選ばれた勇者は保育士になりました

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第55話  ノアル・ファルコン

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 作者も存在を忘れていた副村長とその息子の裁判が、王宮で行われた。
 罪状は『春の草原』の奥地にある国の保護地区へ足を踏み入れた事。またその保護地区で許可なく植物を採取した事。この二つの罪で裁判を行う。
 が、裁判と言っても副村長を弁護する者はおらず、ほぼ勝ち目のない国王による裁きだ。

「もう一度聞く。なぜ保護区域へ足を踏み入れた?」
 国王は何度も同じことを訊ねた。
 すると副村長は決まって、
「村の土地だ! 村の土地に足を踏み入れて何が悪いんですか!?」
と罪を認めない。
 裁判の開始からずっとこの調子だ。「村の土地」だと言い張り、いくら国王が立ち入り禁止の保護区域だと説明しても耳を貸そうとしない。
 国王は呆れ返っている。
「副村長殿、あの土地は先の大戦以降、国で管理をしています。先の大戦の勇者のたっての願いで、許可なく足を踏み入れることを禁じているはずです」
 裁判の進行役を仰せつかっている司法大臣は、もう一度副村長に説明をした。
 それでも副村長は「村の土地だ」と言い張っている。


 今回の裁判は傍聴席はまばらだ。そんなに大きな事件でもなく、名もない村の人間を裁く裁判という事もあって、興味がある人しか傍聴席に座っていなかった。
 その中に、黒髪に黒い瞳の男の姿があった。海の向こうにあるジャルパツ王国のノアル・ファルコン伯爵だ。たまたま王宮に遊びに来た伯爵は、王宮の広間で談笑していた貴族たちの言葉に興味を持った。どうやら国王出席の元、裁判が行われるらしい。貴族たちの話の中で一番惹かれたのが、
「国王様のお気に入りの青年が住む村の方ですって」
「青みがかった銀髪の?」
という『青みがかった銀髪』というワードだ。
 その言葉に、瞬時にケインの顔が頭に浮かんだ。芸術祭以降、村の事やそこに住む人物など色々と調べたが細かい情報が入らないので未だに分からない事ばかりだ。
「かつて勇者と呼ばれた男の息子と同じ容姿を持つ、国王のお気に入り…か」
 ファルコン伯爵にとって、興味のある人物は自分に利益をもたらす者のみ。現在、妻に迎えた黒髪の少女テオは、この国のある村で流行しているお菓子という食べ物を再現できる。ジャルパツ王国では十分価値のある物だ。今もどうやって調べているのか、かなり忠実に再現してくれる。テオのお蔭で国内での人気はうなぎ登りだ。
 ではケインを調べたところで、どんな利益をファルコン伯爵にもたらすのか。
 噂ではケインは見たこともない料理を作り、聞いたこともない知識で国王に気に入られたと言う。誰も考えつかないような知識を披露し、国の発展を手助けしているらしい。
 現在、ジャルパツ王国は文明の発展が著しく、国民たちもマンネリ化した生活に活気が見られなくなった。隣国のサウザンクロス帝国からは国の合併を持ち掛けられている。国を守るため、どうしてもケインの力が必要だ。彼が味方に付いてくれれば、ジャルパツ王国も大いに活気づき、更にはファルコン伯爵の株も上がる。こんな美味しい話はない。
 傍聴席の一番後ろから裁判を見守るファルコン伯爵は、ケインの話がいつ出るのか目を輝かせて聞き入っていた。


 裁判は副村長の「村の土地だ!」という主張が続き、いつまで経っても並行のままだ。
 そこで司法大臣は話を変えた。
「副村長殿、そこまで村の土地だと言い張るのなら、その証拠を見せてください。あなたの村には土地の分配承諾書が発行されています。日付は昨年の芸術祭翌日。こちらに原本が存在しています。こちらと同じ物が村に保管されているはずです」
「そ…それは……」
「ご覧になった事はありますか?」
「わたしには見せてくれなかった。ただ、村長や村人の話だと、村に住む子供が国王から広大な土地を譲ってもらった。その範囲は『春の草原』周辺まで及ぶと話しているのを聞いた。だから今回我々が足を踏み入れたのは国王から貰った土地だ!」
「陛下、本当ですか?」
 司法大臣は、一段上の壇上に座る国王に確認をした。
「ああ、芸術祭に貢献してくれたお礼に土地が欲しいと言ったので、国有地となっている土地を渡した」
「やっぱり!」
 自分の言っている事は間違いない!と言わんばかりに胸を張る副村長。
 副村長の息子は抵抗することに疲れたのか、椅子に座り俯いていた。父親の発言にも何も反応を見せない。
「だが、わしは『春の草原』の奥にある土地を渡した記憶はない」
「……え?」
「確かに『春の草原』周辺と話したが、草原の奥の土地は国の保護区域となっている為、立ち入る時は必ず国の許可を得るようにと、念を押して頼んでいる。わしが渡した土地は『春の草原』の手前までだ」
「……なんだって……?」
「よって、そなたは個人所有の土地ではない、国有地であり、尚且つ立ち入りを禁止している土地に無許可で足を踏み入れた事になる。許可を得ず、立ち入り禁止の土地に足を踏み入れた場合、どんなにあがいても無罪になることはない」
 国王の淡々とした喋りに、副村長の顔は真っ青になった。
 村長も村の人もケインが国王から貰った土地の事を話していたが、今考えれば誰もどこからどこまでを貰ったか、明確に答えられる人はいなかった。

 ケインたちが行う開発を拒んだ腹いせか?
 不思議な力を持つ黒髪の女性が来てから、自分の思い描く未来がことごとく崩れ去っている。あんな小さな村、自分の力で開拓し、村を乗っ取れると思っていた。なのに、思うようにいかない。
 無理難題を簡単に解決していく黒髪の女性の力は、自分にない知識と技術が邪魔をする。

 ……そうか、あの女性は魔女だ。
 村人たちに気に入られ、不思議な力で魅了し、最後はあの村を手に入れようとしているんだ。
 そうに違いない。


「おやおや」
 傍聴席の一番上から見ていたファルコン伯爵は、副村長の周りに黒い影が纏わりついているのが見えた。
 その黒い影はファルコン伯爵にしか見えていない。
「次のターゲットは彼に決まりですかね」
 ニヤつく口元を手で覆い表情を隠そうとしている。
 そのファルコン伯爵の隣に1人の人間が座った。黒い髪の少女テオだ。
「テオ」
 名前を呼ばれたテオは、小さく頷くと膝の上に置かれた小さなハンドバックから、黒い薄い箱を取り出した。
 その黒い薄い箱は二つに折りたたまれているノートパソコンだった。
 前の席の背もたれが高く作られている為、それを取り出す瞬間も、膝の上で画面を開いたところも誰も見られていない。テオはパソコンを立ち上げると、キーボードが配置された下側にある色が変わった部分を指でなぞった。
 すると、テオの目の前にポンッと丸い黒い水晶が突然出現した。
「さて、ターゲットの憎き心を頂くとしましょうか」
 テオからその水晶を受け取ったファルコン伯爵は、目の高さに水晶を持って行き、水晶越しに副村長を見つめた。
 すると副村長に纏わりついていた黒い影が、勢いよく水晶に流れ込んできた。
 テオが見ているパソコンの画面には、丸い図形が映し出されており、その丸い図形は下から徐々に黒く塗りつぶされていった。丸い図形の脇には副村長の名前が書かれており、その下には「残り○○%」と表記されている。


「待ってくれ!」
 今まで黙っていた副村長の息子が突然声をあげた。
 椅子からも飛び上がり、警備をしていた兵士が制止した。
「あいつも無許可のはずだ!」
「誰の事でしょうか?」
「ケインだよ! あいつもあの土地に足を踏み入れた! あいつも無許可のはずだ! なんであいつは捕まらないんだ!!」
「ケインというのは、青みがかった銀髪に青い瞳の青年の事かね?」
「ああ、そうだ。あいつだって俺たちと同じように保護区域に足を踏み入れた。何で罪にならないんだよ!」
 副村長の息子は、兵士たちを弾き飛ばしながら司法大臣に近づいた。
 すると司法大臣は、王室の紋章が描かれ、国王の印章が押された一枚の紙を副村長の息子の目の前に突き付けた。
「ケイン並びにヴァーグと名乗る人物は、陛下が許可を出している。これがその証拠だ」
 突き付けられた紙には、確かにケインとヴァーグの名前が書かれていあった。文字は余り読めないが、2人の名前だけは判別できた息子は、その場に力なく座り込んでしまった。
「ケイン殿はわしの親友じゃ。彼は何か行動を起こす時、必ずわしの許可を得ている。最も、この許可書を貰いに来たのはケイン殿でもヴァーグ殿でもなく別の人間じゃがな」
「王室の紋章が描かれ、陛下の印章が押してある限りこれは本物だ。紋章並びに王族に印章を偽造する物は法律違反だ。そなたのように捕らえられる。いくら陛下が認めた人間でも偽造は犯罪だ」
 国王と司法大臣の言葉に、数少ない傍聴人からざわつきが起こった。
 ファルコン伯爵は変わらず水晶ごしに中央を見つめている。
「それから、そなたたちには立ち入り禁止区域で植物を採取したと言う罪もある。間違いはないか?」
「ああ、そうだよ!」
 国王の御前だというのに副村長の声が荒げた。兵士たちが急いで駆け寄ったが、副村長は声を荒げただけで、微動だにしなかった。
「何を採取された?」
「クリスタルが中に入っている薔薇の花だ。王都で売れば金儲けできると思って大量に摘んだが、村に来ていた貴族様が全部買ってくれた」
「いくらで売った?」
「一本1000エジル。手に入れた金が100万エジルを超えていたから、それぐらいは売ったはずだ」
「他には?」
「息子が花と雑草を売った。金にならなかったようで、大量に持ち込んだのに一回の取引が1万エジルだったらしい」
「何故、薔薇の花だけ高値で売られたんですか?」
「花の中にクリスタルがあったからだ。村を訪れていた若い貴族様に買ってもらった。摘むのが罪なら買うのも罪だよな? 1人の貴族様にすべて買ってもらった。その貴族様も罪のはずだ!」
 誰かを道連れにしようとする魂胆が見え見えだ。薔薇を買った貴族の青年も罪に問われれば、自分への処罰が甘くなるとでも思っているのだろう。
 国王は近くにいた兵士になにやら小声で話し、兵士は小さく頭を下げて走り去った。
「その貴族というのは、どんな人なんだね?」
「王都から温泉宿に泊まりに来た青年だ。ケインと仲がいいらしい」
「その特徴を覚えているかね?」
「青い髪をしてた。連れのお嬢さんは赤い髪だった。王都から観光に来たと話していた。だから土産に薔薇の花を買わないかと話を持ち掛けた」
「それで、その青年はすべての薔薇を買うと言ったんだね?」
「そうだ。全部を買ってくれた」
「その時、採取場所を話したりはしたのかね?」
「話すわけないだろ! せっかく見つけた宝の山を誰に話すか! ケインにしつこく聞かれたが、誰にも話していない!」
 その発言に、国王は何故か小さく頷いた。
 司法大臣も国王の顔を見て、国王となにやら確認を取っている。

 そこに先ほどの兵士が戻ってきた。
 国王の耳元に何かを話すと、深く頭を下げて去っていった。
「副村長殿、そなたが薔薇を売ったという青年が見つかった。ここに呼んでもいいだろうか?」
「是非呼んでいただきたい! 買った者にも処罰をお願いしたい!」
 この発言が副村長の首を絞める事になるとは、誰が予測できただろうか。
 証言台に立った人物を見て、傍聴席が大きくざわついた。
 それもそのはずだろう。証言台に立った人物がエテ王子だったからだ。
 傍聴席のざわつきも気にせず、副村長はエテ王子に歩み寄った。
「旦那! 旦那からも証言してくださいよ! わたしから薔薇を買いましたよね!?」
 エテ王子に手を伸ばそうとしたその瞬間、兵士が一斉に副村長を取り押さえた。
「な…何をする!」
「父さんを離せ!!」
 息子が副村長を助けようと一歩動こうとすると、すぐに兵士が取り押さえた。
「静かにしないか! 陛下の御前ですぞ!!」
 法政大臣の大声が会場内に響き渡った。
 兵士から逃れようともがいている副村長親子も、エテ王子の登場でざわついていた傍聴席も一瞬で静かになった。
「副村長殿、そちらの方に薔薇をお売りになったことに間違いはないか?」
「あ…ああ。全部の薔薇を買ってくれた。この旦那も罪に問われるんだよな!?」
「本当かね、エテ。副村長が話すクリスタルが中にある薔薇を買ったのかね?」
 国王は証言台に立つエテ王子に質問した。
 その返答に副村長は固唾を飲んで待ち構えた。
「その通りです。わたしはこの方から花びらの中にクリスタルがある珍しい薔薇を買い取りました。それに何か問題でも?」
「ほら見ろ! この旦那もこう証言している。わたしだけに罪があるとは思えない。国王陛下! この旦那も罪を犯している!!」
「罪? なんの罪ですか?」
「立ち入り禁止区域に生息している薔薇を買った。旦那も罪に問われる理由がある!」
「副村長殿、少し黙って貰えないだろうか?」
「いや、わたしだけでなく、この旦那にも処罰が下るまで黙るつもりはない! 陛下! この旦那にも処罰を!!」
 副村長の暴走は止まる様子がないようだ。


 ファルコン伯爵は、テオが開いているパソコンを覗き見た。
 画面の丸い図形はもうすぐすべてが黒く塗りつぶされそうだ。残り10%を切っている。
 先ほどからの副村長の体に纏わりつく黒い影も、どんどん濃くなっていっている。
「素晴らしい。こんなに強い憎む心を生み出すとは、あの男を手に入れたくなる」
 もう少しで図形がすべて黒くなろうとしたその瞬間、ファルコン伯爵が手にしていた水晶にヒビが入った。
「え?」
 初めてのことで驚いていると、その水晶が突然パンっ!と小さな音を立てて弾けた。
「どうなっているんだ? 憎む心が強すぎて耐えられなかったのか?」
 粉々に砕け散った水晶は、再び黒い影となり、副村長の体へと戻っていった。
 パソコンの画面は丸い図形が消え去り、赤い文字でエラーを告げる警告文が点滅していた。
「……どういうこと…?」
 テオも初めてのことのようで、動揺して何度もキーボードを打ったが、画面は元に戻らなかった。

 するとパソコンの画面に突然、会場内の図面が浮かび上がり、それぞれ誰がどこにいるのかが解るようになった。
 その中に一つだけ赤い丸で記された場所があり『危険』という日本語が点滅していた。
 テオは椅子から立ち上がり、その方角を見た。

 自分が座る場所とは対角線上の回廊に一人の女性が立っていた。なんとその女性の手には、手の中に納まる長方形の箱のような物が握られ、こちらにその箱を向けていたのだ。
「あれは……」
 テオにはその箱が何なのか、すぐにわかった。
 まさかこの世界に【アレ】を使える人間が存在するとは…。

 テオが見ている事に気付いた女性は、すぐに長方形の箱を隠すと、扇で顔を隠しながらその場から立ち去った。
 顔までは見えず、どんな人物かは分からないが、パソコンには衝撃的な文字が浮かび上がっていた。


  |------------|
  |   【危険】     |
  |   戦いの女神    |
  |------------|
 

 その文字はテオの目に入ることはなかった。
 回廊に佇んでいた女性の姿が見えなくなるまで、その女性を凝視していたテオが、再びパソコンの画面を見た時は、エラーは直っており、最初から使っていた丸い図形が書かれた画面に戻っていた。

 ファルコン伯爵はテオにもう一度水晶を出して貰い、副村長の体に纏わりつく黒い影の回収を急いだ。



 副村長の暴言は止まることはなかった。
 エテ王子は冷静に聞き流しているように見える。
 ハラハラしているのは司法大臣だった。こんな裁判は初めてで、どのように取り仕切っていいのか分からなくなってきたのだ。
 国王はエテ王子を見た。エテ王子は大きく頷いた。
 それが合図になったのか、国王は司法大臣に何かを命令し、静粛を促した。
「静かに!! 副村長、もう一度聞く。この方に薔薇を売ったのは間違いないか?」
「間違いない!」
「この男の証言に間違いはありませんか?」
 司法大臣はあえてエテ王子の名前を出さなかった。国王から王子であることを隠せと命じられたのだ。エテ王子本人が暴露するとも付け加えて。
「間違いありません」
「その目的は?」
「国の物を国が買い戻して、何の罪があるんですか?」
「……国の物……だと? あれはわたしの息子が見つけた物だ!」
「ですから、あなたは国が指定した保護区域に足を踏み入れましたよね? そしてそこで珍しい薔薇の花を採取した。国が定めた保護区域は国の土地だ。そこに生息する物は国の物でなにがおかしい。わたしは国の物を国の金で買い戻したまでだ。あなたに渡した金は国民の税金だ」
「なん…だと……?」
「もう隠すことはないですよね。わたしが何者か、この男に話してもいいですよね、父上!」
 エテ王子の口から「父上」という言葉が出た瞬間、副村長は目を見開いた。
 その眼を見開いた驚いた表情のまま、副村長は国王と法政大臣を見た。

 大きく頷いたのは国王だった。

「……国王が……父上……?」
「そこにおるのはわしの第三王子だ。村に隣接する『春の草原』が原因不明で枯れてしまった為、その調査で王子を派遣させていた。その時にそなたから薔薇を買ったと報告を受けている」
「…そんな……そんなバカな……」
 ただの貴族だと思っていた副村長は、顔を真っ青にしてその場にしゃがみ込んだ。
 貴族相手なら、相手を侮辱してもそんなに大きな罪にはならないと思っていた。ところが、自分が暴言を吐いたのはただの貴族ではない。この国を治める国王の息子だ。しかも第三王子と言えば、次期国王に一番近い人物と言われている。
「因みに保護区域に入る為に、国王に許可を得たのはわたしだ。ケインやヴァーグ殿はわたしが信頼を置ける人物。枯れた『春の草原』の原因究明や保護区域に無許可で足を踏み入れる人物を捕らえるために、わたしから父上に頼み込んだ」
「じゃ…じゃあ、ご一緒にいらっしゃったお嬢さんは……」
「わたしの婚約者だ。まだ正式に婚約式を行っていない為、公に名乗れないが、父上も王妃様も認めてくださっている」
 村には身分を隠して観光に来る人もいる。そのほとんどが王宮とは遠い関係の貴族ばかりだ。
 なのにまさか王子が身分を隠して村に来るなど思ってもみなかった。
「副村長殿。今回の裁判でそなたは王子に対して、罪を問われるべきだと申された。王子は何も罪を犯していない。何の罪に問われるのかね?」
「そ…それは……」
「それに、そなたはこの裁判で新たな罪を犯した。罪のない人に処罰をと言い放った。しかもその相手は王族の一人だ。これがどんな重罪か理解しているね?」
 副村長には新たに与えられる罪状がすぐにわかった。
 王子に罪をと叫んだ。王子にも処罰をと願い出た。

 ー王室を侮辱した罪ー

 国王は二日後に処罰を言い渡すと告げた。
 罪があろうとなかろうと、王族に対して無礼な振る舞いをした者は、王室を侮辱した罪として財産没収、王都追放が課せられる。副村長は王都に住んでいない為、王都への立ち入り禁止になる予定だ。
 そして、国王と王子という強い後ろ盾を手に入れてしまったケインやヴァーグには、もう刃向かうことは出来ない。もし、ケインたちに何か手を出せば命の保障はない。



 黒く輝く水晶を掌の上で転がしながら、ファルコン伯爵は笑いを噛み殺していた。
「面白い人材だ。是非とも手に入れたい」
 副村長の体に纏わりつく黒い影は、まだ消えていない。いちいち水晶に回収するのでは手間がかかる。
「テオ、あの者を国に連れて帰ろうと思うのだがいいだろうか?」
 伯爵は隣に座るテオに訊ねた。
 テオは対角線上の回廊を見つめ、伯爵の話を聞いていなかったようだ。
「テオ?」
「…え? は、はい、何でございましょうか?」
「あの者たちを国に連れて帰りたい。その方が【主】も喜ぶと思うのだがどうだろう?」
「よいアイデアだと思います」
「では、計画に移そう」
 クックックッ!と笑うファルコン伯爵の瞳が異様にギラついていた。
 テオは先ほどの女性が気になって仕方がなかった。女性の正体も気になるが、何よりも気になっていたのは手に握られていた長方形の箱。
(あれは間違いなくスマフォ。なぜこの世界の人が持っているんだろう…)
 女性が持っていた長方形の箱をテオがよく知るスマフォという【電気機器】だということを見破った彼女にも大きな謎が見える…。


             <つづく>
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