようかなって思います」
「え~? ナンシーはセンスあるよ~! アクセサリー、上手に作るじゃん」
「あれは趣味で作っているだけだから」
「それでも上手だよ。ただのガラス玉なのに宝石のように似せて作るし、お姫様が付けそうなティアラとが作ってるでしょ?」
「あれは…」
「今度市場で売ってごらんよ。絶対の売れるよ」
デイジーが必死になって説得している所を見る限り、ナンシーのアクセサリーはとても素晴らしい物なんだろうと想像つく。
ナンシーの両親は王都のほぼ中央で大きな服屋を経営している。先祖代々から受け継がれきた店で、2代目の店主は当時の王妃付きの衣装係に任命されていた。今でも王族からのオーダーメイドに答えていたり、王都にあるすべての学校の制服を担当している。他にもレストランや喫茶店などの従業員の制服も作っている。
そんな店を経営するナンシーの両親は、この村出身ではない。生まれも育ちも王都で、ナンシーも王都で生まれた。だが、ナンシーは小さい頃から体が弱く、療養を兼ねてこの村に嫁いできた母親の妹の家にやってきた。村に来た頃は外に出ることもなく、家の中で過ごすことが多くなり、その時に両親の服のデザインを見ながら、その服に合うアクセサリーや小物を作るようになった。ただの自己満足の為、表に出ることはないが、学校に通う様になって知り合ったデイジーは彼女の作るアクセサリーの大ファンになった。
その後、デイジーと一緒に遊ぶようになり、病弱だった体も逞しくなり、両親からは王都に来てもいいんだよと言われたが、デイジーたちと別れるのが辛くなり、しばらくは村に留まることになった。
「あ~あ、この中で将来が決まっていないのは私だけか」
デザートにイチゴミルクのプリンを頬張りながらデイジーは溜息を吐いた。
「デイジーはどんな職に就きたいの?」
「やってみたい事はあるんですけど、誰もやった事がないから不安なんです」
「誰もやっと事がない仕事?」
「私、思い出を作ってあげたいんです。人間って、生きていると色々なイベントに遭遇しますよね? お誕生日とか、家族が増えたときとか、そんな思い出を一生残るように手助けしたいんです」
「そんなの無理無理。第一、どうやって手伝うんだよ」
「そうだよ。形もない物を手伝うなんて無理だよ」
「でも~!!」
デイジーの言葉に真っ向から反対の意見を言う男子たち。デイジーはそれに対して言い返した。
だが、ヴァーグだけは「私が前にいた場所には、そういうのを専門にやる人いたな~」と、自分がいた世界の事を思い出していた。
「あるんですか!? 思い出を作る仕事!!」
「思い出作りにも色々な仕事があるわよ。例えば、家族の肖像画を描く絵描きさんとか、赤ちゃんが生まれたときに記念の品物を作る仕事、イベント毎の写真を撮るカメラマン、結婚式を一緒に考えてくれるウエディングプランナー…なんでもあったね」
最後の2つはこの世界にない物なので、4人は聞き流していたのは言うまでもない。
「デイジーはどんなことをやりたいの? どんなイベントのお手伝いをしたいの?」
「どんな…って言われても…」
「一生残る思い出ならカメラマンを進めるけど、ここにはカメラがないから無理よね。絵は描ける?」
ヴァーグの言葉に、デイジーは激しく首を横に振った。
(だろうね。デイジーの絵は破滅的だから)学校の授業で彼女の絵を見ている3人はウンウンと納得したようにうなずいていた。
「そういえば、この村って、結婚式を挙げないの?」
「結婚式?」
「男女が夫婦になるとき、結婚式を挙げて、お互いの両親や友達に結婚することをお披露目するんだけど、この村ではやらないのね」
長い間、この村にいるヴァーグは、一度も結婚式を見たことがなかった。いつの間にか夫婦になってて、いつの間にか子供が生まれていることが多かった。
「結婚式は身分のある人やお金持ちしか上げられないんですよ。身分がある人やお金持ちは教会に莫大な寄付金をしているので、その寄付のお礼として、教会側が神の前での夫婦宣誓を認めているんです」
そう答えたのはアレックスだった。
「そうなの? 私が前にいた場所では誰もが挙げられたわよ。寄付はなかったけど、結婚式場で普通にお金を払えば出来たわね」
「羨ましい~! 私たち女の子は一度でもいいからお姫様になってみたいよね。ね、ナンシー」
「うん。憧れる」
「確かに結婚式って、人生の中で唯一女の子がお姫様なれるチャンスだね。私が前にいた場所では、教会で式を挙げて、その後披露宴っていう参列した人と食事を楽しみながらお祝いするイベントがあったわ。新婦さんは何着もドレスを着替ることが出来るのよ」
「「いいな~~!!」」
「夫婦になる男女と一緒に、どんな結婚式にするのか、どんな会場の作りにするのか、どんな食事を出して、どんな人を呼んで、どんなドレスを着て、どんな記念品を渡すのか、それを考えるのがウエディングプランナーの仕事よ」
「でも、結婚式って教会で挙げないといけないいんですよね?」
「この村の事は分からないけど、私が前にいた場所では、教会以外の所でも挙げていたわ。絶対に教会で挙げないと罰せられるのなら仕方ないけど、そうじゃないのならどこでもいいんじゃないの?」
「罰せられるの?」
「知らない。今度神父様に聞いてみる」
「それに、ナンシーとも一緒に出来る仕事じゃないかしら?」
「え?」
「デイジーが式のプランを考えて、ナンシーが花嫁のアクセサリーや小物を用意してあげれば、一緒に出来るでしょ? ナンシーのご両親に頼んで、何着か衣装を手配出来たら、即席の結婚式もできるわね」
ヴァーグの提案にデイジーもナンシーもお互いに顔を見合わせた。
お互いにやりたい事、お互いの長所を合わせれば、そう難しくない事だ。
「でも、すぐに始めてはダメよ。ちゃんと準備しないとどこかで躓いてしまうわ。まずは神父様に誰でも式を挙げることができるのか、どこで式を挙げても罰せられないのか、それを確認しなくちゃ。それが終わったら、村長さんとの話し合いよ。この村で結婚式を挙げる事を報告しないとね。村長さんの許可が下りたらナンシーのご両親と相談して衣装の手配。それが終わったら家具職人や装飾品を作れる職人さんとの打ち合わせ。会場を作らないと式は挙げられないからね。参列した人に食事を振る舞うのなら料理人との打ち合わせ。手配が済んだら、どうやって皆に宣伝するのか。式を挙げることになったら、一緒に働いてくれる人も見つけなくちゃね」
次から次へと課題を出すヴァーグに、2人はポカーンと口を開けてしまった。一言で「思い出を作りたい」と言っても、そこまでの労働は険しい道のりになりそうだ。
「装飾品とかだったら、辞めた弟子に声をかけてみようか? それを得意としていた人もいるしさ。それに、辞めた弟子の中には指輪とかブローチとかそういうの作るのが得意の奴もいたよ。僕から声をかけてみようか?」
アレックスの声が弾んでいた。彼もこの提案に興味を示したらしい。
「なんだったらさ、卒業後に進路が決まっていない奴に声かけようか? たしか花屋のビリーが実家を継ごうか、王都に行こうか悩んでいたし、あいつなら花束とか作れるはずだよ。僕の母さんは手先が器用だから、凝った髪型とか作れると思う。よくいろんな人に頼まれているから」
「村全体で一つの会社を立ち上げるみたいで楽しそうね。私も料理の事ならアドバイスできるわよ。アクアも自由に使っていいわ。新郎新婦がドラゴンに乗って村一周なんで、この村でしかできないイベントね」
デイジーとナンシーはお互いに顔を見合わせて大きく頷いた。
「ヴァーグさん、わたしたちやってみます!」
「少しずつ解決していけば、出来そうな気がしてきました。もし、立ち止まるようなことになったらアドバイスしてくれますか?」
「ええ、いいわよ」
「じゃあ、明日、神父様に聞いてきます!」
デイシーとナンシーはとびっきりの笑顔をヴァーグに見せた。
アレックスも父親の弟子だった人たちに声をかけることを約束した。
学校を卒業しても、進むべき道がはっきりしていなかったデイジーとナンシーが、ヴァーグのちょっとしたアドバイスでその道をはっきりとさせた。
アレックスもただ父の跡を継ぐことだけしか考えていなかったが、これを機会に『誰かの為に』働きたいと思うようになった。
ケインだけは不安になった。他の三人は『誰かの為に』働こうとしている。でも自分はヴァーグの傍に居たいという願望だけで宿の従業員になる事を決めた。皆と違って『誰かの為に』ではなく『自分の為に』という感じだった。
そんなケインにヴァーグは言う。
「私の為に働いてくれるのなら、私がみんなの為に働くから、心配することはないよ。ケインはケインが働きたいように働けばいいの。そのうち『誰かの為に』なるから」
ヴァーグが言う様に、ケインは少し時間は掛かってしまうが『誰かの為に』動けるようになる。そうでなければ『選ばれた勇者』にはならないし、保育士にもならない。
彼らが学校を卒業した数ヶ月後、アレックスの鍛冶場は国中に名前が知れ渡ることになる。それはこの国の騎士団の勢力を上げる事になり、王立研究院が極秘で研究を進める魔法玉の生産へと繋がることになった。
デイジーとナンシーは結婚式をコーディネートする会社を立ち上げ、王都にも進出することになる。彼女らがコーディネートする第一号の新郎新婦は意外な人物だった。
ケインは、アレックスの祖父が作った武器で、一気に勇者へと駆け上がって行くことになる。
まだまだ小さな芽だが、大切に大切に育てていくことで、彼らは想像もしない大きな大きな花を咲かせることになるだろう。
彼らの活躍は本編で……。
<番外編 Fin>
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