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第22話 お茶会
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リチャードの家から離宮に戻ったエテ王子は、自室のソファで仰向けになって考え事をしていた。
マリーとミリーはたとえルイーズ王女が王女でも大切な友達に変わりはないと言っていた。
自分にはリチャードという学校で知り合った親友がいる。だが妹のクリスティーヌ王女やルイーズ王女は王宮を出たことがないため、親友と呼べる者がいない。この先も、愚痴を言える親友というものがいないままなのだろうか?
ルイーズ王女には明日次第で、マリーとミリーという親友ができる。
じゃあ、クリスティーヌ王女は?
彼女にも親友と呼べる人を作った方がいいのだろうか?
いろいろ考えながら目を閉じると、何かの影が覆いかぶさった。
ゆっくりと目を開けると、コロリスが毛布を掛けてくれていた。
「コロリス」
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「いや、寝てなかった。ちょっと考え事をしていた。君もまだ起きていたんだ」
「もう休みますわ。では、私は部屋に戻りますね。失礼します」
離れようとしたコロリスの腕をエテ王子は掴み、彼女を抱き寄せた。
突然の事でコロリスはエテ王子の腕の中で身をよじった。
「え? あ…あの…エテ様?」
いくら親公認の仲になり、離宮で一緒に暮らしてもいいというお許しが出たとはいえ、まだ正式に婚約もしていない。エテ王子の進退も決まっていない中で、このような行為はいいのだろうか? コロリスは早くなる鼓動を抑えきれなかった。
「……もしさ、もし、あの村で出会ったとき、最初から王子であることを名乗っていたら、コロリスはどうしてた?」
「え?」
「最初から王子だとわかっていたら、俺を好きにはならなかった?」
エテ王子の質問に驚いたコロリスは彼の顔を見た。エテ王子は顔を逸らしており、その青い瞳はどこか遠くを見ているようだった。
コロリスは彼の胸に顔をうずめた。
「わたしは、たとえ王子様だと名乗られても、エテ様を愛していたと思います」
「コロリス…」
「エテ様はエテ様です」
答えに不安はあったが、期待通りの答えを返すコロリスを、エテ王子は強く抱きしめた。
夜空に浮かぶ二つの月の光が、寄り添う2人を優しく包み込んでいた。
翌朝、カトリーヌは自分付きの使用人に、マリーとミリーの支度を手伝わせた。
事前に王女とのお茶会に出席することを知っていたマックスとメアリーは、荷物の中にルイーズの両親から頂いた2人のドレス一式を詰め込んでいた。考えてみれば、ルイーズの親は国王だ。王室からの正式な贈り物ということになる。
2人に送られたドレスは、床までの丈ではなく、足首までの長さだった。それでもパニエでスカート部分が広がり、レースやビーズなどふんだんに使われているのに豪華すぎず、それでも気品のある物だった。国王が選んだのだろうか? それともルイーズが2人の事を思って選んでくれたのだろうか? どちらにしても初めて着るドレスに、双子は大はしゃぎだった。
髪型は、二つに分け高い位置で結んだ。そして双子のお気に入りである白いリボンを結んだ。
「う~~ん……」
ドレスは華やかなのに、髪型がいまいちであることにカトリーヌは唸り声を上げた。
ハッと何かに気付いた使用人がカトリーヌに耳打ちをすると、どこかへと走り去った。そして一本の黒い鉄のような棒と、赤い小さな結晶が入った小瓶を持って戻ってきた。
カトリーヌは黒い鉄のような物の取っ手の部分に備え付けられた引き出しのような物の中に、赤い結晶を一粒入れ、軽く左右に振りだした。しばらくすると黒い鉄の棒から薄い煙が立ち込め、カトリーヌは一回だけ強く下に向かって振り下ろした。
「熱かったら言ってくださいね」
そういいながら、マリーの二つに結ばれた髪の束の片方を手にすると、鉄の棒に巻き付けた。
10秒ほど巻き付けた状態で待ち、カトリーヌはそのままの状態で鉄の棒を抜き取った。
すると周りから歓声が上がった。棒を巻き付けた髪が綺麗な縦ロールへと変わったのだ。
カトリーヌは反対側も同じようにすると、マリーに鏡を見せた。
「すごーーーーい!! お姫様みたい!!」
「ミリーも! ミリーも!!」
マリーが羨ましくなったミリーは、カトリーヌにおねだりした。
カトリーヌがミリーにも同じように髪型を整えてあげると、ミリーも鏡を覗き込んで大はしゃぎだった。
「凄い道具ですね」
一部始終を見ていたエミーは、カトリーヌが魔法を使ったかのように思えた。
「カトリーヌさん、どんな原理なんですか?」
傍で見ていたヴァーグは自分が前にいた世界にも同じ道具があるため驚きはなかったが、カトリーヌが赤い小さな結晶を使った所は見逃さなかった。
「これは研究の過程で生まれた道具です。赤い結晶は鉄と触れあうと熱を発することが分かりまして、何か日用品として使えないか開発を進めたところ、これが生まれました」
「炎を発するだけじゃないの?」
「それは他にも材料が必要ですが、熱を発するだけでしたら鉄と結晶だけで出来ます」
「……もしかして、鉄と結晶と何か混ぜて石状にした物をコンロに投げ入れるだけで、半日の間、燃え続けたりします?」
「ええ。分量を調節すれば、小さな炎を出すことは可能です。王宮の料理場や一部の教会では使われていますわ」
ヴァーグの脳裏に、この世界に来たばかりの事が蘇ってきた。初めて訪れた教会で、調理を担当していた女の子が『火の石』と呼ばれるのもをコンロに投げ入れていた。
(ここに繋がるとは…)
ただの偶然なのか。それとも最初から決まれていた事なのか、ここ最近の出来事がすべて8年前と繋がることにヴァーグは違和感でしかなかった。この先、更に過去で起きたことが繋がっていきそうで、何か未来を変えそうな大きな出来事が起きそうで、女神と一度話し合いたいと思った。
双子はカトリーヌと共に離宮へと向かった。今日のカトリーヌは双子の護衛ということで、騎士団の制服を着用している。
屋敷を出る三人を見送ったエミーは先に中央広場へ出かけた両親の元へと急いだ。
ヴァーグも、先に行っているケインやラインハルトと合流する為、屋敷を出ようとしたが、先ほどまでカトリーヌが使っていた鉄の棒をマジマジと見るゲンの姿を見つけた。
「ゲンさん、どうかされましたか?」
ヴァーグの声に気付いたゲンは使用人に鉄の棒を返すと、使用人と別れてヴァーグの方へと歩み寄った。
「なに、結晶を日用品に用いるとは王立研究院も面白い物を作るなと感心しておったのじゃ」
「ゲンさんは結晶を知っているんですか?」
「おぬし、わしが王宮御用達の武器を作っていたことを忘れたのか? 武器を作る傍ら、魔法玉の事も研究しておったわい!」
「あ、そういえば…」
「魔法玉は戦いにしか使われんが、結晶は採取さえできれば日常生活を劇的に変えるはずじゃ。特に炎の結晶は炎を使う生活には欠かせなくなる。わしも昔は鍛冶場の火起こしに使っておったが、結晶が手に入らなくなるとそれもできなくなった」
「文献には『炎に包まれた火が吹く湖で生まれた結晶』が炎の結晶だと書かれてあたそうです。ゲンさん、この場所に心当たりはありますか?」
「わしは現場には出ないからな。歴代の騎士団団長なら知っておるかもしれん。だが、水の結晶ならある場所を知っておるぞ」
「本当ですか!? 水の結晶は『永遠に変わらない水の湖』から採れるんですよね? どこにあるんですか!?」
興奮気味に詰め寄るヴァーグに、ゲンはかっかっかっ!と毎度おなじみの豪快な笑い方をした。
「おぬし、自分で作ったことを忘れてしまったのか? 村に貯水施設を作ったじゃろ。その施設にドラゴンメスの鱗を使わなかったかい?」
「え…ええ。水質を保つためにシエルの鱗を砕いて貯水施設のコンクリートに混ぜて塗りました。最初は効能を知らなかったので普通のコンクリートにしましたが、効能を知ってからはシエルの鱗も混ぜるようにしました」
「ドラゴンメスの鱗の効能はなんじゃ?」
「品質を保ち続ける事………ああ!!」
「やっと気づいたか。おぬしは自分で『永遠に変わらない水の湖』を作り上げたんじゃぞ? 鍛冶場の近くにある井戸に水の結晶が沈んでいることに気付いての、わしは鍛冶場で使う大量の水をその結晶で賄っておったのじゃ。村の井戸を漁れば、大量に結晶が出てくるぞ」
まさかに展開に、ヴァーグは開いた口が閉まらなかった。
ゲンが言うには水の結晶は、水瓶の中で衝撃を与えれば、その水瓶の大きさにあった水を一定期間蓄え続ける。使っても使っても減ることはない。村で取れる結晶は、ドラゴンの鱗を使っているため、最高品質の水が湧き出る。場所によっては品質が変わるようで、汚れた湖の結晶を使えば汚れた水、匂いの強い湖を使えば匂いがする水が湧き上がるらしい。
こんな身近に水の結晶があったとは…。しかも自分で作ってしまったとは予想外の出来事だった。
離宮に着いたカトリーヌと双子を出迎えたのは、騎士団の制服に身を包んだエテ王子とリオだった。リオは警察騎士団の制服である白い軍服に灰色のズボンを着用していたが、エテ王子は全身真っ白な制服だった。
「まぁ、エテ様が騎士団の制服を着ていらっしゃるなんて珍しいですわ」
カトリーヌですらあまり見ない服装に、驚きの声をあげた。
「親父に訳を話したら、王宮警備騎士団の団長代理を言い渡された。団長が出張中であり、第一部隊の隊長のリチャードが二日酔いで執務室から出てこれないと言うのもあるらしいが」
「兄上様ったら!」
夜遅くまでゲンと飲み続けていたリチャードは、一応出勤しているが使い物にならないようだ。
その光景を見ているリオは吹き出しそうになったが、必死に笑いをこらえた。
「マリー嬢、ミリー嬢、昨日の約束、宜しくお願いします」
「「はい!」」
「ではご案内します」
エテ王子はまだ笑いをこらえているリオの背中を思い切り叩くと、お茶会会場となる場所へと歩き出した。
(しかし…)
エテ王子は歩きながら思った。
(まさか、ルイーズと同じ髪型になるとはな)
双子の髪型を見たエテ王子は今朝の事を思い出して小さく笑った。
今朝、私室でコロリスと朝食を取っているとルイーズ王女が部屋に飛び込んできた。髪型が決まらないようで、どうにかしてほしいと泣きついてきたのだ。クリスティーヌ王女に頼めと追い払おうとしたら、クリスティーヌ王女はお茶会の為のお菓子作りに忙しいらしい。
男の自分ではできないと部屋から追い出そうとした所、コロリスが髪を結ってくれると言ってきた。
ルイーズ王女の注文は二つに縛り、白いリボンで結ぶこと。そして二つに縛った髪にカールを当てる事。その注文をコロリスは手際よく行った。聞けば旅一座にいた時、ステージに立つ役者の支度を手伝っていた。その時に習得したらしい。
エテ王子は双子と再会した時のルイーズ王女の顔を今から想像すると、楽しみでならなかった。
お茶会の会場は離宮の中庭の東屋。
用意されたテーブルの上には、イチゴのホールケーキや、フルーツがふんだんに乗ったタルト、クッキーなどのお菓子の他にも、サンドイッチなどの軽食も持っていた。
「ルイーズ様、まだご用意しますか?」
クリスティーヌ王女と一緒にお菓子を作ってくれたコロリスがルイーズ王女に訊ねた。
ルイーズ王女は双子が来るであろう方向を見つめているだけで返事はなかった。
「お友達がちゃんと来てくれるのか、心配しているようですね」
クリスティーヌ王女はルイーズ王女の後ろ姿を見ながらクスクスと笑い出した。
それにつられてコロリスも「その気持ちわかりますわ」と微笑んだ。
「コロリスさん、お手伝いありがとうございました。ルイーズの支度も手伝ってくださったとお聞きします。妹に代わってお礼申し上げます」
「いえ、わたしは当たり前の事をしたまでです。お気になさらないでください」
「ですが…」
「未来の義妹の為にお手伝いするのは当たり前ですよ、クリスティーヌ様」
「未来の…義妹……」
新鮮な言葉にクリスティーヌ王女は顔をぱぁぁっと明るくした。
つい先日、兄のエテ王子からコロリスを紹介された。と同時に王室を出るかもしれないとも聞かされた。大切な兄を取られたことに嫉妬に近い心もあったが、兄と恋人が嬉しそうに微笑みあう姿を見て、クリスティーヌ王女の心が急に晴れた。
いつも王室にいる兄は表情を見せない。周りに多くの敵がいると兄本人から聞いたこともあり、隙を見せない生活が兄から感情を奪っているのだと思った。
その兄が恋人の前では和らいだ表情を見せる。今まで見たことがない表情だ。
クリスティーヌ王女は兄の感情を取り戻してくれた恋人に感謝している。困った時には手伝ってくれる未来の義姉に尊敬のまなざしを向けた。
「ああああの、まだ早いと思われますが、お義姉様とお呼びしてもよろしいですか!? わたくしのことはクリスとお呼びください」
「まぁ、光栄な事です。これからも宜しくお願いしますね、クリス様」
何の抵抗もなく受け入れてくれるコロリスに、クリスティーヌ王女はますます惹かれていくのであった。
しばらくして、エテ王子、リオ、カトリーヌの三人を護衛に付けた双子や姿を見せた。
「ルイーズ、我々は離れた所から警備をする。何かあったら知らせるように」
「ありがとうございます、兄様」
お礼を述べるルイーズ王女は、マリーもミリーも知っている彼女ではなかった。どこか気品のある、気高い感じがして、村で一緒に走り回ったルイーズ王女ではなかった。
「ルイーズ、わたくしたちもお兄様たちと一緒にいますね。もしお菓子や飲み物が無くなったら声をかけてくださいね」
「はい、姉様」
クリスティーヌ王女はルイーズ王女の肩を軽くトンッと叩いて、兄たちと東屋を後にした。
三人きりになると、誰も言葉を発しようとしなかった。
気まずい空気が流れる中、ミリーはマリーの脇腹を突いた。
「あ…あの……本日はお招きありがとうございます。王女様にお目にかかれて光栄でございます」
ここに来るまでの間に、カトリーヌより教わった挨拶の述べるマリー。
ミリーはその隣で頭を下げた。
「……」
返事をしないルイーズ王女は、じっと双子を見つめていた。
双子は『王女』という言葉を使ったことに気を悪くしたと思い、ルイーズ王女から視線を逸らした。
「……なさい……ごめんなさい、マリーちゃん、ミリーちゃん」
ハラハラと涙を流すルイーズ王女は、なぜか双子に謝りだした。
「ルイーズちゃん…」
「ごめんなさい。わたし、嘘をついていました。本当はこの国の王女です。2人を騙して友達になろうとしていました。本当にごめんなさい」
ルイーズ王女は深く頭を下げた。
王族が一般市民に頭を下げることはない。それでも、やっとできた友達に、悪い事をしたと自覚があるルイーズ王女は頭を下げずにはいられなかった。
急に頭を下げてきたルイーズ王女に、双子は困った顔でお互いに見合わせ、同じことを思っているのか同時にうなづくと、ルイーズ王女の前に歩み寄った。
そして双子はルイーズ王女の手を握った。
「王女様でも、ルイーズちゃんはルイーズちゃんだよ」
「ミリーはルイーズちゃんのお友達に変わりはないよ」
「マリーだってそうだよ」
双子の声に、ルイーズ王女は顔をあげた。目の前には双子の可愛らしい笑顔があった。
「マリーちゃん、ミリーちゃん、許してくれるの?」
「許すも何も、悪い事は一つもしていないよ。それに、もしルイーズちゃんが悪いのなら、お茶会に招待しなかったと思う」
「うん。それにね、王女だから嫌いになったのなら、ミリーたちはここに来なかったよ」
「でも、マリーとミリーはここに来た」
「「ルイーズちゃんに貰ったリボンをつけてね」」
双子は結い上げた髪に結ばれているリボンを指した。白いリボンの先にはオレンジ色の糸でルイーズ王女の名前が刺繍されていた。
それも見て、ルイーズ王女も自分の頭に結ばれている白いリボンの先を2人に見せた。右のリボンにはピンクの糸でマリーの名前が、左のリボンには水色の糸でミリーの名前が刺繍されていた。
「ルイーズちゃん」
「あのね、マリーちゃん、ミリーちゃん、一つ聞いてもいい?」
「何?」
「私たち、お友達だよね?」
ルイーズ王女は恐る恐る双子に訊ねた。
双子はとびっきりの笑顔を見せた。
「「大切なお友達だよ!!」」
その返事に、ルイーズ王女は双子に飛びついた。
「ごめんね、ごめんね!」
「謝らなくていいよ」
「ルイーズちゃんはルイーズちゃんなんだから」
何度も謝るルイーズ王女を、双子はいつまでも慰め続けた。
東屋が見える木陰から見守っていたクリスティーヌ王女は、仲良くお茶会を始めた三人を見て胸を撫で下ろした。
「あの様子だと大丈夫そうね」
カトリーヌはクリスティーヌ王女の肩を軽く叩いた。
「ありがとうございました、カトリーヌ様」
「わたくしは何もしていませんわ。ルイーズ様が素直になられただけの事です。もちろん双子ちゃんもですけど」
「これでルイーズは元気になります」
「やはり、王宮に戻られてからは…」
「ええ。毎晩泣いていましたわ。一人だと淋しい、あの村に帰りたいと。お兄様が再びあの村に行くことを知ると、お父様に泣きついたぐらいです。一度戻られたリチャード様を監禁したこともあるんですよ」
「それで兄上様は帰りが遅かったのですね」
村で起きたことを王宮に伝えると言っていたリチャードがなかなか戻ってこないことがあった。騎士団の出撃に手間取っていると思われたが、まさかルイーズ王女に捕まっていたとは…。
「カトリーヌ様、クリス様、わたしたちもお茶にしませんか?」
コロリスが声を掛けた。
すでに準備が終わっており、地面に敷かれた布の上には、籠に入った焼き菓子と、人数分のティーカップが並べられていた。
「ただ見守るだけでは退屈しますのもね。ここはエテ様とコロリスさんの馴れ初め話をお聞きしながら、ティータイムとしましょう!」
カトリーヌの提案に、紅茶を飲んでいたエテ王子が勢いよく噴出した。
「カトリーヌ殿!?」
「わたくしは恋愛話が大好物なんですの」
カトリーヌは、逃がしませんわと言わんばかりに、エテ王子に向けてにっこりと微笑んだ。
クリスティーヌ王女も堅物だった兄の連話に興味津々で身を乗りだるようにエテ王子を見つめていた。
顔を赤く染めながら、お互いに「どうする?」と意見を求めるエテ王子とコロリスは困った顔をしていたが、なぜか嬉しそうだった。
そんな会話を耳にしながら、リオだけは東屋で行われているお茶会を見守り続けた。
離宮で二つのお茶会が楽しく行われているころ、中央広場では明日の芸術祭に向けての設営が行われていた。
昨日から準備を進めたこともあり、おおかた設営は終わっていたが、ヴァーグたち食べ物を売る店は試しに商品を作らないといけない。
今回は同じ出店仲間がいるということで、お昼を兼ねてすべての料理を作ってみることにした。
ラインハルトはたこ焼きを、ケインはたい焼き、エリザとローズはサンドイッチ、ヴァーグは何種類かのケーキを作り、メアリーは飲み物の準備を始める。
そして出店仲間の村人たちに、当日のお客になりきってシミュレーションをしてもらった。
ここを変えた方がいい、ここはこうした方がいいという意見を聞きながら、細かいところを変えていき、お客も店員も動きやすいように改良していった。
お昼過ぎ、村を陸路で出発した村人たちが王都に入った。
長い旅で疲れた村人たちは、すでに用意されていた食べ物や飲み物で癒され、さらにマックスが管理する足湯で疲れを取る人もいた。
ヴァーグは広場のいたるところに『ゴミ箱』と書かれた箱を置いた。
今回、提供する器はすべて使い捨て。使い終わった容器などはこの『ゴミ箱』に入れてもらう。
このゴミ箱は女神さまが特別に用意してくれた。大量のゴミが出るとその片づけや処理が困る。そこで女神は無限に入れられるアイテムボックスのゴミ箱版を作り、役立ててほしいと送ってくれたのだ。集められたゴミは女神のいる場所に自動的に転送され、女神が処分してくれるらしい。
「だって、差し入れを貰ってしまったんですもの。これぐらいは協力しますわ!」
女神がどうやって貰ったかはわからないが、ヴァーグが作ったショートケーキ、チーズケーキ、フルーツタルト、オムライス、カレー、シチューなどの食べ物を貰っている。このお礼としてゴミ箱を提供したのだ。
着々と準備が進む中、ケインがふと空を見上げた。
秋が深まりつつあるのに、今日は気温が高い。特に火を使うコンロの傍に居るからだと思うが、汗が止まらない。
風でも吹かないかな~と思いながら王宮の方へ視線を移すと、王宮から離れた場所に見たことがある黒い雲が渦巻いていた。
「ヴァーグさん、あれ…」
ケインに言われ、ヴァーグが彼が指す上空を見上げると、ヴァーグの目にも黒い雲が見えた。
「また魔族の武器が暴れているの?」
「あの方が方角ってなにがあるんですかね?」
上空の黒い雲を見ていると、
「あそこには離宮がある」
と、突然ゲンが2人の間に顔を出した。
「ゲン祖父さん! 急に現れるなよ!」
「大声を出すな。皆に聞かれるぞ」
ゲンは声を潜めた。
幸いにも村人たちは準備に夢中になっており、空を見る余裕はないようだ。
「ちょっと待って。離宮って言ったらマリーちゃんとミリーちゃんがいるんじゃないの?」
「これは行った方がいいかもしれませんね」
「ゲンさん、私たち、離宮に向かいます。ここをお願いしてもいいですか?」
「ああ任せておけ。して、ヴァーグ殿、結界石はお持ちかね?」
「え…ええ、いくつか持っていますが…」
「結界石で囲めば、衝撃は外に漏れることはない」
「え?」
「結界石は外からの衝撃を跳ね返すだけだはなく、中からの衝撃も吸収する。その効果は欠片でも十分発揮する。たとえば矢の先に括り付ける……とかな」
ゲンはニヤリと笑った。
その言葉にヴァーグはハッとした。ゲンが言いたかったことが理解したようだ。
「それから魔法玉を作る奴に伝えてくれ。雲を浄化させなくても、『本人』を浄化させれば雲は消える。やり方は浄化の魔法玉を頭上で割ればいい」
「ゲンさん、それって…」
「伝えればいい。必ず理解するはずだ」
「わかりました」
ヴァーグはゲンが言いたい事を理解できた。
王室御用達の武器を作り、魔法玉も研究していたゲンは、昔、全く同じ事を経験したのかもしれない。だからこそアドバイスができるのではないだろうか。
ヴァーグはケインと共にオルシアの背に乗り、離宮目指して飛び立とうとした。
その時、中央広場に一人の女性が血相を変えて飛び込んできた。
その女性は大勢の中からエミーを見つけると、彼女の名前を呼びながら泣きついてきた。
「エミー!!」
名前を呼ばれたエミーが振り向くと同時に、女性が飛びついた。
「マ…マリア!?」
「エミー、お願い! 助けて!!」
マリアと呼ばれた女性は、エミーに何度も何度も助けてっと叫び続けた。
「マリア、落ち着いて。詳しく話してくれないとわからないわ」
「ジャンを…ジャンを助けて!」
「ジャン?」
初めて聞く名前にエミーは首を傾げた。
「エミーさん、何かあったんですか?」
離宮に向かおうとしていたヴァーグがケインと共に戻ってきた。
その二人の後ろにはラインハルトの姿もある。
「それが…」
「お願いします! ジャンを助けてください! このままだと王族に襲い掛かるかもしれません!!」
「王族に? どういうことなの? 詳しく話して」
エミーが優しく訊ねると、マリアはゆっくりと話し始めた。
マリアの恋人のジャンは、この近くでカフェを経営していた。とても評判があり、マリアも常連となりほぼ毎日のように来店していた。ところが今年の新年を祝う祭りの時、第一王女の我儘で業務停止命令が下り、ジャンは王室侮辱の罪で財産まで没収されてしまった。罪人となってしまったジャンと王都を離れたが、王族を憎む思いは捨てきれず、王都に戻っていった。そして王宮に向かう彼の姿を見かけ追いかけたが見失ってしまった。
このままでは店を潰された復讐をするかもしれない。ジャンを探し回ったが見つからず、中央広場でエミーの姿を見かけたので助けを求めた。
「まって、マリア。あなた、婚約者がいたのではないの?」
「いました。でも親が勝手に決めた相手で、わたしは頑なに断り続けました。それでも半年後に式を挙げると言い出したので、ジャンと逃げるために修道院に入ると嘘をつきました」
「じゃあ、マイケルと一緒にいたのはどうして? マイケルと会っている所を見たわ」
「あれはマイケルがお金を払ってくれれば、ジャンを逃がしてくれると約束してくれたので、お金を渡す為に会っていました。でも、マイケルは裏切りました。お金だけもらってジャンを助けてくれなかったんです!」
まさかここでも繋がるとは…ヴァーグは過去に聞いていたエミーからのマイケルの被害者の話がここに繋がることに驚愕した。だが、マリアの話では行方不明になったのはマイケルが原因ではなく、全く別なことが原因のようだ。いくつも物偶然が重なって一つの話として語られるようになってしまった。
「ケイン、離宮に急ぎましょう。魔族の犠牲になっているかもしれないわ」
「わかった。オルシア、離宮まで頼む」
「エミーさん、ここを頼みます。私たちは王宮に行ってみます」
「気を付けてください」
「ありがとうございます」
オルシアはケインとヴァーグを背中に乗せ、広場を飛び立った。
<つづく>
マリーとミリーはたとえルイーズ王女が王女でも大切な友達に変わりはないと言っていた。
自分にはリチャードという学校で知り合った親友がいる。だが妹のクリスティーヌ王女やルイーズ王女は王宮を出たことがないため、親友と呼べる者がいない。この先も、愚痴を言える親友というものがいないままなのだろうか?
ルイーズ王女には明日次第で、マリーとミリーという親友ができる。
じゃあ、クリスティーヌ王女は?
彼女にも親友と呼べる人を作った方がいいのだろうか?
いろいろ考えながら目を閉じると、何かの影が覆いかぶさった。
ゆっくりと目を開けると、コロリスが毛布を掛けてくれていた。
「コロリス」
「あ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
「いや、寝てなかった。ちょっと考え事をしていた。君もまだ起きていたんだ」
「もう休みますわ。では、私は部屋に戻りますね。失礼します」
離れようとしたコロリスの腕をエテ王子は掴み、彼女を抱き寄せた。
突然の事でコロリスはエテ王子の腕の中で身をよじった。
「え? あ…あの…エテ様?」
いくら親公認の仲になり、離宮で一緒に暮らしてもいいというお許しが出たとはいえ、まだ正式に婚約もしていない。エテ王子の進退も決まっていない中で、このような行為はいいのだろうか? コロリスは早くなる鼓動を抑えきれなかった。
「……もしさ、もし、あの村で出会ったとき、最初から王子であることを名乗っていたら、コロリスはどうしてた?」
「え?」
「最初から王子だとわかっていたら、俺を好きにはならなかった?」
エテ王子の質問に驚いたコロリスは彼の顔を見た。エテ王子は顔を逸らしており、その青い瞳はどこか遠くを見ているようだった。
コロリスは彼の胸に顔をうずめた。
「わたしは、たとえ王子様だと名乗られても、エテ様を愛していたと思います」
「コロリス…」
「エテ様はエテ様です」
答えに不安はあったが、期待通りの答えを返すコロリスを、エテ王子は強く抱きしめた。
夜空に浮かぶ二つの月の光が、寄り添う2人を優しく包み込んでいた。
翌朝、カトリーヌは自分付きの使用人に、マリーとミリーの支度を手伝わせた。
事前に王女とのお茶会に出席することを知っていたマックスとメアリーは、荷物の中にルイーズの両親から頂いた2人のドレス一式を詰め込んでいた。考えてみれば、ルイーズの親は国王だ。王室からの正式な贈り物ということになる。
2人に送られたドレスは、床までの丈ではなく、足首までの長さだった。それでもパニエでスカート部分が広がり、レースやビーズなどふんだんに使われているのに豪華すぎず、それでも気品のある物だった。国王が選んだのだろうか? それともルイーズが2人の事を思って選んでくれたのだろうか? どちらにしても初めて着るドレスに、双子は大はしゃぎだった。
髪型は、二つに分け高い位置で結んだ。そして双子のお気に入りである白いリボンを結んだ。
「う~~ん……」
ドレスは華やかなのに、髪型がいまいちであることにカトリーヌは唸り声を上げた。
ハッと何かに気付いた使用人がカトリーヌに耳打ちをすると、どこかへと走り去った。そして一本の黒い鉄のような棒と、赤い小さな結晶が入った小瓶を持って戻ってきた。
カトリーヌは黒い鉄のような物の取っ手の部分に備え付けられた引き出しのような物の中に、赤い結晶を一粒入れ、軽く左右に振りだした。しばらくすると黒い鉄の棒から薄い煙が立ち込め、カトリーヌは一回だけ強く下に向かって振り下ろした。
「熱かったら言ってくださいね」
そういいながら、マリーの二つに結ばれた髪の束の片方を手にすると、鉄の棒に巻き付けた。
10秒ほど巻き付けた状態で待ち、カトリーヌはそのままの状態で鉄の棒を抜き取った。
すると周りから歓声が上がった。棒を巻き付けた髪が綺麗な縦ロールへと変わったのだ。
カトリーヌは反対側も同じようにすると、マリーに鏡を見せた。
「すごーーーーい!! お姫様みたい!!」
「ミリーも! ミリーも!!」
マリーが羨ましくなったミリーは、カトリーヌにおねだりした。
カトリーヌがミリーにも同じように髪型を整えてあげると、ミリーも鏡を覗き込んで大はしゃぎだった。
「凄い道具ですね」
一部始終を見ていたエミーは、カトリーヌが魔法を使ったかのように思えた。
「カトリーヌさん、どんな原理なんですか?」
傍で見ていたヴァーグは自分が前にいた世界にも同じ道具があるため驚きはなかったが、カトリーヌが赤い小さな結晶を使った所は見逃さなかった。
「これは研究の過程で生まれた道具です。赤い結晶は鉄と触れあうと熱を発することが分かりまして、何か日用品として使えないか開発を進めたところ、これが生まれました」
「炎を発するだけじゃないの?」
「それは他にも材料が必要ですが、熱を発するだけでしたら鉄と結晶だけで出来ます」
「……もしかして、鉄と結晶と何か混ぜて石状にした物をコンロに投げ入れるだけで、半日の間、燃え続けたりします?」
「ええ。分量を調節すれば、小さな炎を出すことは可能です。王宮の料理場や一部の教会では使われていますわ」
ヴァーグの脳裏に、この世界に来たばかりの事が蘇ってきた。初めて訪れた教会で、調理を担当していた女の子が『火の石』と呼ばれるのもをコンロに投げ入れていた。
(ここに繋がるとは…)
ただの偶然なのか。それとも最初から決まれていた事なのか、ここ最近の出来事がすべて8年前と繋がることにヴァーグは違和感でしかなかった。この先、更に過去で起きたことが繋がっていきそうで、何か未来を変えそうな大きな出来事が起きそうで、女神と一度話し合いたいと思った。
双子はカトリーヌと共に離宮へと向かった。今日のカトリーヌは双子の護衛ということで、騎士団の制服を着用している。
屋敷を出る三人を見送ったエミーは先に中央広場へ出かけた両親の元へと急いだ。
ヴァーグも、先に行っているケインやラインハルトと合流する為、屋敷を出ようとしたが、先ほどまでカトリーヌが使っていた鉄の棒をマジマジと見るゲンの姿を見つけた。
「ゲンさん、どうかされましたか?」
ヴァーグの声に気付いたゲンは使用人に鉄の棒を返すと、使用人と別れてヴァーグの方へと歩み寄った。
「なに、結晶を日用品に用いるとは王立研究院も面白い物を作るなと感心しておったのじゃ」
「ゲンさんは結晶を知っているんですか?」
「おぬし、わしが王宮御用達の武器を作っていたことを忘れたのか? 武器を作る傍ら、魔法玉の事も研究しておったわい!」
「あ、そういえば…」
「魔法玉は戦いにしか使われんが、結晶は採取さえできれば日常生活を劇的に変えるはずじゃ。特に炎の結晶は炎を使う生活には欠かせなくなる。わしも昔は鍛冶場の火起こしに使っておったが、結晶が手に入らなくなるとそれもできなくなった」
「文献には『炎に包まれた火が吹く湖で生まれた結晶』が炎の結晶だと書かれてあたそうです。ゲンさん、この場所に心当たりはありますか?」
「わしは現場には出ないからな。歴代の騎士団団長なら知っておるかもしれん。だが、水の結晶ならある場所を知っておるぞ」
「本当ですか!? 水の結晶は『永遠に変わらない水の湖』から採れるんですよね? どこにあるんですか!?」
興奮気味に詰め寄るヴァーグに、ゲンはかっかっかっ!と毎度おなじみの豪快な笑い方をした。
「おぬし、自分で作ったことを忘れてしまったのか? 村に貯水施設を作ったじゃろ。その施設にドラゴンメスの鱗を使わなかったかい?」
「え…ええ。水質を保つためにシエルの鱗を砕いて貯水施設のコンクリートに混ぜて塗りました。最初は効能を知らなかったので普通のコンクリートにしましたが、効能を知ってからはシエルの鱗も混ぜるようにしました」
「ドラゴンメスの鱗の効能はなんじゃ?」
「品質を保ち続ける事………ああ!!」
「やっと気づいたか。おぬしは自分で『永遠に変わらない水の湖』を作り上げたんじゃぞ? 鍛冶場の近くにある井戸に水の結晶が沈んでいることに気付いての、わしは鍛冶場で使う大量の水をその結晶で賄っておったのじゃ。村の井戸を漁れば、大量に結晶が出てくるぞ」
まさかに展開に、ヴァーグは開いた口が閉まらなかった。
ゲンが言うには水の結晶は、水瓶の中で衝撃を与えれば、その水瓶の大きさにあった水を一定期間蓄え続ける。使っても使っても減ることはない。村で取れる結晶は、ドラゴンの鱗を使っているため、最高品質の水が湧き出る。場所によっては品質が変わるようで、汚れた湖の結晶を使えば汚れた水、匂いの強い湖を使えば匂いがする水が湧き上がるらしい。
こんな身近に水の結晶があったとは…。しかも自分で作ってしまったとは予想外の出来事だった。
離宮に着いたカトリーヌと双子を出迎えたのは、騎士団の制服に身を包んだエテ王子とリオだった。リオは警察騎士団の制服である白い軍服に灰色のズボンを着用していたが、エテ王子は全身真っ白な制服だった。
「まぁ、エテ様が騎士団の制服を着ていらっしゃるなんて珍しいですわ」
カトリーヌですらあまり見ない服装に、驚きの声をあげた。
「親父に訳を話したら、王宮警備騎士団の団長代理を言い渡された。団長が出張中であり、第一部隊の隊長のリチャードが二日酔いで執務室から出てこれないと言うのもあるらしいが」
「兄上様ったら!」
夜遅くまでゲンと飲み続けていたリチャードは、一応出勤しているが使い物にならないようだ。
その光景を見ているリオは吹き出しそうになったが、必死に笑いをこらえた。
「マリー嬢、ミリー嬢、昨日の約束、宜しくお願いします」
「「はい!」」
「ではご案内します」
エテ王子はまだ笑いをこらえているリオの背中を思い切り叩くと、お茶会会場となる場所へと歩き出した。
(しかし…)
エテ王子は歩きながら思った。
(まさか、ルイーズと同じ髪型になるとはな)
双子の髪型を見たエテ王子は今朝の事を思い出して小さく笑った。
今朝、私室でコロリスと朝食を取っているとルイーズ王女が部屋に飛び込んできた。髪型が決まらないようで、どうにかしてほしいと泣きついてきたのだ。クリスティーヌ王女に頼めと追い払おうとしたら、クリスティーヌ王女はお茶会の為のお菓子作りに忙しいらしい。
男の自分ではできないと部屋から追い出そうとした所、コロリスが髪を結ってくれると言ってきた。
ルイーズ王女の注文は二つに縛り、白いリボンで結ぶこと。そして二つに縛った髪にカールを当てる事。その注文をコロリスは手際よく行った。聞けば旅一座にいた時、ステージに立つ役者の支度を手伝っていた。その時に習得したらしい。
エテ王子は双子と再会した時のルイーズ王女の顔を今から想像すると、楽しみでならなかった。
お茶会の会場は離宮の中庭の東屋。
用意されたテーブルの上には、イチゴのホールケーキや、フルーツがふんだんに乗ったタルト、クッキーなどのお菓子の他にも、サンドイッチなどの軽食も持っていた。
「ルイーズ様、まだご用意しますか?」
クリスティーヌ王女と一緒にお菓子を作ってくれたコロリスがルイーズ王女に訊ねた。
ルイーズ王女は双子が来るであろう方向を見つめているだけで返事はなかった。
「お友達がちゃんと来てくれるのか、心配しているようですね」
クリスティーヌ王女はルイーズ王女の後ろ姿を見ながらクスクスと笑い出した。
それにつられてコロリスも「その気持ちわかりますわ」と微笑んだ。
「コロリスさん、お手伝いありがとうございました。ルイーズの支度も手伝ってくださったとお聞きします。妹に代わってお礼申し上げます」
「いえ、わたしは当たり前の事をしたまでです。お気になさらないでください」
「ですが…」
「未来の義妹の為にお手伝いするのは当たり前ですよ、クリスティーヌ様」
「未来の…義妹……」
新鮮な言葉にクリスティーヌ王女は顔をぱぁぁっと明るくした。
つい先日、兄のエテ王子からコロリスを紹介された。と同時に王室を出るかもしれないとも聞かされた。大切な兄を取られたことに嫉妬に近い心もあったが、兄と恋人が嬉しそうに微笑みあう姿を見て、クリスティーヌ王女の心が急に晴れた。
いつも王室にいる兄は表情を見せない。周りに多くの敵がいると兄本人から聞いたこともあり、隙を見せない生活が兄から感情を奪っているのだと思った。
その兄が恋人の前では和らいだ表情を見せる。今まで見たことがない表情だ。
クリスティーヌ王女は兄の感情を取り戻してくれた恋人に感謝している。困った時には手伝ってくれる未来の義姉に尊敬のまなざしを向けた。
「ああああの、まだ早いと思われますが、お義姉様とお呼びしてもよろしいですか!? わたくしのことはクリスとお呼びください」
「まぁ、光栄な事です。これからも宜しくお願いしますね、クリス様」
何の抵抗もなく受け入れてくれるコロリスに、クリスティーヌ王女はますます惹かれていくのであった。
しばらくして、エテ王子、リオ、カトリーヌの三人を護衛に付けた双子や姿を見せた。
「ルイーズ、我々は離れた所から警備をする。何かあったら知らせるように」
「ありがとうございます、兄様」
お礼を述べるルイーズ王女は、マリーもミリーも知っている彼女ではなかった。どこか気品のある、気高い感じがして、村で一緒に走り回ったルイーズ王女ではなかった。
「ルイーズ、わたくしたちもお兄様たちと一緒にいますね。もしお菓子や飲み物が無くなったら声をかけてくださいね」
「はい、姉様」
クリスティーヌ王女はルイーズ王女の肩を軽くトンッと叩いて、兄たちと東屋を後にした。
三人きりになると、誰も言葉を発しようとしなかった。
気まずい空気が流れる中、ミリーはマリーの脇腹を突いた。
「あ…あの……本日はお招きありがとうございます。王女様にお目にかかれて光栄でございます」
ここに来るまでの間に、カトリーヌより教わった挨拶の述べるマリー。
ミリーはその隣で頭を下げた。
「……」
返事をしないルイーズ王女は、じっと双子を見つめていた。
双子は『王女』という言葉を使ったことに気を悪くしたと思い、ルイーズ王女から視線を逸らした。
「……なさい……ごめんなさい、マリーちゃん、ミリーちゃん」
ハラハラと涙を流すルイーズ王女は、なぜか双子に謝りだした。
「ルイーズちゃん…」
「ごめんなさい。わたし、嘘をついていました。本当はこの国の王女です。2人を騙して友達になろうとしていました。本当にごめんなさい」
ルイーズ王女は深く頭を下げた。
王族が一般市民に頭を下げることはない。それでも、やっとできた友達に、悪い事をしたと自覚があるルイーズ王女は頭を下げずにはいられなかった。
急に頭を下げてきたルイーズ王女に、双子は困った顔でお互いに見合わせ、同じことを思っているのか同時にうなづくと、ルイーズ王女の前に歩み寄った。
そして双子はルイーズ王女の手を握った。
「王女様でも、ルイーズちゃんはルイーズちゃんだよ」
「ミリーはルイーズちゃんのお友達に変わりはないよ」
「マリーだってそうだよ」
双子の声に、ルイーズ王女は顔をあげた。目の前には双子の可愛らしい笑顔があった。
「マリーちゃん、ミリーちゃん、許してくれるの?」
「許すも何も、悪い事は一つもしていないよ。それに、もしルイーズちゃんが悪いのなら、お茶会に招待しなかったと思う」
「うん。それにね、王女だから嫌いになったのなら、ミリーたちはここに来なかったよ」
「でも、マリーとミリーはここに来た」
「「ルイーズちゃんに貰ったリボンをつけてね」」
双子は結い上げた髪に結ばれているリボンを指した。白いリボンの先にはオレンジ色の糸でルイーズ王女の名前が刺繍されていた。
それも見て、ルイーズ王女も自分の頭に結ばれている白いリボンの先を2人に見せた。右のリボンにはピンクの糸でマリーの名前が、左のリボンには水色の糸でミリーの名前が刺繍されていた。
「ルイーズちゃん」
「あのね、マリーちゃん、ミリーちゃん、一つ聞いてもいい?」
「何?」
「私たち、お友達だよね?」
ルイーズ王女は恐る恐る双子に訊ねた。
双子はとびっきりの笑顔を見せた。
「「大切なお友達だよ!!」」
その返事に、ルイーズ王女は双子に飛びついた。
「ごめんね、ごめんね!」
「謝らなくていいよ」
「ルイーズちゃんはルイーズちゃんなんだから」
何度も謝るルイーズ王女を、双子はいつまでも慰め続けた。
東屋が見える木陰から見守っていたクリスティーヌ王女は、仲良くお茶会を始めた三人を見て胸を撫で下ろした。
「あの様子だと大丈夫そうね」
カトリーヌはクリスティーヌ王女の肩を軽く叩いた。
「ありがとうございました、カトリーヌ様」
「わたくしは何もしていませんわ。ルイーズ様が素直になられただけの事です。もちろん双子ちゃんもですけど」
「これでルイーズは元気になります」
「やはり、王宮に戻られてからは…」
「ええ。毎晩泣いていましたわ。一人だと淋しい、あの村に帰りたいと。お兄様が再びあの村に行くことを知ると、お父様に泣きついたぐらいです。一度戻られたリチャード様を監禁したこともあるんですよ」
「それで兄上様は帰りが遅かったのですね」
村で起きたことを王宮に伝えると言っていたリチャードがなかなか戻ってこないことがあった。騎士団の出撃に手間取っていると思われたが、まさかルイーズ王女に捕まっていたとは…。
「カトリーヌ様、クリス様、わたしたちもお茶にしませんか?」
コロリスが声を掛けた。
すでに準備が終わっており、地面に敷かれた布の上には、籠に入った焼き菓子と、人数分のティーカップが並べられていた。
「ただ見守るだけでは退屈しますのもね。ここはエテ様とコロリスさんの馴れ初め話をお聞きしながら、ティータイムとしましょう!」
カトリーヌの提案に、紅茶を飲んでいたエテ王子が勢いよく噴出した。
「カトリーヌ殿!?」
「わたくしは恋愛話が大好物なんですの」
カトリーヌは、逃がしませんわと言わんばかりに、エテ王子に向けてにっこりと微笑んだ。
クリスティーヌ王女も堅物だった兄の連話に興味津々で身を乗りだるようにエテ王子を見つめていた。
顔を赤く染めながら、お互いに「どうする?」と意見を求めるエテ王子とコロリスは困った顔をしていたが、なぜか嬉しそうだった。
そんな会話を耳にしながら、リオだけは東屋で行われているお茶会を見守り続けた。
離宮で二つのお茶会が楽しく行われているころ、中央広場では明日の芸術祭に向けての設営が行われていた。
昨日から準備を進めたこともあり、おおかた設営は終わっていたが、ヴァーグたち食べ物を売る店は試しに商品を作らないといけない。
今回は同じ出店仲間がいるということで、お昼を兼ねてすべての料理を作ってみることにした。
ラインハルトはたこ焼きを、ケインはたい焼き、エリザとローズはサンドイッチ、ヴァーグは何種類かのケーキを作り、メアリーは飲み物の準備を始める。
そして出店仲間の村人たちに、当日のお客になりきってシミュレーションをしてもらった。
ここを変えた方がいい、ここはこうした方がいいという意見を聞きながら、細かいところを変えていき、お客も店員も動きやすいように改良していった。
お昼過ぎ、村を陸路で出発した村人たちが王都に入った。
長い旅で疲れた村人たちは、すでに用意されていた食べ物や飲み物で癒され、さらにマックスが管理する足湯で疲れを取る人もいた。
ヴァーグは広場のいたるところに『ゴミ箱』と書かれた箱を置いた。
今回、提供する器はすべて使い捨て。使い終わった容器などはこの『ゴミ箱』に入れてもらう。
このゴミ箱は女神さまが特別に用意してくれた。大量のゴミが出るとその片づけや処理が困る。そこで女神は無限に入れられるアイテムボックスのゴミ箱版を作り、役立ててほしいと送ってくれたのだ。集められたゴミは女神のいる場所に自動的に転送され、女神が処分してくれるらしい。
「だって、差し入れを貰ってしまったんですもの。これぐらいは協力しますわ!」
女神がどうやって貰ったかはわからないが、ヴァーグが作ったショートケーキ、チーズケーキ、フルーツタルト、オムライス、カレー、シチューなどの食べ物を貰っている。このお礼としてゴミ箱を提供したのだ。
着々と準備が進む中、ケインがふと空を見上げた。
秋が深まりつつあるのに、今日は気温が高い。特に火を使うコンロの傍に居るからだと思うが、汗が止まらない。
風でも吹かないかな~と思いながら王宮の方へ視線を移すと、王宮から離れた場所に見たことがある黒い雲が渦巻いていた。
「ヴァーグさん、あれ…」
ケインに言われ、ヴァーグが彼が指す上空を見上げると、ヴァーグの目にも黒い雲が見えた。
「また魔族の武器が暴れているの?」
「あの方が方角ってなにがあるんですかね?」
上空の黒い雲を見ていると、
「あそこには離宮がある」
と、突然ゲンが2人の間に顔を出した。
「ゲン祖父さん! 急に現れるなよ!」
「大声を出すな。皆に聞かれるぞ」
ゲンは声を潜めた。
幸いにも村人たちは準備に夢中になっており、空を見る余裕はないようだ。
「ちょっと待って。離宮って言ったらマリーちゃんとミリーちゃんがいるんじゃないの?」
「これは行った方がいいかもしれませんね」
「ゲンさん、私たち、離宮に向かいます。ここをお願いしてもいいですか?」
「ああ任せておけ。して、ヴァーグ殿、結界石はお持ちかね?」
「え…ええ、いくつか持っていますが…」
「結界石で囲めば、衝撃は外に漏れることはない」
「え?」
「結界石は外からの衝撃を跳ね返すだけだはなく、中からの衝撃も吸収する。その効果は欠片でも十分発揮する。たとえば矢の先に括り付ける……とかな」
ゲンはニヤリと笑った。
その言葉にヴァーグはハッとした。ゲンが言いたかったことが理解したようだ。
「それから魔法玉を作る奴に伝えてくれ。雲を浄化させなくても、『本人』を浄化させれば雲は消える。やり方は浄化の魔法玉を頭上で割ればいい」
「ゲンさん、それって…」
「伝えればいい。必ず理解するはずだ」
「わかりました」
ヴァーグはゲンが言いたい事を理解できた。
王室御用達の武器を作り、魔法玉も研究していたゲンは、昔、全く同じ事を経験したのかもしれない。だからこそアドバイスができるのではないだろうか。
ヴァーグはケインと共にオルシアの背に乗り、離宮目指して飛び立とうとした。
その時、中央広場に一人の女性が血相を変えて飛び込んできた。
その女性は大勢の中からエミーを見つけると、彼女の名前を呼びながら泣きついてきた。
「エミー!!」
名前を呼ばれたエミーが振り向くと同時に、女性が飛びついた。
「マ…マリア!?」
「エミー、お願い! 助けて!!」
マリアと呼ばれた女性は、エミーに何度も何度も助けてっと叫び続けた。
「マリア、落ち着いて。詳しく話してくれないとわからないわ」
「ジャンを…ジャンを助けて!」
「ジャン?」
初めて聞く名前にエミーは首を傾げた。
「エミーさん、何かあったんですか?」
離宮に向かおうとしていたヴァーグがケインと共に戻ってきた。
その二人の後ろにはラインハルトの姿もある。
「それが…」
「お願いします! ジャンを助けてください! このままだと王族に襲い掛かるかもしれません!!」
「王族に? どういうことなの? 詳しく話して」
エミーが優しく訊ねると、マリアはゆっくりと話し始めた。
マリアの恋人のジャンは、この近くでカフェを経営していた。とても評判があり、マリアも常連となりほぼ毎日のように来店していた。ところが今年の新年を祝う祭りの時、第一王女の我儘で業務停止命令が下り、ジャンは王室侮辱の罪で財産まで没収されてしまった。罪人となってしまったジャンと王都を離れたが、王族を憎む思いは捨てきれず、王都に戻っていった。そして王宮に向かう彼の姿を見かけ追いかけたが見失ってしまった。
このままでは店を潰された復讐をするかもしれない。ジャンを探し回ったが見つからず、中央広場でエミーの姿を見かけたので助けを求めた。
「まって、マリア。あなた、婚約者がいたのではないの?」
「いました。でも親が勝手に決めた相手で、わたしは頑なに断り続けました。それでも半年後に式を挙げると言い出したので、ジャンと逃げるために修道院に入ると嘘をつきました」
「じゃあ、マイケルと一緒にいたのはどうして? マイケルと会っている所を見たわ」
「あれはマイケルがお金を払ってくれれば、ジャンを逃がしてくれると約束してくれたので、お金を渡す為に会っていました。でも、マイケルは裏切りました。お金だけもらってジャンを助けてくれなかったんです!」
まさかここでも繋がるとは…ヴァーグは過去に聞いていたエミーからのマイケルの被害者の話がここに繋がることに驚愕した。だが、マリアの話では行方不明になったのはマイケルが原因ではなく、全く別なことが原因のようだ。いくつも物偶然が重なって一つの話として語られるようになってしまった。
「ケイン、離宮に急ぎましょう。魔族の犠牲になっているかもしれないわ」
「わかった。オルシア、離宮まで頼む」
「エミーさん、ここを頼みます。私たちは王宮に行ってみます」
「気を付けてください」
「ありがとうございます」
オルシアはケインとヴァーグを背中に乗せ、広場を飛び立った。
<つづく>
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