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第31話 なかなか進まない
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翌日、スミレは窓辺で落ち込んでいた。
日が昇ったら『妖精の里』へ行こうと決意したのに、外は大雨だったのだ。
「最悪…」
窓に手を付き、頭を垂れたスミレは、昨日まで盛り上がっていた闘志を返せ!と空に向かって叫び続けていた。
「スミレ、煩いぞ」
部屋の外まで聞こえたスミレの声に、部屋に入ってきたケインが注意した。
「だって、ご主人様~」
「今日は気温が高いから雨が降ったけど、この先気温が下がれば雪が降るんだぞ。これから外に出られない日が続くんだ。一日ぐらいの雨、我慢しろ」
「菫の花は寒さに強いから大丈夫!!」
「そうなのか?」
「うん!!」
「じゃあ、エミー姉さんに断った方がいいかな?」
「何を?」
「エミー姉さん、スミレが冬を越せるように冬の服を色々と作ってくれているんだよ。寒さに強いのならいらないか?」
「欲しい! 欲しい!!」
「だったら、エミー姉さんの部屋に行って来い。いくつか作ったから試着してほしいって言ってた」
「わかりましたーーーーー!!!」
部屋を勢いよく飛び出したスミレは、下の階にあるエミーの部屋へと向かった。(ケインは夏ごろから温泉宿の従業員専用の部屋で暮らしている)
「妖精でも女の子なんだな」
身近にいるマリーやミリー、デイジーたちと全く同じ行動をするスミレを見送ったケインは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
エミーの部屋には、部屋の主であるエミーの他にスミレが知らない人が2人いた。
「あ、スミレちゃん」
スミレの知らない人達と談笑していたエミーは、部屋に入ってきたスミレに気付くと手招きした。
丸いテーブルの上には大量の小さな洋服と、ヴァーグかケインが用意したであろう何種類かのお菓子が並べられていた。
「スミレちゃんは初めてお会いするかしら? こちらはカトリーヌさんとリオ様よ」
「は…はじめまして! スミレです!!」
深く頭を下げて挨拶するスミレ。
本物の妖精を目にしたカトリーヌとリオは、目を丸くして驚いていた。
「本当に妖精がいるんですね…」
灰褐色の髪に、左右違う色の瞳を持つリオは、目の前の妖精をマジマジと見た。
見た目は人間と変わらないが、身長は約30cm、背中には透き通った羽根を持つその姿は、育成学校の授業で使っていた教科書に載っていた【空想の生き物】と同じだった。
「ここは空想の動物が集まりやすい場所なのかしら?」
リオにくっついてきたカトリーヌは、ドラゴンやグリフォンも、この村で初めて見た。なにかある村だと感じていたが、まさか妖精まで目にするとは思わなかった。
「スミレちゃんは、ケインが見つけてきたんです。国王様から頂いた土地の視察をしていたところ、弱っていた彼女を保護して契約を結んだんです」
「国王様から頂いた土地…って、長い間放置されていた国有地の事ですか?」
「はい。ケインがヴァーグさんの為に土地を貰ったって言ってましたわ。この村は村長…というよりも副村長が新しい建物や施設を作ることに反対していて、ヴァーグさんもやりたい事が出来ないんです。それで、国王様から土地を譲り受けて、色々な施設を作って村を発展させていくことになったんです。学校も作るって張り切っていましたわ」
「ヴァーグさんとケインは国王様お気に入りですもの。スミレ様はご存じないと思いますが、この温泉宿のレストランで食べることができるお料理は、王室御用達なんですよ」
「お…王室御用達!?」
「国王様と王妃様、それに王子様方が好んで食されるんですの。三番目の王女様は弟子入りを志願されているほどなんですよ」
レストランに何度か足を運んだことがあるが、いつも混んでいるのは村に食事ができる場所がなく、また珍しい食べ物ばかり取り扱っているからだと思っていたスミレは、人気の一つに王室が絡んでいる事に驚いた。
ケインやヴァーグは王室と深い関わり合いがあるのでは?という疑問を抱き、同時に自分がいた土地にまだ多くの貴族の屋敷が建っていた頃に出会った、王室と関わりが深い人物も思い出した。
(2人なら知っているだろうか、あの子の行方を…)
もう長い時間が経ってしまったが、今でも忘れられる事が出来ない人間の女の子。妖精を見る事が出来た女の子とスミレは仲が良かった。だがある日突然、辺り一面が炎に包まれ、その後、あの土地で人間を見たことがない。あの子たちがどうなったのか、また戻ってくるのだろうか、そんな願いと共にあの土地に居続けた。
「だけど、あの国有地を開発するにはかなりの苦労が強いられると思うのですが…」
リオが用意されたクッキーを片手にポツリと呟いた。
それにいち早く反応したのはスミレだった。
「その土地の事、知っているんですか!?」
「ええ、まあ…」
「じゃ…じゃあ、過去に起こった出来事も知ってますか!?」
「過去?」
「スミレちゃん、何か知りたい事があるの?」
「わたしがご主人様に助けていただいた土地、過去に炎に包まれたことがあるんです。あの土地には沢山の人間のお屋敷が建ち並んでいました。でも、ある日突然、炎に包まれて…」
「リオ様、何かご存じありませんか?」
「歴史まではわかりませんが、国有地は過去に大きな天災が起き、それ以来、作物が育たない荒れた土地だと先輩たちからは伝え聞いています。貴族の避暑地として別荘が建てられていたことは記録には残っていますが、自然に発生した火災によって焼失したと書かれてありましたが……違うのですか?」
「わからないんです。急に炎に包まれて、何があったのか…」
「調査してみる価値はありますね。ヴァーグ殿やケイン殿が所有する土地にはなりましたが、長い間、何も手を付けず、国有地として王室が管理しなければならない理由が、なにかしらあったと思います。僕の兄にも話してみます。なにかのお役に立てるはずですから」
「リオ様って、お兄様がいらっしゃるのですか?」
「はい。僕の一家は、全員が王立研究院に籍を置いています。両親は責任者と幹部、兄は分院の考古学・歴史研究院の責任者です」
「学者一門なんですね。わたくし、武術しか取り得がありませんが、ご両親に認めていただけるでしょうか?」
両親は王立研究院の責任者だと聞いていたが、兄弟まで学者であることにカトリーヌは急に不安になってきた。カトリーヌの両親からは付き合う許可は得たが、まだリオの両親とは直接会っていない。魔法玉の生産が可能になったことで、リオの両親は寝る暇も惜しんで研究に没頭しているのだ。
「大丈夫ですよ。兄の妻は文学とは程遠い仕事についていますから。エミー殿、近いうちに王子がこの村にやってきます。その時に僕の兄も同行しますので、スミレ殿の話を兄に話してください」
「スミレちゃんを紹介してもいいですか?」
「はい、構いません。ですが…」
「ですが…?」
「いえ、何でもありません。兄夫婦でお伺いすると思いますが、宜しくお願いします」
リオが言葉を続けなかったことに疑問が残った。
きっと妖精の存在を認めない人なのだろうと、リオの兄は【空想動物】に対して抵抗があるのだろうと、そう予測した。
同じ頃、喫茶店で若いママさんグループのお茶会を開いていたヴァーグの元に、ケインの親友アレックスが、ゲンと共に飛び込んできた。
「ヴァーグ殿! 完成したぞ!!」
そう叫びながらゲンは、白い布に包まれた何かをヴァーグの前に差し出した。
白い布に包まれた物を受け取ったヴァーグは嬉しそうにその布を外した。中から出てきたのはただのフライパンだった。
「まさか祖父ちゃんが本当に作っちゃうなんてびっくりだよ」
「わしに作れぬ物はない!!!」
御馴染みのかっかっかっ!!という豪快な笑い声に包まれる喫茶店内。
若いママさんたちは、ただのフライパンにしか見えない物を不思議そうに眺めていた。
「試しに使ってみてもいいですか?」
「もちろんじゃ。改良したいから感想を聞かせてくれ」
ヴァーグは嬉しそうにママさんたちが集まるテーブルに、ゲンが持ってきたフライパンを置き、キッチンから数個の卵と小皿に入った油を持ってきた。
そして、ウエストポーチから小さな赤い結晶が入った小瓶を取り出すと、「やりますか!」と嬉しそうに声を弾ませた。
ゲンが作ったフライパンは、取っ手に部分が弾力のあるゴムで覆われていた。その取っ手は回すと外れるようになっており、取っ手を外すと四角い箱のような物が現れた。大きさは2cm四方。フライパンと同じ鉄でできている。
その鉄でできた四角い箱の中に小瓶に入った赤い結晶を一粒取り出し入れた。
「どれぐらい振ればいいですか?」
「2~3回で十分じゃろ」
ゲンが言う様に、取っ手を元に戻したヴァーグは、フライパンを2~3回振った。鉄でできているため、重さはあるが、2~3回ならそんなに苦ではない。
しばらくして、ヴァーグはテーブルに置かれた水差しの水を数滴フライパンに落とした。
フライパンの上では、水が小さな球体になって踊り始めた。これはフライパンが十分に熱せられた証拠だ。
「直接、テーブルに置いても大丈夫ですか?」
「ああ、構わん。二重構造になっているから、外側は熱くない」
試しに外側をちょっと触れてみると、まったく熱くない。どういう構造になっているのか不思議でたまらない。
ヴァーグは数滴たらした水が完全になくなると、油を入れ、フライパン全体に馴染むように広げた。
そして、キッチンから持ってきた卵を真上で割り、フライパンに落とした。
ただのフライパンだと思っていたのに、落とされた卵がジューっという音を出しながら固まり始めたのだ。
「目玉焼きが出来てる!!??」
あっという間に透明の白身が白く焼きあがっていき、プルプル震えていた黄色い黄身も火が通ったことで固まりだした。
「ゲンさん、成功です!」
「最高傑作じゃ!」
どういう原理でフライパンが温かくなったのか、ママさんたちは分からなかったが、目の前で目玉焼きが出来たことに拍手喝采を送っていた。
「後は重さだけじゃな。そこは改良していく」
「それから、取っ手の部分も改良できませんか? 冷たい時はフライパン本体を触っても支障はないんですが、使い終わった後、結晶を抜く時に取っ手全体を回すとなると、本体に手を添えなくてはできません。できれば、取っ手の半分を回せるようにしたほうが、取り出しも簡単にできると思うんですね」
「おお、それは気づかなかった。申し訳ない。すぐに改良しよう」
「これなら小さい子さんをお持ちのママさんも、火を心配しなくて助かりますね」
「本当は騎士団の遠征に使えるように開発したんじゃが、家庭向きのようだな。唯一の問題は、結晶をどうやって手に入れるかだ」
「それが一番の問題なんですよね」
結晶の問題は追々考えるとして、フライパンはレストランで使うことにした。
赤い結晶を使って、火を使わずに調理ができるフライパンを開発したのは、カトリーヌが双子の髪型をセットするために使った、あの鉄の棒を見てもっと実用的な物は作れないかと、ゲンが王立研究院にいる昔からの顔馴染みの研究員に相談したのがきっかけだった。
研究院は簡単な物しか作れなかったため、鉄を加工して作る物は設計図は作れるが実物は作れなかった。そこでゲンが設計図を譲り受け、村の鍛冶場で作ることにしたのだ。
フライパンの他にも鍋も制作中で、その技術はアレックスが受け継ぎ、まだこの村に普及していない冷蔵庫や冷凍庫、ヴァーグが使っているオーブンなどの開発を進めている。
スミレに作った洋服を着せ替えしていたエミーとカトリーヌの所に、ケインがある人物を案内してきた。
「エミー姉さん、デイジーとナンシーが来たよ」
ケインが案内してきたのは、『思い出を売る』会社を立ち上げたケインの同級生のデイジーとナンシーの2人だった。
来年の春、エミーはこの村でリチャードとの結婚式を挙げる。本当は王都で貴族の伝統的な結婚式を挙げる予定だったが、芸術祭の時、デイジーがリチャードの両親と話し、エミーを村人全員で祝福し、王都に送り出したいと提案した。両親は反対するどころか、王都ではお披露目のパーティーをするので、結婚式は村で挙げてほしいと願い出た。
デイジーとナンシーからしたら、初めての大仕事であり、立ち上げた会社の初陣でもあった。
「こんにちは、エミーお姉さん」
「カトリーヌ様とリオ様もいらしていたんですね。丁度良かったです」
部屋に案内されたデイジーとナンシーの両手には大量の紙の束が抱え込まれていた。
「丁度良かったって、僕たちに聞きたい事でも?」
「はい。私たち、結婚式って見たことがないんです。王都ではどのように式を挙げるのかお話が聞きたかったんです」
「この村では結婚式は挙げないのかい?」
「簡単な食事会はしますが神様の前では誓いはしません。それに、王都で行われた芸術祭の時、王都に住む若い夫婦に色々と聞いたのですが、教会で式を挙げるには多額な寄付金が必要で、お金持ちしか挙げる事が出来ないって口々に言うんです。王都での結婚式を参考にしようと思ったんですが、誰も教会で式を挙げたことがないって返事が返ってきて…」
「カトリーヌ様とリオ様なら出席したことがあると思うんです。段どりとか、当日の流れとか教えていただけませんか?」
デイジーとナンシーは身を乗り出すように、カトリーヌとリオから聞き出そうとした。
カトリーヌもリオも困った顔でお互いに顔を見合わせた。
「ごめんなさい。わたくしたち、身近で式を挙げた人はいないの」
「僕も兄が2年前に結婚したんですが、神父様に誓いの言葉を述べただけで、親族や知人を集めた式もお披露目のパーティーもしたことがないんだ。王室も今の国王様以来行っていないし、知り合いの貴族の仲間も今は式を挙げないんだ。教会への寄付金の関係だと思う」
「そうなんですか…」
せっかくいい話が聞けると思ったのに、期待外れの答えにデイジーもナンシーもがっくりと肩を落とした。
全くの手探りで一から何もかも考えなくてはいけなくなった。何か小さな基礎でもあれば、アレンジすることができるのに、それすらない。
どうしようか…。
デイジーとナンシーが唸り始めた頃、一度部屋を出ていたケインが、追加のお茶を持ってやってきた。
「なに唸っているんだよ」
「だって~」
「唸るほどなら、ヴァーグさんに助けを求めればいいだろ」
「もう聞いた後なの! ヴァーグさんが教えてくれたけど、色々ありすぎて逆に困ってるの!」
「ヴァーグさんが前に住んでいたところでは、教会の他でも結婚式を挙げていたんですって。船の上とか、神社って呼ばれる教会とはまた違う神様の住むところだったり、遊園地とかいう遊ぶ場所でも挙げていたみたい」
「つまり、挙げたい人の希望に合わせて、会場を変えていくってこと?」
「そうみたい。それでね、色々な場所で式を挙げられて、内容もどれも一緒じゃないんだって。神父様の前で誓いの言葉を述べることもあれば、出席者の前で、結婚しますっていう書類にサインするところを見届けることもあるんだって」
「エミー姉さんもどんな風にやりたいのか、想像がつかないんだって」
「王都にいた時も、結婚式には出たことなかったから、どれが正しいのか分からないのよ」
「ふ~ん…」
「ケイン、興味なさそう」
「うん。興味ない」
きっぱりというケインの返事に、デイジーとナンシーは今にも殴りかかろうとした。
「興味ないから、デイジーとナンシーの話を聞いて興味を持ちたいんだよ。芸術祭の時だって、興味ない人が2人の話を聞いて興味を持ったんだろ? 2人がちゃんとしたプランを立てて、エミー姉さんにこういうのはどう?って話さないと、皆が困るよ」
もっともな事を言うケイン。
側で聞いていたリオは大きく頷いていた。
「全部一から作ると、そりゃ大変だ。だけど、ある程度大きな基礎ができていれば、アレンジはできるだろ? 例えるなら、ケーキを作るとき、土台のスポンジは同じでも、クリームを何にするかで見た目は変わる。中に入れる果物を何にするかで味が変わる。皿に盛り付ける時、付け合わせに何を付けるかで華やかさが変わる。でも、元々は一つのスポンジケーキからできているんだ。まずは基礎となる土台作りからしないと、話を聞く体制にはならないよ」
「……ケインがまともな事を言っている…」
見たこともない真面目なケインに、エミーが一番驚いた。
カトリーヌもリオも、ケインが言いたい事は十分に理解し、何度も大きく頷いていた。
騎士団では、育成学校で武術などの基礎を学ぶ。育成学校を卒業した後、それぞれの騎士団に配属されるが、配属後1~2年は、騎士団員としての基礎を学ぶ。全員が同じ共通の基礎を学ぶことで、何かに困った時初心に戻れることができるのだ。
カトリーヌとリオも基礎をしっかりと叩き込んだ。基礎があるからアレンジすることもでき、また、違う騎士団に派遣で出向く時も困ることはない。
「今からでも、Aパターン、Bパターン、Cパターンとか作ってみたら? 今なら6個のプランが作れるよ」
「6個?」
「エミー姉さん、カトリーヌさん、リオさん、デイジー、ナンシー、そして俺」
「ケインも手伝ってくれるの!?」
「友達だろ」
「ありがとーーーーー!!」
デイジーは嬉しさのあまりケインの抱きついた。
ケインはケインで(もっと早くから教えてやればよかった)と心の中で思っていた。そうすれば自分が巻き込まれることはないと思ったのだろう。
結局、6人(+スミレ)で6パターンの結婚式のプランを作ることになった。プランと言っても、全体の流れではなく、自分が式を挙げるとしたら何をしたいのかという事を箇条書きで書きだしただけだった。一人で何個も案が浮かんだが、珍しい事に何一つとして被らなかった。
出た案を見比べ、今度は土台の会場を厳選した。
「ガーデニングウエディング?」
ナンシーの出した案に、全員が首を傾げた。
「ヴァーグさんに聞いたんです。庭園の様な所で立食パーティーをすることもあるって。立食だから参列者は自由に移動できて、気兼ねなく楽しめるって。上座とかそういうのもないから、親族たちの争いもないんですって」
「確かに貴族たちは上座や下座で揉める人もいますからね。でも、庭園というのは何処でやるのですか? 会社で借りられるところがあるんですか?」
「それは…」
「貴族からの依頼だったら、その屋敷でやればいいんじゃないんですか? 一般市民だったらちょっと考えますけど…」
「じゃあ、貴族限定か…」
面白いアイデアだったと思ったが、会場となる場所の確保を考えると難しいようだ。
その時、スミレが「あ…あそこなら…」と心当たりがあるような事を口にした。
「思い当たる所でもあるのか?」
「あ、うん。ケインの実家の畑の奥に、ヴァーグさんが『ビニールハウス』を作ったよね? その中、春が再現されていたよ」
「春を再現?」
「うん。まるで『春の草原』みたいだった。ヴァーグさんに頼んだら貸してくれるんじゃないのかな?」
「……そっか、場所を作ってしまえば会場は簡単に抑えられるのか」
「どういう事?」
「俺、国王様から沢山の土地を貰ったんだ。建てたい施設を全部建てても余るぐらいあるからさ、王都と村の中間地点に結婚式場を作ったらどうかな? 式場専属の教会を建てて、庭でも、建物の中でも式ができる施設を作っちゃった方が楽じゃない? 式で使う道具とか家具とかも保管できるし」
「でも、お金かかるよ?」
「もちろん、今すぐじゃないよ。ある程度、軌道に乗ったら建ててみるのもいいんじゃないかな? それまではできる事限定で進めていけば、式を挙げてくれた人が広めてくれるよ」
ケインの提案に、デイジーもナンシーも目を丸くした。まさかケインからそんな提案が出てくるとは思わなかった。
エミーも驚いている。今年の春から同じ職場で働くようになったが、両親の話ではケインは頼りないと聞いていた。それなのに、ふとした瞬間に、誰もが考えないことを提案し、逞しさを感じる。今ではケインの同級生が助けを求めに来るほどだ。
「今度、ヴァーグさんに会った時、式場を建てる事が出来るのか聞いてみる。でも、まずはエミー姉さんの結婚式が大切だよね。絶対にいい式にしなくちゃ!」
意気込むデイジーと、それに賛同するナンシー。
ケインもデイジーもナンシーも去年、学校を卒業したばかりだ。この世界では男は20歳、女は18歳が成人年齢だとされている。まだ成人になる前の若者が自分の仕事に精を出す光景は、とても微笑ましい。
リオは自分が16歳や17歳の時、何をしていたのか思い出していた。まだ育成学校に通っていた頃で、騎士団になるのか、王立研究院の研究員を続けるのか迷っていた時だ。自分が何をするべきなのかもわからないまま、育成学校で過ごしていた年と同じなのに、ケインたちはすでに自分に合った職を手にし、それを極めている。もっと早くケインたちに会っていれば、自分の悩むことはなかったのだろうかと疑問を抱いた。
カトリーヌも寄宿学校を卒業する頃の年だ。通っていた寄宿学校は女性の騎士団員を育てる学校だった。ただ武術を学ぶだけでなく、貴族の娘としての振る舞いも学ぶ場所であった為、卒業して騎士団には入らず嫁ぐ人が多かった。幸いなことにカトリーヌは自由に職に就かせてもらったこともあり、王都の騎士団に入ることが出来たが、もし何も考えずに卒業していたら、こうしてこの村に来ることも、リオに出会うこともなかっただろう。そして毎日退屈な日々を送っていたに違いないと想像した。
その後、デイジーはヴァーグに「結婚式場を建てたい」と告げた。
その言葉を待っていたのか、ヴァーグはケインと相談して、王都と村の中間地点に建てる予定の学校周辺に土地が余るから、そこを使えばいいと場所を提供してくれた。ただ、提供されたのは土地だけ。ここに建てる建物などは自分たちで職人を探して頼まなくてはいけない。
ヴァーグはアドバイスはしてくれる。だが手は貸してくれない。
何とか自分たちで頑張ろうとするが失敗もする。その失敗を重ねることで人は成長するとヴァーグは言う。
「自分でやらないと経験値は貯まらないからね」
色々な知識を持つヴァーグならではの言葉だ。
デイジーたちが式場を建てるのはまだまだ先の話だ。
式場を建てる頃には村も、ケインが国王から貰った土地も大きく発展している頃だ。
また、学校にはウエディングプランナーや衣装をデザインするデザイナーの学科ができる事にもなるが、それもまだまだ先の話。
村の発展の前に、ケインたちにはやらなくてはならない事が山積みだ。
まずは『春の草原』が枯れた原因を調べなくてはならない。なぜ『春の草原』は枯れてしまったのだろうか…。
<つづく>
日が昇ったら『妖精の里』へ行こうと決意したのに、外は大雨だったのだ。
「最悪…」
窓に手を付き、頭を垂れたスミレは、昨日まで盛り上がっていた闘志を返せ!と空に向かって叫び続けていた。
「スミレ、煩いぞ」
部屋の外まで聞こえたスミレの声に、部屋に入ってきたケインが注意した。
「だって、ご主人様~」
「今日は気温が高いから雨が降ったけど、この先気温が下がれば雪が降るんだぞ。これから外に出られない日が続くんだ。一日ぐらいの雨、我慢しろ」
「菫の花は寒さに強いから大丈夫!!」
「そうなのか?」
「うん!!」
「じゃあ、エミー姉さんに断った方がいいかな?」
「何を?」
「エミー姉さん、スミレが冬を越せるように冬の服を色々と作ってくれているんだよ。寒さに強いのならいらないか?」
「欲しい! 欲しい!!」
「だったら、エミー姉さんの部屋に行って来い。いくつか作ったから試着してほしいって言ってた」
「わかりましたーーーーー!!!」
部屋を勢いよく飛び出したスミレは、下の階にあるエミーの部屋へと向かった。(ケインは夏ごろから温泉宿の従業員専用の部屋で暮らしている)
「妖精でも女の子なんだな」
身近にいるマリーやミリー、デイジーたちと全く同じ行動をするスミレを見送ったケインは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
エミーの部屋には、部屋の主であるエミーの他にスミレが知らない人が2人いた。
「あ、スミレちゃん」
スミレの知らない人達と談笑していたエミーは、部屋に入ってきたスミレに気付くと手招きした。
丸いテーブルの上には大量の小さな洋服と、ヴァーグかケインが用意したであろう何種類かのお菓子が並べられていた。
「スミレちゃんは初めてお会いするかしら? こちらはカトリーヌさんとリオ様よ」
「は…はじめまして! スミレです!!」
深く頭を下げて挨拶するスミレ。
本物の妖精を目にしたカトリーヌとリオは、目を丸くして驚いていた。
「本当に妖精がいるんですね…」
灰褐色の髪に、左右違う色の瞳を持つリオは、目の前の妖精をマジマジと見た。
見た目は人間と変わらないが、身長は約30cm、背中には透き通った羽根を持つその姿は、育成学校の授業で使っていた教科書に載っていた【空想の生き物】と同じだった。
「ここは空想の動物が集まりやすい場所なのかしら?」
リオにくっついてきたカトリーヌは、ドラゴンやグリフォンも、この村で初めて見た。なにかある村だと感じていたが、まさか妖精まで目にするとは思わなかった。
「スミレちゃんは、ケインが見つけてきたんです。国王様から頂いた土地の視察をしていたところ、弱っていた彼女を保護して契約を結んだんです」
「国王様から頂いた土地…って、長い間放置されていた国有地の事ですか?」
「はい。ケインがヴァーグさんの為に土地を貰ったって言ってましたわ。この村は村長…というよりも副村長が新しい建物や施設を作ることに反対していて、ヴァーグさんもやりたい事が出来ないんです。それで、国王様から土地を譲り受けて、色々な施設を作って村を発展させていくことになったんです。学校も作るって張り切っていましたわ」
「ヴァーグさんとケインは国王様お気に入りですもの。スミレ様はご存じないと思いますが、この温泉宿のレストランで食べることができるお料理は、王室御用達なんですよ」
「お…王室御用達!?」
「国王様と王妃様、それに王子様方が好んで食されるんですの。三番目の王女様は弟子入りを志願されているほどなんですよ」
レストランに何度か足を運んだことがあるが、いつも混んでいるのは村に食事ができる場所がなく、また珍しい食べ物ばかり取り扱っているからだと思っていたスミレは、人気の一つに王室が絡んでいる事に驚いた。
ケインやヴァーグは王室と深い関わり合いがあるのでは?という疑問を抱き、同時に自分がいた土地にまだ多くの貴族の屋敷が建っていた頃に出会った、王室と関わりが深い人物も思い出した。
(2人なら知っているだろうか、あの子の行方を…)
もう長い時間が経ってしまったが、今でも忘れられる事が出来ない人間の女の子。妖精を見る事が出来た女の子とスミレは仲が良かった。だがある日突然、辺り一面が炎に包まれ、その後、あの土地で人間を見たことがない。あの子たちがどうなったのか、また戻ってくるのだろうか、そんな願いと共にあの土地に居続けた。
「だけど、あの国有地を開発するにはかなりの苦労が強いられると思うのですが…」
リオが用意されたクッキーを片手にポツリと呟いた。
それにいち早く反応したのはスミレだった。
「その土地の事、知っているんですか!?」
「ええ、まあ…」
「じゃ…じゃあ、過去に起こった出来事も知ってますか!?」
「過去?」
「スミレちゃん、何か知りたい事があるの?」
「わたしがご主人様に助けていただいた土地、過去に炎に包まれたことがあるんです。あの土地には沢山の人間のお屋敷が建ち並んでいました。でも、ある日突然、炎に包まれて…」
「リオ様、何かご存じありませんか?」
「歴史まではわかりませんが、国有地は過去に大きな天災が起き、それ以来、作物が育たない荒れた土地だと先輩たちからは伝え聞いています。貴族の避暑地として別荘が建てられていたことは記録には残っていますが、自然に発生した火災によって焼失したと書かれてありましたが……違うのですか?」
「わからないんです。急に炎に包まれて、何があったのか…」
「調査してみる価値はありますね。ヴァーグ殿やケイン殿が所有する土地にはなりましたが、長い間、何も手を付けず、国有地として王室が管理しなければならない理由が、なにかしらあったと思います。僕の兄にも話してみます。なにかのお役に立てるはずですから」
「リオ様って、お兄様がいらっしゃるのですか?」
「はい。僕の一家は、全員が王立研究院に籍を置いています。両親は責任者と幹部、兄は分院の考古学・歴史研究院の責任者です」
「学者一門なんですね。わたくし、武術しか取り得がありませんが、ご両親に認めていただけるでしょうか?」
両親は王立研究院の責任者だと聞いていたが、兄弟まで学者であることにカトリーヌは急に不安になってきた。カトリーヌの両親からは付き合う許可は得たが、まだリオの両親とは直接会っていない。魔法玉の生産が可能になったことで、リオの両親は寝る暇も惜しんで研究に没頭しているのだ。
「大丈夫ですよ。兄の妻は文学とは程遠い仕事についていますから。エミー殿、近いうちに王子がこの村にやってきます。その時に僕の兄も同行しますので、スミレ殿の話を兄に話してください」
「スミレちゃんを紹介してもいいですか?」
「はい、構いません。ですが…」
「ですが…?」
「いえ、何でもありません。兄夫婦でお伺いすると思いますが、宜しくお願いします」
リオが言葉を続けなかったことに疑問が残った。
きっと妖精の存在を認めない人なのだろうと、リオの兄は【空想動物】に対して抵抗があるのだろうと、そう予測した。
同じ頃、喫茶店で若いママさんグループのお茶会を開いていたヴァーグの元に、ケインの親友アレックスが、ゲンと共に飛び込んできた。
「ヴァーグ殿! 完成したぞ!!」
そう叫びながらゲンは、白い布に包まれた何かをヴァーグの前に差し出した。
白い布に包まれた物を受け取ったヴァーグは嬉しそうにその布を外した。中から出てきたのはただのフライパンだった。
「まさか祖父ちゃんが本当に作っちゃうなんてびっくりだよ」
「わしに作れぬ物はない!!!」
御馴染みのかっかっかっ!!という豪快な笑い声に包まれる喫茶店内。
若いママさんたちは、ただのフライパンにしか見えない物を不思議そうに眺めていた。
「試しに使ってみてもいいですか?」
「もちろんじゃ。改良したいから感想を聞かせてくれ」
ヴァーグは嬉しそうにママさんたちが集まるテーブルに、ゲンが持ってきたフライパンを置き、キッチンから数個の卵と小皿に入った油を持ってきた。
そして、ウエストポーチから小さな赤い結晶が入った小瓶を取り出すと、「やりますか!」と嬉しそうに声を弾ませた。
ゲンが作ったフライパンは、取っ手に部分が弾力のあるゴムで覆われていた。その取っ手は回すと外れるようになっており、取っ手を外すと四角い箱のような物が現れた。大きさは2cm四方。フライパンと同じ鉄でできている。
その鉄でできた四角い箱の中に小瓶に入った赤い結晶を一粒取り出し入れた。
「どれぐらい振ればいいですか?」
「2~3回で十分じゃろ」
ゲンが言う様に、取っ手を元に戻したヴァーグは、フライパンを2~3回振った。鉄でできているため、重さはあるが、2~3回ならそんなに苦ではない。
しばらくして、ヴァーグはテーブルに置かれた水差しの水を数滴フライパンに落とした。
フライパンの上では、水が小さな球体になって踊り始めた。これはフライパンが十分に熱せられた証拠だ。
「直接、テーブルに置いても大丈夫ですか?」
「ああ、構わん。二重構造になっているから、外側は熱くない」
試しに外側をちょっと触れてみると、まったく熱くない。どういう構造になっているのか不思議でたまらない。
ヴァーグは数滴たらした水が完全になくなると、油を入れ、フライパン全体に馴染むように広げた。
そして、キッチンから持ってきた卵を真上で割り、フライパンに落とした。
ただのフライパンだと思っていたのに、落とされた卵がジューっという音を出しながら固まり始めたのだ。
「目玉焼きが出来てる!!??」
あっという間に透明の白身が白く焼きあがっていき、プルプル震えていた黄色い黄身も火が通ったことで固まりだした。
「ゲンさん、成功です!」
「最高傑作じゃ!」
どういう原理でフライパンが温かくなったのか、ママさんたちは分からなかったが、目の前で目玉焼きが出来たことに拍手喝采を送っていた。
「後は重さだけじゃな。そこは改良していく」
「それから、取っ手の部分も改良できませんか? 冷たい時はフライパン本体を触っても支障はないんですが、使い終わった後、結晶を抜く時に取っ手全体を回すとなると、本体に手を添えなくてはできません。できれば、取っ手の半分を回せるようにしたほうが、取り出しも簡単にできると思うんですね」
「おお、それは気づかなかった。申し訳ない。すぐに改良しよう」
「これなら小さい子さんをお持ちのママさんも、火を心配しなくて助かりますね」
「本当は騎士団の遠征に使えるように開発したんじゃが、家庭向きのようだな。唯一の問題は、結晶をどうやって手に入れるかだ」
「それが一番の問題なんですよね」
結晶の問題は追々考えるとして、フライパンはレストランで使うことにした。
赤い結晶を使って、火を使わずに調理ができるフライパンを開発したのは、カトリーヌが双子の髪型をセットするために使った、あの鉄の棒を見てもっと実用的な物は作れないかと、ゲンが王立研究院にいる昔からの顔馴染みの研究員に相談したのがきっかけだった。
研究院は簡単な物しか作れなかったため、鉄を加工して作る物は設計図は作れるが実物は作れなかった。そこでゲンが設計図を譲り受け、村の鍛冶場で作ることにしたのだ。
フライパンの他にも鍋も制作中で、その技術はアレックスが受け継ぎ、まだこの村に普及していない冷蔵庫や冷凍庫、ヴァーグが使っているオーブンなどの開発を進めている。
スミレに作った洋服を着せ替えしていたエミーとカトリーヌの所に、ケインがある人物を案内してきた。
「エミー姉さん、デイジーとナンシーが来たよ」
ケインが案内してきたのは、『思い出を売る』会社を立ち上げたケインの同級生のデイジーとナンシーの2人だった。
来年の春、エミーはこの村でリチャードとの結婚式を挙げる。本当は王都で貴族の伝統的な結婚式を挙げる予定だったが、芸術祭の時、デイジーがリチャードの両親と話し、エミーを村人全員で祝福し、王都に送り出したいと提案した。両親は反対するどころか、王都ではお披露目のパーティーをするので、結婚式は村で挙げてほしいと願い出た。
デイジーとナンシーからしたら、初めての大仕事であり、立ち上げた会社の初陣でもあった。
「こんにちは、エミーお姉さん」
「カトリーヌ様とリオ様もいらしていたんですね。丁度良かったです」
部屋に案内されたデイジーとナンシーの両手には大量の紙の束が抱え込まれていた。
「丁度良かったって、僕たちに聞きたい事でも?」
「はい。私たち、結婚式って見たことがないんです。王都ではどのように式を挙げるのかお話が聞きたかったんです」
「この村では結婚式は挙げないのかい?」
「簡単な食事会はしますが神様の前では誓いはしません。それに、王都で行われた芸術祭の時、王都に住む若い夫婦に色々と聞いたのですが、教会で式を挙げるには多額な寄付金が必要で、お金持ちしか挙げる事が出来ないって口々に言うんです。王都での結婚式を参考にしようと思ったんですが、誰も教会で式を挙げたことがないって返事が返ってきて…」
「カトリーヌ様とリオ様なら出席したことがあると思うんです。段どりとか、当日の流れとか教えていただけませんか?」
デイジーとナンシーは身を乗り出すように、カトリーヌとリオから聞き出そうとした。
カトリーヌもリオも困った顔でお互いに顔を見合わせた。
「ごめんなさい。わたくしたち、身近で式を挙げた人はいないの」
「僕も兄が2年前に結婚したんですが、神父様に誓いの言葉を述べただけで、親族や知人を集めた式もお披露目のパーティーもしたことがないんだ。王室も今の国王様以来行っていないし、知り合いの貴族の仲間も今は式を挙げないんだ。教会への寄付金の関係だと思う」
「そうなんですか…」
せっかくいい話が聞けると思ったのに、期待外れの答えにデイジーもナンシーもがっくりと肩を落とした。
全くの手探りで一から何もかも考えなくてはいけなくなった。何か小さな基礎でもあれば、アレンジすることができるのに、それすらない。
どうしようか…。
デイジーとナンシーが唸り始めた頃、一度部屋を出ていたケインが、追加のお茶を持ってやってきた。
「なに唸っているんだよ」
「だって~」
「唸るほどなら、ヴァーグさんに助けを求めればいいだろ」
「もう聞いた後なの! ヴァーグさんが教えてくれたけど、色々ありすぎて逆に困ってるの!」
「ヴァーグさんが前に住んでいたところでは、教会の他でも結婚式を挙げていたんですって。船の上とか、神社って呼ばれる教会とはまた違う神様の住むところだったり、遊園地とかいう遊ぶ場所でも挙げていたみたい」
「つまり、挙げたい人の希望に合わせて、会場を変えていくってこと?」
「そうみたい。それでね、色々な場所で式を挙げられて、内容もどれも一緒じゃないんだって。神父様の前で誓いの言葉を述べることもあれば、出席者の前で、結婚しますっていう書類にサインするところを見届けることもあるんだって」
「エミー姉さんもどんな風にやりたいのか、想像がつかないんだって」
「王都にいた時も、結婚式には出たことなかったから、どれが正しいのか分からないのよ」
「ふ~ん…」
「ケイン、興味なさそう」
「うん。興味ない」
きっぱりというケインの返事に、デイジーとナンシーは今にも殴りかかろうとした。
「興味ないから、デイジーとナンシーの話を聞いて興味を持ちたいんだよ。芸術祭の時だって、興味ない人が2人の話を聞いて興味を持ったんだろ? 2人がちゃんとしたプランを立てて、エミー姉さんにこういうのはどう?って話さないと、皆が困るよ」
もっともな事を言うケイン。
側で聞いていたリオは大きく頷いていた。
「全部一から作ると、そりゃ大変だ。だけど、ある程度大きな基礎ができていれば、アレンジはできるだろ? 例えるなら、ケーキを作るとき、土台のスポンジは同じでも、クリームを何にするかで見た目は変わる。中に入れる果物を何にするかで味が変わる。皿に盛り付ける時、付け合わせに何を付けるかで華やかさが変わる。でも、元々は一つのスポンジケーキからできているんだ。まずは基礎となる土台作りからしないと、話を聞く体制にはならないよ」
「……ケインがまともな事を言っている…」
見たこともない真面目なケインに、エミーが一番驚いた。
カトリーヌもリオも、ケインが言いたい事は十分に理解し、何度も大きく頷いていた。
騎士団では、育成学校で武術などの基礎を学ぶ。育成学校を卒業した後、それぞれの騎士団に配属されるが、配属後1~2年は、騎士団員としての基礎を学ぶ。全員が同じ共通の基礎を学ぶことで、何かに困った時初心に戻れることができるのだ。
カトリーヌとリオも基礎をしっかりと叩き込んだ。基礎があるからアレンジすることもでき、また、違う騎士団に派遣で出向く時も困ることはない。
「今からでも、Aパターン、Bパターン、Cパターンとか作ってみたら? 今なら6個のプランが作れるよ」
「6個?」
「エミー姉さん、カトリーヌさん、リオさん、デイジー、ナンシー、そして俺」
「ケインも手伝ってくれるの!?」
「友達だろ」
「ありがとーーーーー!!」
デイジーは嬉しさのあまりケインの抱きついた。
ケインはケインで(もっと早くから教えてやればよかった)と心の中で思っていた。そうすれば自分が巻き込まれることはないと思ったのだろう。
結局、6人(+スミレ)で6パターンの結婚式のプランを作ることになった。プランと言っても、全体の流れではなく、自分が式を挙げるとしたら何をしたいのかという事を箇条書きで書きだしただけだった。一人で何個も案が浮かんだが、珍しい事に何一つとして被らなかった。
出た案を見比べ、今度は土台の会場を厳選した。
「ガーデニングウエディング?」
ナンシーの出した案に、全員が首を傾げた。
「ヴァーグさんに聞いたんです。庭園の様な所で立食パーティーをすることもあるって。立食だから参列者は自由に移動できて、気兼ねなく楽しめるって。上座とかそういうのもないから、親族たちの争いもないんですって」
「確かに貴族たちは上座や下座で揉める人もいますからね。でも、庭園というのは何処でやるのですか? 会社で借りられるところがあるんですか?」
「それは…」
「貴族からの依頼だったら、その屋敷でやればいいんじゃないんですか? 一般市民だったらちょっと考えますけど…」
「じゃあ、貴族限定か…」
面白いアイデアだったと思ったが、会場となる場所の確保を考えると難しいようだ。
その時、スミレが「あ…あそこなら…」と心当たりがあるような事を口にした。
「思い当たる所でもあるのか?」
「あ、うん。ケインの実家の畑の奥に、ヴァーグさんが『ビニールハウス』を作ったよね? その中、春が再現されていたよ」
「春を再現?」
「うん。まるで『春の草原』みたいだった。ヴァーグさんに頼んだら貸してくれるんじゃないのかな?」
「……そっか、場所を作ってしまえば会場は簡単に抑えられるのか」
「どういう事?」
「俺、国王様から沢山の土地を貰ったんだ。建てたい施設を全部建てても余るぐらいあるからさ、王都と村の中間地点に結婚式場を作ったらどうかな? 式場専属の教会を建てて、庭でも、建物の中でも式ができる施設を作っちゃった方が楽じゃない? 式で使う道具とか家具とかも保管できるし」
「でも、お金かかるよ?」
「もちろん、今すぐじゃないよ。ある程度、軌道に乗ったら建ててみるのもいいんじゃないかな? それまではできる事限定で進めていけば、式を挙げてくれた人が広めてくれるよ」
ケインの提案に、デイジーもナンシーも目を丸くした。まさかケインからそんな提案が出てくるとは思わなかった。
エミーも驚いている。今年の春から同じ職場で働くようになったが、両親の話ではケインは頼りないと聞いていた。それなのに、ふとした瞬間に、誰もが考えないことを提案し、逞しさを感じる。今ではケインの同級生が助けを求めに来るほどだ。
「今度、ヴァーグさんに会った時、式場を建てる事が出来るのか聞いてみる。でも、まずはエミー姉さんの結婚式が大切だよね。絶対にいい式にしなくちゃ!」
意気込むデイジーと、それに賛同するナンシー。
ケインもデイジーもナンシーも去年、学校を卒業したばかりだ。この世界では男は20歳、女は18歳が成人年齢だとされている。まだ成人になる前の若者が自分の仕事に精を出す光景は、とても微笑ましい。
リオは自分が16歳や17歳の時、何をしていたのか思い出していた。まだ育成学校に通っていた頃で、騎士団になるのか、王立研究院の研究員を続けるのか迷っていた時だ。自分が何をするべきなのかもわからないまま、育成学校で過ごしていた年と同じなのに、ケインたちはすでに自分に合った職を手にし、それを極めている。もっと早くケインたちに会っていれば、自分の悩むことはなかったのだろうかと疑問を抱いた。
カトリーヌも寄宿学校を卒業する頃の年だ。通っていた寄宿学校は女性の騎士団員を育てる学校だった。ただ武術を学ぶだけでなく、貴族の娘としての振る舞いも学ぶ場所であった為、卒業して騎士団には入らず嫁ぐ人が多かった。幸いなことにカトリーヌは自由に職に就かせてもらったこともあり、王都の騎士団に入ることが出来たが、もし何も考えずに卒業していたら、こうしてこの村に来ることも、リオに出会うこともなかっただろう。そして毎日退屈な日々を送っていたに違いないと想像した。
その後、デイジーはヴァーグに「結婚式場を建てたい」と告げた。
その言葉を待っていたのか、ヴァーグはケインと相談して、王都と村の中間地点に建てる予定の学校周辺に土地が余るから、そこを使えばいいと場所を提供してくれた。ただ、提供されたのは土地だけ。ここに建てる建物などは自分たちで職人を探して頼まなくてはいけない。
ヴァーグはアドバイスはしてくれる。だが手は貸してくれない。
何とか自分たちで頑張ろうとするが失敗もする。その失敗を重ねることで人は成長するとヴァーグは言う。
「自分でやらないと経験値は貯まらないからね」
色々な知識を持つヴァーグならではの言葉だ。
デイジーたちが式場を建てるのはまだまだ先の話だ。
式場を建てる頃には村も、ケインが国王から貰った土地も大きく発展している頃だ。
また、学校にはウエディングプランナーや衣装をデザインするデザイナーの学科ができる事にもなるが、それもまだまだ先の話。
村の発展の前に、ケインたちにはやらなくてはならない事が山積みだ。
まずは『春の草原』が枯れた原因を調べなくてはならない。なぜ『春の草原』は枯れてしまったのだろうか…。
<つづく>
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