選ばれた勇者は保育士になりました

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番外編  7年も何をしていたんですか?

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 まだオルシアやシエル、アクアと出会う一か月以上前の事。
 ケインの一言が今回の物語の始まりだった。

「ねえ、ヴァーグさん。こんな豊富な知識や魔法の道具、どうして7年も使わなかったの?」

 ハンバーグという料理を作るために、ボウルの中に牛肉と豚肉をミンチにした物と、炒めた玉ねぎと卵、塩コショウを加え練り込んでいたヴァーグの手が止まった。

「え…と……」
「最初から使えば、もっと早くから繁盛していたと思うんだけど?」
「そ…それはね、あの……ちょっと…ね」
 なかなか話そうとしないヴァーグの目は泳いでいた。

(い…言えない……絶対に言えない……。
 ここまで来るのに、色々なスキルレベルと冒険者レベルを上げないと、新しい料理のレシピも道具も買えなかったなんて、この世界の人には言えない…)

「ヴァーグさんって、あまり自分の事を話さないですよね」
 2人が出会ってもうすぐ8年。ケインは彼女の事を何一つ知らない。
 どこから来たのか、今まで何をしていたのか、家族構成も、誕生日も知らなかった。
「話したくなったら話してくださいよ。俺、ヴァーグさんの事、もっと知りたいですから」
 ケインの言葉は嬉しかったが、ヴァーグはまだ話す時ではないと思った。
 もう少ししてから話さないと、きっとケインは混乱するだろうから。


 なぜならヴァーグ自身、この国どころか、この世界の人ではない。


 ヴァーグが7年前にこの世界に来たとき、初めて足を踏み入れたのは、今いる村から歩いて二日かかる草原の中だった。
「あれ? 何もない…」
 一面に広がる草原に立ち、吹き渡る風を体に感じながら、流れゆく雲を眺めていたヴァーグは呆然と立ち尽くしていた。
「普通、村からスタートするよね!? これってオープニングはないの!? なんで草原!?」
 パニック状態に陥っているヴァーグは、どこまでも続く草原の地平線に向かって叫び続けていた。
 苦情を入れてやる!とノートパソコンを立ち上げると、女神が用意したアイコンの一つ【女神(お問い合わせフォーム)】が青く点滅していた。
 そのアイコンをクリックすると、女神からのメールが届いていた。

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 |無事にたどり着いたようですね。            |
 |そこがあなたが第二の人生を送る世界です。       |
 |私が全部喋ってしまうと、自分で調べる事が出来なくなり |
 |【調べる】スキルがレベルUPしないので、       |
 |その世界がどんなところなのか、今、どこにいるのかは  |
 |自分で調べてくださいね。               |
 |【地図】のアイコンを使えばその世界の地図と、自分がいる|
 |場所が見れますよ。                  |
 |それから肝心なアイコンを入れ忘れましたので、追加してお|
 |きますね。                      |
 |あなたが作る世界を、どうぞ楽しんでください。     |
 -----------------------------

 女神からのメールを一読したヴァーグはパソコンのトップ画面に戻った。
 そこには『New』と赤い文字が点滅しているアイコンが一つ加えられていた。【辞書】というアイコンだった。
 急いで【辞書】のアイコンをクリックすると、なぜかヴァーグはがっくりと肩を落としてしまった。
 それもそのはず。【辞書】の中身は「???」ばかりで、唯一読める項目は「女神」と「スキル」だけだったのだ。
「つまり、攻略本もガイドブックもなしにラスボスまで行けって言っているような物じゃないの!! これからどうしたらいいのよ!!」
 前の世界では、必ず攻略本をお供にゲームを進めていた彼女にとって、何もなしにゲームを始めることは不可能に近かった。

 そこにもう一度女神からメールが届いた。

 ------------------------------
 |因みにチュートリアルはありませんのでご了承ください。  |
 |自分の好きなように動いて、調べて、触れ合えばいいのです。|
 |                            |
 |それから、先ほど、アイテムは何でも買えると言いましたが、|
 |スキルレベルや冒険者レベルが上がらないと買うことができな|
 |いので気を付けてくださいね。              |
 |あ、もちろんお金も必要ですよ。             |
 |細かいスキルや冒険者レベルは【ステータス】から確認してく|
 |ださい。                        |
 ------------------------------

 ヴァーグはますます肩を落とした。
「チュートリアルがないなんて……女神さま、酷すぎ…」
 こうなったらなるようになれ!と、開き直ったヴァーグはとりあえず【地図】を開いた。こんな草原に居ても埒があかない。とりあえず近くで休めるところを探さなくてはいけない。いつ野生動物に襲われるかもわからない全く分からない世界で、命を落とすのはごめんだ!

 【地図】を開くと、自分の現在地が赤い●で記されていた。
 画面の上に行けば山に向かう。下に向かえば海に出るようだ。左にはお城が描かれており、マウスでポインターを合わせると『王都』と文字が出た。
「最初から王都に行くのは気が引け……ん? なんか小さい文字がある。なになに? 『冒険者レベル15で新しい目的地に追加』……お~~い…」
 『王都』以外にも村や町らしき絵が描かれ、ポインターを当てると、やはりさっきと同じように『冒険者レベル5以上』、『料理スキル3以上』、『お店レベル5以上』と出ている。
「行ける所ないじゃん!!」
 やけくそになり、マウスをぐるぐると回していると、一か所だけポインターの形が変わる所があった。
 ゆっくりとそこの合わせてみると、教会の絵が描かれていた。
「『女神の教会』? あ、冒険者レベル1で行ける。今のレベルは……」
 【地図】を開きながら【ステータス】を開くと、ヴァーグの詳細が浮かび上がった。

 --------------------
 |ヴァーグ(本名・年齢不詳)     |
 | 冒険者レベル 1         |
 |  (駆け出しの異世界人)     |
 | レアリティ  UR        |
 |                  |
 |作業スキル             |
 | 料理 1(2/20)       |
 | 建設 0(?/??)       |
 | お店 0(?/??)       |
 | 調査 2(2/10)       |
 | 農業 0(?/??)       |
 |                  |
 |戦闘スキル             |
 | 物理攻撃 1(2/50)     |
 | 物理防御 1(2/50)     |
 | 魔法攻撃 1(2/100)    |
 | 魔法防御 1(2/100)    |
 |【装備】 ペーパーナイフ(D)   |
 |     防寒マント(C)     |
 |     異世界のワンピース(SS)|
 |     皮のブーツ(D)     |
 |     ショルダーバック(SS) |
 |     トランク(SS)     |
 --------------------

「(2/20)って数字はなんだ? 次のランクまでの必要経験値かな? だとすると、料理スキルを上げるには後48の経験値が必要なんだろうか? 料理一つ作るだけでどれだけ経験値が入るんだろう? 装備武器がペーパーナイフって……絶対に楽しんでいるでしょ、女神さま!! しかもランクDってなに!? 女神さま、RPG得意でしょ!!」
 今にも女神の高笑いが聞こえてきそうで、ヴァーグの怒りは頂点に達していた。
「とりあえず屋根のある所に行こう。そこでゆっくりと考えよう」
 教会までは徒歩5分と出ていた。草原のすぐそばに建っているようだ。

 【地図】を頼りに教会を目指しながら歩くと、前方に青い屋根の建物が見えてきた。とんがった屋根の上に十字架が掲げられている所を見ると教会だとわかる。
 屋根が見え始めて、しばらく歩き続けると、今度は鉄格子の壁が見えてきた。
 間近で見るととても大きな教会だった。
 入り口を探して鉄格子の壁伝いに歩き出すと、どこからか人の声が聞こえてきた。
「どうしましょう?」
「もうすぐお見えになられるのに」
 数人の女性の声がする方へ向かうと、そこにはシスターが集まって困った顔で立ち尽くしていた。
 ヴァーグは思わず声をかけてしまった。
「あの、どうかされましたか?」
 鉄格子の向こうから聞こえてきた声にシスターは振り向いた。そこには茶色いマントを羽織った女性が一人立っていた。
「あ、いえ…」
「お困りでしたらお手伝いしますよ」
「でも…」
 シスターたちは困った顔のまま顔を見合わせ、「どうしましょう?」とまた相談を始めた。
 話が付いたのか、1人のシスターがヴァーグに近づいてきた。
「実は、今日、新しい神父様がお見えになられるのですが、教会で料理を担当していた方が急病で倒れてしまいましたの。私たちは料理が出来ないので、困っておりまして…」
「豪華な料理ですか?」
「いえ、とても簡単な物です。ただ、神父様は美食家とお聞きしていまして…」
 美食家の神父って、聞いたことないぞ? ヴァーグはどんな設定にしているんだよ!っと女神に怒鳴りつけたかった。
 簡単な物なら作れるかも…ヴァーグはシスターに「わたしが作りましょうか?」と提案した。
「え!? よろしいんですか?」
「ただ、こちらの厨房がどのような造りなのか分らないので、お手伝いをしてほしいのですが…」
「もちろんですわ。ぜひ宜しくお願いします!」
 シスターは門を開けるとヴァーグを中に迎え入れた。
 残りのシスターに事情を話すと、すぐに厨房に案内してくれた。

 厨房には、シスター見習いの女の子2人が沈んだ顔をしていた。
「どうする?」
 緑色の髪のサラが隣にいる女の子に声を掛けた。
「どうしよう?」
 声を掛けられた金髪のランが疑問で返した。
 そして二人は大きな溜息を吐いた。
 ランとサラは料理を担当している。でもいつもはリーダーのシスターが作っているので、2人は盛り付けや皿洗いぐらいしかやった事がなかった。リーダーのシスターはぎっくり腰で動けないらしい。
 そこに先ほどのシスターがヴァーグを連れてやってきた。
「ラン、サラ、料理人が見つかりましたよ。今日はこちらの方のお手伝いをしてください」
「は…はい!」
「ではお願いします」
 シスターは小さく頭を下げると、厨房から去っていった。
 残されたヴァーグは羽織っていたマントを脱いで、厨房の中を見渡した。

 突然現れた長い黒髪に水色の見たことのない形の服を着た女性に、ランとサラは警戒しだした。
「え~…と、ちょっと聞いてもいいかな?」
「は…はい! なんでしょうか!!」
「ここのコンロの使い方が分からないんだけど、手伝ってくれる?」
「あ、はい…」
 サラがコンロに近づくと、簡単に説明した。どうやらここのコンロは前にいた世界と同じ造りのようだ。一つ違うのは、火は赤い石を投げ入れて発火させるらしい。
「その石は何?」
「火の石です。この中に一粒入れるだけで、半日燃え続けます」
「へ~…ガスじゃないんだ」
「が…ガス…ですか?」
「ああ、こっちの事。それより、材料はどれを使っていいの? どれくらい作ればいいの?」
「食材はこの扉の中です。ミルクなどは向こうの青い箱の中に、お肉などは赤い箱に入っています。量はいつもは20人前ほど作っています」
「じゃあ、簡単に作れて大量に作れるものがいいわね。ちょっと食材を拝見します」
 食材が入っている扉を開けたヴァーグは、色々な野菜を一通り見た。青い箱の中にはミルクや卵、バターやチーズが入っており、赤い箱には牛・豚・鶏の肉が綺麗に収納されたいた。
 食材を見た限り、特に禁止されている食材はないようだ。
「よし! 早速作りますか。え~と…」
「サラです」
「ランです」
「サラちゃんとランちゃんね。私はヴァーグって言います。今から色々と指示を出すのでお手伝いをお願いします」
「「はい!」」
 元気よく挨拶をするランとサラは、ヴァーグが指示することをテキパキとこなしていった。

 ヴァーグが作ったのは、ゆで卵を卵とお酢で作ったマヨネーズというソースで和えた物をパンに挟んだのと、ハムとチーズを挟んだ二種類のサンドイッチと、バターで炒めた鶏肉、ジャガイモ、玉ねぎ、ニンジンをミルクで煮込んだスープ、レタスとキュウリのサラダ、卵とミルクと砂糖だけで作ったプリンの四種類だった。

「うわぁ~~!!」
 見たこともない食べ物にランもサラも歓声を上げた。
「ちょっと作りすぎちゃったかな?」
 一人一個のプリンのはずが、分量を間違えたのか二倍近く作ってしまった。
「お姉ちゃん、すご~い!!」
「こんな豪華なお食事、見たことがない!!」
 厨房でキャーキャーと歓声を上げていると、先ほどヴァーグを案内してくれたシスターがやってきた。
「とても賑やかですね。完成したのですか?」
「「はい!!」」
 ランとサラが元気よく返事をした。
「こ…これは……」
 作業台に並べられた料理の数々を見たシスターは驚いた表情を見せたかと思うと、「すぐに神父様にお出ししましょう」と配膳を急いだ。
 どうやら新しい神父がすでに見えられているようだ。

 食堂へと料理を運ぶと、長いテーブルの一番奥に神父がいた。
 年は30代後半だろうか? 整った顔をしており、食堂に差し込む日の光を浴びて金髪がキラキラと輝いていた。
 神父や着席していたシスターの前に料理が並べられると、周りから歓声が上がった。
「なんて豪華なお食事なんでしょう」
「見たこともない料理ですわ」
「匂いだけでも美味しさが伝わります」
 口々に見た目の感想を述べるシスターに対し、神父の顔は無表情だった。
 その顔のまま食事前のお祈りをし、スプーンを手に取ると具沢山のミルクスープを掬い口に運んだ。

 一口、スープを口に入れた途端、神父の顔が変わった。無表情だった顔が驚きに変わり、そして今にもとろけそうな幸せいっぱいの顔に変わった。
「これは素晴らしい。見た目、ミルクのスープだと思っていたが、ほんのりとバターのコクが広がり、崩れそうで崩れないジャガイモによく染み込んでいる。玉ねぎも油ではなくバターで炒めていることもあって、その甘みがより引き出されている。鶏肉も先に炒めることで中に旨味と肉汁を閉じこめており、ミルクの邪魔をしていない。なんて素晴らしいスープなんだ!」
 たった一口頬張っただけなのに、そこまで詳しく説明する神父は、美食家の神父と呼ばれているだけの事はある。
 サンドイッチも気に入り、プリンに関してはおかわりまでした。

 大量に作った料理は、あっという間に完食してしまった。
「とても素晴らしい料理だった。この料理を作ったのは誰かね?」
 神父は長いテーブルに着くことなく、食堂の入り口で立っていたヴァーグに視線を移した。
「わ…私ですが…」
「ほぉ…そなたが……なるほど……」
 神父はヴァーグの爪先から頭までじろじろと見た。
 なんか嫌だな…と感じたヴァーグだったが、神父の次の言葉に驚いた表情を見せた。
「女神のご加護を得ている方のようだ。そなたの体に神秘なベールがまとわっている。この先、何があっても女神に見守られているだろう」
 神父の言葉にシスターたちから「羨ましいですわ」とため息が漏れた。
「見た所、旅人のように見えるが?」
「あ、はい。遠い地より旅を続けております。特に行く当てもありませんが、次の目的地へ向かうまで、こちらに泊めていただけると助かります。その間、私ができる事なら何でもいたします」
「では、準備が整うまでここで料理を作ってもらえないだろうか? 必要な物があれば何でも用意する。どうだろうか?」
「ぜひそうしてください。わたくしたちも教わりたいですわ」
「ご迷惑でなければ…」
「迷惑だなんて少しも思いませんわ。すぐにお部屋をご用意しますね。ラン、サラ、手伝ってください」
「「はい!!」」
 最初にヴァーグに声をかけてきたシスターはランとサラと共に食堂と飛び出して行った。
 残ったシスターたちは、ヴァーグをテーブルに案内し、彼女に何故旅をしているのか、これらの料理は何処で覚えたのか、これからどうするのかなど、色々と聞き出していた。
 その様子をニコニコとした顔で神父は見ていた。


 ヴァーグが教会でお世話になって三日目、ランとサラは彼女に料理を習っていた。今日は彼女の故郷で人気のあるパスタという小麦粉から作られた食材を使ったトマト味の食べ物を作るようだ。
 厨房にはぎっくり腰で療養中の料理担当のシスターも見学に来ていた。
 料理担当のシスターも、ヴァーグの料理を三日前に食べ、ぜひとも教えてほしいと、痛む腰をかばいながら厨房までやってきた。今は厨房の隅で大人しく椅子に座ってヴァーグの動きをジッと観察している。

 ランとサラは包丁を使ったことがないようで、練習を兼ねてサラダを作ってもらうことにした。初日に作ったサラダと同じ物を作るので、包丁はキュウリを切るしか使わない。2人は初日に作ったサラダを思い浮かべながら、覚束ない手でキュウリを楕円に切り続けていた。

 ヴァーグはパスタを作ろうとしたが、彼女が考えていたのは細い紐のような形、だがここには簡単に紐状に出来る道具がない。しばらく考えたヴァーグは紐は紐でも幅の広いリボンに近い形の物を作ることにした。彼女のいた世界では「フェットチーネ」と呼ばれている物らしい。
 一から作るのは今までに一回しか作ったことがないヴァーグは記憶の断片を思い出しながら、小麦粉に必要な材料を加えながら捏ね、一つの大きな塊を作り上げた。

 ただの粉から固まりを作り上げたヴァーグの手元を、いつの間にか椅子から立ち上がっていた料理担当のシスターが食い入るように見入っていた。
「あ…あの、腰は大丈夫なんですか?」
 ヴァーグの心配する声など耳に入っていないシスターは、「次は何をするんですか?」と先に進むことを望んだ。
「つ…次はこのまましばらく置いて、生地を馴染ませます。その間にソースを作ります」
 ワクワクしているのが見た目でわかるほど、シスターの顔はキラキラと輝いていた。今までどんな料理を作っていたのか聞いてみると、パンは焼いたことがあるが、ほとんどがただ肉を焼き、ミルクでスープを作るが具は生煮えだったり、野菜は生で食べられる物はそのまま噛り付いていたという。
(なんで異世界ってご飯がまずいんだろう?)
 過去に異世界が舞台となった小説や漫画を読んだことがあるヴァーグは、その設定に疑問を抱いていた。ヴァーグは思う。異世界に行くのなら、思い切り食の文化が進んだ、自分が逆に教わり、自分の世界の料理と発達した食文化の料理の融合で更なる新しい料理が生まれる、そんな世界に行きたかった…と。
 そんなことを呟いても、女神からは「先に行ってくれれば用意したのに!」という言葉が返ってくることは予想できる。

 ソースはトマトを使ったソースを作るようだ。
 完熟したトマトを細かく細かく切り、形が無くなるまで包丁でたたき続ける。形を無くしたトマト(だった物)を鍋に入れ、そこにこれまた細かく刻んで形を無くした玉ねぎ、にんにく、アクセントにこの世界にもあった鷹の爪も同じ鍋に入れる。砂糖、塩、コショウを加えて火にかけ、しばらく煮込んでいく。これには時間が掛かる。
 ソースを煮込んでいる間にデザートを作ることにした。
 デザートは作りたいのもがあったが、機材と材料がなかったため、パンを作る材料で他の物を作ることにした。この世界のパンはヴァーグがいた世界と変わりがなく、作り方を聞いたら生地を膨らませる粉も存在するらしい。ただオーブンがないようだ。
「どうやってパンを焼いているんですか?」
 オーブン以外に焼く方法を訊ねると、シスターは深さのある大きなフライパンを取り出した。
「パンはこれで焼きます。生地をフライパンに敷き詰めて蓋をして、火にかければ焼きあがりますよ」
 聞いたことがある。実際に一度だけ作ったことがあった。
 だったら応用は利く。
 ヴァーグはサラダ作りを終えたランとサラと一緒にデザートを作ることにいた。

 太陽が頭上高くまで登ってくると、教会にいい匂いが充満していた。
 ここ三日の間、神父もシスターたちも食事が楽しみで仕方がない。昨日の夜は卵焼きという卵に砂糖と少量の塩しか使っていない料理を食べた。味や触感に驚いただけでなく、その材料の少なさに一番驚いていた。

 お昼ご飯は、リボン上に細く長く切ったパスタに、玉ねぎとピーマン、ベーコン(この世界にも存在していた)と一緒にトマトソースで絡めたナポリタンという主食に、ランとサラが作ったサラダ、トウモロコシとミルク
を使ったスープ、そしてパンをヒントに作ったコーヒーカップに入ったカップケーキ(中にチョコが入っている)の四品。
 目の前に出されたコーヒーカップに入ったパンのような物に、神父の目は釘付けだった。
「これはなんだね?」
「それはカップケーキという食べ物です。本当だったら紙のコップを使うのですが、ここには見当たらなかったのでコーヒーカップで代用しました。パンとは違う味がしますので、ぜひ食べてみてください」
 ヴァーグに言われ、神父は主食よりも先にカップケーキにスプーンを伸ばした。
 パンよりも弾力があり、スプーンで掬うとほんのりと甘い香りが漂ってきた。神父はスプーンで掬ったそれを口にすると、初めてスープを食べたときと同じように驚きの顔を見せた。
「パンとはまた違う味だ。これはミルクと砂糖を使っているのかね? ほんのりとした甘みの中にバターの香りがふわっと漂ってくる。パンとはまた違う食感もあり、まさにデザートとして成立している。中には…これはなんのソースかね?」
 カップケーキの中から出てきた茶色いソースを神父はそれだけを口に含んだ。
「こ…これは!! 甘い!! 甘いだけではなく、香ばしさもある。これだけだとくどくなりがちだが、生地と一緒に食べるとそのくどさはない。むしろベストマッチだ! なんて素晴らしい料理なんだ!!」
 初日と変わらない素晴らしい解説に、シスターたちも次々にフォークやスプーンを手に取り、それぞれの料理を口にいた。
 ヴァーグが作る料理は神父とシスターたちに新たな感動を与えた。


 それからヴァーグは二ヶ月という長い期間、教会でお世話になった。
 二ヶ月の間に、礼拝に来る信者に簡単に作れるお菓子を配るようになり、神父は近隣の教会に務める仲間に自慢をし、その仲間たちが料理を食べに来ることもあった。噂を聞きつけた信者たちが大勢駆けつけた時は急遽炊き出しをしたり、ヴァーグの料理は人気を高めたが、この教会周辺だけの人気だった。最も、この教会が大草原の近くにあり、近くに村もない。教会に来る信者は巡礼の途中で寄るぐらいで、定住者はあまりいなかった。
 それでもヴァーグの料理はランとサラの将来の道を決めた。親に捨てられ、現在シスター見習いの2人だが、この料理をこの教会に定着させたいと、料理人としてここの残る事を決めた。

 そして、ヴァーグの料理スキルはいつのまにかレベル10に達していた。
「そろそろ冒険者レベルもあげなくちゃ」
 【ステータス】を見ていたヴァーグは、料理スキルだけが上がっていることに気付いた。冒険者レベルは1のままだった。
「このままだと、他の村に行けなくなっちゃう。とりあえず、今のレベルで行ける新しい目的地を探さなくちゃ」
 パソコンを立ち上げ【地図】を開くと、《New》という文字がいくつか点滅していた。
 ポインターでその個所に合わせると、場所の詳細が小さなウインドウで現れた。
「料理スキル5以上で行ける村、料理レベル10で行ける村、調査レベル4で行ける村…あ、調査レベル上がっていたんだ。でも、ほとんどが冒険者レベル必須か…」
 とりあえず、行ける村に行けば冒険者レベルは上がるだろうと、そう考えたヴァーグは神父に旅立つことを告げることにした。

 旅立つことを告げられた神父は「そうですか…」と小さな声で返事をした。
「そろそろ他の場所も見てみようと思います。私は旅人ですから」
「このまま留まってくれることを望みますが、あなたの意思なら仕方ありませんね。あなたなら大丈夫でしょう。女神のご加護がありますから」
「女神のご加護…ですか?」
「初めてお会いした時にも思いましたが、あなたは女神に選ばれた人です。この先、色々な困難も訪れると思いますが、あなたの思うように進めば必ず道は開けます。それに、またお会いできるような気がします」
「次にお会いする時は、このご恩を必ずお返しします」
「そんなに気負うことはない。これから旅に出るからには、装備も準備しているのかね?」
「そ…それが…」
 この二ヶ月、料理だけをしていたということで、装備の事などすっかり忘れていた。新しい武器を買おうにも戦闘スキルが何も上がっていない為、パソコンから買うことができない。初期装備のままなのだ。
 ヴァーグが困っていることに気付いた神父は、「ちょっと席を外すよ」と断りを入れてから、2~3分その場から立ち去った。
 戻ってきた神父は、布に包まれた何かを抱えたシスター数名と共に戻ってきた。
「わたしがここに赴任する直前、夢に女神が現れ、私が気に入った人にこれを渡しなさいとお告げを受けた。私たちには扱えない物なので、ぜひ貰ってほしい」
 神父が布を取ると、黄金に輝く鞘に納められた長剣と短剣、黄金に輝く弓と先端がクリスタルで作られている矢、黄金に輝く拳銃、黄金に輝くハープ、黄金に輝く柄に先端に大きなサファイアが着いている杖が姿を見せた。
「これらすべてを受け取ってほしい」
「え!? 全部!?」
 普通RPGの場合、どれか一つしかもらえないだろ!?と突っ込みを入れたいヴァーグは、目を見開いたまま呆然としてしまった。
「これは女神の力が宿っている。我々では扱うことができないし、ここでは争い事など無縁だ。これから旅に出るあなたは、道中で一緒に旅をする仲間と出会うだろう。出会う仲間たちに必要となるはずだ。ぜひとも受け取ってほしい」
 神父に説得に、ヴァーグは小さく頷いた。
 だが、さすがにこれだけの武器を持ち歩くわけにはいかず、短剣だけは用心棒として身に着けることにし、他の武器はアイテムボックスであるトランクの中にしまうことにした。
 改めて短剣を手にしたヴァーグは、角度を変えながら短剣の細部を観察した。
「あれ?」
 よく見ると柄に小さな窪みが一つついていた。大きさにしてビー玉と呼ばれるガラス玉を嵌め込むことができる大きさだった。
「あの、神父様。この窪みが何かわかりますか?」
「女神さまのお告げでは、【攻撃能力を上げる何か】を嵌めると、その属性の能力を増すことができると仰っていた。まだ世の中には出回っていないが、近い将来、必ず手に入るとのことだ」
「攻撃力を上げる…」
「王都にいた時、王立研究院の上層部と話したことがあるのだが、過去に魔法攻撃の能力を高める道具があったそうだ。その研究も進められていると聞いたが、その事ではないかと思われる。旅を続けていればその情報も手に入る事だろう」
「この世にはまだまだ分からないことがあるんですね」
「それを知るために旅をするのだろう? 楽しい旅ではないか」
「そうですね」
 神父の言葉は、自分もかつて旅をしていたように感じる。


 翌日、ヴァーグは神父やシスターたち、ランやサラに見送られて教会を旅立った。
 別れの際、シスターたちから祈りを込めたロザリオを貰い、ランとサラからはエメラルドのイヤリングを貰った。ロザリオは装備するとあらゆる攻撃を防ぐことができ、エメラルドのイヤリングは体力を回復する効果がある。
「まだ冒険者レベル1なのに、こんなにいい装備を身に着けていいのかな?」
 一番近い村へと向かう道中、ヴァーグは神父たちから貰った装備品の事で色々と考えていた。
 装備した状態で【ステータス】を見て驚愕したからだ。

 ----------------------
 |ヴァーグ(本名・年齢不詳)       |
 | 冒険者レベル 1           |
 |  (駆け出しの異世界人)       |
 | レアリティ  UR          |
 |                    |
 |作業スキル               |
 | 料理 10(4/173)       |
 | 建設 0(?/??)         |
 | お店 0(?/??)         |
 | 調査 5(8/127)        |
 | 農業 0(?/??)         |
 |                    |
 |戦闘スキル               |
 | 物理攻撃 1(2/50)       |
 | 物理防御 1(2/50)       |
 | 魔法攻撃 1(2/100)      |
 | 魔法防御 1(2/100)      |
 |【装備】 女神の短剣(SSR+)    |
 |     防寒マント(C)       |
 |     異世界のワンピース(SS)  |
 |     皮のブーツ(D)       |
 |     祈りのロザリオ(SS)    |
 |     エメラルドのイヤリング(SS)|
 |     ショルダーバック(SS)   |
 |     トランク(SS)       |
 ----------------------

「一回ゲームをクリアして、もう一度最初から始める時に、クリアデータを引き継いだ感じ?」
 特に女神の短剣に着けられたレアリティが【SSR+】という見たこともない文字が並んでいた。最高レアリティの更に上のランクだろう。女神も面白い世界を作ったものだとヴァーグは、ゲームよりも楽しんでいるようだ。

 その後、いくつ物の村を渡り歩き冒険者レベルを12まで上げた。
 1つの村には2週間も滞在せず、行ける村を転々としていた。短期間しかいなかったこともあり、神父やラン、サラたちのように親しくなる人はいなかった。
 それでも近くの採取場所に出かけアイテムを集め、敵と遭遇し戦闘で戦闘スキルを上げ、料理をしてレベルを上げながら必要な道具を買い揃えていった。

 そろそろゆっくりと滞在したいな…と思ったとき、たまたま立ち寄ったのが、今いる村だった。
 宿を探していたところ、畑で作業をしていたケインの父親が、なかなか育たない作物に苛立っていた。
「今年は小ぶりの物しか育たなくて困っているんだ」
 ケインの父親ルイスは、土の中から掘り出されたジャガイモを見せながらため息を吐いた。
「う~ん……土地が痩せていますね。肥料を加えてみたらどうですか?」
「肥料は体に悪いんだろ?」
「人工的に作られた物はそうかもしれませんが、自然の力を使ってみたらどうですか?」
「自然の力?」
「少し時間は掛かるのですが、試してみましょうか?」
 ヴァーグは落ち葉や枯れ葉がある場所がどこかにないか訊ねた。残念ながら今の季節は春。落ち葉や枯れ葉はなく、木々も青々と茂っていた。
 そこに、
「僕、落ち葉がある場所なら知ってるよ!」
と、当時8歳のケインが元気に言葉を返した。
 ケインが言うには、村の隣を流れる川の上流に一年中秋の場所があるらしい。友達と遊びに行って見つけたのだが、川の上流と覚えているだけで詳しい場所は分からないらしい。
 ヴァーグはパソコンの【地図】で川の上流を調べた。地図に紅葉の木が描かれている場所があり、ポインターを合わせると『秋の森』と文字が浮かんだ。
「日帰りで行ける場所なのね。モンスターレベル1~5…初心者向けか。武器のレベル上げついでに行ってみようかな」
 なにやらブツブツと呟く黒髪の女性に、ルイスもケインも警戒しだした。
「今から落ち葉を集めてきます。夕方には戻ってきますね」
「い…今から? あそこは魔物が出ると聞いている。危険じゃないのかね?」
「大丈夫です。森の入り口で集めるだけですから、奥には行きません。早めに土地を改善しないと作物に影響が出てしまいますからね」
 ヴァーグは必ず戻ってくる約束として、トランクをルイスに預けた。

 村のすぐそばを流れる川に沿って上流にある『秋の森』を目指して歩いていたヴァーグは、前方に赤い木を見つけた。その木の傍まで歩み寄ると、赤や黄色に染まった秋によく見かける紅葉した木だった。
「ここが『秋の森』の入り口…」
 見事に赤く染まる木を眺めていると、前方から冷たい風が吹き込んできた。風が吹いてきた方向を見ると、辺り一面が真っ赤に染まった木が沢山あり、まさに『秋の森』と呼ぶのに相応しい光景だった。
「さてと、落ち葉を集めますか」
 ヴァーグはショルダーバックから何枚もの大きな袋を取り出すと地面に落ちている落ち葉を詰め始めた。

 しばらく落ち葉を拾い続け、5~6袋ぐらいになると、そのまま袋をショルダーバックに入れた。ショルダーバックの中は空間が広がっており、どれだけ入れても重くならない。そしてトランクと繋がっていることもあり、どちらに入れても、両方から取り出すことができる。
 最後の袋を入れ、辺りを見回してみると、森の少し奥に入ったところが少し開けていることに気付いた。
「こういう開けた所に、宝箱があったりするのよね」
 かつてプレイしていたゲームを思い出したヴァーグは、宝箱があったらいいな~と思いながら、その開けた場所に向かった。
 その開けた場所は、一面を落ち葉が覆い、切り株が三つ、三角形を描いて並んでいた。そしてヴァーグの予想通り三つの切り株の上にそれぞれ茶色い宝箱、青色の宝箱、黒い宝箱が置いてあった。
「本当に宝箱がある(笑)」
 ここは笑うしかないところだが、ヴァーグは笑いを噛みしめながら宝箱に近づいた。
 すると宝箱の前にそれぞれプレートが張りつけられていた。そのうちの一つ、青色の宝箱の前に張り付けられているプレートを読み上げた。
「何々? 『青色の宝石が付いた武器で軽く叩け』? 青色の宝石? サファイアの事かな?」
 ヴァーグはショルダーバックから神父から貰った黄金に輝く柄に先端に大きなサファイアが着いている杖『女神のロッド』を取り出した。

 その時、背後から「カサッ」という何かが枯れ葉を踏む音が聞こえた。
 モンスターか?
 ヴァーグは手にした『女神のロッド』を握りしめると、近づく足音に耳を澄ました。
 カサカサっと近づく足音。
 そして何かが背後にいる気配はある。
 集中して背後にいる「何か」の気配を感じていると、突然、
「お姉さん、危ない!!」
と男の子の声が響き渡った。
 と、同時にヴァーグは勢いよく振り向くと、背後にいた何かに向かって勢いよく『女神のロッド』を振り下ろした。
 振り下ろされたロッドは、ヴァーグに飛びかかってきていた野生の狼の頭部に命中し、野生の狼は霧のように消えていった。
「さすがレベル1~5のモンスター。一撃で退治できちゃったよ」
 現在の冒険者レベル12のヴァーグにしてみたら、簡単に倒せるモンスターだろう。
 だが、木陰に隠れて思わず声を出してしまったケインから見たら、一撃でモンスターを倒す彼女は凄い腕利きの冒険者に見えるだろう。
「で、そこで見ていた小さな冒険者さん」
 急に声を掛けられたケインは、口から心臓が飛び出すほど驚いた。
 木陰から姿を見せると、すぐそばに女性の姿があった。
「あ…あの…」
 ケインが黙ってついてきたことを説明しようとすると、女性はケインの頭を軽く撫でた。
 その行動に再び驚いたケインが見上げると女性は微笑みながらケインの頭を撫で続けた。
「ありがとう、小さな冒険者さん。声をかけてくれて」
 黙ってついてきたことに怒られると思ったケインは、逆にお礼を言われてキョトンとした顔を見せた。
「お…お姉さんは冒険者なの?」
「旅はしているけど、冒険者を主な職業にしていないわ。ただ趣味で冒険しているだけ」
「でも強いよ!」
「色々な所に出かけているからね。それより、一人で来たの? お父さんに許可は得た?」
「そ…それは……」
「黙ってきたのね。帰ったらお父さんにちゃんと謝るのよ」
「…はい…」
「素直なのね。まあ、ここまで来ちゃったんだから、帰るまでは行動を共にしましょ。またモンスターが襲ってきたら大変だから」
 そういうとヴァーグは再び青色の宝箱の前に立った。そしてロッドで軽く宝箱を叩いた。
 宝箱は自動で蓋が空き、中にはヴァーグがよく見慣れたものが入っていた。
「これ、何?」
 中に入っていたものが何かわからないケインは女性に訊ねた。
「これは「じょうろ」って言って、この中に水を入れて作物に水を撒く道具なの」
 青い宝箱からじょうろが出てきたということは、残りの宝箱の中身もだいたい予想がつく。
 黒い宝箱のプレートには「農具で叩け」と書いてある。手にしたじょうろて宝箱を叩くと、先ほどと同じように自動で蓋が空き、中から「鎌」が出てきた。
 茶色い宝箱のプレートには「刃物で叩け」と書いてある。今度は鎌で宝箱を叩くと、またまた自動で蓋が空き、中から「クワ」が出てきた。
 予想通りの物が出てきてヴァーグは笑いを通り越して白けてしまった。
「女神さまって、ゲームを作った事あるんじゃないの?」
 農具三種の入った宝箱の開け方にどことなく違和感があった。
 そんなヴァーグを、「おほほほほ!」と高笑いしながら見ている女神は、この世界そのものを作り上げているように思う。


 『秋の森』から戻ってきたケインは父親のルイスから思いっきり怒られた。
 だが、森でモンスターに襲われそうになった時、ケインに助けられたというヴァーグの証言で、拳骨一回でお説教は終わった。

 森から集めてきた落ち葉を使って、ヴァーグは肥料を作ると言い出した。
「どうやって?」
 いままでそんなことをしたことがないルイスは肥料づくりを手伝うことにした。
 ます、畑の一角に大きな穴を掘った。ここで役に立ったのが森で手に入れたクワだった。元々前の世界で、学生時代に園芸部に所属していたヴァーグはクワの使い方に慣れており、ルイスと共に2m×2m、深さ1mの大きな穴を作った。その穴に森で集めてきた大量の落ち葉を入れた。6袋に入っていた落ち葉はほぼ穴を埋め尽くした。そこに再び堀りだした土をかぶせ、作業は終わった。
「この山盛りの土が沈んだら完成なんですが、時間がかなりかかります。また、定期的に何度かかき混ぜないといけないんですね」
「どれぐらいかかるんだ?」
「ちゃんとした物を作るのなら、三ヶ月後とのかき混ぜを繰り返して一年かかります」
「そんなに!?」
「一年も待てませんよね? そこでこの肥料が出来るまでに、他の方法で作物を作りましょう。今から植えるとしたら何が最適ですか?」
「そうだな…村の名物である『最速カブ』なら種を蒔いて一週間で収穫できる」
 農業ゲーム定番の「カブ」がこの村の名物とはどんな偶然なんだろう。いや偶然か? きっと狙っていたに違いない。ヴァーグはますます女神の正体を暴きたくなってきた。
「じゃあ、そのカブでこれから行う作物の作り方を教えますね。ただ…」
「『ただ』なんだ?」
「もう日も落ちかけていますし、明日にしませんか?」
「え?」
 ルイスは改めて辺りを見回した。太陽は山の向こうに姿を隠し始め、薄暗くなってきた。
「いつの間に…」
「では、明日の朝、またお伺いしますね。今から宿を探さなくてはいけませんので」
「なんだ? 泊まる所がないのか? だったら家に来ればいいじゃないか」
「え?」
「家はすぐそこだ。宿までは距離があるし、着くころには完全に暗くなっているだろう。夜道を女性一人で歩かせて何かあったら大変だ。それにケインが世話を掛けてしまった。そのお詫びもしたい」
「ご迷惑ではないんですか?」
「そんなことないよ。家内に言って部屋を用意させる。着いてきな」
 ルイスは農具を台車に乗せると、坂の上にある自宅へと向かった。

 自宅ではルイスの妻ドロシーがヴァーグを歓迎してくれた。
 ただケインだけは反発した。
「だってさ…」
 特にこれといった理由はないようだが、ケインはヴァーグが泊まる事を拒んでいた。

 そこでヴァーグは夕飯は自分が作ると提案した。ここに来るまでの間にある程度の調味料や食材を手に入れる事が出来、今まで作った料理が作れるようになったのだ。
 だが機材だけはまだ買えていない。調理器具に関してはお店スキルが関係しているらしく、手に入らないのだ。
 ところがケインの家には石窯があった。ドロシーが料理好きでここに嫁いできた時に、義父が手作りで石窯を作ってくれたのだ。
 ヴァーグはドロシーと共にいくつか料理を作った。
 ここに来るまでに手に入れた牛肉と豚肉のミンチでハンバーグを作り、神父大絶賛の野菜たっぷりのミルクを使ったスープ、そして簡単に作れるプリンも作り、最後に石窯で土台を焼き上げたショートケーキを作った。ショートケーキの定番のイチゴはルイスが作った物を使った。
 料理好きのドロシーですら見たこともない料理に、彼女はもちろんルイスも、ケインの祖母アンも、完成された料理に歓声を上げていた。アンは固い物は食べられないから…とスープを好んで食べ、デザートのプリンをいくつもおかわりしていた。
 そして、ヴァーグが泊まることに反発していたケインは白いクリームと赤いイチゴのケーキが大変気に入り、ここに泊まるのならもっと作ってとおねだりしていた。
 こうしてヴァーグはケイン一家に気に入られた。

 翌朝、ヴァーグは朝食前にパソコンを覗いた。
 【ステータス】の農業スキルが昨日の行動だけで一気に5も上がっていた。
「重労働だったからね…」
 あれだけクワを使い続ければスキルも上がるだろう。
 そしてスキルレベルが上がったことで、買える物が増えた。その中に昨日作り始めた肥料も少しだけ買えるようになっていた。
「あまりお金がないから一つだけだね…」
 所持金はかなり貯まっていたが、作物を植えるプランターと土を購入したため、肥料は一袋だけ購入した。

 朝食後、家の前で『最速カブ』の種まきをやることになった。
「まず、このプランターという作物を作る容器に土と肥料を混ぜた物を入れたいと思います」
 白い長方形の箱と、二種類の袋に入った黒い物、そしてルイスが用意したカブの苗が地面に並べてあった。カブの種を用意しようとしたが、ヴァーグからできれば苗が欲しいと言われ、畑に植える予定だった苗を用意した。
 ヴァーグはクワを手にすると、二種類の袋のうち「園芸用土」と日本語で書かれた袋の上に立つと、袋の端をクワで一突きした。するとクワを入れた所から穴が開き、一直線になるように穴をあけると、袋を逆さまに持ち、中の土を地面に出した。
 次にもう一つの「腐葉土」と日本語で書かれた袋にも同じようにクワで穴を開け、先に地面に出した土の上にばら撒いた。
「後から開けた物が、昨日落ち葉で作った『腐葉土』という肥料です。この肥料は苗から育てる時に使う方が効果があるんです。では混ぜましょうか」
 ヴァーグはクワを使って器用に土と腐葉土を混ぜ始めた。ある程度混ざったら、これまた器用にクワで土を救い上げプランターに移した。
「どこかで農業をしていたのか? 凄く器用なんだが…」
 農業のプロでもあるルイスも驚くほどに、クワを器用に使いこなすヴァーグ。
「学生時代に2年間、園芸をしていただけですよ」
「エンゲイ?」
「花壇でお花を育てることです。でも、何故か花壇なのに夏は野菜を作っていたんですよね。ハーブも育てていたんです」
「2年でこれだけのスキルを身に着けるとは…」
 (まあ、あの学校の花壇は、ここと変わりないんだよね)
 かつて通っていた学校で所属していた園芸部。ヴァーグが1年の時に設立された部で、その時の花壇はここの畑の土よりも硬かった。ほぼ土の道と言っても過言ではない。その固い土を1年かけて柔らかい土へと変えたことはいい思い出だ。
 プランターに土を入れ終わると、そこに苗を植えるため、間隔を開けて小さな穴を作った。今回は3つの苗を使うため、3つの穴を作った。そこにすぐ苗を植えると思ったら、なんとそこに水をたっぷりと注ぎ込んだ。
「なぜ水を?」
「苗は土に植えても、すぐに根を張る事が出来ないんです。土に根を張らないと栄養を吸収できないので、その繋ぎとして水を入れるんです。水をたっぷり入れたら苗を植えます。周りを土で軽く被せて、さらに水を与えます。これで完成です。あとは土が乾いたら水を与えます」
「それで終わりなのか?」
「そうですね、プランターでの作業はこれで終わりですが、このカブをもうちょっと大きく育てたいので、今度は畑に植え替える場所を作ります」
 そういうと、目の前の畑の一角をクワで耕し始めた。約3mほど耕すと、プランターに張り切らなかった余った土を耕した畑に持って行き、更に耕した土と混ぜた。
「あと、畑を耕して気づいたんですが、畑には石が多く入り込んでいますね。この石、取った方がいいですよ」
「石を取る?」
「石を取った方が作物が大きく育つんです。石があると土の中で育つ作物は、育つ空間を失うので、どうしても小さくなったり、変な形になったりするんです。広大な畑すべてをやると大変なので、今日はここ、明日はここってある程度範囲を決めて石を取り除いた方がいいと思います。腐葉土が出来るまで時間は掛かりますが、ひと手間加えるだけで、販売価格も大きく変わります」
「なるほど。君の知識には驚かされるばかりだよ。どこで手に入れた知識なんだい?」
「え~と…遠い地を旅した時に…」
 ヴァーグは答えに困った。
(とても言えない…TV番組とゲームからの知識ですって、絶対に言えない…)
 ルイスにとってみれば、ヴァーグの知識に思えるが、ヴァーグ自身は耳にしたことをそのまま話しているだけだった。これはヴァーグの知識と言えるのだろうか?


 カブを植えて4日目、プランターの中のカブは土の上に白い実が少し見え始めた。
「では、今日は植え替えますね。この間耕した場所に移し替えます。移し替える時の注意として、土から実だけを抜き取らないでください。今のカブはこのプランターの土とお友達になっています。そのお友達と別れて新しいお友達の所に行くよりかは、今のお友達と一緒に行った方が安心しますよね。プランターの土と一緒に畑に移しましょう」
 面白い表現で説明するヴァーグに、今にも吹き出しそうになるルイス。笑いたいのを我慢しながら、耕した畑に丁寧にカブを移した。
「後は4日ほど待ってみましょうか」
 その4日間もただ待っているだけではなく、3つのうち1つは4日間水を与え続け、1つは2日間だけ、残りの一つはまったく水を与えないようにと指示した。
「なぜ水の量を変えるんだ?」
「ちょっとした実験です。では、プランターも開きましたし、同じ条件でカブをまた作りましょう。昨日、新しい土と肥料を手に入れました」
 テキパキと指示するヴァーグに、ルイスはただただ着いて行くだけだった。
 その働きぶりに驚くルイスに追い打ちをかけたのは4日後の事だった。
 カブを採集する日になり、畑へとやってきたルイスとドロシーは、目の前に植えられているカブの姿を見て呆然と立ち尽くしてしまった。なぜなら、今までは拳ほどの大きさしか収穫できなかったカブが、ヴァーグの指導を受けただけで2倍以上の大きさに育っていた。いや、まだ抜いていないから本当の大きさはまだわからないが…。
「ルイスさん、このカブって、生でも食べれますか?」
「あ…ああ」
「じゃあ、食べ比べてみましょう」
「食べ比べる?」
 ルイスとドロシーが不思議そうに首をかしげる前で、ヴァーグは毎日水を与えていたカブを勢いよく抜いた。
 意外と簡単に抜けたカブを水で土を洗い流すと、艶のある白い表面が現れ、実も丸々としていた。包丁でカブを切り分けると、ヴァーグは2人の前に差し出した。
「食べて感想を聞かせてください」
 にっこりと微笑みながら差し出すヴァーグからカブを受け取った2人は、一口噛り付いた。
「…瑞々しい…」
「こんなに美味しいカブ、食べたことないわ」
 今迄収穫していたカブは、水分があまりなく、口に入れるとパサパサしており、好んで食べる人はあまりいない。市場に出しても買うのは遠方から行商に来る商人ぐらいだ。
「じゃ、次はこちらをどうぞ」
 いつの間に抜いたのか、植え替えてから水を与えていないカブを切り分けていた。水を与えていないにも関わらず、カブの断面は瑞々しく、先ほど収穫した物と変わりはなかった。
 一口かじったドロシーは味の違いに驚いていた。
「甘い! このカブ、甘く感じるわ」
「何か魔法を使ったのか?」
「魔法なんて使っていませんよ。ちょっとした知恵を使っただけです。ルイスさん、この甘いカブを育ててみませんか? 元々は同じカブの苗です。でも一手間掛けるだけでこんなにも見た目も味も変わります。これを市場で売ったら収益は上がると思うのですが、どうでしょうか?」
「だ…だが、肥料が出来るまで時間がかかるのだろ? すぐに大量生産は無理だ」
「最初から大量生産することは望まない方がいいと思います。一度に大量生産に向けて苗を沢山植えても、管理が行き届かなかったらいい作物は育ちません。少しずつやっていくんです。ある程度でしたら私も支援させていただきます」
「旅の途中なんだろ? そんなことして大丈夫なのか?」
「そろそろ定住しようと思っていたところなんです。旅を続けるのが疲れたっていうのもあるんですが、ちょっと貯金をしたくて…」
「何か大きなものでも買うのかね?」
「今後必要な物を色々と…」
 料理レベルは上がっているが、お店レベルが上がっていない為、オーブンもレンジもミキサーも買えない今、どこかで定住してお店レベルを上げる必要がある。オーブンやレンジがあるだけで料理のレパートリーが増え、この先、行く場所も増えてくるだろう。
 ヴァーグは旅を続けるよりも、何かを作る作業の方が好きなようだ。


 ヴァーグの指導の元、ルイスはカブの品質改良を続けた。ちょっとした一手間を加えるだけでみるみるうちにカブは大きくて甘いカブへと変わっていき、市場に降ろしている小売店からは「今までの売り上げとは比べられないほどの売れ行きだ!」と太鼓判を押された。
 また、今迄、村人が買うことがなかったカブが、ある日突然村人たちが買うようになった。
 ケインが村のお祭りで行われたじゃんけん大会で優勝し、村の中心部にある空き家を手に入れた。その空き家を飲食店兼雑貨屋としてヴァーグが経営を始めたのだ。見たこともない料理や加工品が並ぶ店は人気を得て、主婦たちは彼女から料理を習うようになった。料理を習うことでルイスの作った野菜が売れ出し、品質のいい野菜を育てる方法を習う農家が増え、市場で売れる野菜などの品質が全体的に上がり、行商に来る商人たちが村の外へ売りに行き、村まで買いに来る人も増えてきた。村の収益自体が上がり、生活も潤いだした。
 元々はヴァーグが持っている知識で野菜の品質を変えていったのが始まりだが、それを実行したルイスが村の農業を劇的に変えた立役者となってしまった。ルイスはヴァーグに申し訳ないと詫びたが、
「私は裏方仕事が似合っているんです。気にしないでください」
と、自分から表に出ることはなかった。


 ヴァーグのスキルも上がり、作れる料理も増え、お店レベルも上がり、やっとオーブンや冷蔵庫などが買えるようになった。それらを使った食べ物も人気になり、王都まで噂が知れ渡るようになる。
 冒険者レベル20、料理レベル30まで上がると、村人からのリクエストや依頼が舞い込むようになった。
 ケインが学校を卒業するころになると、王都からの調査依頼や料理納品のクエストが入るようになり、ヴァーグの店も内装だけはレベルが低くても出来たので、建設レベルを上げるためにちょこちょこと模様替えを続けていた。


「さてと…」
 ヴァーグはパソコンのステータスを見ながら、王都から届いた【調査依頼】のクエストを受けるかどうか悩んでいた。
 王都から届いたのは、近くの湖でドラゴンの姿を見かけたという証言が相次ぎ、その調査をしてほしいと言う依頼だった。
「この世界に来て8年目。やっとドラゴンに会えるのね。ここまで長かった…」
 異世界にはドラゴンやユニコーンが付き物だろ!と女神に訴え続けて8年。やっとその姿を見ることができるのだ。
「その前にもう一つやらなくちゃ」
 ヴァーグがパソコンの画面に映したのは【建設】のページだった。お金も溜まり、村長から許可が下りたので、店の外装と内装を思い切って変えることにした。
「明日の朝には完成しているんだよね。皆、驚くだろうな」
 画面の『建設する』というボタンを押したヴァーグは、「明日には完成します」というメッセージ画面を目にすると小さく笑った。

 ヴァーグは明日、店の外観が変わっている事に驚くケインの顔を想像しながら眠りについた。
 明日はどんな一日になるんだろう。
 前の世界で生きていた時に味わったことがないワクワク感が毎日続くことに、ヴァーグは目覚めるのが楽しみでならなかった。


                 <番外編 Fin>

 
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